9 動き出す組織と転生したばかりの三姉妹
ブレイヴがギルドに戻ってくると、丁度ビーンが地下から出てくるところだった。
ビーンはこのギルドの副ギルド長で、ブレイヴより歳が10歳も上だ。ブレイヴがギルド長なったのはおよそ1年前で、ビーンはそれより前から副ギルド長をしていた。
順当にいけばビーンがギルド長になるはずだった。……のだが、前任のギルド長の推薦と、ビーン自身も是非ブレイヴにという話でいきなりギルド長に抜擢されたのだった。
最初の頃は歳上というのもあり敬語で話していたブレイヴだったが、「下の者に示しがつきません」
と言われタメ口で話すようになった。
せめてビーンにも敬語を使わず話してもらいたかったが、そこはビーンが意地でも譲らなかった。
「おや?戻ってこられたのですか?」
「あぁ、仮眠室で少し寝たら仕事する」
「そのうち倒れますぞ?」
かく言うビーンもここ数日、まともに寝ていないはずだ。その証拠に目の下に隈が出来ている。大事な家族がいるはずなのに、あまり心配はかけるもんじゃないと思うがな。
「倒れたら倒れた時に考えるさ。で、何か吐いたか?」
「えぇ、奴ら、常習犯でしたよ。うちの村や近隣の村でも同じような手口で野菜を盗んでいたそうです。階級はどちらも男爵で大したことはありませんでしたが、バックについている組織が少々厄介そうでした」
「それは、〝略奪者〟か?」
「ご存じでしたか。その〝略奪者〟です」
〝略奪者〟は各国で暗躍している闇組織の名だ。
盗みはもちろんのこと、平気で人を殺せる連中の集まりだと聞く。禁止薬物や武器の密輸を行なっているだとか、様々な事件に関与していると噂されている。しかしその組織の実態は不明な点が多く、各国でも手を焼いている。
「あいつらが所持していた剣の鞘に、奴らの紋章とよく似た装飾が施されていた。逆さ十字と、五芒星を逆さにした逆五芒星のな」
「それは…国内で奴らが動き出したと、つまりそうお考えで?」
「可能性は否定出来ないと思っている。この辺りもきな臭くなってきたな。……〝影〟から何か連絡はあったか?」
「いえ、まだ何も」
「分かった。今日もご苦労だった」
そう伝えると、ブレイヴは仮眠室へ向かったのだった。
一葉が宿に戻ると、ニ葉と三葉は寝ないで待ってくれていた。
こういうところが可愛いんだよな〜。でも、時間帯はとっくに深夜。
「先に寝ててもよかったのに」
「あんな事が起きた後なんだ、何かあったらすぐ動けるように待機したてんだよ」
「そうよ?もう、あんな思いをするのは嫌だもの。心配くらいさせて?」
そう、私たちは一度〝死〟を経験している。
半年前、現世で死んだ後〝天界〟で再会した私たちは、よく分からない3人の神たちの手によってこの世界に落とされた。
もっと事情とか、聞きたいこともあったのに…次会う事があったら文句を言ってやろうと心に誓った。
それで私たちはこの世界に〝転生〟したらしい。
再び目が覚めた時には深い森の奥に倒れていて、目が覚めて互いの顔を見た時は驚いた。
一葉は薄い桃色の髪で、腰の高さまで髪が伸びていた。しかもだいぶ若返って10代後半くらいの年齢になっていた。
瞳は緑色で、生前より顔立ちが幼くなったようだった。
ニ葉は少し濃いピンク色の髪で、肩くらいの長さの髪の長さだった。ニ葉もどことなく若返っているような感じだ。
瞳は紫色で、ひょうひょうとした感じは生前と変わらなかった。
三葉は濃い赤色の髪で、肩より少し長いくらいの髪の長さになっていてた。三葉も若返っているような感じがした。
その後三葉は髪の長さがどうしても気になったようで、後ろで軽く結ったようだが。髪を結ぶとより中性的な見た目になってカッコイイお姉さんって雰囲気だ。
瞳は水色で、少しキリッとした目に顔立ちだった。
見た目はだいぶ変わっていたが、それでもすぐに血が繋がった姉妹だと分かった。
「ひとまず、どうしよっか?」
1人だけだったら不安でいっぱいだったろうけど、私たちは1人じゃなかったから、案外落ち着いて状況を整理し、飲み込めた。
まず、森を散策して食べられるものを探した。木の実や山菜、きのこを収穫したが最初は食べられる食材かどうか判別出来なかった。
困っていると、神たちからもらった〝スキル〟や〝加護〟を思い出した。
色々と試しているうちにまずニ葉が、加護で作った〝結界〟は中にいる人を守るだけでなく、外から見えないようにし〝認識阻害〟の効果も追加できる事が判明した。
更に凄かったのは〝結界〟で〝空間〟を歪め、一定距離なら〝瞬間移動〟出来るという点だった。しかし目で視認できる距離によるので、長距離移動は不可能だ。
次に三葉が〝創造〟のスキルで、頭でイメージしたログハウスを簡単に生成し作ってしまったことだ。
家具や衣類まで想像できるものならある程度作れた。だが構造を理解していないものやイメージが曖昧だったりすると失敗する。
次に加護で大地に関わる魔法は粗方使う事が出来たから、火や水の心配は無くなった。使い方によっては色々な能力の幅が広がる力だ。
ここまで判明したところで私たちは家を建てる場所を探し始めた。そこで見つけたのは深い峡谷だった。下には浅瀬の川が流れている。場所としては外敵から身を守りやすく、ひっそり暮らすには適していると判断した。
そこでまずニ葉の〝瞬間移動〟で何回かの移動を繰り返し、ログハウスを峡谷付近に運ぶ。
三葉に加護の力で峡谷の底付近に平たい土地を作ってもらい、そこにニ葉の〝瞬間移動〟でログハウスを建てる。
峡谷の底のログハウスに移動するには方法は主に2つ。
1つはニ葉の〝瞬間移動〟で移動すること。2つめは峡谷の滝壺の裏から整備した階段を降りることで移動できるようにした。
念の為、ログハウスとその周囲には常時〝結界〟を張ってもらい〝認識阻害〟もかけることにした。ニ葉によると1週間に1度、魔力を込め直せば常に力を垂れ流さずとも維持できるとの事だったので維持に使う疲労の心配はほぼないようだ。
なんて便利な能力……
三葉は小声で、
「……チート能力」
と、何かぼそっと呟いていたが、はっきりとは聞こえなかった。
そしてその日から、三姉妹の自給自足ライフがスタートしたのだった。




