何でも屋5 第5話 部下
ハウンドは左手に苦無を二本袖から取り出すと、エフェルに向けて投擲する。
迫りくる苦無を斬り落とそうと刀を構えるが、何かを察してその場から何もせずにじっとしている。すると苦無はそのままエフェルの体の横をすり抜けて後方へと飛んでいった。
「ありゃ、引っかかりやせんでしたか」
「なめているのか?」
近付くハウンドに向け、抜刀術をお見舞いする。
「やべっ」
すんでの所で立ち止まり後ろへと飛び斬撃をぎりぎりで躱した。
「あぶねーあぶねー。瞬殺されるとこでした」
「貴様、何の為にここに来た?遊びにでも来たつもりか?」
「いいや。ちゃんと理由はありやすよ」
新しく苦無を取り出し構え、言葉を続ける。
「あんた達がやろうとしてる事の阻止、そして、あんたでさ。えーっと、誰でしたっけ?」
「……エフェルだが」
「そう。エフェル。あんたにも用があるんですぜ。いや、用ってよりも、何か違和感ってやつを感じるってやつですかね」
「その違和感と言うのはなんだ」
「それは……戦ってる内に分かるでしょうぜ!」
またエフェルに向かって走り出し今度はちゃんとエフェルに刺さるように苦無を投げる。
刀を鞘に納めたまま左手で器用に回転させながら目の前で動かして右手から左手で刀を抜く構えをし、接近するハウンドに抜刀した。
刀が抜かれる瞬間にハウンドは跳躍をして躱し上下逆さまになり体を捻りながら小刀を横に振るが、エフェルは刀を避けられたのを見てすぐに前進しておりハウンドの刃は届かなかった。前進した後に即座に振り向きいつの間にか戻していた刀を再び抜刀して斬撃を飛ばしてきたのを、着地して横に転がるように避ける。体勢を整えようとするが、既にエフェルに間合いに入られておりその姿は刀を抜き振り下ろされる直後だった。小刀で受け止めようとしたが、しっかりと立てていないのでちゃんと力を入れられずに勢いを殺せなく、斬られはしなかったが吹き飛ばされてしまう。そこに、追い打ちとばかりに高速の抜刀術で斬撃をいくつも飛ばしてきた。
「おいおいおい。容赦ねぇですねぇ!」
減らず口を叩きつつ右腕を遠くの天井へと向ける。手首に仕込んである先端に突起の付いたワイヤーを飛ばし天井に突き刺すと、一気に刺した方向へ飛んでいき難を逃れる。
「いやーこれは、距離を離すのはしちゃいけやせんね」
「なんだ。接近戦がしたいのか」
突起を外し地面に降りたハウンドにエフェルが急接近して刀を横に振った。バク転で躱したところに距離を縮めてから今度は斜めから刀が振り下ろされる。それを小刀で受け止めた後、刃に這わせるように動かしながら少しずつ小刀を斜めにしていき自分から逸らしていき鍔に到達した瞬間に左手で刀の腹を押して完全に軌道をずらしてから、エフェルの顔面目掛けて小刀を上に動かした。
エフェルは後ろに飛びながら避け右手で刀を握り横に動かす。ハウンドも後ろへと飛び苦無を取り出して投げた。それを、鞘で弾き落とし刀を納刀する。
一呼吸おいてエフェルが再び接近し抜刀しようとする。しかしそれに反応してハウンドは抜刀しようとしている所に片足を出して押し止めてから小刀を振った。それに対して鞘の方を後ろへと動かし刀を抜き鞘で小刀を受け止めてから刀を持っている手を素早く動かし足の拘束を解くとハウンドに向けて突きすように動かした。
「ありゃ。お早い対応」
左手首にも仕込んである先端に突起の付いたワイヤーを既に射出させて壁に刺しており、それを巻き後ろに高速で下がる事でそれを回避する。
「逃がさん」
遠のくハウンドを追いかけ抜刀術で斬りつけたのだが、壁に斜めの斬り傷を付けるだけに終わった。
エフェルの抜刀術が繰り出される少し前に、ハウンドは後ろの壁に付く瞬間に右手首の装置のワイヤーを上に向けて撃ちこんで刺し、壁に刺してある方を外すと素早く上へ移動し天井に着く前に外すと壁を思いっきり蹴りエフェルの背後へと回りつつ、左手に取り出した苦無を空中で振り向きながら投げていた。
後ろから何かの攻撃の気配を察知しながらも冷静にその場で勢いよくジャンプをしそれを避けると、ハウンドと同じように壁を蹴り瞬時に距離を詰めていく。
「嘘でしょー」
その行動に棒読みで呟くハウンドに近付いたエフェルの一閃が襲う。左手にも腰に吊っていた小刀を抜き二本で防いでみたが勢いまでは殺せず再び盛大に吹っ飛んでいった。
吹っ飛びながらも綺麗に着地をしたハウンドを追いかけはせず、自分の剣技を思い返すように刀を鞘から抜き差ししている。
「いてててて。はー。参りやしたねーどうも」
「心にも思っていないだろう」
「ばれやした?」
おどけてみせるハウンドに、嘆息をつきつつも自分の中で抱いていたハウンドと同じような疑問に答えを見付ける。
「お前が私に、なんだか分からないが用があると言っていたが、私もお前に用があったようだ」
「ほお。それは何ですかい?」
「お前は似ているんだ。昔の私に。戦場でもへらへらとしていた自分にな。気丈に振る舞いおどけていた自分に」
「おいおい。それだと、俺も今気丈に振る舞ってるって事じゃねぇですかい。違いやすぜ?」
「そうやっておどけていればいいさ。私がすぐに終わらせてやる」
「へいへい。俺も分かりやしたよ。あんたに感じてた違和感ってやつが。同じ答えなんですがね。俺もあんたを見ていると昔の自分を見てるようでむかつくんですよ。世界を知ろうとせずに、機械的に生きていた昔の自分に」
「私が昔のお前だと?お前がどんな人生を歩んできたのかは知らないが、知ったふうな口だな」
「いや。そんなんじゃねぇんですよ。ただねぇ……」
二人は自分の武器を強く握りしめ直す。
「あんたを見てると、むかついてくるのは確かなんですよ」
「奇遇だな。私もお前を見ているとむかむかする」
「だから俺は」「だから私は」
「あんたの事が嫌いだ!」「お前の事が嫌いだ!」
同時に動き出し、ハウンドは二本の小刀を仕舞い両手に苦無を持ちエフェルが刀を抜く瞬間に横へと避け苦無をタイミングを変えて放つ。
「馬鹿の一つ覚えだな」
抜いた刀でそのまま一本斬り落とし二本目を斬り落とした時、二本目の苦無と同時に射出して隠れていたワイヤ―が刀に巻き付いた。
「……っ」
眉をひそめて刀を見る。するとそれが引っ張られ始めハウンドが叫ぶ。
「あんた、それしか武器がねぇんでしょ。奪っちまえばこっちのもんでさ」
「奪えるならな」
そう言って刀を下に構えたままハウンドへと近付き斬り上げた。それを上から押さえつけるように小刀が動く。すかさず柄を握っていた左手を離し殴り掛かると同じ左手で防がれるが、がら空きになった横腹に鋭い蹴りを叩き入れた。
「ぐっ!?」
蹴り飛ばされた拍子に刀に巻き付けていたワイヤーが緩んでしまう。それを見逃すはずもなく刀からワイヤーを外し鞘へと納める。構えを取って斬撃を放った。
蹴られた箇所を抑えながらも、迫る斬撃に対して小刀を振るい何とか相殺することに成功する。
「はぁ……あんた、ほんとに昔の俺ですかい?こんなに強かったっけ?」
「お前こそ、ほんとに昔の私か?そんなに弱くないぞ」
「うるせぇや。ここからが本番でさ」
「だと良いがな」
「乞うご期待でさ」
言い終わると、エフェルに向かって走り出した。距離が近付き抜刀するタイミングで体勢を低くし床を滑りながらそれを躱すとそのまま後ろを向き片足を打ち上げる。数歩後ろへ移動し避けられはするがすぐに体を捻り顔の横を狙って蹴りにいくがこれも腕で防がれてしまう。もう一度体を捻り今度は腹を狙って鋭く蹴った。防がれはするものの吹っ飛ばされていく。そこに追いかける様に苦無を一本投げた。
「甘い!」
エフェルは飛んでくる苦無を掴みハウンドへと投げ返した。
「そんな芸当も出来るんですかい」
返ってきた苦無を小刀で斬り払って弾き、小刀を持ち替えて代わりに苦無を三本取り出し走り出す。構えるエフェルに対して間隔を開けて三本の苦無を投げた。
丁寧に一本ずつ斬り落とし向かって来るハウンドに斬りかかった。しかし、斬ったと思われたハウンドの姿はそこには無かった。
「消えた?」
辺りを見渡しハウンドの姿を探す。
「早いのが売りなのはあんただけじゃねぇんですぜ」
後ろから声が聞こえたと思ったら強烈な蹴りが横腹に叩き込まれる。
「ぐっ!?」
蹴られた箇所を押さえながらハウンドから距離を置く。
そんなエフェルを追いかける事はせず、挑発するかのように言葉を投げかける。
「さっきのお返しでさ。これで、貸し借り無しですぜ」
「お前は子供か。どこにこだわっているんだ」
横腹を摩り具合を確かめる。
「どうですかい?俺の蹴りの威力は?」
「こんなものなんてことない。蚊に刺されたようなものだ」
「それは相当な威力でさ。あのかゆみはうぜぇですからねぇ」
「減らず口を」
二人は同時にお互いの距離を詰め武器を振る。二つの武器はぶつかり合い止まる。
「一つ撤回させてもらう」
「何のお話で?」
「お前は昔の私に似ていると言ったが、撤回する。そんなにおちゃらけてはいなかった」
「そーですかい」
小刀の力を緩め自分は少し後ろに下がり刀を空振らせる。すぐに二撃目が来るが大きく後退しそれを避けた。苦無を三本新たに持ち一本投げる。当然の様に弾かれ宙に舞うそれに向かって一本投げすぐに最後の一本を投げる。二本目が一本目を弾き宙に留まらせそれに三本目が当たり器用にエフェルの方へと飛んでいく。
「っ!?」
驚いたエフェルは帰ってくる苦無を顔を傾けて突き刺さるのを回避はした。しかし切り傷が付き血が流れ出る。そこに手を触れ自分の傷を確かめた。
「……」
「どうですかい?俺の投擲術は?」
「まぁまぁだな」
「そりゃどうも」
新しく三本の苦無を持ちエフェルに近付こうと一歩踏み出した時、抜刀術から繰り出される斬撃を連続で飛ばしてくる。それを距離を詰めつつ右へ左へ避けながら前へ進んで行こうとするが、攻撃が激しく中々進めずにいる。横に大きく避けた後に横の斬撃に縦の斬撃が加わり襲い掛かる。エフェルを中心にぐるりと移動しつつ途中途中で苦無を投擲する。しかし放たれた斬撃により簡単に弾き落とされてしまう。しかも自分がどう動くか先読みされそこに縦の斬撃を撃ち込まれる。
「ちぃっ!」
その場に急停止しバク転をして躱したところに横の斬撃が来たのでしゃがんで躱す。そこに更に縦の斬撃が来たので横に転がりながら避けると横の斬撃が迫ってきていた。立つ暇が無かったのでそのまま横へ地面を蹴り何とか躱す事は出来たが、顔に傷が出来てじんわりと血が滲むのが分かった。
「……」
「どうだ?私の抜刀術は?」
「まぁまぁですぜ」
「それはどうも」
ハウンドはゆっくりと立ち上がる。
「あんた、案外負けず嫌いなんですね」
「違うな。努力家なんだ。努力して戦いの中で成長し続けたこその今の結果だ」
「あーそうですかい」
小刀を右手に持ち替えて続けた。
「じゃ、その努力とやらを簡単に超えてやりやすぜ」
「つべこべ言わずに来い!」
エフェルに向かって走り出す。近付いてくる所に斬撃を飛ばすと忽然とハウンドが消える。いつの間にかエフェルの後ろに移動していたハウンドが小刀を振る。それに即座に反応し振り向きざまに刀を抜き小刀に当てた。
「おー。反応された」
「当たり前だ」
弾き飛ばされたハウンドは再び姿を消す。すると、前後左右どこからともなく苦無が飛んできてエフェルを襲う。それを冷静に確実に斬り落としていく中、唐突にハウンド自身が物凄い速さで小刀を振りながら横切っていく。
接近に気付いたエフェルは難なく躱し、挑発するかのように言葉を投げた。
「どうした?投げるものが無くなったのか?」
「へっ。それはどうでしょうね」
また高速で移動しつつ斬りつけようとする。しかし速さに慣れられたのか鞘で攻撃を受け流されたり身を傾けるだけで避けられたりと全然攻撃が通る気配が無い。
「お前の攻撃は、もう当たらん!」
突っ込んできたハウンドを避けた後に、間髪入れずに追いかけ斬りかかる。
咄嗟に小刀で防ぐ事は出来たが威力を殺せずにまた吹き飛ばされてしまう。地面に着地しエフェルの方を見ると斬撃が飛んできていたのですぐさま上に向かってワイヤーを飛ばし難を逃れたが
「そう来ると思っていた」
逃げた先に斬撃が放たれており徐々に迫ってきていた。天井に着きそうなタイミングで体を曲げながらワイヤーを外し天井に足をつけ地面に向かって思いっきり蹴る。直後に天井に大きな跡が出来上がった。地面に着地した瞬間、一瞬にして間合いを詰めたエフェルが抜刀する。
「……手ごたえが無いな」
「いやー危ない危ない。危うく斬られるとこでしたぜ」
そこにハウンドの姿は無くエフェルの後ろの方から声が聞こえる。ゆっくりと声のする方へと向く。エフェルの纏う空気が変わった事を察し、ハウンドも気合を入れ直す。
「そろそろ、本気でいきやすかい?」
「望むところだ」
「じゃあ……遠慮なく」
もう一本の小刀も持ち態勢を整える。
指を一本ずつゆっくりと刀の柄に置いて行く。
二人の準備が終わった所に併せるように動き出す。
エフェルの刀が抜かれハウンドに近付く。それを前に進みながら上下反転するようにジャンプをし躱し通り過ぎる間に首を狙って小刀を動かすが首を傾けて避けられ二人は背中合わせで離れていく。
エフェルが振り返るとハウンドの姿は無く代わりに小刀が飛んできていた。落ち着いて飛んでくる物を刀で弾く。すると視界の中にハウンドが現れ弾いたそれを掴むとそのまま斬りつけてくる。刀で防御した所にもう一本も振ってきたので鞘で防ぐ。一旦距離を取るハウンドに刀を鞘に納めてから一瞬で間合いを詰め高速の居合を放って見せる。
ハウンドは危ういところで腰を落とし躱すと即座に立ち上がりながら小刀を上へと動かす。後ろに飛び躱されるがすかさず普通の持ち方にしてダーツの様に小刀を投げた。刀の頭で弾かれたそれを瞬時に接近し再び掴み逆手に持った二本の小刀を交差するように振るう。しかし鞘で防がれた挙句横腹に蹴りを入れられ吹っ飛んでいく。すぐに体勢を立て直したところに斬撃が飛んできていたので小刀を振るいそれを消し去る。その時後ろに姿を現したエフェルは抜刀する直前だった。そんな攻撃をその場で体を捻りながらジャンプをして躱す。
二人は対面すると互いの武器を振る。金属音が鳴り少しの間睨み合うと一緒に離れたと思ったら再度同時に高速で近付きすれ違いざまに攻撃を加える。鋭い音が鳴り響き距離を離して二人はその場に制止した。両者の首に切り傷が出来ておりそこからじんわりと血が滲んでいくが、そんな事を気にするそぶりも見せず同時に目にも留まらぬ速さで動き出す。姿が見えぬまま金属音がそこかしこで鳴り斬り傷が増えていく。
「久々だ。こんな戦いをするのは」
不意にエフェルが口を開いた。
「えっ?何ですかい。こんな時に」
「あの日々に感じていた生きるか死ぬかの綱渡り。まさか、こんな所で味わうことになるとはな」
「なんでい。楽しくなってきたんですかい?」
「ふっ。ああ。多少だがな!」
急にスピードを上げハウンドへと向かい横薙ぎに振るう。ガードされるも吹き飛ばされていくのを追いかけ再び刀を振るった。斬る直前に姿が消え真後ろに出現したのが分かった。そして、小刀を振ってきたので振り返らずに刀を肩から背中に回し防御し弾くと同時に振り向き一太刀浴びせる。
それに小刀をぶつけるように動かし勢いを止めすかさず腹に蹴りを入れた。
「ふっ!?」
左手で鞘を持ち腹を押さえながら自分から離れて行こうとするのを追いかける。距離が近付いてきた所に刀が横に振られるが跳躍して躱す。もう一太刀を振ってきたが右手の小刀で防ぎ左手の小刀で顔を狙っていく。首を傾けられるが顔に傷が付いた。渋い顔をして高速で遠くへと離れる。
「そろそろ、負けてくれやせんかね」
息を上げながらハウンドは言う。それに、同じように息を上げているエフェルは答える。
「それは、死ねと言っているのと同じだぞ」
「諦めてくれるんでもいいんですぜ?」
「馬鹿を言うな」
そう言って持っていた鞘を投げ捨てた。
「おや?鞘を捨てるって事はもう戻す気はねぇんですかい?」
「私の鞘は隊長だ。こんなまがい物ではない」
「あー。そういう考えですかい」
「それに、こっちの方が扱いやすい」
両手で刀を握り横に構える。刹那、ハウンドの目の前に移動したと思ったら横に一振りした。
「っ!?」
その動きに何とか反応し躱したが、腹の辺りに横一直線の傷が出来る。
「おいおい。冗談でしょ?まだそんな動けるんですかい?」
「まだ上がるぞ。お前に付いて来れるか?」
そう言って、接近したと同時に下から上へ斜めに刀が振られる。それもぎりぎりで躱すが肩の辺りを斬られてしまう。その後も、驚異的な速さで動き刀を振るエフェルに辛うじてついていっているハウンドの構図はしばらく続くと思われたが、その終わりは早くも訪れる。エフェルの一刀に完璧にハウンドの小刀が合わさる。
(……もう合わせられるのか)
エフェルは距離を離してからもう一度高速の剣技を放ってみるが、やはり受け流されてしまう。
「どうしやした?こんなもんですかい?」
「まだだ!」
その後も、ハウンドを斬ろうと刀を動かすが小刀で弾かれる事が続く。どんな角度から行っても必ず反応されて弾かれてしまう。
「はぁ……はぁ……」
「どうしやした……?息が上がってやすぜ……」
「それは、お互い様だろ」
「ちげぇねぇや」
間を置いてエフェルは近付き下から刀を動かし斬りつける。それを小刀で防いだと同時に顔の横を狙って蹴りを放つ。柄を握っていた左手を離してそれを防ぐと少し後ろへ下がると刀を構え直し再び刃を動かす。ハウンドはそれを体を捻りながら飛んで躱すとそのまま後ろ蹴りを放った。
「うっ!?」
すかさず片腕で防御するが威力が高く後退していく。そこに近付いて行くハウンドにぶっきらぼうに横方向に刀を振るう。そのように振られた刀が当たる訳も無く、逆に跳ねて躱したハウンドの投げた小刀が足の甲へと突き刺さった。
「……っ!」
苦悶の表情を浮かべながらも戦意を消したようには見えず刀を強く握りハウンドにじりじりと近寄っていく。
「仕事熱心なのはいいですけど、命を懸けるのはどうかと思いやすよ」
「私の仕事は、命を懸けて任務を全うする事だ。それが軍人であり、それが私の生き方だ」
「その生き方しか知らねぇだけでしょうよ」
「そうかもしれないな。だが、それ以外を知ろうとも思っていない!」
ハウンドに突っ込んでいくエフェルだが足の怪我により先程までの速度は出ていない。刀を振っても簡単に防がれ誰から見ても勝敗は決したように見えた。
「諦めねぇのはいい事かもしれやせん。けど、時には諦めるのも肝心ですぜ!」
振り下ろされる刀を小刀で弾きその勢いでエフェルの顔の下を蹴り上げる。派手に飛び後ろへと転ぶ。ハウンドを警戒してすぐに立ち上がろうとするが、ハウンドはその場から動いていなかった。
「お前……!?情けをかけているつもりか!」
「そんなんじゃありゃしやせんよ。最初っから、殺すつもりが無いだけですぜ」
「何だと……?なら、何しにここまで来た」
「言ったでしょ。あんた達がしようとしてる事の阻止とあんたに用があるって」
「殺さなければ私達は止まらないぞ」
「あー。それは嫌だなー……まーそれでも、殺しやせんよ。それが、俺が見付けた新しい生き方なんでね」
「……」
「殺す相手は選ぶってだけですけどね。それだけでも、相当生きやすくなりやしたぜ。昔は、命令されたら機械の様に殺してたんで。そこに疑問も持たずにね。ですから、あんたもここで変わるチャンスですぜ?」
「私は……」
しばし考えた後に、刀を構え直して言い放つ。
「私の生き方は、これからも変わらん!」
「はぁ……この分からず屋が!」
足を刺されているので足を引きづるように走って近付いてくるエフェルにハウンドは構えを取った後に瞬時に移動しエフェルの目の前に現れる。咄嗟に刀を振り下ろしてきたので軽く小刀でいなすと曲げた肘で胸の辺りをどついた。
「ふっ!?」
殴られたエフェルはよろよろと後ろへ数歩下がっていく。そこにハウンドは顔面目掛けて蹴りを左からいれた後に戻すように右から一発ずつお見舞いして腹にもう一発入れる。
吹っ飛ばされるも刀を地面に挿し倒れないように踏ん張った。刀を地面から抜きまだ戦う意思を見せてくる姿に答えるように向かって行く。
突き出してきた刀を避けると腕を曲げて肘で刀を持つ腕を叩き刀を落とさせた。
そして、流れるように顔の横を殴り勢いを付けて同じところに蹴りを入れる。地面に倒れたエフェルは起き上がろうとする際、短く何かの言葉か呻き声か分からない音を発してそのまま力尽きて動かなくなった。
息を切らしながらハウンドは動かないエフェルに近付き安否を確かめると、どうやら気絶しているだけのようで吐息をもらした。
「はーあっと。だんな。こっちは終わりやしたよ。そっちは、負けちゃいやせんよね」
武器を仕舞い両手を腰に当てシュヴァルが進んだ道を見つめながら心配するように言った。