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旦那様は○○がお好き  作者: mtr
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現状把握しましょう2


 目の前に差し出されたフォークの先には、今にも滴り落ちそうなほど肉汁を含んだポークソテーが、これまた滴り落ちそうなほどのソースをまとって、まるで「食べて食べて!こぼれる前に食べて!」と語りかけてくるかのような様相でそこにいる。このフォークの持ち主も、それはもう幸せそうな笑顔で私の口元へ今か今かと運びたそうにしている。

 対する私は、別に両手が使えなくなっているわけでもなく、しっかりと自分でナイフとフォークを持っているし、先程まできちんと自分で自分の分のポークソテーをいただいていた。


 貴族の食卓というものは、広いテーブルにこれでもかと料理の皿をを並べる為、席の間隔もゆとりがたっぷりあるものが普通である。

 だから、普通はこのように隣の人へフォークは届かない。すぐ横に陣取らない限りは。


「シーラ、はいあーん」


 気付かないフリをしようと無駄な抵抗を試みたが、恥ずかしげもなく意図を主張されたらどうしようもない。親兄弟が同居しているわけでは無いので、食事をしているのは私と旦那様の二人きりだ。それでも周りには侍女や侍従、メイド達他の使用人がいるので、正確には二人きりでは無いけれど。

 滴り落ちそうなソースが限界を迎えそうな様子に貧乏性が反応してしまい、恥ずかしさを抑え慌てて差し出されていたポークソテーを口の中に収めた。滑らかな口当たりの手間暇かかっているソースと肉汁が混然一体となり、なんともいえない美味しさだ。ああ幸せ。

 私が美味しさに思わず笑みをこぼすと、旦那様はその様子にいたく満足したのか、さらに笑みを深めた。


「美味しいですか?もっと食べていいんですよ」

「あ、はい……でももう十分ですから」


 たとえ美味しくても、もっと食べたいなどと口にしてはならない。以前は料理に満足しているという意図を伝えようと、そういった意味合いの言葉を告げたこともある。しかしその結果は、あろうことか旦那様は自分の分の食事の三割を私への餌付けに費やしたのだ。その分をきちんと収めて消化してしまう自分の胃にも絶望した。嫁いでから最初のひと月は、生活に慣れなくてストレスもあったせいで余計に食べてしまっていたのかもしれないが、案の定より太ったのは言うまでもない。

 旦那様であるクレイヴェル=グラーティアは、私が嫁いで来たその日からずっとこのように私と食事をする。当初はこの家のしきたりなのだろうかと思ってしまっていたが、その後義父母と食事をする機会があり、どうやらコレは旦那様の趣味であると判明した。義父母と一緒の時にはちゃんと席は離れていたのだ。それでも時折熱っぽい視線で私が食事している光景を眺めていらしたけれど。


 今も旦那様は熱っぽい視線で私を見つめている。人の好意の度合いはわからないものだけれど、見た目でわかる表現の度合いと言動で推し量るならば、旦那様『は』私『を』とても愛しているのだろう。

 旦那様は朝から挨拶のキスは欠かさず、朝の支度が終われば必ず朝食は一緒にとり、お勤めに出掛ける前にもいってらっしゃいのキスをねだり、帰ってくればまず最初に私への抱擁とキスをする。夕飯は言わずもがな先ほどのようなやりとりを繰り広げ、執務室ではさすがに侯爵領の仕事をこなしているので愛情表現はあまりしないが、お茶を持って行くと嬉しそうに受け取り私を隣りに侍らせて休憩をとる。寝室でのことはあえて割愛させていただきたい。いえ、一緒のベッドで休んでいますよ?


 先に述べていたように、私の見た目は平均以下。ふくよかであるだけの普通の娘である。特殊な能力も無ければ、大きな財産があるわけでもない。ちょっと料理が得意なくらいで、料理人並みの腕前は無いし、味にすごく煩いわけでもない。それなのにも関わらず、ここまで愛されているなんて、いくらなんでも何かおかしいと誰だって思うだろう。

 私だって思った。婚約の話が出た時点で名前を間違えられたのではないだろうかと再三確認したほどだ。ほら、なにせうちには年頃で未婚のそれはそれはお美しいお姉様がいらっしゃるから。姉は初めこそとっつきにくい印象を与える外見と性格をしているが、慣れてしまえばとても可愛い人なのだ。その姉を差し置いて自分が婚約などという事態になろうとは、どうして予想出来ただろうか。



 私が片思いすることはあっても、懸想されることなんてことあり得ない、そう思っていたのだ。しかし、私はなぜか旦那様に愛されている。

 私だって愛していないわけじゃない。あの夜会で初めて顔を合わせた時から、私はずっと惹かれていたのだと思う。だからといって、私は旦那様に惚れ薬を盛ってもいないし、呪いにかけて私以外を見ないようにしてるわけでもないし、弱みを握って脅してもいないし、色気で骨抜きにしたわけじゃ……いや、色気…なのかな?これを色気に含んでいいのか分からないけれど、旦那様に対してのみ有効な色気と言えば色気のような気がする。


 旦那様がなぜここまで私を愛して下さっているのか、今の私は理由を知っている。その一点しか愛される理由が無いと言っても過言ではない。

 しかしそれを認めるのはすごく複雑な気持ちになる。自分の《美的感覚》をとるか、《旦那様》をとるかの、究極の二択問題なのだから。


 ああもう、そろそろ観念しないといけないかもしれない。

 実際問題すでに結婚している身なので認めているも同然ではあるのだけれど、それでもなんかこう…他にもいい所があって愛されているって思いたいのだ。旦那様のような素敵な男性と結婚出来た時点で、これ以上の我侭なんて言ってはいけないのかもしれないけど、認めたくないものは仕方が無いじゃない!



 旦那様は、《ふくよかな方》がお好きなのだ。



カトレアお姉様に関しては、別途お話を書ければいいなと思っています。

シルエラの話がちゃんと完結出来たら、頑張りたいと思います_(:3 」∠ )_<完結まできちんと書けるか微妙ですが…

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