Last Episode - ごちそうさまでした
今まで散々過ごした夢の世界と同じくらいに静かな病室にて、彼の帰りを今か今かと待ち続けた。
あれだけ眠っていたはずなのに、定期的に強烈な睡魔が襲いかかってくるのは不思議な感覚だった。......私ですらこんななのに、穂月くんが眠りから覚める瞬間を待つ必要があるのか? いや、でもあの言葉は開口一番に言いたいしなあ。
そんな思考を延々と繰り返しながら、私が目覚めてからほぼ半日が経ち、そろそろ日が沈み始めようとしている頃だった。
今までうんともすんとも言わなかった穂月くんの身体が、ピクリと動く。
次いで、少し苦しそうに薄目が開く。
「穂月くん!」
思わず目を見開き、パイプ椅子から荒々しく立ち上がる。
「.........曙、さん?」
私とは対照的に、非常に弱々しい声音で問いかけてくる彼の様子を見ていると我慢できず、その足取りのまま彼の下まで進み、掛け布団の上からその手を握った。
今まではこちらから起こすまいと我慢していたが、目を覚ましたのなら関係ない。元から対してない力を目一杯使って、今確かにここにある彼の実体を噛み締める。
ちゃんと目を開けてくれた安心感から涙腺が緩み、仄かに目頭が熱くなっていくのを感じた。
そんな中の、おそらく彼の耳に入る第一声を何にしようか、意識が戻った時からずっと考えていた。その結果、色々と捲し立てても困惑してしまうだけだろうし、とりあえずシンプルな言葉を贈るのがいいだろうと結論づけた。
そのまず一つ目が、
「おかえり、穂月くん」
というなんともシンプルなもの。
そして二つ目は、こんなにも重厚で美味しい、まるでパティシエの作ったフォンダンショコラのような悪夢を提供してくれた彼には、この言葉を贈るべきだろう。
「——そして、ご馳走様でした。とっても美味しかったよ」
そんな言葉に対して彼は、一瞬きょとんとした表情を浮かべた。まだまともに頭が働いていないのだろう。結局、それを咀嚼するのには十秒程度の時間を要した。
穂月くんは返答の前に私の手を握り返してくるが、ずっと眠り続けていたせいか、握力までもがとても弱々しい。そして、私の感触を感じ、まだ開ききっていない瞳を細めると、
「ただいま、曙さん。......お粗末様でした」
と、優しげな声で告げるのだった。
終




