表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/33

Prologue - 或る日の夢

 目が廻る。視界がぐにゃりと歪み、息が上がり、もはや立つこともままならない。しかし、足を止めることは許されなかった。街灯が(とも)す淡い白色光のみが頼りな漆黒の中、俺は必死に走り続ける。


「待テヨ——死ネ——死ネ——ッ!」


 背後からはそんな呪罵のような言葉が聞こえてくる。その声は、不快なノイズのように揺れており、足音はしないが、段々と、着実にこちらへ近づいて来ているのは理解できた。


「来るなっ!」


 必死に叫ぶも、そんな声は相手には届かない。そも、相手は人間なのか、亡霊なのか、化け物なのか。それすら分からなかった。


 というか、俺は本当に走っているのか? 何処を? どのように?

 急に足下が消える。地面も、街灯も消える。赤緑青がすべて零に振り切ったような暗闇は何も映さない。しかし、依然として背後に付き纏う声は消えてくれなくて。頭がかち割れそうになる呪いの言葉は、確実に俺の精神を蝕んでいった。


「——っ!?」


 もはやただの感覚でしかないが、首元に冷たい何かが押し当てられたような気がした。背中らしき場所と額らしき場所に汗がたらりと垂れるのを感じる。そんな時だった。


「やっほー、穂月(ほづき)くん! 元気してる?」


 完全な無から水蒸気が昇ってくるようにして現れたのは、どこかで見たことがある少女だった。俺の名を呼ぶ栗色ゆるふわウェーブな彼女は、明るい声と表情をこちらに向ける。俺のどこをどう見て元気だと思えるのか。というか、彼女は俺が見えるのか?

 彼女はふよふよと浮き続け、常に必死に走る俺の斜め前に居る。ああもう、なんなんだこいつは。相変わらず甲高い声で俺に話しかけてきているみたいだが、背後の奴からの言葉と混ざり合って聞き取れず、むしろ頭痛を悪化させていた。


 本当、一体全体俺が何をしたというんだ。悪夢なら......悪夢なら覚めてくれ——


「——おや、穂月くん。あなた今、『悪夢が消えてほしい』と願ったね?」


 そう願ったのも束の間、目の前の少女は悪戯な笑みを浮かべながらそう問うてくる。何故だか、その声ははっきりと聞こえてきた。


「ああそうだよ、言ったよ。誰でも何でも良いからどうにかしてくれ!」


 そう告げると、今度はぱあっと顔を明るくさせ、少女は(おもむろ)にその小さな手を合わせた。

 ......ああ、その姿を見てようやく思い出した。こいつはいつもこうして、俺の夢を——


「それじゃあ遠慮なく。()()()()()()()()!」


 ——とても美味しそうに食べるんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ