第3話【大事な人】
新暦3011年4月12日『無の境界』。
α・β・γ・λ・Δ・ε・Ω、そして太陽系を含む8大銀河のほぼ中央に存在している黒き空間は、地球人が宇宙で新たなる星を探す最中に初めて見つかってから以降、そう呼ばれている。
その空間の正体はかつて遠い昔、寿命を迎えた銀河系によって生まれたブラックホールの名残りであり、1銀河系ほどの規模が暗い虚無の続く世界となっている。
1銀河もの空間全てが何も無い虚無というものは身体に悪く、この空間を抜けるまでに精神錯乱や発狂といった病状が船に乗船する大多数のクルーを蝕んだ。
その弊害を重くみた各銀河の政府は管理・監視も近寄ることも嫌がり、放置されているため私たちのような組織の人間の中には好んで通過する者もいる。
勿論私たちの所属する『シエル』もその例外ではない。
「アルテ様、あと10分ほどで『無の境界』を抜け『永遠様』との合流地点に到着します」
部屋で布団にくるまりながら音楽を流していると、司令室にいる『KoS』から個人メッセージが入ってきた。
「『了解』…と」
布団から出て直ぐにメッセージを送り、私服から『シエル』の軍服に着替えようとクローゼットを開けた。
と言っても『シエル』は世間一般では政府に反抗する非国組織と見られており、戦争を助長する過激派として厳しい目を向けられている。
それを考慮してか軍服と言っても目立たない箇所に所属が分かる紋章が入っていればよいとされており、各々自由な服を軍服としている。
私は黒のガウチョパンツと白無地の半袖、少し大きめで灰色のパーカーの裏側に紋章を入れてもらっているため基本はそのセットを軍服として使用、着用している。
その1式に着替え終わり部屋を出、私は格納庫のある方へ歩き始めた。
◈◈◈◈◈
シエル所属・特殊作戦用宇宙船『Alice』。
私、アルテ・ユークリッドを含む、他惑星への特殊作戦実行の命を与えられた者たちが生活・作戦実行の為の拠点として乗り、運用している宇宙船である。
乗船可能な人数は最大100人、収容可能な起動機兵は最大20機ほどのそれなりに大きい船だ。
とは言っても特殊作戦実行部隊に所属している人間は私率いるユークリッド部隊と今から合流する月ノ宮部隊、そして一足先に太陽系へ向かった合歓垣・毒島合同部隊の計4部隊、全50人であるため手に余る。
『信号:M00Nキャッチ。月ノ宮部隊合流しました』
「よし、ハッチを開けろ。降船アシストも出せよ」
『了解。ハッチ解放』
私は耳にかけている小型マイクで管制室のオペレーターにそう指示を出しつつ格納庫の方へ向かう。
部屋を出て右側に真っ直ぐ進み、突き当たりを右側に進む。
その奥にある宇宙活動用スーツを収納してある部屋に入り、上から着る。
格納庫に着いた頃にはハッチは閉まっているだろうが万が一のことがあったら宇宙に放り出され窒息して死んでしまう、安全のためだ。
着終え、すぐに格納庫へと移動する。
そして扉を開けるために鍵の近くに指を近づける。
すると赤く光っていた扉が緑色に光を変える。
認証された合図だ、扉を開く。
「アールーテー!会いたかったー!」
開くと同時に見知った顔が体当たりをしてき、あわわっと変な声を出しながら床に倒れた。
「永遠…痛い…」
「あ!ごめんアルテ!どこか怪我してない?」
「うん、大丈夫」
「良かった〜」
水色の髪にオーダーメイドのセーラー服を着た同年代の少女。
「私の…トワの大大大〜っ好きなアルテに怪我させてたら切腹するところだったよ〜」
彼女の名は月ノ宮永遠。
私の幼なじみで、私の大事な人。
そして私の生きる唯一の理由。




