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涙の夜のカフェテリア─王都に灯る優しい光─  作者: 石田空


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初めての観劇

 ソフィさんのおかげで、夜カフェに少しずつ人が戻ってきた。

 なによりもふたりで開発したパンデピスがかなり好評で、その日焼いたものは夜カフェ中に全部なくなってしまうというものだった。

 昼のカフェテリア時間でも取り扱ってほしいというリクエストもあるものの、それについては現在保留中である。パンデピスはおいしいけれど、発酵させる時間やハチミツの量がかなり必要なため、そう簡単に焼く数を増やせないからだ。


「まあ、他のメニューもあるし、夜カフェ限定の品があってもいいだろ。流行だからとすぐ数を増やしたらありがたみが減ってすぐに飽きられるのがオチだしな」


 七日に一度の夜カフェ時間限定ってほうが、プレミアが付くって感じだろう。

 流行りのお菓子はたくさんあっても、数を増やせば増やすほどすぐに流行が終わってしまうから、七日に一度しか食べられないお菓子って感じで、ずっと幻のお菓子ってことにしてしまったほうがいいのかも。

 他の店がパンデピスを扱ってくれたらいいけれど、何故かなかなか扱ってくれないんだよなあ。これが魔女に対する偏見のせいなのか、発酵させる時間の関係かがわからない。発酵させないといけない生地は他にもあるから、これ以上発酵時間に考慮するのは駄目とは思ってるかもしれないけど。

 それはさておいて。私はカフェテリア時間ギリギリにやってきたソフィさんに、おごりでランチをごちそうしていた。

 その日のランチはビーフシチューのポットパイにたまねぎと生ハムのサラダ。デザートにはタルトオシトロンとカフェオレ。それを彼女は今日もすごい勢いで食べていた。


「ありがとうございますありがとうございます。おかげで夜カフェに人が戻りました」

「あら、それはあなたのお菓子がおいしかったからじゃないかしら? わたしはあくまでおいしいお菓子を食べただけ。それを見ておいしそうだと思った人たちが駆け寄ったとしても、おいしくなかったらリピート客は来ないわ。どれだけ見た目だけ着飾ったとしても、中身が伴わなかったら舞台に人は入らないもの。それとおんなじ」


 そうきっぱりと言うソフィさんに、私は「おお……」と感嘆の声を上げる。


「そう言ってもらえたらなによりです」

「ところで。いつも店の営業時間ギリギリに入っているでしょう? その間、あなたちゃんと休めてるのかしら?」

「ええっと……」


 思えば、【ルミナール】で働きはじめてから、休みの日はレシピ開発のために図書館や王都のカフェを食べ歩き、あとは家事全般とか、魔法石を並べて月の光に当てて魔力補充したりとか……あれ、休んだって満足に休んだことは、たしかにないなあ。


「私もこっちの国に慣れなきゃと、家事に買い出しにと、あんまり休んだことないですねえ……」

「あら駄目よ。たしかに休みの日は一日寝てれば体力は回復するけれど。心の回復ってもっとときめきがなくっては駄目よ」

「……ときめきですかあ」

「サエはなににときめくのかしら?」

「ええっと……」


 パティシエ修業中に留学中に食べた屋台の栗の味に感動したりとか。空や木々の色が私の国と全然違うのに驚いて、散歩のたびにずっと眺めていたりとか。

 具体的になにをやったらときめくとかが全然思いつかないなあ。


「……すみません。散歩とかは好きですけど、なにかを見てときめくって具体的なものが思いつきません……」

「なるほど。サエは日常の中にときめきを見出すタイプね。なら、あなた非日常にときめきは見出せないかしら?」

「え、ええっと……?」

「レイモンがとっても素敵な脚本を書いてくれたから。今度それで舞台に立つの」

「……もしかして、空から降りてきた妖精がなんやかんやする話ですか?」

「あら、レイモンから内容聞いたのかしら」


 まさか、私の国のおとぎ話をしゃべったら食いつかれて、それをさんざんあれこれ質問されたら物語が完成したとか言えないもんなあ。

 私がもにょもにょしていたら、ソフィさんは言う、


「まあ、いいわ。とにかくチケットは差し上げるからいらっしゃいな。ああ……でもそうね」

「はい?」

「ドレスコードがあるから、サエは観劇用の服用意できて?」

「え、ええっと……今度の休みの日に探してきます」

「ええ。楽しみにしているわ」


 そう言われて、私はチケットを眺めた。

 思えば私は、観劇客を相手取ったことはあれども、実際の観劇体験は乏しい。見に行ったらどうなるんだろう。そして。

 王都の観劇のドレスコードってどうなってるのかな。これは服屋さんに行ったときに聞けばいいのか。

 店が終わったあと、私はどんな服を着ればいいのかと悩むことにした。

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