椿ちゃんは知っている
side.城春
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「んっ!」
私は夜ご飯を食べている妹の前に手を突き出す。
妹は首を傾げながら私の手の上に、自分の手を重ねた。
「違うっ!ス・マ・ホ!」
「あ~、まだ消して欲しいの?」
「あ、当たり前じゃん!」
妹はニヤニヤしながら私の手のひらを指でくすぐる。
ええい、鬱陶しい!
「ま、でもさ。私、今日お姉ちゃんを《《2度》》も救ったんだけど?」
「ぐっ……」
そう、私は追いかけっこをしていた妹から、ホットパンツがびしょ濡れになっているのを指摘された。太ももにも滴っていて、靴下まで到達していたのだ。
自分でも驚くほど濡れていてドン引きしたほどであった。
すぐに、妹の半ズボンを借りて何とかやり過ごしたが……ふっきーに気づかれてないよね…?
一応私は不木崎から、色気のある文学美少女で通ってるはずだから、そんな事実に気づかれたらドン引きされちゃう……!
妹はそんな私を見てニヤァと八重歯をむき出しにさせる。
「お姉ちゃんのムッツリがバレるとこだったねぇ?」
「む、ムッツリじゃないしっ!」
「《《びっしょびしょ》》だったくせに~?」
「くっ……こいつっ……!」
悔しい…!事実なだけあって何も言い返せない。
ただ、言い訳させてほしい。あんな状態になって濡れるなと言う方がおかしい。不木崎の恥ずかしそうな顔を至近距離で見ながら、あの逞しい《《アレ》》を体に押し付けられたのだ。普通の女の子だったらそのまま馬乗りになって無様に腰を振るだろう。
でも、嬉しいって言ってくれたし…。
我慢できなくなるって言われたし…。
……録音データ消さなくていいから、私にも送ってくれないかな?
思い出すだけで心臓と下半身がどうにかなりそうになる。
私があそこで獣のように襲わずに済んだのも、ふっきーが大好きだから傷つけたくなかった思いが強い。……あの甘い言葉が嬉しすぎて、体が全然動いてくれなかったというのもあるけど……。あの短い時間に軽く3回は天に召した気がする。
でも最後は……我慢できなかった。
私が取り乱してたってのもあるけど、あんなこと言うのはズルい。
こっちが必死に我慢していたのがバカみたいだ。
……って待て。2度救った、と言ったか?ホットパンツの件以外に妹から救われたシーンなんてあったっけ?
「あー、あと一つがわかんないんだ」
妹に思考を読まれる。
こいつ、魔女かなんかか…?
「プレゼントの時、あのまま流れで始めちゃったら、ふっきー気絶してたよ……てか、下手したらそれ以上のヤバいことになってたかも」
「……む。た、確かに………って、あれ?」
ちょっと待て。なぜ知っている?
不木崎の体質について妹に語ったことなどない。
「お姉ちゃんはふっきーのバキバキになった逞しい《《アレ》》に夢中で気づかなかっただろうけど~」
え?
何で?
今、妹は『バキバキになった逞しいアレ』と言ったか…?
何でこの子はふっきーの《《アレが勃つこと》》を知ってるの?
勘が鋭い妹とは思っていたが、これはそういう次元じゃない。
そもそもこの世界に自然とアレが勃つ男子などいないのだ。勘でわかるレベルではない。
千里眼……?え、この子私の思考読み取ったりしてるの…?怖!
「あー、多分変な勘違いしてるしてると思うけど、ふっきーに電話したって言ったでしょ?その時にね、ふっきー電話切り忘れてたの。だから公園でのお姉ちゃんとふっきーの会話全部丸聞こえだよっ!」
「ふっきぃぃぃぃいいいいいいい!!!!」
「授業サボってトイレでずっと聞いてたんだけど、トイレでサボって正解だったよ~。あんなこと男の子に言われたらって考えただけで捗っちゃった!」
妹が両手を胸で組んで、くねくねと体を揺らす。
何してんの…!一番情報回ったらまずいやつに回ってるじゃん!
そりゃ……?雨の中で私を必死に探してたから、切り忘れたんだろうけど…。
あ、やば、また疼いてきた……。
「大好きだよ、ふっきー、だっけ?」
「つばきぃぃぃぃいいいいいいい!!!!」
ケラケラと妹が笑う。
これ、一生からかわれるやつだ!ふっきーとの大事な思い出だったのに、この小娘土足で入ってきた!
妹は涙目になりながら、手を振っている。
なんだ…?泣くほど楽しいか…?
「ごめんごめん。でも、心配しないでよ。私も誰かに言ったりしないし」
「……からかうのも禁止」
「あ、それは無理っす」
「もぉおおおお!」
妹は笑いを堪えながら、
「この間も言ったけどさ、割とお姉ちゃんにとっても都合いいんだよ?今回みたいにお姉ちゃんが暴走しそうになった時とか止められるし」
「それは……そうだけど」
「あの様子だと、襲ったりしたらふっきー精神終了しちゃうでしょ?私も変なアプローチしないし安心して」
それに、と妹はニヤっと口角を挙げる。
「最高じゃん?こっちをエッチな目で見てるのに、私たちを触れないって。もう虐めてくださいって言ってるようなもんだよね~。しかもふっきーって見た目も超絶ドスケベだし。私、男の子と接するのがこんなにドキドキするって知らなかった~」
妹はそう言って、肉食獣のようにペロッと唇を舐める。
私から見ても、ホントにモテ女の仕草なのだが、不木崎はそこいらの男とは違う。こんな風に挑発されても、妹では反応なんてしない!……しないよね?
というか、今日の不木崎の視線を見ればわかると思うんだけど……。
「……でも、椿今日見向きもされてなかったよね?」
「……へぇ?言うじゃん?私、今日かなり自重してたから実力の半分も出せてないんですけどぉ?おっぱいも見せないようにしたしぃ?まぁ、男の子に疎いお姉ちゃんにはちょっと難しかったかなー?」
「ふっきーは大きいおっぱいが好きだし。ふっきーの視線の先見てなかった?」
「へ、へぇ?別にぃ?おっぱいだけが全てじゃないしぃ?」
形勢が傾いてきた。
実際、不木崎が今日一日私ばかりを見ていたのを理解しているのだろう。
……ふん、他の男子にはモテるんだろうが、ふっきーには刺さらないようだね!
今日散々からかわれた分、こっちも仕返ししてやろう…!
「あの時の会話聞いてたならわかるでしょ?それだけじゃなくて、全部エッチだって言ってくれてるんだよね~。私の体に……その……が、我慢できないって言ってくれたし……」
「ちょ、ちょっと今日見られてただけで舞い上がりやがって……!」
「あ、おっぱいちょっと分けてあげよっか?」
「あー!今ライン超えた!姉妹でも超えちゃいけないライン超えたよ今!」
妹はそう言って、手をワキワキさせながら近づいてくる。
「そのおっぱい寄越せー!」
私はその場からすぐに離脱して、走りながら思う。
まぁ、ふっきーに変な迷惑がかからないんだったらいっか…。
私も、自分を抑えられる自信…ないし。




