その後…
side.城春
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王子様、というのは、ああいう人のことを言うのだろう。
私は日課になっている、ベッド上ローリングの真っ最中だった。枕を抱きしめてやるのがポイントだ。
妹が呆れた様子で私を眺めている。
「いじめられてるってわかって、教室で怒鳴り散らすって――おとぎ話みたいじゃんふっきー」
私は帰ってからこの話を誰かにしたくて、都合よくソファーでポテチを食べている妹を見つけて部屋に連れ込み、全容を話した。
話してもなお、妹は全てを信じてはいなさそうだ。
胡散臭げにポテチを頬張っている。
だが、それも仕方ない。私が聞いてもおとぎ話と思うだろう。
「てか、いじめられてたの?」
「うん、そう」
「聞いてないんだけど?てか、誰、やったの?」
「え?別にいいじゃん誰だって」
「……よくない」
そんなことよりも今は不木崎が私のために怒ってくれた話だ。
あれから放課後、不木崎が帰った後のクラス内で緊急会議が開かれた。
最初に出たのは不木崎の話。まぁ、当然だ。
女子どもはあの強烈な『男』を充てられて、色んな意味で興奮していた。
最初は絶望していたくせに、助かったとわかった瞬間その絶望を性欲に変換できる能力は素直に感心する。
勘違いしてはいけないが、ただ男子が怒っただけなら、こう色めき立つこともない。今回は勝手が違うのだ。
――女の子のために感情を爆発させて怒る。
これは私たちにとって未知の味だった。正直感想の言語化さえ難しい。混乱と安堵と興奮で、教室内は湿気がすごかった。誰にも聞かれないように扉や窓を全て閉めたせいもあるが、教室の天井に雲ができていた。
かく言う私もずっと平静を装っていたが、それはもう大変なことになっていた。ずぶ濡れにされて本当に良かったと思うほどに…。
自ら怒鳴ってクラスの女子を落ち込ませたくせに、また自ら謝って女子たちの好感度やら性欲を爆上げさせるとか、本当にマッチポンプヤリチン野郎だ…。
やはりあいつを他の女子に近づけさせてしまうと、バイオハザードも真っ青な感染速度で重度の不木崎病をまき散らすだろう。ちなみに私は末期患者だ。
しばらく興奮は冷めやらぬ状態だったが、やがて賢者モードになり、そこからは私をボディガードする話になった。
もう一度怒られてみたい、という拗らせている女子もいたが、多数の反対意見により却下。それよりも、二度と不木崎に敵対されないように、私の安全面を確保するための戦略が練られた。中でもクラスのカースト上位が熱量を上げていた。
『もし、次私のベストフレンドがいじめられたらどうする?』
『死刑』
『え?決まってんじゃん。生きてきたこと後悔させる。親友に手を出したんだ。当然の結末だよね?』
『うん、そうだね。この子と一緒に刻も』
こんな会話が繰り広げられるくらいだ。これでとりあえずは一安心だろう。うちのクラス女子のカーストは学年でも上位。敵対者が消えるのも時間の問題だ。
というか気づいたら私のカーストとんでもなく上がってない?入学当初最底辺だったんだけど…。なんかあまり話したことのない親友が量産されているし…。
やっぱり恋のパワーはすごいということか…。
私は数時間前の記憶を掘り起こしながら、スマホをタップする。
「『わ、悪い。…ただ、やっぱりいじめられているのを放置するのは健全じゃない。それに、見ていて気分が悪い』だってー!きゃー!」
「……やば、人が本気で心配してるのに、余裕で録音してんじゃん。怖」
「『頭いいだけあるじゃん』だって!!ふぅうう!」
「全然聞いてないじゃん」
もちろん録音済みである。抜け目はない。ネットリテラシーの疎い不木崎は気づきもしていないだろう…むふふ。
本当は最初の怒鳴り声も録音したかったが、何分急だったし、それどころではなかったため録り逃した…。非常に悔やまれる。
ただ、一つだけ気になったことがある。
それは、不木崎が怯えていたことだ。少し前のお弁当の時もそうだったが、最近不木崎の軽い拒絶を感じる瞬間がある。しかも縮まっていた距離感も少しだけ開いた気もする…。
まぁ、気のせいレベルのものなので、そこまで深刻ではないんだけど。
今日の出来事の嬉しさの中で、その若干の不安が引っかかる。
でも、もし、これが本物の拒絶になったら、私はどうなってしまうのだろう。




