予兆
side.不木崎拓人
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「それでは、女の子のことを知ろう!の会を始めます!拍手!」
「……」
「拍手!」
「わー(ぱちぱち)」
放課後の勉強会。いつも通り図書室内には誰もおらず、椅子の上にふんぞり返って立っている城を叱る者はいない。パンツ見えるぞ。
彼女の真っ白な膝小僧と顔を突き合わせる形になっているが、下半身に毒だから早く降りて欲しい。てか、こいついつもタイツ履いてなかったか…?なんで生足にしてるの…?今日は別にそんな熱くないよね?
「それじゃ、まずはふっきーの女の子の認識を教えて」
席に座った城は、おっぱいの下で腕を組んで、どこから出したのか眼鏡を着用しクイッと上げる。
女教師にでもなったつもりなのか、傷一つないスベスベの足を組んで膝小僧とまた目が合う。すごく腹が立つ。
女の子か。まぁ、この世界の一般的な女の子の感覚はなんとなくわかる。
「えーと、いつもエロいこと考えてて、男をラブドールか何かと勘違いしている生き物。群れはあまり好まないが団結力が高く、部屋の中にいるより外で遊ぶのが好き。あと、男の胸とか股間すっごい見てくる」
「…え?完璧に理解しているじゃん!私は見てないけど!」
「間違ってて欲しかった。あと見てるのバレてるからね」
「なるほど……基本の生態系は理解してるのか…。ということは後は発展形だね。良かった!致命的なレベルではないね!」
俺のセリフを無視して、一人でうんうん、と頷いている。
「その発展形が本当に発展しすぎてて難解なんだよ」
先ほど城に言ったようなことは、前世の男にも割かし当てはまる部分も多く、共感はできる。
ただ、この世界の女性はひと味違う――どころか1000味くらい違う。深淵の世界だ。
おっぱい触りてぇ、とか、あわよくばエッチしてぇ、とか前世の男が考えていることなど赤子のように見えるほど、この世界の女性は上級者思考だ。
前提としてはエッチしたい、という願望は前世の男とも共通してある部分だと思うのだが、この世界の男は、女の子から、よし!ムラムラしてきたから一発やろっか、と言われても気軽に勃起できない。薬の服用を経て、時間をかけて勃たせるのだ。
さらに言えば、この世界の男は国からの義務によっていろいろ縛られている。
まずは、精役。男から出たモノは、一定期間ごとに政府に提出する義務がある。
これだけ男の数が少ないのだ。無理もないだろう。制度としては前世の兵役のような感覚だろうか。16歳以上の青年に生じる、精役というダジャレみたいな制度だ。
しかしその分、政府から助成金が結構入るので、この世界の男の子は生涯働かなくても生きていける特典もあるが、裕福な暮らしはできないため、裕福に暮らしたいなら結婚するしかないよね、という寸法だ。
続いて、重婚の義務。最低でも2人以上と婚約を結び、健全な夫婦生活(笑)を営んでいかなければならない。結婚すればさらに助成金アップ!の特典付きである。本当にあくどい。
しかし、法律で縛りでもしないと男は女性と結婚しない、という悲しい背景がある。
そんな貴重な一発(精)を、結婚もしていない他人に使うなど、この世界では言語道断。そんな余裕は男にない。
結婚している場合は、勃ったらすぐにプレイ!がデフォルトである。いかなる状況を差し終えて、男が勃った瞬間、夫婦揃って学校やら会社やらは即早退、即挿入である。情緒もへったくれもない。
それ故に、未婚女性がエッチできる機会など、0に等しい。また、襲ったところで男の子の男の子は全く使い物にならないため、本番まではいけず、自然と特殊なプレイを妄想する女性が後を絶たない。歪んだ性癖を量産させる恐ろしい負の連鎖だ。
正直、本当に可哀そうだと思う。前世にはそういうサービスをするお店があった。
モテない男も後腐れなく性を発散できる施設があった。
だが、この世界にはそんな施設もない。本当に女性が不憫でならないし、そんな女性に囲まれている男性も不憫だ。
「まずは簡単な問題からね。男の子から朝、挨拶をされました。さて、女の子はどう思うでしょうか?」
「え?……そりゃ、この人私の事好きなのかな?って思っちゃうんだろ?」
「ぶっぶー!全然違います!正解は、お薬飲んで男の子の日になってるだろうから、今調子いいんだ……エッチなお願いしようかな?でした!」
「……すげーな女子。徹頭徹尾エロいことしか考えてないじゃん」
男の子の日というのは、薬の周期的に勃ちそうな日である。なぜかこのムラムラする日は男は女性に優しくなる。
ホルモンバランスが良くなるのだろうか。
「そう言うけど、男の子も大概だよ!男の子の日とそうじゃない日の落差がすごいんだから!」
「そ、そうなのか?」
「あ、でもふっきーは年中男の子の日だもんね」
「ち、ち、ちち違うわい!」
思わず噛んでしまう。
こいつたまに核心を突くことを言ってくるから侮れない。
もしかして俺から何かそういうオーラとか出てるのだろうか。あ、こいつめっちゃヤれそう、みたいなオーラ…。
「でもね、この世界の女の子もエッチなことばかりじゃなくて、恋愛もするってことは知っておいて欲しいな」
「……まぁ、全員がそうとは思ってねえよ」
「かなりレアだけどね。私も恋愛は最近知ったんだけど。恋と性欲がイコールになってる子、結構多いから」
止めて欲しい。正直、城と恋についてあまり語りたくない。
ただでさえ最近は危険な香りがするのだ。
それに、あの時の悪夢がちらついて離れなくなる。
今だって――
「池田華の著書の一説にね、恋についてこう書いてあったの」
その瞬間、どす黒い何かに背後から包まれているような錯覚に陥る。そんなはずはないのに、城の瞳から怪しい光が見えてしまう。
どうか、続きを言わないで欲しい。そう思うも、それは叶わない。
「『恋は辛く、苦しいもの』って。最初読んだときは訳がわからなかったけど、今だとすごくわかるんだ」
止めろ、止めてくれ。
あの時と同じ言葉をあの時と同じ瞳で――。
目を閉じて、胸に手を当て、祈りでもしているような雰囲気で話している城が恐ろしく見えてしまう。手の中にあの時のナイフが潜んでいるのではないか、とありもしない妄想が生まれる。
またも、情けなく体が震え、心が叫び声をあげる。あの時のように。
「私ももし、失恋したらって考えると正直どうなっちゃうかわからない―――なーんちゃって!なんか空気重くなっちゃった……って、ふっきーどうしたの?」
こちらを心配そうな様子で見つめる城。
今の俺は酷い有様だろう。息は乱れ、恐らく顔色もすごぶる悪い。
体中に虫でも這っているかのような、いっそ気を失いたい感覚に襲われている。
俯いて息を整える。手足も震えて仕方がない。
先ほどまで、ただの可愛い女の子として認識していた城の顔が今はただただ恐ろしく、悪魔のように感じてしまう。
急に手に暖かい感触が伝わる。目線を向けると、城が俺の手の上に自らの手を重ねていた。顔は不安そうに歪んでいる。
「さ、触るな!」
体が勝手に反応し、俺は逃れようと立ち上がる。
椅子が勢いでひっくり返り、静かな図書室に鈍い音が響いた。
「え、え、ど、どうしちゃったの?」
泣きそうな顔をしていた。俺はそれに対して何も言えない。体が万力で掴まれているかのように動かない。そのくせ、城が何か言おうと俺の方へ近づくと、またも身体が勝手に後ろへ下がる。体中がまるで化け物から逃げるようにと、危険信号が鳴り響いているようだった。
その様子を見て、城はいよいよ涙を流し始めた。
「ご、ごめんね。変なことしたなら謝るから。私馬鹿だから何でふっきーが怒ったのかわかんないの。でも、嫌われたくない……。本当に嫌われたくないの。ダメだったところ教えて欲しい。絶対に直すから。ふっきーにそんな顔させないから。お願い…」
懇願するように、城は言った。
その顔は、俺が転生した当初に会った母親と同じものだった。
吐き気がこみ上げてくる。俺がこいつにこんな顔をさせたのか?あれだけ転生前の不木崎を責めておいて、俺が?
理性と心が真逆の信号を出し、頭が沸騰しそうだった。
「ふ、ふっきぃ」
城はすがるような声で呟き、何か確かめるようにもう一歩近づいてくる。
しかし、やはり俺の体は意志と反して拒絶を示した。それに反応して、城の目からはさらに大粒の涙が流れ、床に落ちていく。顔がくしゃりと歪んでいく。
ここにいては駄目だ。城にこれ以上苦しい思いをさせてはいけない、と、残された理性がそう判断する。俺は鞄を手に取った。
「ま、待って」
城は手を伸ばしてくるも、届かず空を切る。
「ゆ、ゆるして」
「悪い、城。今日は帰るわ」
辛うじて、それだけ言い、急ぎ足でその場から離れる。
城のすすり泣く声が、俺の背中を何度も突き刺していた。
翌日、城は学校を休んだ。
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これから一章の終了まで、毎日昼の12時に更新予定です。
ちょっとネガティブになって雲行き怪しいですが、最後までお付き合いください…!
ここまでお付き合いしてくれた方々、ありがとうございます。
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