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第9話 中毒症状

~前回のあらすじ~

没落騎士のドーピング無双!

 ゴブリンを虐殺し尽くした俺は冒険者ギルドに入り、緑色の尖った耳が大量に入った袋を受付に渡す。


「これをアンタ1人でやったのか?」


 信じられないというようにテンガロンハットを被った受付のおっさんに尋ねられる。


「少し体の調子が良くてね。その間にがっつり稼ごうと思ったら上手くいったんだ」


 集落を潰した後も、2日間ぶっ通しで狩りを続けた為、報酬は何と金貨3枚にもなった。


 しかし家に帰宅すると疲労により昏睡状態に陥ってしまう。


 あの薬は本当にやばい。どんなに旨い飯を食っても、どれほどの美女を抱いてもあの幸福感と全能感に比べたら些末だ。俺はもう2度と使わない事に決めた。


 ◇


 回想を終え、向心薬を吸い終えるとあてもなく彷徨い始める。


 俺は数ヶ月後、結局薬を求めてナーバフの元を訪ねるようになってしまった。


 頑張って冒険者として活動しても向心薬を服用した時ほど儲けることも、快楽に浸れることも出来なかったからだ。


 ナーバフからは当然、金を支払うよう要求された。値段はおよそ大銀貨2枚程度。


 真っ当に働いていれば決して払えない額では無い。


 服用してはいけないと頭では分かっている。


 それでもすっかり依存してしまった俺は少量では満足できなくなっていく。


 遂には仕事ができないくらい身体をダメにしてしまった。


 歯は所々抜け落ち、運動すると直ぐに息切れしてしまう。


 食事は何を食べても不味く感じ、薬を服用して暫くすると長時間倦怠感が現れ、耐えられなくなるとまた服用する悪循環だ。


 何かをする気力は無いけれども金は欲しい。


 盗みを働いて奪った金も底をついている。


(ああ、薬だ。薬さえ有れば生きていける。もっと吸いたい……)


「おい、危ねぇじゃねぇか‼︎」


 ふと気づくと馬車通りの真ん中に突っ立っていたようだ。


 顔を上げ、御者席を見た俺は固まってしまう。


「ヒッ!何で親父がここにいるんだ!」


「親父だぁ?テメェみてぇなでかいガキなんざ知らんわ!頭沸いてんのか!」


「ち、違う!俺は竜騎士なんだ!本当だ!ゴブリンなんざ敵じゃ無い!」


「そんなことはどうでも良い。邪魔だからあっちへ行け」


 ()()が俺の手を掴んだ刹那、俺は見てしまった。


 物影からゆらりと立ち上がり、何かをぶつぶつ(ささや)きながら近づいてくる白髪の女を。


 目は灰色に濁っており、身体はすっかり痩せ細っている。


「や、やめろ!俺に近づくなー!」


 急いでその場を離れ駆け出す。見間違いようが無い。あれは確実に病気で死んだはずの母親だ!


 きっと俺が不甲斐ないから化けて出てきたんだ!


 掴まれた手を振り解き、時々後ろを振り向いて走っていると民家の壁に激突してしまった。


 頭を押さえ民家の壁を見ると、そこから亡き母の顔が浮かび上がってくる。


「タ、タスケテ。タスケテヨリーシュ」


「嫌だーー!!俺に話しかけるな!」


 耳を塞いで再び走り始める。闇雲にスラム街を駆け回っていると、ナーバフが2人の男女と会話しているのを見つけた。


 黒髪黒目の東方人に薄紫色の髪をした西方人だ。


 誰だあいつらは。ナーバフは何であんな嬉しそうに会話している?


 まさか俺の向心薬を別口に売り捌こうってのか?


 そこで俺は向心薬の目覚ましい効果を思い出す。


(そうだクスリだ!クスリさえあれば俺は最強なんだ!ドラゴンだろうと神だろうと倒せるんだ!ナーバフが裏切るなら奪ってやる!)


 腰に刺した短剣を取り出し奇襲する。


「ナーバフウウゥゥゥゥッッ!!!」


 背中に刃を差し込もうとした刹那、世界が逆さまになってしまう。


「えっ?」


 俺は首が無い胴体が地面に崩れ落ちる姿を目撃したのを最期に意識を失った。


 ◇

<ヒデキ視点>


 びっくりした。俺はメアの後をついていき、貴族街にあると聞いた宝石店に向かい、マジックバックに入っている貴金属類を売却しようとした。


 しかし貴族街へ入るには許可証を持った人間しか入れず諦める。


 そうするとメアは向心薬が欲しいと言い出し、今度は豪華絢爛な貴族街とは正反対の、如何にもみすぼらしいスラム街へ入っていった。


 俺が感動した区画とは異なり、余り手入れされていないのかゴミは多いし、異臭もする。


 メアが道端で寝転がっていた、瞳孔の開いた浮浪者へ聞き込みを開始した。


 5〜6人に声を掛けた所で丁度通りがかった目つきの悪い、東洋人風の女に裏路地へと連れて行かれた。


 暫く待っているとナーバフという醜い売人に出会えたので商談を始める。


 だが取引できそうという段階で急に短剣を持った、これまたナーバフ以上に醜い男が襲ってきたのだ。


 まるで何かに飢えているような獰悪な形相に畏怖した俺は思わずそいつに近づき、思いっきり爪を繰り出して首を跳ねてしまった。


 この国で正当防衛は適用されるのだろうか。


 不思議と人を殺しても何も感じなかった。元々獣や魔物を殺して育ったせいなのか、それとも自分が吸血鬼だと分かり同族意識を失ってしまったのか、原因は分からない。


『こいつは殺して良かったのか?』


『ええ。ナーバフの顧客の1人だったみたいね。助けてくれて感謝すると言ってるわ』


『今のは正当防衛だよな?』


『スラムの住民が1人消えたくらいじゃ誰も騒がないから気にしなくて良いわよ。死体は誰かが拾うでしょうし』


『何のために?』


『髪の毛はカツラになるし、肉は賎民用のタンパク源、皮膚は一部の異常者がジャケットや鞄に加工するから売れるはずよ』


 怖すぎだろ。この世界の倫理観は想像以上に酷いな。いや、そんなことよりもだ。


『何故この男は俺たちを殺そうとしたんだ?』


『クスリの中毒症状で気が狂ったらしいわ』


『向心薬の?』

 

『ええ、勿論』


『本当に大丈夫なのか?』


『何が?』


『本当に俺たちが服用する分には副作用は無いんだよな?』


『問題ないって何度も言っているでしょ。私達が毒で死んだり、副作用で苦しむ訳が無いじゃない。そんなに柔な身体だったら向心薬が嗜好品として流通してるアルバン王国なんてとっくに滅んでるわよ』


 疑い深い俺はそれにも納得しなかったが、文句を言っても押し問答になるだけなので黙っておく。


 やがて取引は纏まり、次会った機会に向心薬を少量売ってもらう事となった。


 こちらは宿代や日用品購入用以外の金が無いのと、ナーバフも俺たちを警戒して初対面では売ってくれなかった。


 少量ずつの取引なら軽犯罪で済むため、それで信頼関係を築きつつ、段々と取引量を増やしてゆく事が決まる。


 商談を終え、夕方になってしまったので宿を目指すことになった。


 素材買取屋から大体の位置は把握しているので迷わず到着するだろう。


 スラムを抜け再び商店街に入る。目的の宿は門の付近にあるのでまた来た道を引き返さねばならない。


 しかし商店街に入ってすぐ、俺はこちらを伺う複数の視線に気づく。


 先ずは俺たちの10メートル後ろにいる深紅の上着を纏った紳士。


 彼は貴族街の前でもすれ違った覚えがある。


 次に7メートル手前にいる3人組の衛兵。彼らは全員最初に門に入ったときに談笑していた面子だ。


 更に商店街の間にあるちょっとした空き地で笛を吹いている若い女性。


 熱心に観客を喜ばせようとしているように見えるが、時折視線をこちらに向けている。


 他にも姿は見えないが町の至る所で入れ替わり多くの人間に監視されているようだ。


『おい、メア』


『どうしたの?』


『監視されてる』


 途端にメアの目つきが鋭くなった。


『人数は?』


『正確には分からないが相当な数だぞ。割と大きな組織に目をつけられたに違いない』


『恐らく教会だわ。天使は魔力の検知に長けているもの』


『街の外へ逃げるか?』


『ええ。一度宿に入って宿泊する振りをしながら夜中に逃げましょう』


 尾行に勘付いたことをバレないよう、歩くペースは変えない。


 さり気なく追手を撒くようなルートを進んでいく。


 だが至る所に衛兵が待ち構えているので次第に選択できるルートは狭まる。


 最終的には一本道で前と後ろ両方から衛兵に近寄られてしまう。


 前から来る衛兵の中央には彼らの上司だろうか、細身で金髪、そしてエルフらしい尖った耳を生やした優男っぽい人物が鷹揚に近づいてくる。


 外側が黒、内側が赤のマントを羽織った貴族らしい出で立ちだ。


 俺たちの前に立ち止まると慇懃と右足を引き、右手を掌が上を向くよう胸部に添え、左手を横方向へ水平に差し出して声をかけてきた。


『お初にお目に掛かります。私はこの町の現当主であらせられる、アレクシス・カイパードロップ辺境伯様より警備隊隊長を拝任させて頂いております、ニールベン・クラフティーと申します。爵位は子爵です。以後お見知り置きを』

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