第14話 閲兵
~前回のあらすじ~
2ヶ月経過!聖騎士達との訓練後、ニールベンに縁談を申し込まれた。
ニールベンと会話した翌日、いよいよウルバヌ村へ出陣する日が来た。
教会の鐘の音で目を覚ました俺は寝巻から着替え、朝食を取る。
昨夜は少しでも体力を温存する為、夢の中には入らなかった。
しかしゆっくり休めたのかと言われるとそうでも無い。
戦争の事が気になって全然眠れなかった。俺は割と小心者だ。
人殺しの癖に何を言ってるんだと思われるかも知れないが、次は自分が殺されるんじゃないかという感情が心の奥底にこびりついて離れない。
「何をそわそわしているのよ。犬じゃ無いんだから落ち着きなさい」
「そう言うなよ。こちとらまともに殺しあった事なんて無いんだから」
「記憶喪失何じゃ無かったの?」
『殺しあった事が多分無いってニュアンスで言っただけだよ。まだ共通語は不慣れなんだから多目に見てくれ』
『ふ〜ん。それで戦争に行くのが怖いのね。情けない』
『仕方無いだろ。でも実際に戦う頃には本調子になると思う。オーガの時だって脳が興奮して余計な事は考えられなかったし』
『そう。ご武運を祈ってるわ。私は後方だから何とかなるでしょうから』
後方なんてけしからんな。羨ましいぜ。
朝食を終えて武装を整えた。
聖騎士や天使達と教会の裏庭へ集合、隊列を組んで行進する。
教会騎士団を名乗るだけあって騎士や天使達は馬に跨り手を振っている。
騎士用の馬は栗毛の通常馬なのだが、天使達の馬はかなり奇異な見た目をしていた。
一介天使達の馬は角の生えたユニコーン、ジェリー及びミラルは白い翼を生やしたペガサスに乗馬していた。
一介天使は特権階級出ないはずだが、騎士と異なる馬に乗っているのは理由があったりするのだろうか?
俺達は彼らの横に並ぶようにして従軍中だ。前と後ろには俺と同じように雇われたと思われる傭兵共が闊歩している。
町中には多くの人々が押し寄せ、シュプレヒコールを上げたり国旗を掲揚していた。
窓から顔を覗かせて声援を送ってくる人達も一定数いる。
外壁の門を潜り抜けると、既に幾つかの軍隊が駐留していた。
カイパードロップ辺境伯軍を中心とした貴族達の私兵や騎士団だろう。
教会騎士団は辺境伯の騎士団と水の勇者アーリィ・スワントマン子爵の私兵に挟まれる形で配属される。
表向きに教会を敬ってる事をアピールしなきゃならないからな。
陣営の中では比較的安全な場所だ。
「おいおい、何でこんな所に吸血鬼と魔人が居るんだよ!」
声が聞こえた先には大柄の男が突っ立っていた。
見た目の年齢は30代半ば程で身長は2メートル以上はある筈だ。
近くに居るだけで物凄い圧迫感を感じる。青髪をマンバンヘアにし、青目の片方には金色の魔法陣が刻まれているように見える。
ガサツな態度からして雇われた傭兵なのだろうか。
「教会に雇われただけよ。何か問題でも?」
「雇われただぁ?テメェらみたいなチビどもがか?しかも1人は女ときてやがる。俺は子守をするつもりなんざねぇぞ」
「子供なのは貴方の頭の方じゃ無いかしら」
「てめぇ、今なんて言いやがった!?」
『子供なのは貴方の頭じゃ無いかしらと言ったのよ。共通語が苦手なのかしら?なら念話を使ってあげる』
『言うじゃねぇかよ!覚悟はできてるんだろうなぁ!』
不味いぞ。メアと男の間に剣呑な雰囲気が漂っている。
突っかかってくる傭兵も傭兵だが、不必要な挑発をするメアにも問題があると言わざるを得ない。
最近まで碌に不満の捌け口が無く除け者として過ごしてきただけあって、悪口には過剰に反応してしまうんだろう。
『何事ですか?アーリィ・スワントマン子爵』
『ミラル様。この様な邪神の蛮族など引き連れて恥ずかしく無いんですかい?先の戦争で多くの善神側の人間が死んだってのに!』
まじか。傭兵じゃなくて貴族、しかもよりによって噂の勇者様かよ。とんでもない奴に絡まれちまったな。
それに邪神の蛮族呼び。今まで気を使って古き者共と言ってくれた人々とは大違いだ。
『敵対しているとは言え、彼らの産みの親である神々を侮辱するものではありませんよ。我らが主も戦争終盤は和解を模索されていたのですから』
『はんっ!いつの時代もお上の考える事にはついていけねぇな!』
『それ以上は教会への冒涜と見なしますよ?』
『チッ、分かったよ。これ以上は何も言わねぇ』
立ち去る、と思いきや振り返りギロリと睨んできた。
『よく聞け。間違っても足を引っ張るんじゃねぇぞ!余計な真似をすれば犬の餌にしてやる』
それだけ言い残してようやく去って行った。
『あの男は教会が好きでは無いのです。若い、と言ってもアルバン王国からサラゴサを奪還した頃にはとっくに勇者になっていますが、神代を知らない上強い自負があるのです。自分が只人の生存圏を拡大させたのだといったね』
『俺は彼の隣で戦うのですが……』
『子爵は戦闘のプロです。下手な真似はしませんよ』
『そうだと良いのですがね』
『私が見張ってますから。信用して頂きたい』
(色々世話になったミラルを疑うのは筋違いか。でもな……)
子爵は勇者だけあって、階級は低くても他の貴族の手前で教会を辱められる程影響力のある人物だ。
そんな人物を怒らせてしまった事は不幸以外の何物でも無い。
下手に教会を見限っても勇者と天使双方から狙われるだろう。
前にも似たような結論に至った事があったな。聖水晶で契約させられた時だ。あの時も善神側と古き者共側双方を敵に回す訳にはいかず、拒否権は存在しなかった。
意図してるのかは不明だが、徐々に教会に依存せざるを得なくなっている今の状況は気味が悪い。
ニールベンの言っていたように貴族の庇護下に入るべきだろうか。
彼自身は教会派ではあるものの、子供ができるまでは確実に守ってくれると思う。
その後はどうなる事やらだけどな。最悪教会に突き出されるかもしれん。
◆❖◇◇❖◆
『刮目せよ!我らが主である辺境伯閣下のお言葉であるぞ!』
全ての兵士が集まったのかなと思われる頃、貴族らしき男が大声を響き渡らせた。
大方、魔法か魔道具の効果だろう。拡声器を使ったような、全兵団に届く程の声量だ。
周辺諸侯の援軍や他地域出身の傭兵も同席している為、念話を使ってくれるのは有り難い。
高台に大声を発した男以上に華美な格好の青年が姿を見せた。緑の長い髪を後ろで結んでおり、美しいルビー色の瞳を輝かせた美男子だ。当然耳は尖っている。彼が噂のアレクシス辺境伯だろう。
『皆の者、大義である。諸君ら臣民は忠義に厚く、天を仰いで神命を奉る事こそ無上と心得よ!現在、ウルバヌ村において不遜なる賊徒らが王国からの分離を強弁し、剰え向心薬を不法に売る事で我等が同胞を悩ませている。極めつけに敵首領は天子の末裔たる貴族である!よって国王陛下より反乱軍征伐の御詔勅が煥発された』
多くの兵士が息を吞むのを感じた。
(ふむふむ。つまりマグラーシュ男爵はウルバヌ村とその周辺を独立させたい。それに気づいた辺境伯が国王に報告、国王が辺境伯に討伐を命じたって所か?本当かよ。豊沃な土壌とはいえ、たかが村一つが独立できるのかよ。辺境伯が噓をついて国王の権威を利用したって考えた方がまだ納得できるぞ)
『国王陛下の御詔勅!』
先程の貴族が詔勅を読み上げる。内容は辺境伯が言ったことと同じだ。
儀礼上読み上げているだけだろう。
その後もお偉いさん方の長ったらしいご高説は続いた。
ユニコーン 天使と同様に精神感応が使用できる為、天使が騎乗する事が多い。神聖な獣と考えられている。
ペガサス 精神感応を使用できる。更に高い飛行能力や高度な魔法も使いこなす。




