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蛍はいつも泣いている 3

 ナースステーションに戻る途中で尚美は蛍と出会った。


「もう、蛍さん。変なものを久野さんに渡さないで下さい」


 出会い頭に文句を言われて蛍はきょとんとした顔になった。


「ゲームですよ、ゲーム。

久野さん、ゲームの主人公に私の名前つけて殺しまくってるんですよ」

「ああ、あれですか。ふっふっふっ」


 ゲームと聞いて、蛍はとたんに口元を歪ませた。


「なんですか、その悪徳商人のような笑いは?」


「亜美、苦労してたでしょう。

あれは、数多のゲームマニアの心を折りまくった伝説のクソゲーよ」

「いや、そんな満面の笑みで『伝説のクソゲーよ』ってVサインされても……」

「そのほとんどの選択肢が主人公が死ぬバッドエンドに繋がっているの。ゲームの一番最初に廊下の片隅にある自販機でトマトジュースを買うという、その後のストーリーに全く、ちっとも、全然、関係ない選択をするのが唯一の生存ルート!

更に、その選択肢の後に馬鹿に長いオープニングアニメが挿入されてからの本編開始。

つまり、ほとんどの人がその選択肢の後のセーブポイントからリトライするように仕組まれている悪魔の罠」


 蛍にピシリッと指差され尚美は一瞬体を震わせた。


「……

そんなのクリアできるんですか?」

「発売されて二年間、誰もクリア出来なかったわ。みんなが絶望したかけた時、勇者が現れた。丁度半年前のことよ。

そこでようやくトマトジュースルートが発見されたの」

「ちなみに蛍さんはクリアできたんですか?」

「勿論、心、折られまくりよ」


 蛍は、えっへんと胸をはる。それを見て、尚美は、はぁ~とため息をついた。


「なんでまた、そんな意地悪なゲームをやらせるんですか?」

「亜美は真面目でしょう?」

「はい」

「優しくて、可愛らしいでしょう」

「そうですね」

「見てると、時たま、ぎゅっと抱きしめたくなる」

「ああ、なんとなく分かります」

「だから、ついつい苛めたくなる」

「……はい?」

「見てると可愛いから、苛めたくなる」

「なんか急に共感しにくくなりましたね」

「とにかく、ゲームがクリアできなくて身悶える亜美が見たい」

「悪趣味……

蛍さんは久野さんの友達ですよね」

「うん」

「たまにすごく久野さんに辛辣になりません?」


 尚美の指摘に蛍は無表情になった。


「そんなことないわよ~。もう、いやだなぁ~。

じゃあ、亜美の身悶えてる姿みてくるね!」


 蛍はやや強引に尚美との会話を打ち切ると亜美の病室へ向かった。その後ろ姿を尚美はもやっとした顔で見送った。



 お風呂から上がった蛍は洗った髪を乾かしていた。

 ふと、目線が写真立てへと向かった。写真には蛍と亜美が写っていた。いつかみんなで遊園地に遊びに行ったときのものだ。


 なんでまた、そんな意地悪なゲームをやらせるんですか?


 昼間の尚美の声が頭を(よぎ)った。


「なんでだろうねぇ」


 蛍は掠れた声で呟く。視線は隣に置いてあるもう一つの写真立てに移る。

 その写真には、二人の小学生とおぼしき男の子と女の子が写っていた。

 女の子は少し太っていたが、精一杯のすました表情をしていた。一方、男の子はカメラの方へ目を向けず、明後日の方向を向いていた。

 女の子は蛍。そして、男の子は……


「亜美にあんなゲームをさせたのはね……」


 蛍は両方の写真立てをパタンパタンと倒した。


「ちょっと、妬ましいから……かな?」


2019/09/08 初稿

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