僕のヒーローアカゴケミドロ 5
そこには異形の怪人が立ちはだかっていた。
全体的に焦げ茶色で所々に赤い斑があった。細長い顔にはトンボのような巨大な複眼が赤く爛々と輝いている。胴にあたる部分にはもつ一つ巨大な顔があり、バックリと開けられた凶悪な口には鋭利な牙が何本も乱立していた。
両手からは植物の蔓のようなものが何本も垂れ下がっていて分かりにくかったが、蔓の中には人の手があり、少年から奪い取った松葉杖が握られていた。
テレビの中から飛び出してきたような、余りにも場違いな存在に少年たちは言葉を失い、しばらくの間、その怪人を身じろぎもせず見守っていた。
「アカ ゴケミドロ……?」
地面に倒れていた少年が力のない声で呟いた。
それがトリガーになった。リーダ格のトゲ頭の気を取り直して叫んだ。
「な、なんだよ。ただの着ぐるみ着てるだけじゃねーか。何見てんだよ。あっち行け!」
しかし、怪人は少年の詞を無視して一歩前に出る。
「なんだよ。やるきかよ」
トゲ頭の少年の声を合図に他の少年たちが怪人を囲むように動く。
中に入っているのが大人だとしても四海の悪い着ぐるみを来ているなら周囲を囲んで、隙を見て足でも引っかけて転ばしてしまえば後はどうとでもなる。そう少年たちは考えていた。そして、その考えは普通ならば正しい。
「えいっ」
背後に回った少年二人が同時に襲いかかった。
しかし、怪物はまるで後ろに目があるかのような身軽な所作でなんなく少年たちをかわした。かわしながら片方の少年の足を払った。
「うわっ!」
少年は綺麗に一回転して地面に転がる。そこへ同時に襲いかかったもう片方の少年が突っ込む。
「「うぎゅう」」
潰れた蛙のような声をあげて団子状態で地面に這いつくばる少年たち。その状況に気をとられた少年の一人に怪物は滑るような足捌きで近づき、腕を捻り上げる。
「あいた、痛い、痛い」
少年は悲鳴をあげ、少しでも痛みを和らげようと前屈みになる。
怪人は更に腕を捻る。苦痛に顔を歪めながら少年は膝をつく。
「この野郎!」
最後に残っていたリーダ格の少年がたまりかねたように怪物に殴りかかった。しかし、怪物はその拳を片手でなんなく受け止める。
「うわ?!」
怪物はそのまま少年を持ち上げる。まるで重量上げのバーベルのように怪物の頭上高く持ち上げられるた少年は虚しく手足をじたばたさせるだけだった。
怪人は少年を投げ下ろす。
トゲ頭の少年は綺麗にお尻からアスファルトの地面に落ちる。
「いてぇ!」
尾てい骨から脳天に走る激痛に少年はたまらず声を上げた。
怪人はゆったりと落ち着いた雰囲気で少年たちを見据える。巨大な複眼の奥の表情がどうなっているのかはうかがい知ることはできない。それが余計に圧力になる。
今の小競り合いで怪人と少年たちの力量の差は明らかだ。
トゲ頭の少年にもそれは分かる。小さく舌打ちをすると他の仲間に目配せをする。
「くそ!覚えていろ」
仲間の肩を借りながらトゲ頭の少年は立ち上がると、いかにもな捨てぜりふを残して退散する。
怪人は仁王立ちのまま、トゲ頭たちが逃げていくのを見守っていた。最後の少年の後ろ姿が駐車場の角に消えてようやく怪人は地面に倒れたままの少年の方を見た。
怪人は少年に持っている杖を差し出す。一瞬、びくりと体を震わせたが、怪人が単に杖を渡してくれているだけと分かるとおずおずと杖を受け取る。
少年は杖を頼りに立ち上がる。怪人は静かに見守っていた。少年は少し躊躇したように口を開いた。
「あ、あの……
助けてくれてありがとうございます」
2018/10/20 初稿
2019/09/14 改行などのルールを統一のため修正




