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亜美は秘かに思っている 9

 亜美は健に地面に押し倒された格好になっていた。


「ちょっと、」


 そう言いかけて亜美は言葉を止める。周囲を猛烈な炎と風が通り抜けていったからだ。


「ぐぅ」


 健が苦しげに呻く。


 この人、私たちを庇ってる


 それが分かり、亜美は慌てて尋ねる。


「だ、大丈夫ですか」

「大丈夫だ。動くな、じっとしていろ」


 亜美の心配に健は静かに答える。平然を装っていたが額には汗が浮き出ていた。

 爆発は直ぐに終息した。

 健は、苦しげに息を吐く。立ち上がり、着ていた学ランを脱ぎ捨てた。学ランは爆発の炎を受け、くすぶり白い煙を上げていた。


「怪我はないか?」


 健は呆然と地面に横たわる亜美を見下ろし聞いた。


「は、はい。大丈夫です」

「そうか、良かった」


 健は大きく息を吐くと、本当に嬉しそうな笑顔を見せた。

 亜美は、思わず可愛いと思った。そして次の瞬間、そんな自分の反応を心底恥ずかしいと思い、顔を赤らめる。

   

 って、何考えているのよ、私は

 こんな時に!


 亜美の内心を知るよしもない健は大声で源太郎を呼ぶ。


「た、健さん。無事でしたか?

スゲー爆発が起きたんで心配してたんですよ」


 どこにいたのか分からないが源太郎は直ぐに姿を現した。


「無事だ。

それより、この子供と、その、そこのじょ、女性を救急車へ連れていってくれ」

「了解しやした」


 二人の会話を横で聞いて、亜美はえっとなる。


「ま、待って。あなたはどうするの?

あなたの方が怪我してるんじゃないの?」

「まだ、やらなきゃならんことがある」


 健はそう言うと、学校に向かって歩き始める。

 その後ろを姿を見て、亜美は息を飲んだ。健のシャツの背中の部分が所々赤く染まっていたからだ。

 爆風から自分達を守った時に怪我をしたのは間違いない。足を挟まれた子供はともかく、自分は全くの無傷ですんでいる。救急車の世話にならなくてはならないのは自分ではなく、彼自身のはずなのに、一体どこへ何をしようとしてしているのか?

 そう思うと亜美はいてもたってもいられなくなった。


「あの、この子の事、お願いします」


 源太郎に子供を渡すと、亜美は健を追いかけて学校へと走り出した。


 亜美は完全に健を見失っていた。校庭や校舎の中を当てもなくさ迷った。

 その時、校内放送が入った。キィーンと甲高いハウリングが響いた後、いかにも放送に慣れていない人の声が続いた。


『あーー、聞こえるか。

聞いてくれ、今、学校の近くの交差点で大きな事故があった』


 健の声だった。

 声を聞いたとたん、亜美は放送室に向かって駆け出していた。


 健の放送は続く。


『沢山の人が巻き込まれた。怪我人が大勢いる。血が足りなくなると思う。だから、少しみんなの力を貸してほしい。時間が有るなら、今から病院に行って献血をしてほしい。

繰り返す。

今しがた学校の近くの……』


 健の放送は繰り返し、学校にいる生徒に対して献血への協力依頼だった。

 その三度目のリピートに入った時、放送に異変が起きた。


『血が足りなくなる、血液型は何でもいい

『おい、お前何やっている。学校の設備を悪戯に使うな』

『ガタン、ガタ』

『邪魔す……それはこっちの台詞』

『ガタ、ガタン』


 亜美が放送室にたどり着いた時には健が廊下で三人の教諭と小競り合いをしていた。

 何故だ、と亜美は思った。

 この人は、ただ怪我をした人を助けようとしているだけじゃないか。何でそれを邪魔するのか?と。


「この不良が!学校の設備を遊びに使うな!!」


 健に教諭の一人が掴みかかる。


「生徒が献血中に医療事故を起こしたら誰が責任を問われると思っているのです」


 教頭先生が教諭の後ろから苛々したように愚痴をこぼした。 


「全く馬鹿は何処までも馬鹿だな」


 二人目の教諭が健の腕を捻る。健の顔が少し苦痛に歪む。


「止めて下さい!

その人は、その人は怪我しているんです!

私を助けようとして怪我をしたんです。

怪我をして、それでも……

それでもまだ他の人を助けようとしてしているんです。

それを何でよってたかって邪魔をするんですか!」


 亜美は怒りに我を忘れて叫んでいた。

 一瞬、その気迫に()され教諭達は固まる。だが、直ぐに健の腕を捻っていた教諭がつかつかと亜美の方へ近づく。


「なんだ、お前は」


 鬼の形相で亜美の腕を取る。強い力で腕を握られ亜美は苦痛で顔をしかめる。一瞬、教諭の顔が嗜虐の笑みを浮かべた。


2018/06/09 初稿

2019/09/14 改行などのルールを統一のため修正


《オマケ》

蛍  「今時、こんな教師いるかしら?」

亜美 「そうなの?」

蛍  「今なら教師が暴力ふるったら即、ネットで炎上して大変な目にあうから腕すら不用意に握れないんじゃない?

    亜美の手を掴んだ先生なんて明らかにセクハラの範疇よ」

亜美 「これはフィクションですから。

    最終的には海道君、思いっきり暴力ふるってるし」

蛍  「あー、明らかに暴行罪ね。」

亜美 「……

    フィクションなので、あまり本気に受け取らないでほしいかもです」

蛍・亜美「「フィクションの世界はともかく、リアルでは暴力は絶対駄目と言うことで!」」

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