亜美は秘かに思っている 4
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「久野亜美だな。ちょっと話がある」
振り向くとニキビ面の男子学生がいた。一目で不良と分かる。学校の下駄箱での事だ。
「あっ、えっと、なんの用でしょう」
亜美は一歩後ずさり、両手をがっちり胸の辺りでクロスして警戒の態勢になる。
「何でもない。とにかくついてこい」
「お断りします」
どう考えてもホイホイついていっては絶対駄目なパターンだ。亜美ははっきりと断った。想定外の反応に男は目を剥き、叫ぶ。
「何だと、俺の言うことが聞けないってのか」
男が亜美をひっつかもうと手を伸ばすが、亜美は軽いバックステップでそれを避ける。
「いやーーー。誰か助けてくださーい」
十分な距離を取りながら亜美は大声で悲鳴を上げる。
「なっ!馬鹿やろう、大声出すな」
男はあからさまに狼狽え、周囲にキョロキョロと視線を動かす。
「お、俺はお前と話がしたいだけだ」
「私は話なんてしたくないです。誰か、先生を呼んでください。変な人がいます!」
亜美の悲鳴に人が集まってき始める。
「ちっ!」
男は舌打ちをするとそのまま何もしないで逃げ出した。
■
「それが彼氏との馴れ初めですか?」
尚美が複雑な表情で尋ねる。
「いえ、それは平田君と言って、海道君の使いの人だったんです。彼は、海道君に言われて私を海道君のところに案内するつもりだったみたい。
でも、こっちはそんなこと知らないから驚いちゃって。
その時は、海道君も平田君も知らなかったし。
二人とも、見た目がなんと言いますか、柄が悪いというか……
ふふ、どう見ても不良にしか見えなかったのね」
「はあ、なるほど」
尚美は更に複雑な表情になった。
「それから、どうしたの?」
佐倉さんが笑いを堪えるように聞いてきた。
「う~ん、二、三日は何も。そんな事があったから、気を付けていたんです。できるだけ一人にならないようにしたり、周囲に変な人がいないか警戒したりしてました。
だけど、やられました」
「「やられちゃった!」」
二人が同時に変な声を出した。
「何か変な意味でとらえてませんか?
違いますからね。
そう、あれは……」
□
「あれ……あれ? 無い、無い」
放課後、亜美は鞄の中身をごそごそ探りながら独り言を言う。
「何やってんの」
そこへ蛍がやって来た。
「う~ん。本がね、無いの」
「本?」
「うん。図書室で借りてた本。今日、返そうと持ってきた筈なのに無いの。
……何、これ?」
亜美は鞄の中から一枚のメモを取り出した。
『本は預かった。
話がある。
6時に校舎裏に来い』
メモにはそう書かれていた。
「やられた!」
「どういう事?」
「この間、下駄箱で変な人に絡まれたって言ったじゃない。
どうやら、その人に借りてた本を盗まれたみたい」
亜美は、メモを蛍に見せた。
「ふーん。
で、どうするの?」
メモを亜美に返しながら蛍が言った。
「どうしよう」と亜美。
「どうしようって、取り返しに行くしかないんじゃないの?」
「だけど……
校舎裏はヤバイよ。何されるか分かんない。見るからに悪そうな人だったから。間違いなく不良よ。
ね、蛍。一緒に来て!」
「私? 良いけど。私が行っても余り役に立たない気がするけど……
あっ、そうだ。私に心当りがあるわ」
「心当り?」
「そうそう。不良には不良よ。
と言うわけで亜美は先に下駄箱に行っていて、後で合流しましょう」
蛍はそれだけ言うと、止める間もなく教室を飛び出していってしまった。
「えっ、ちょっ! ほ、蛍ぅ~」
亜美は一人、教室に取り残された。
□
「遅いなぁ、蛍」
下駄箱で蛍を待つ亜美が何度目かの呟きをした時、携帯がブルリと振動した。
見るとメールが着信していた。メールを確認して、亜美は絶句する。
《ごめん。行けなくなった。
一人でがんばれ!
でも、大丈夫、身の安全は保証するから。
優しくしてやってね》
2018/06/04 初稿
2019/09/14 改行などのルールを統一のため修正
《オマケ》
早瀬 「ともかく話を元に戻しましょう。
先輩の名前の由来はなんですか?」
霧島 「日本の連合艦隊の巡洋戦艦よ」
早瀬 「はい?」
霧島 「金剛型戦艦『金剛』『霧島』『比叡』『榛名』のうち
霧島と榛名を組み合わせたの」
早瀬 「はーー。『艦こ○』見たいですね
じゃ、じゃあ。先輩の事を比叡さんとか呼んでかも知れないんですね」
早瀬 「比叡金剛とか榛名金剛さんとか呼んでたかも知れないんだ」
霧島 「……」
早瀬 「もう一歩踏み込んで、ストロ○グ金剛さんとか……
先輩、無言で足踏むの止めてください!」