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第63話・騒乱、馬車で来たれり



 迷宮都市から王都への道のりはそう長いものではない。


 防犯上の面から転移陣はないが、人の往来は盛んであるため昼夜問わず移動の馬車は見つかる。

 なので、王都に行くと決めたその日のうちに準備を整えて翌日出ることなった。


 のだが――


「多いわね。それも、若い子がいっぱい」

「アフェが言う?でも、失敗したな……ちょうど長期休みが終わる季節と重なったみたい」

「学生服の人が多いですね」


 馬車乗り場は人でごった返し、また一つ一つと王都へ向かっていく。

 この季節、迷宮都市に実家を持つ子、迷宮に出稼ぎに来た子などが一斉に王都に帰ろうとしているのだろう。


「じゃあ、どうしようか。今日はやめとく?」

「……そう、しよっか」


 なるべく早く王都に駆けつけたかったのだが、この状況では仕方あるまい。

 細目に、どこか空いている馬車を探しながら踵を返そうとしたその時――


「そこの冒険者さん。お困りでしたらよければ、私達の馬車に乗りませんか?」


 近くに通りかかった豪華絢爛という言葉がよく似合う、貴族でも乗ってそうな馬車から声がかかる。


 というか、実際に扉が開くと王都の騎士学園の制服に身を包んだツインテールの似合うお姫様が現れた。


「え!?ど、どうしましょ……」


 驚く、アフェ。

 すぐさま、これはまずいと僕が前に出て慣れた振る舞いで片膝をつき、頭を垂れる。


「お久しゅうございます。グラディアス嬢」

「はい、お久しぶりです。アポロ様。ですが、今は公的な場ではございません。貴方も騎士ではないのですから、どうかルーメンとお呼びください」

「……」


 ちらっと、彼女の護衛に視線を向けると何も言わず視線を逸らされた。


「では、ルーメン様と」

「……まあ、今はそれで構いません。それで、お乗りになりますか?私の隣、開けておりますけど」

「ご厚意感謝いたします。ですが、ルーメン様にお手間を取らせるようなことでありません」


 本当は今すぐにでも乗って、王都に駆けつけたい。


 だけれど、少し見えた馬車の中はどう見ても乗れてあと一人くらいだ。

 加えて、それ以外にも乗りたくない事情があった。


「私が嫌いになりましたの?手紙の返事も、何だかそっけないような気がしますし……」

「滅相もございません!全て、私の至らぬ所でございます。ですが、本当にこの度の一件はルーメン様のお手を煩わせる程の事ではないのです」

「まあ、嬉しい。では、私のこと好きなのですね」

「そ、それは……」


 つい、言葉が詰まる。


 というのも何故か、前と後ろ両方から圧を感じたのだ。

 ここでの立ち振る舞いが、僕のこの先の未来を決めてしまうようなそんな予感も同時にあった。


「ぷっ、すみません。少し、悪ふざけが過ぎましたね。冗談です」


 だが、次の瞬間にはルーメン様の表情が崩れ、同時に空気が弛緩した。


「アポロ様のお見立て通りこの馬車は乗れてせいぜいあと一人程度です。ですが、お仲間は後で来てもよろしいのではありませんか?」


 だが、緊張がほぐれた瞬間、見計らったようにまくし立てる。

 それも、僕の考えを看破し、前提を出した後その代替案を出すことで断りにくい空気まで作って


「で、ですが……」

「それに、本当はお急ぎなんでしょう?」


 その通りだ、急いでいるに決まっている。

 ふざけた語彙とはいえ、親友が助けを呼んでいるのだ急がないはずがないのだ。


 その時、ポンと背中が軽く叩かれた。


「行ってきなさい。友達が待っているんでしょ」

「そうですよ。カタリナちゃんも私たちに任せてください」

「わ、私だって少しは戦えるんですからね!」


 もしかしたら、気を遣わせてしまったかもしれない。

 昨日からずっと、自分でもわかるくらい気持ちが浮ついていたというか地に足ついていない感覚だった。


 だから、詳しい関係など聞かず背を押してくれたのだろう。


「ありがとう。では、ご厚意に甘えさせていただきます」

「はい、ではこちらに……ふふっ、これでは何だか私が騎士みたいですね。新鮮です」

「は、はい……っ!?」


 そう花が咲いたような笑みを浮かべる彼女に手を差し出され、僕もそれを取ろうとしたその時だった。

 強い力で後ろに引き込まれる。


「……これ、あたしのなので」

「え?アフェ?」

「まあ、保管料はいくらですか?」

「賃借料の間違いじゃなくて?」


 何だろう、意味がよくわからないのに二人の間で火花が散っているのだけはわかる。

 互いに笑顔だというのに、目の奥に焔というか揺らいでいるものが見えた。


「……」

「……」


 数秒、互いに相手の出方を伺うような素振りを見せる。

 ただ、次の呼吸の後にアフェは掴んでいた襟を手放し解放した。


「じゃ、行ってきなさい」

「う、うん。行ってくるよ。みんなも気を付けてね」

「ふふっ、いい仲間をお持ちですのね。アポロ様。では参りましょう」


 そう言って、今度こそルーメン様の手を取り僕は馬車に乗り、すぐ後に僕たちは王都へ出発した。




 ***




 一方で残された三人。

 その中でアフェは不機嫌そうに、アポロの乗った馬車を目で追っていた。


「イージス。アポロとグラディアス家の関係って知ってる?」

「は、はい。グラディアス家は数年前に娘である先ほどのルーメン様が悪魔王に攫われ、それを救出したのがアポロさんなんです」


 自然とドスの聞いた質問にイージスの背筋が伸びる。

 だが、アフェは彼女から話を聞くと深いため息をついた。


「例の聖剣を送った令嬢だったのね。文通もしてるって言ってたし……って、あら?」

「聖剣。アポロさんって私のために聖剣売っちゃってましたよね」

「……大丈夫かしら」


 さっきまで、アポロの女性関係について心配していたが、一気に別の心配に切り替わったアフェなのであった。




「……これ、あたしのなので」:訳『あたしの物にちょっかいかけないで』

「え?アフェ?」:訳『え?アフェ?』

「まあ、保管料はいくらですか?」:訳『貴方には預けていただけですよ』

「賃借料の間違いじゃなくて?」:訳『貸してあげるって言ってるの』

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