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57.晩餐会の翌朝は後悔の連続…。 ①

 いつ寝入ったのか、昨夜もとい今日に日付が変わった頃この部屋で過ごした記憶が全くない。

正確には朧気で所々記憶がブツブツと途切れているのだ。

窓から差し込む太陽…ではなかった、この世界では太陽もどきを太陽とは呼ばずに金皇(きんこう)と呼んでいる、その光の鋭角寄りな角度を見るに寝過ごしたことはまず間違いなしだった。

朝と言うには遅すぎる時間での起床になってしまったのは、今生での自分が寝汚ないせいに他ならない。

前世ではこんな所業許されるはずもなかった、寝過ごそうものならどんな嫌味を言われるか……想像しただけで心に暗い影が差す。

いろいろな理由でどんよりと落ち込んでしまいながら、メリッサを召喚するべく呼び鈴(クロッシュ)を1回横に振る。


 ーーメリッサの愛あるお小言を余すこと無く拝聴して心ゆくまで癒されよう…! この落ち込んだ気分を上げるにはそれしか道はないのだから!! だからって(わたくし)がMとかそういう趣味趣向の持ち主なわけではない事だけは、声を大にしてここで宣言させていただこう!!!ーー


天蓋に取り付けられたカーテンが半分降りたままの薄暗いベッドの上でモゾモゾと身動いで上半身を起こして坐位になる。

誰に対しての言い訳なのか、ともかく何が理由ででも良いから気分を無理やりにでも上昇させたくて心の中だけでも軽口を叩く。

気分は晴れないが幾分かはましになった、気がする。


そしてふと思い出したように振り落とさないようしっかりと手に持っていた呼び鈴(クロッシュ)を見つめて、昨日本人からの自己申告によって知った事実を思い起こした。

これもエリファスお兄様が小型軽量化して制作した魔導具であること、そしてそれはこの屋敷にある図書室で読んだ魔導書で得た知識を活用・実践して作り上げられたものであることも知った。


 ーー衝撃の事実!!…って反応だったわねぇ、お父様もアルヴェインお兄様も。 お母様の反応は…確認できなかったからわからないけれど、きっと少しは驚いていらっしゃったはず。 というか、今日も、お母様のお顔が見れる気がしないのは何故なのかしら……?! 私は一体何をここまでズールズルと引き摺っているの!? 何なのコレ、何の病気っ、心の病気なのかしらコレっ!!?ーー


ベッドの上で真っ直ぐに伸ばしていた足を曲げて、山形になった足に上半身を預けるように傾げてバランスを取ってから両手で頭の両サイドを掴んで懊悩する。


自分の心を占める謎の重苦しい感情、昨日の昼頃にお母様の欠点を知ってから私の心に纏わりついているモヤついた感情、コレが一体何なのか。

睡眠を取ったからなのか、昨日よりも頭が整理されている気がする。

その整理された頭で導き出されるこの感情の正体は…素直に受け入れられない、認めたくない感情だった。


 ーーこんな思いを抱くなんて、お母様に対して失礼極まりない。 こんな子供じみた、自分勝手な思い込みが原因の醜い感情、私がお母様に抱いたなんて知られたくない……!!ーー


小さな手で力一杯に頭を鷲掴んでいるせいか、ズキズキとした局地的な頭痛がしてきた。

これ以上力を込めても消し去りたい醜い感情はこの胸の内からも頭の思考領域からも消え去ってはくれない、漸くそう理解して無駄な自己嫌悪の発露を切り上げた時にタイミングよく部屋のドアがノックされた。


コンココンッ。


「!! どうぞ、入って頂戴メリッサ!」


「はい、失礼致します」


 ーー自分の顔面の惨状に気を取られ過ぎてて気づかなかったけど、昨日の朝はノックしてなかったわよね? それだけエリファスお兄様からの小姑みたいな仕打ちが主成分の鬱憤が溜まりに溜まって限界突破していたのね! メリッサったら、今日は平穏無事な一日の始まりを迎えられたのかしら??ーー


基本的にステルス行動を取るのが標準仕様のサイボーグ侍女は高等に音が伴わない。

だから今現在室内に入室を果たしたのか定かでない。

本当にステルス機能が働いているわけではなく、単純に私の今の場所からは見えないと云うだけの話だ。


この部屋を出入り口に立って見てみると、横よりも縦のほうが長い長方形の形をしている。

私が現在体を預けているベッドがあるのは部屋の出入り口がある壁面と窓枠の嵌った壁面との丁度中間地点、その右壁面の壁際にぴたりと頭側が平行になるよう設えられている。

なので普通ならドアも見られる位置ではあるのだが、そこはこれ、天蓋に取り付けられたカーテンによって物理的に阻害されているのだ。

半分だけ開けられたのは窓がある側で、ドア側の天蓋のカーテンが降りたままの状態なために目視による視認が不可能なのだ。


それにしても、自分が天蓋付きのベッドで就寝する日が来るとは……、異世界転生恐るべし、だ。

お姫様でもないのにこんなベッド、前世のわたしであれば恥ずか死ねる状況間違いなしだ。


コロコロと話題を転がしながら色々考えていると、ドア側の天蓋のカーテンが音もなく開かれた。


 ーー安定のステルス具合だわ! 軽く恐怖を覚えるくらいに静かすぎるわね…!!ーー


私がベッドの上で小さな体を更に一回りほど小さくして縮み上がっている姿に気付いているのかいないのか。

何の異変も感じ取っていないような平然とした態度でテキパキと無駄なく動き、カーテンを天蓋の支柱にある留め具に纏めてとめてから一言。


「漸くお目覚めですか、ライリエルお嬢様。 お目覚めいただけたのは嬉しい限りですが、もっと早くお目覚めいただきたく存じます。 本日は奥様からお達しが有りお目覚めになるのを待ちましたが、明日からは容赦なく起こしますのでそのおつもりで。」


「お母様が…? そうだったのね。 メリッサは朝にも様子を見に来てくれていたのね、全く気づかなかったわ(ステルス仕様だからだけじゃなく)。 明日からはいつもの時間に起きれるよう今日は早く寝るようにするわね。」


申し訳無さを全面に晒した困り笑顔で殊勝な言葉を口にする。

侍女であり乳母でもあるメリッサの辛辣な物言いはいつものこと、寧ろこのそっけない平坦な口調にも今となっては愛しか感じられない。

昨日一日をかけて私の溢れるメリッサ(推し)への愛を伝え続けた結果、サイボーグな侍女がついにデレた。


私に向かって微笑んでくれた、あれは私の願望が見せた幻ではない、決して目の錯覚でもなかった。

嬉しさの余り泣いてしまったのは今考えると自分でもドン引きだが、それぐらい嬉しかったのだからしょうがない、起こってしまった過去は変えられないのだから、と開き直るしかない。


「……お嬢様、思い出し笑いは自室であろうとお控えください、はしたのうございます。」


呆れ気味に指摘され、ハッとなって自分の顔面に触れてどんな状態であるか触覚で確認してみる。


 ーーふむふむ、輪郭には異常はなさそうだけれど、顔面のパーツが普段よりも面白い配置と仕様になっていそうね! でもしょうがないわ、だってメリッサのデレの衝撃が半端なかったのだもの!! これは不可抗力、幼女には到底抗えない超自然的な反射によって引き起こされた反応なのだから!!!ーー


推しの笑顔を見て沸き起こった爆発しそうな喜びに抗えるオタクが存在するだろうか、否、存在しないに決まっている。

何度思い出したって同じ結果になると断言できる、だって萌えないわけがないのだから。


比較的(私にしたら)短い自問自答の結果導き出された唯一普遍の回答にうんうんと1人納得して頷いているとまたもサトリな侍女が苦言を呈してきた。


「下らない問答はお済みですね、早く終わって良うございました。 であればお早く、此方においでくださいまし。 お食事の準備は万端整っております、ですが身支度が終わらなければいつまで経ってもお上がりになれませんよ。」


「!? す、直ぐに、行くわっ!!」


食事と聞いただけで腹の虫がそわそわと蠢きだして小さな鳴き声を上げはじめる。

その音を誤魔化すようにあわあわと無駄な動きを交えてベッドの上を這い動く。


メリッサの待つ姿見の前にたどり着くまでに2、3回何もないところで躓いて転びそうになったのは、寝起きだからと信じたかった。



 夜着からデイドレスへと流れ作業のように慣れた手付きで着せ替えられて、今は鏡台の前に座り髪をブラッシングされている。

貴族の身支度には時間がかかる、というのも余念が許されないからだ。

今の私は縁遠く感じてしまうが、社交を行う年齢になれば自ずと小さな事を大きく取沙汰して難癖をつけてくる面倒な人種にも遭遇する機会が訪れる。

そんな面倒ごとの機会を自主制作しないためにも身支度はきっちりしっかり行わないといけない、一種の自己防衛の一環なのだ。

そしてこの作業を施される事に慣れるため、入念に身支度する必要がない幼い時分から慣らしていかなければならないのだ…と思うようにする。

でないとぶっちゃけ暇すぎて間が持たない。


何か手慰みになりそうな事柄をしてもいいかダメ元で聞いてみたけれど、案の定取り付く島もなく駄目の一言だった。

装い、髪型、そしてゆくゆくは化粧、自分にはどんなものが似合って、どんなものが似合わないのか。

そういった事も覚えて侍女にされるがままになるのでなく、指示を出せるようにならないといけないのだろう。


 ーーナニソレ、めちゃくそ面倒いんですけどぉっ?! 前世の身支度時間トータルで10分やった陰キャオタクのオシャレ音痴度合いを舐めんなよぉっ!!?ーー


差し色とか意味わかんないし、髪型を服に合わせて変える意味すら理解できないこの見事な音痴っぷり、今から時間をかけたところで上流階級に相応しいセンスが身につくとは到底思えない基礎能力の低さよ。


延々と髪をブラッシングしているメリッサの手の動きを遠い目で見ながら途方に暮れる。

所謂『女子力』という項目が前世の私には備わってなかった。

服は母親がおそらく意図的に野暮ったく見える色味を選んで買い与えていたのだと思う、だからといって文句があったわけではない、季節に合わせて着られる服を着回せる量、必要最低限だったとしてもちゃんと買ってくれたことには素直に感謝している。

しかし同じような色味の服でコーディーネートも何も合ったものではない、というのが隠しようのない本音だ。


それに前世のわたしにはピッタリ似合う色など存在していなかったように思える、今生の私を見てしまうと尚更そう思えてならない。

光を受けると微かな水色を含んで光を反射する銀色の健康で艷やかな髪が際立たせる小顔な輪郭。

長いまつ毛に縁取られたまん丸ぱっちりで心持ち吊り目気味なラピスラズリの瞳、今はさほど高さは感じられないが形の良い小鼻、表情をつくらなくてもふんわりと柔らかな弧を描く健康的な色味のぷくっとした唇、チークもなしにほんわりと薄桃色に色づいたもちっとした頬、そのパーツのどれもが小さな顔面に完璧な配置で収まっている。


何の手違いか知れないが所謂『美少女』に該当する人種に転生を果たしてしまったのだ。

それなのに美的センスが壊滅に近い状態で死んでいたら…笑えない。


 ーーだからってお母様を全否定するような考えはこれっぽっちもない、それは本当なのに、何で、このもやもやは一向に晴れないの……?ーー


無意識に盛大な溜息が洩れてしまって、スルースキルもプロ級なサイボーグ侍女も流石に見過ごせなかったようで声をかけてきた。


「何をお考えなのかは大体察せられますが、何をそこまで思い悩む必要があるのかは理解致しかねます。 不安に思うだけでは何も解決いたしませんし、何の前進も望めません。 思い悩む暇があればひたすらに努力し打ち込むことこそが解決策でございます。 それで身につかなかったのであれば、諦めもつきましょう。」


 ーー慰めて励ましてくれたっ!? ここでも意外なデレ効果が発揮されてる、尊いっ、好きっ、愛しかないっ!!!ーー


「意外だわ、メリッサでも根性論的なことを口にするのね! というか、本当に何で私の考えが筒抜けてしまうの?! どうやったらそんな洞察力が身につくものなの??!」


「これも偏に努力の賜物でございますれば。 本日は御髪はどういたしましょう?」


「…何だかはぐらかされた気しかしないのだけど? 今日もこのままでいいわ、ふわふわってしてるのがお気に入りだから!」


「かしこまりました。 それでは食堂に参りましょう、所用がありますので本日は私もご一緒致します。」


「!? そうなのね、わかったわ。 食堂には誰か居るのかしら? お父様は今日は予定通りお休みよね? お父様がいらっしゃればお母様もご一緒でしょうし…、アルヴェインお兄様と…エリファスお兄様は、どうされているのかしら? 今朝は、どんなご様子だった?」


エリファスお兄様のお名前を出した辺りで普段は何があっても揺らぐことのない鉄面皮が標準仕様な侍女の表情がピクリと固く反応したように見受けられた。

それでも声は普段通り、平坦で感情の起伏が伺えない。


「本日はご家族の皆様がご起床が遅く、朝食と昼食を合わせたお食事を済まされたのはお嬢様がお目覚めになった時分でございます。 お嬢様がご起床なさった旨を伝えておりますので皆様そのまま食堂にいらっしゃるはずでございます。 エリファス坊ちゃまも、普段と変わりないご様子でいらっしゃいますので、どうぞご安心ください。」


「みんなを待たせてしまっているの?! 大変、急いで向かわないと!!」


自分のせいで、なんて烏滸がましいとは思うけれど、事実待たせているかもしれないと思うと落ち着かず気が気でない。

どうしても外せない用事があればそちらを優先しているだろうけれど、裏を返せば、用事がなければ私が到着するまでいつまででも待っているということに他ならない。

誰かを待つことはあっても、待たれた記憶なんてない前世の感覚が強くて、むず痒い気恥ずかしさが全身を包んだ。

その慣れない感覚に戸惑いながらも、侍女を急かして食堂へと急ぎ向かった。



 そうこうして辿り着いた食堂で早速、侍女の雷が轟いた。

食堂の出入り口近くに設えられたソファー、その中でも一番横長の複数人腰掛けられるソファーに我が物顔で寝そべる怠らけきった態度の次男。

寝そべっているだけならばこの侍女が雷を招来する事態にはならなかったのだろうが、事もあろうにこの問題児な次男は寝転んだ状態で食事の残りだろう焼き菓子を頬張っていたのだ。

崩れやすい焼き菓子を気ままに頬張って、ポロポロと食べ滓を座面に落としていく。

こんな現場を目撃して、現行犯を問い詰めないわけがない。


「エリファス坊ちゃま、何度も申し上げておりますがお召し上がりになるのであれば、ちゃんと座ってからになさいませ!」


「えぇ~~? 面倒くさいからヤダ。」


「なりません! 後始末をする身にもなってくださいまし!! そのようにボロボロと食べ滓を溢されて、だらしのう御座います!! 即刻おやめ下さい!!」


「ん~~、無理。」


「無理ではございません! しゃきっとなさいませ!!」


ガミガミされてもダラダラを崩さない、いつも通り過ぎる二人のやり取り。

昨日のピリ付いた雰囲気なんてまるで無かったかのように、至って普通。


ガラス玉のような瞳で見られたことなんて初めてだった、そもそもあそこまで感情を削ぎ落とし無感情になったエリファスお兄様を今まで見たことがなかった、と思う。

レスター君の件では私が間接的に危害を加えられて一目でブチギレているとわかる怒り具合でいらっしゃったけれど、昨日のエリファスお兄様は個人的な理由によりお怒りだったのだと思う。

未知なるパターンでの怒りの発現で持続する程度がわからず、相当尾を引くものかと思ったのだけれど…杞憂だったようだ。


 ーー翌日には普通に戻るなんて…寝たら忘れるタイプなのだろうか? それとも自分の感情の起伏に無関心・無頓着なだけ? あれはそもそも…怒りの感情ではなかったのかしら?ーー


メリッサも私の部屋にいたときとは打って変わってケロリとしているし、多分だけれど。

眼鏡が邪魔をしてその瞳に宿る感情は読み取れないが、声は常と変わらず平坦でいつも通りに思える。

今朝部屋で微かに感じられた緊張した様子は微塵もない、あれは緊張したんじゃなくて身構えただけだったのかも?

そもそもがあれだけ犬猿の仲な2人がたったの一晩でいきなり仲良しこよし~♪だったら、そっちのほうがビックリだ。


 ーー話題に出されたのが不快すぎて、とか? メリッサはどの程度エリファスお兄様が苦手なのかしら、今度確かめておかなくっちゃ、主に私が心安く生存できる平和な明日のために!ーー


ソファーの置かれた一角で繰り広げられるいつまで経っても平行線を辿る攻防を食堂の扉を潜った辺りで棒立ち状態で傍観してしまいながら、一緒にここまで来たメリッサに何も言わずに席に着いて良いものか逡巡してしまう。

すると怠そうに受け答えをしていたエリファスお兄様が此方をチラリと見上げてきた…かと思うとその後の行動が早業過ぎた。


「おはよう、ライラ! 今日も一番のお寝坊さんだったねぇ~、どれどれぇ~~? うん、今日は大丈夫だねぇ、浮腫んでもないしぃ、目も溶けずにちゃんと眼窩に収まってる、今日も変わらず可愛いねぇ~~♪」


先程までのダラダラした姿が幻覚だったかと思うほど劇的に姿勢を変え、いつの間にか私の側近くに歩み寄っていてそこから私の顔面を遠慮なしに隈なく観察してその結果報告を朗らかにしてきなすった。


じっ…と屈み込んて見てくるエリファスお兄様をもじもじおずおずと落ち着かない心地で見返しながら、そこで気づく。

今日は前髪が下ろされていて妖しくも麗しいスフェーンの瞳がはっきり見えない、そのことが少し残念に思えてならない。


「お、おはようございます、エリファスお兄様…! あの、昨日は、ごめんなさい!!」


何にしても機嫌が良いならこれ幸い、と以外と近くにあるエリファスお兄様の頭部に激突しないように気を付けながら勢いを付けて頭を下げる。

早めに謝ってスッキリさせられるならスッキリさせたい、思い悩むことは少ないに越したことはないのだから。


「んん~? 昨日って、晩餐の後のことぉ~?? なぁ~んだ、そんな事ぉ~、気にしてないしぃ、怒ってもないからぁ、謝らないで良いよぉ~~♪ あれはそうゆうんじゃなかったからねぇ…。」


ポンポンッと軽く弾ませながら優しく頭を撫ぜられる。

その手の温もりは今生の私がよく知るいつもの次兄のもので、ホッと心の底から安堵させられた。

なので潜められた最後の呟きに近い言葉を聞き逃してしまった。


「? 何かおっしゃいましたか?」


「ん~~ん! なぁ~んにも、言ってないよぉ~♪ それよりぃ、ライラは他に謝りたい相手が居るんでしょ~? ボクのことは気にしないでさぁ、今はそっちに集中して? 頑張ってねぇ~、ライラ♡」


ニコッときれいに笑ってはぐらかされた後に、頭を撫でていた手で肩を優しく掴まれ耳元に寄せられたエリファスお兄様の形の良い唇が核心に触れる言葉を囁いてきた。


その言葉に驚きすぎて、目を真ん丸に見開いて次兄の妖しく光るスフェーンの瞳を見返す。

その瞳が一層笑みの形に細められたかと思うと、スッと視線を外された。


「じゃぁボクはもう行くねぇ~。 ライラの顔が見られたから、満足♡ また後でねぇ、ライラ。」


「あ、え、えぇっ?! エリファスお兄様、あのっ、そのぉっ…。 行ってしまわれたわ…、エリファスお兄様ったら、まるで猫のように気紛れね…。」


犬よりも猫の方がイメージぴったりだわ、喉を鳴らして擦り寄ってきたかと思えば次の瞬間にはプイッと顔を背けて行ってしまう。

静かに閉じられる食堂の扉の向こうに見える、段々と小さくなるエリファスお兄様の後ろ姿を見ながらピタリとハマりすぎるイメージに我ながら言い得て妙と酷く納得してしまった。

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