表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/108

55.あるぅ日♪家の中♪猛獣に〜出逢〜〜った(泣)♫

「メリッサ、ごめんなさい。 (わたくし)…何も力になれなかったわ。」


とぼとぼ、と食堂から出てメイヴィスお姉様が待つ五等客室へと向かい歩く中、まだ道順に不安の残る私を先導して半歩先んじてくれているメリッサの横顔に向けて謝罪の言葉を洩らす。


食堂でエリファスお兄様の逆鱗をそぉ~れっ!と軽~~く逆撫でした、というか虎の尾をえいやっ!と力一杯に踏んづけた、というのか…。

取り返しがつくのかも解らない、何がタブーだったのか謎だらけの自分のやらかした事象について考えて、落ち込むしかない。


「先程も申しましたが、お嬢様のせいではございません。 エリファスお坊ちゃまは元来…頑なな部分が多分にございますので、あぁなるのではと大方の予想はついておりました。 ですが予想よりも、大分程度が軽く済んでおります。 それは正しく、お嬢様がいたから、お嬢様の言葉だったからでございます。」


エントランスホールまでたどり着いた辺りで心なしか歩調を落としたメリッサが視線を向けるのは2階へと登る大階段だった。

真っ直ぐに伸びる階段は途中で左右に別れており、その右側の階段に沿って2階を振り仰ぎ、エリファスお兄様の部屋がある方角を見ながらメリッサがいつもと変わらない平坦な声で静かに告げる。


 ーーこんなに長々と一度に話すメリッサは今朝の鬱憤吐き出しタイム以来、3番目の長さ記録ではないかしら?! 超貴重!! メリッサったら、1度デレはじめると気の許し具合が顕著ね、超可愛い!!!ーー


微笑んでもらったことでわたしのメリッサへの好感度はMAX、というかもう計測不能だ。

慰めてもくれるなんて、もう愛しか感じられない。


 ーーでも私ときたら、そんなメリッサに対して何もしてあげられなかったわ…。 エリファスお兄様が何であんなに怒ってしまわれたのか全然、見当もつかないし……。 私ったらとんだ役立たず幼女だわ………。ーー


自信喪失、伸びにの伸びていた天狗っ鼻はポッキリと折られて根本から抉れてしまってさえいる。

どんよりとした気分のままメリッサにつられて2階を見る。

エリファスお兄様のお部屋は確か…向かって右側、私とは中央にある図書室を挟んで反対の方向にある。


 ーーエリファスお兄様が刻印魔法のアレコレを学んだという魔導書が蔵書にある例の図書室よね。 でも、個人宅に図書室って、今考えても違和感しかないのだけど…? しかも私の知ってる図書室じゃないのだ、規模が全然、スケール違いだったのだもの!! 目の前に見えている階段の2階に上がる途中にある踊り場、そこに図書室への出入り口があるけれど、話に聞いたところによると中は3階まで打ち抜かれた図書館並の規模なのだとか、わけが解りませんが?!!ーー


このタウンハウスが地下1階~地上3階+屋根裏+屋上(尖塔の最上部のみ)という規模なのもちょっと良くわからないけれど、図書室までもちょっと良くわからない規模だったのだ。

しかも1フロアが広い、どれくらいの広さなのかというと、正確な広さはちょっと良くわからないけれど、とにかく移動に時間がかかり過ぎるくらいに広い。

まるでショッピングモールを歩いているかのように無駄に広い、なので食堂に行って帰ってと往復するだけでも大変良い運動になってしまう。


 ーーそらお母様も運動(アクティビティ)気分になるわ、幼女の私なんて常にハイキングしてる気分だし。ーー


お母様と云えば、結局食堂を出る最後の最後にもまともにお顔を見れなかった。

『おやすみなさい、ライラちゃん。』

いつもと同じ、変わらない優しい態度でお母様はおやすみの挨拶をしてくださったのに、私ときたら不自然極まりなく顔も見ずに『おやすみなさいっ!』と言い捨てて逃げるように食堂を後にしてしまったのだ。


 ーー何だかもう、埋まりたい。 穴を掘れる地面があれば、穴を掘って埋まりたい。 自分の度重なる失態の数々に、自己嫌悪するだけじゃ反省の足しにもなりはしない、だからもうせめて今現在1番近くに居るメリッサの手によって埋め立てられたい。ーー


気分の落ち込み具合が歩調にも影響を及ぼした。

とーぼとーーぼ、と力なく肩を落としきって、踏み出す足は象よりも遅く亀よりは早いくらいに落ち込んでしまった。

歩調を戻して先行するメリッサは今度は私が歩調を落としたことに気付いているのかいないのか、構わずにスタスタと歩いて内部通路に入って行ってしまった。


 ーーヤッヴァーーーイッ!!! 落ち込んでる場合なんて毛ほども有りはしなかったわよねぇっ?!! 私ったらついつい『メリッサにもっと慰めて欲しいなぁ~~っ♡』なぁーーーんて甘えた願望しかない考えがふと過ぎっちゃって、欲望に忠実に気を引こう作戦を決行してしまったばっかりに道案内人の姿を視界から消失する緊急事態に直面してしまったわぁっ!!?ーー


このまま置いてかれたら、自宅で遭難してしまう未来しか視えない。

深夜になろうかという時分に叫んで呼び止めることは憚られた為に声をかけられなかった。

これはえらいこっちゃ!!と慌てふためき周囲をろくに確認せず走り出そうとして、横合いから何かに追突されて床をコロリと一回転して転がった。


 ーー??! 痛いっ!!? わけでも、ない?!!ーー


確かに弾き飛ばされて床に転がされてしまったのに、体はどこも痛くない。

自分がどの部分に追突されたのかも解らないほど、本当にどこも痛くないのだ。


 ーーえーと、どういう事…?ーー


自分の身に起こった事象が理解できず、床の上に仰向けに転がった体勢のまま頭上に『?』を乱舞させて思考の海に溺れそうになっていると、ぬっ…と影が差して視界を暗くする。

何だろう?と思って見ると足の裏が眼前に迫り来ているでは、あーりませんか…??!


 ーーえっ、ウッソ、ちょっ、踏まれるぅ~~~っ?!!ーー


喉が縮み上がって締まった為に叫び声は上げられなかった。

かわりにギュッと目を瞑り身体を固くして、この後訪れるだろう痛みと衝撃を覚悟する。


 ーー……………? あ、れ……??ーー


待てど暮らせど、何の痛みも衝撃も来ない。

跨いでいってしまったのか?と思ってそろりと片目を薄く開ける、その視線の先にはーー


「あぁ~~ん? 何でこんな時分に、ちみっこいがきんちょがうろついてるんでぇ?! 迷子かよぉ、どこの忘れもんだこりゃぁ~?? 名前は言えんのかよぉ、このがきんちょさんはよぉ~~??!」


 ーーヤクザみたいな強面のほろ酔い美中年に追突された上に秒で絡まれてしまったわ…?ーー


スファレライトの瞳が超至近距離から伺い見てくる。

プンプンと漂ってくる酒気もさることながら、浅黒い肌にも赤ら顔とわかる出来上がった顔、その肌色に不思議と映える色の濃いシルバーアッシュの四方八方にはねまくった短髪が目を引く謎の美中年。

覗き込んでくるその姿勢、その今現在のしゃがみ込みスタイルはどっからどう見てもヤンキー座りだった。

それでもヤクザみたいだと思ってしまったのは、覇気ありありで眼光が鋭過ぎるためだろう。

こちらを見てくる目は据わっており、猛獣のような獰猛さしか見て取れない。

脅しつけられたわけでもないのに自然と萎縮してしまうくらいの迫力がある。


 ーー凶悪さしか見受けられない。 っっっっ超、怖いぃ~~~っっっ!!! でも超美形なのもまず間違いない♡ーー


恐怖と恍惚が同時に胸中に押し寄せる、という超貴重な体験をしながら『名前を言えるのか?』という質問に対してぎこちなく頷いたあと名前を伝えるために口を開いた。

声はところどころ掠れてしまったが、何とか言葉を紡げそうだ。


「あ、の…私は、ラーー」


「ライリエルお嬢様? まだこちらにいらっしゃるのですか?」


焦るでもなく、平常通りな態度で内部通路から舞い戻ったサイボーグ侍女の声が私の自己紹介を奪い去ってしまった。

そして私が床に転がった状態でヤクザな不審者に覗き込まれつつ絡まれている状況を見てーー。


「ヴァルバトス様っ!! ライリエルお嬢様に一体何をしておいでなのですか?!」


 ーー?!! メリッサが怒ってる!!! え、あれっ?! それって…私のために……怒っているの………?? うっそぉーー!? デレが顕著ーーーー!!!ーー


口元を押さえて驚愕と歓喜の声を上げるのを堪える。

素直に感動に浸りたいけれど、今はちょっと引っかかる事がありそちらに意識が引っ張られてしまう。


 ーーうん? ヴァルバトス、様…?? 何処かで聞いたことがあるようなぁ~~…、何処だっけ、何処で聞いたのだっけかぁ???ーー


カッツカツ、と靴音を響かせて急ぎ足でやってくる侍女に面喰らう。


 ーーメリッサが行う動作に音が伴ってる!! ノックの音以外でそんな現象、今まであったかしら…?!ーー


信じられないものを見る目で向かい来る侍女を見て、抱き起こされる最中もあまりの現実味のなさに茫然自失になってしまった。

そして同じようにヤンキー座りから立ち上がった『ヴァルバトス様』が床に立った状態の私を頭のてっぺんから爪先まで品定めするように見てから、吼えるように笑いだした。


「がぁーーーーーっはっはっはっはっはぁ!!! おめぇさんが『死神』んとこの娘っ子かぁ?! がっはははぁーーーっ!! なんでぇー、俺様んとこの同い年の娘よりちみっちぇんじゃねぇかぁ~~!? あの野郎、俺様には口酸っぱく何かにつけて注意してくるくせによぉ、自分の娘っ子に飯もろくに食わせてねぇのかよぉ?? まぁたぁ~~んと飯食ってたとしてもよぉ、まず間違いなくウチの娘の方が数倍可愛い事実は揺るがねぇがなぁーーーっ?!! がぁーーーーーーっはっはっはっはぁ!!!」


 ーー『死神』なんて物騒な…一体誰のこと? それより、この方は既婚者でお子様もいらっしゃるのね、ふむふむ、チャラ男っぽいからなんか納得! それにしても、この世界は子煩悩な親御さんが標準仕様なのかしら?? それとも会話の中で1回は子供自慢をしないといけない的なこの国ならでわの習わしでもあるのかしら???ーー


親バカ発言に感心しながら色々と聞き流していると、私を背に庇って進み出たメリッサがヴァルバトス様なる(私にとっては)未だに正体不明の準不審者へと鋭く叱責の言葉を放った。


「如何に貴方とて、ライリエルお嬢様への礼儀を弁えぬ物言いは看過致しかねます!! 即刻おやめ下さいまし!!」


 ーー!!? っっっ感っっっ激っっっ!!! メリッサがぁ、あのメリッサがあぁ~っ、私のためにぃ、声を荒らげて怒りを露わにしているぅ~~だっとぅーーーーーっ??!ーー


感極まりすぎて思わず仰け反ってしまったわ♡

そして屋敷の中心(?)で愛を叫びたくなってしまったわぁ~♡♡


でも駄目駄目っ!

宅の可ん愛い~~いメリッサを盾になんて、あんな酔いどれっぽい正体不明な猛獣に立ち向かわせるわけにはいきません!!

ここは穏便に話を合わせた相槌でサラ~っと受け流して、その流れでサラサラ~~っと退散しましょっと!!!


庇ってくれたメリッサの影からひょっこりと姿を現して、身長差が激しくなった相手を仰ぎ見る。


「うふふ、ヴァルバトス様は娘様が1等お好きでいらっしゃるのですねぇっ♪ 勿論ご自分の娘様が世界で1等お可愛らしいことでしょうとも、私と比べるなど言語道断。 どうぞそのままそのお気持ちを大事になさってください♡」


相手を刺激しない穏やかな笑顔に見えるよう意識して、顔面の表情筋を総動員してニコリと微笑んで朗らかに告げる。


 ーー『うちの子大好き家庭』が溢れかえっているみたいで我が家と大差ない物言いだわぁ~。 でも客観的に聞くとこれ程イタイ発言に思えるものなのねぇ~、うちの家族(特に男性陣)にも第三者の前で公言することのないようにこれまで以上に気をつけて注意喚起しないと!ーー


「ほら、メリッサも! もうそんな怖い顔しないで? 夜更けに大声を出すのも憚られて、呼び止められなくて困っていたからメリッサが戻って来てくれてとっても嬉しいわ♡ さぁさぁ、メイヴィスお姉様のお部屋に案内して頂戴な、これ以上待ち惚けさせてしまっては大変だもの!」


強引にメリッサの腕に両手でしがみついて内部通路がある方向へ引っ張りながら、獰猛な獣っぽい美中年から距離を取る。

持てる力の全てで引っ張って、やっと2、3歩遠ざけたあと、メリッサの前に進み出る。

スカートを片手で軽くつまみ上げながら片足を軽く後ろに引き、空いている手を胸に当てて見苦しくない様気を配りながらお辞儀する。


「ヴァルバトス様、折角お会いできましたのに誠に残念ではございますが、本日はこれにて失礼致します。 またお会いできる日を楽しみにしております。 おやすみなさいませ、良い夜をお過ごし下さい。」


面食らったような驚嘆顔でこちらを見やるヴァルバトス様を置き去りにして侍女と二人で内部通路へと足早に逃げ込む。

直線の通路を中程まで進んだ辺りで背後から大音声の笑い声が狭い通路の壁に反射して響き渡り、追越していった。

後ろから追いかけられるのではないかとしばらく気が気でなく、早足をキープしたまま通路の突き当りで左に曲がった辺りでやっと警戒を解き、通常の歩調に戻して人心地ついた。

引き結んでいた口元が自然と緩み、抱えていた疑問がポロリと口をついてでた。


「……あの方は、一体どちらのヴァルバトス様でいらっしゃるの? 全くお見かけした覚えが無いのだけれど、昔からいらっしゃるの方なのかしら…?」


 ーーそもそも、公爵家(うち)の関係者で……合ってる? メリッサが名前を呼んでいたのだから不法侵入者では、無いわよね?!ーー


「あの方は騎士団に新しく雇い入れられた方でございます。 旦那様とは戦場で幾度となく顔を合わせた旧知の間柄とのことで、その縁を頼りに()()()()()()此方に転がり込……、雇い入れられる運びとなったのだそうです。 つい先月の事ですので、お嬢様がご存知無いのも無理からぬ事。 一応不審者ではございませんので、その点はご安心くださいまし。」


 ーーえ、聞き間違い? 戦場で幾度となくって、それって雇い入れて大丈夫な人脈なの?? しかも、一家揃ってって……はいぃ~~~~???ーー


懐が深い~~♡と感心すればよいのか、不用心すぎでは?!と注意喚起すればよいのか、昨日の敵は今日の友って云うしそんなもんよね♪と軽いノリで受け止めれば良いのか、どれも正解とは程遠いと思えてしまうけれど実際にはどれが正解なのだろう。


「戦場で…?」


「はい。」


「幾度となく?」


「左様でございます。 旦那様の赴かれる戦場には必ずといっていいほど、敵陣に居られたとか。」


「そうなのぉ~敵陣にねぇ~~……って、えぇっ?!! それって、え? 味方だったから実力も十分分かってて、じゃないの?! 敵対してた相手なのに雇い入れちゃって、お父様は御乱心なのっ!!?」


あんまり仰天してしまって、言葉が乱れてしまった。


 ーーサイボーグ侍女に(はた)かれる?!ーー


ドキドキと拍動する胸を押さえ、不安と微かな期待を9:1の割合で胸中に占めさせながら横目に侍女をチラ見する。


「ヴァルバトス様の御家族一行は傭兵を生業となさっており、金銭や権力に(おもね)ることなく求める報酬(モノ)は純粋な愉しさ。 如何に血沸湧き肉躍る戦場であるか、その一点に重きをおいて参戦される戦場を決めていらしたそうでございます。 なのでフォコンペレーラ公爵家に直接的な恨みつらみはなく、個人的に敵対する意思もなかったそうなのですが、毎回敵陣に名を連ねたのはただ単純に旦那様と1戦交えたかったからだとのこと。 因みに戦績は互角、引き分けが続いて現在に至るのだとか。」


こちらの不安と微かな期待をガン無視して、しれっと追加情報を宣ってきた。

まるで天気の話をするかのような常と変わらない平坦な穏やかさで以て告げられて、何を言われたのかちょっと良くわからなかった。


 ーーめちゃくちゃ戦闘狂な危険人物に気に入られちゃったお父様って、どんだけやべぇお方なの?! っていうかそんなやべぇ人物だと知っていながら私のため(きゃっ♡)に立ちっ向かってくれちゃったメリッサの勇敢すぎる行動に愛しか感じられないっ!!!ーー


「とても勇猛果敢な御仁なのね、よぉ~~っくわかったわ! 今度からは極力絡まれないように気をつけるわね。 だからメリッサも極力、そんな屈強な騎士様に立ち向かおうとしないで? どんな理由が有ったとしても貴女が怪我をする可能性があって、尚且つ危険が伴う事態にだけは遭遇して欲しくないの、お願いねメリッサ。」


「ライリエルお嬢様、そのような心配は無用にございます。 誰も好き好んで立ち向かうことなど致しません。 この度の対応は例外的でございますので、物の数に入れないでくださいまし。 だいぶ時間を取られてしまいましたが、何とか日付が変わる前に到着致しました。 お早く用事を済ませてくださいまし。」


いつものように冷静にきっぱりと否定され、いつもならそれだけで安心できるはずなのに何かが引っかかって安心しきれない。


 ーー『例外的』の基準は何なの? そう聞けないのは何故なのかしら? メリッサが言いたくなさそうにしている、そう思うのは私の考えすぎなのかしら…?ーー


目的地が視認できる距離にあっても変わらず先行してくれるメリッサの背中を見つめながら答えの出ない疑問に考えを巡らせる。

結局この疑問を問えないまま目的地に到着してしまい、メリッサが迷わずに五等客室【蒲公英(ダンドリオン)】の扉をノックした事でこの問を口にする機会は失われた。


\「どうぞぉ~、開いてますのでお入りくださいぃ~~…。」/


ノックから少し遅れて酷く眠そうな声が中から入室の許可をくださった。

返事を聞くが早いか、有能なサイボーグ侍女は躊躇なく私が入室できるように音もなく扉を開けてくれた。

部屋に足を踏み入れて薄暗い通路を進みながらある決意を胸に抱く。


 ーーメイヴィスお姉様、とっても眠たそう…。 こんなに遅くなってしまうとわかっていたら、お願いなんてしなかったのに! 後悔先に立たずだわ…、ホント、今度からはちゃんと計画的に行動しないといけないわね!! 今日はこの教訓を活かせるように且つ忘れないうちに、部屋に戻ったら大・反・省・会を敢行しなければ!!!ーー


短い通路を抜けると、メイヴィスお姉様の姿を探す。

ばっちり入浴を済ませた様子のお姉さまの髪はおろされており、ゆったりとした夜着に着替え、その上からガウンを羽織っている格好で天蓋付きのベッドの上に腰掛けていらっしゃった。

もういつでも寝られるよう準備万端だ。


「メイヴィスお姉様、遅くなってしまって申し訳ありません! こんなにお待たせするつもりはなかったのですが、いろいろと立て込んでしまって…、私の不手際でご迷惑をおかけして、本当にどうお詫びすればよいか…、次回お会いする際にきちんとこの埋め合わせを致しますね! 長話はここまでにして早速、目的を果たし、ささっと退散いたしますのでご安心ください!!」


寝台の側まで赴き、ホコリを立てないよう注意しながら頭を下げて謝罪らしき言葉を口にする。

そして相手の返答を待たずにさっさか行動に移し、昼間パーソナルスペース認定したソファの座面に置かれてあった目的の物を回収する。


「?! ライリエル様ぁ、そんなに急がれなくとも大丈夫ですのにぃっ! 私のことなどお気になさらず、こうやってライリエル様とお顔を合わせていられるだけでも十分、私にとってはご褒美のように尊い瞬間なのですからぁ!! むしろ寝る前にライリエル様のご尊顔を拝見できて、役得ですからねぇっ!!!」


声は大きく張り出しているけれど、語尾がどうしても誤魔化しきれない眠気でふにゃついているし、話す間も身体はふら~ふらら~~と左右に船を漕いでしまっている。


その姿が微笑ましくて思わずクスッと笑ってしまいながら、3歳年上の少女の可愛らしい虚勢を真に受けた振りで調子を合わせる。


「本当ですか? ではお言葉に甘えて、もう少しだけお邪魔して居る間お喋りの相手を願えますか?」


悪戯心が働いてクスクス笑いながら意地悪な提案を持ちかけてしまう。


「ふぁえっ?! そぉ~~れわぁ、何と言いますかぁ~~、ちょ~~っと難しいようなぁ~~?? 気もしなくもない、ようなぁ~~!?」


突然の居直った発言に面食らい、しどろもどろになりながら何とか穏便に断れないか模索しているが、状況は芳しくない。

そこに助け舟を差し向けたのは意外にも無関心を貫くかと思われたサイボーグ侍女だった。


「ライリエルお嬢様、あまり長居してはご迷惑でございましょう。 疾くお出でくださいまし!」


「怒られてしまいましたわ! 非常に残念ですけれど、今回はここまでですわね。 メイヴィスお姉様、長らくお引き止めしてしまいましたが、今日一日私にお付き合い下さりありがとうございました♡ とっっっっても、楽しくて快い一日でしたわ♡♡ 明日の朝もお見送りができればよかったのですが、恥ずかしながら起きられる自信がございませんのでこの場でお別れのご挨拶をさせてくださいませ。 またお会いできる日を心より待ち望んでおります。 無理矢理に頼んでしまいましたが訪問可否のお手紙、楽しみにしておりますね!! それではお休みなさい、メイヴィスお姉様。」


今日まで滞在を長引かせてしまったお詫びと今日のお礼とお別れの挨拶とを一緒くたにまくし立てる。

自分でも上手く伝えられているかどうかわからなくなりながら出るに任せて言葉を紡いだ。

長々とならないように簡潔に、そう意識して何とか言葉を締めくくり、『お休みなさい』の辺りでペコリとお辞儀をして身を反転させる準備をする。


「あっ、私も!! とってもとぉ~~~っても!! 楽しい1日でした!! 色良いお返事ができるよう、父を説得してみせますのでご期待ください!! このような格好で申し訳有りません、ライリエル様! お休みなさい、良い夢を見れますように!!」


ベッドの上でわたわたしつつ、同じように言葉を返してくださるお姉様にほっこりと胸が温かくなり自然と頬が緩んだ。


「はい、ありがとうございます! お姉様も良い夢が見れますように♡」


若干の名残惜しさを感じつつも、最後は心からニコリと微笑んで客室を後にできたことに安堵する。

初めてできた友人とのしばしの別れはえも言われぬ侘しさを伴ったが、落ち込むほどではなくて良かったと素直に思えた。

回収した物もしっかりと両腕で胸に抱え込んで、今日一日の収穫の多さにホクホクと顔を綻ばせ上機嫌に自室へと向かい進む。


2階に上がる際は今朝お母様が教えて下さった階段の手摺に取り付けられた魔石に触れて一瞬で移動完了できた。

その際に些かハプニングはあったが、自力で登ることを考えれば断然此方の方法一択だ。


自室に帰り着いたときには日付は変わっており、新年まで残すところ2日になっていた。

テキパキと一切の無駄なく動く侍女によって服を剥ぎ取られていつの間にか湯の張られたバスタブにintoされた。

なすが儘、されるが儘にピッカピカに洗い磨かれて、入浴を終えた頃にはお肌はツルピカで光を反射するほどに磨き抜かれてしまった。


丁度良く温められ、この時点で瞼がトロリと緩んで半分ほど落ちてきてしまった。


 ーーいやいや、まだまだ私にはやるべき作業が残ってますから! 忘れず反省会を敢行せねば!ーー


気力を振り絞って瞼を押し上げるがその後も侍女の主導する寝支度は終わらなかった。

体を拭かれ夜着を着せられた後も、有能すぎる侍女の手腕により寝支度は途切れることなく続行される。

髪を乾かされ、歯を磨くのを手伝ってもらい、口をゆすいだ辺りで瞼は再びおりてきて時折完全に閉じてしまうことも増えてきた。


 ーー………っは!? いやいやいや、寝ちゃ駄目だ、寝ては負けだ(?)、まだ負けるわけにはいかない!! ちゃんと、有言実行を…、むにゃ。 果たさないと……ふわぁ…。 反省、…しないと……あふぅ~………。ーー


習慣とは恐ろしいもので、頭で考えるよりも身体が先んじて反応して、もう寝なければと脳から発せられる動作信号をジャックしてしまうのだ。

うつらうつらと船を漕ぎながら、懸命に目を開いていようと努力するも虚しく、侍女の手によって押し込められた寝具の上で、暖かな布団をかけられた段階で早くも完敗、瞼はピッタリと閉じて夢の中へと旅立ってしまった。


いろいろとやり残したことが多すぎる、けれども幼女の体力の限界を超えて行動し続けた反動で、結局目が覚めたのは正午を過ぎ日が昇りきった時分になることを夢の中の住人となった私は知る由もないことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ