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19.誕生日パーティー【宴も酣:終幕前】今度は騎士様と騒動あり、からの…?

 少しの騒動の後、家族全員(次兄は、居なかったわ!)から公認を受け、晴れてメイヴィス嬢が(わたくし)の人生初の(同性の)友人となった。

その事実が嬉しすぎて注意力散漫だったのは、認める。


だからって会場に岩石があるとはまったくの想定外だ。

この目で確認した事実を基に訂正すると、正しくは後ろに佇む人物の岩石のように頑丈で強靭な膝頭、だったようだ。


鍛え抜かれた騎士様の膝頭は、幼女にとっては鈍器だった。

恐らく死角に入りんでしまった私に気付かず、騎士様は普通に歩いていただけ。

それが交通事故に発展するなど、想像だにしなかった事態だったことだろう。

軽く当たっただけのはずなのに、激突したかのような衝撃が背中を襲ったのだから、全力でブチ当たられたら……この体は四散してしまうだろう。


「いっつぅ~~~っ!」


引かない痛みに叫び声をあげそうになって、慌てて歯を食いしばる。


 ーーおかしい、凄く痛い、何で?! この体、痛みに弱過ぎじゃないだろうか??!ーー


それとも、幼女はこんな痛覚が鋭敏なのだろうか?

前世の感覚が今の私にも馴染んで、常識が塗り替わってしまったから余計にだろうか。

時々感覚の違いに激しく戸惑う。


「ライリエル嬢、申し訳ない! 痛むところは、いや、怪我は、無いだろうか?!」


 ーー息が止まりましたけど、何か? ダメだって、ヤァヴァイッッて、このままじゃ、心臓も止まっちゃうからぁっっっ。 不意打ちの至近距離からのイケボで心配されちゃったらもう、召されちゃうぅうっっ!!ーー


「りゃいりょうぶれふぅうゔっっ!」


そう答えながらも、現状はまったく大丈夫ではない。


 ーー取り敢えず、鼻を押さえなければ! 可及的速やかに、患部を圧迫しなければ、取り返しのつかない大惨事になるっっ!! 別館客室でのトロリ、なんて可愛いものでは済まない、今度は暴発からの破裂必至だ、それは断固阻止!!!ーー


俯いて顔を隠し鼻を必死になって押さえる私に、片膝をついて目線を合わせようとする。

騎士の鑑、セルヴィウス・デ・ラ・オーヴェテルネル公爵閣下が、秀麗な眉を寄せて、ファイヤーオパールの瞳に心配を滲ませて、伺い見てくる。


礼装用の騎士服が汚れるなど、そんな些末な事を気にもかけず。

こんな年端もいかない幼女のために、屈強な騎士様は膝をついてくれた。


 ーーヤァ〜ヴァイッ! 今私の視界には幸福しかないっ!!ーー


背中の疼痛など、はるか次元の彼方だ。

だってこんな至近距離にスパダリイケメンハイブリッド騎士様がいらっしゃるのだ、もう何も感じられない、尊い幸福以外私の中には何も無い。


 ーー動悸、息切れ、気付に、イ~~ケボッ、イケメンッ♪ コレ以上の薬は見つからない♡ 幸せが溢れかえってるから♡♡ 寧ろこの息苦しさが、癖になりそう♡♡♡ーー


気分はもう、物語の中のプリンセスだった。

お相手は王子様ではなく騎士様だが、その格好良さは語る言葉が見つけられないほど、かぁあっっっこウィイ~~~~っっっっ!!!

(両手の親指、人差し指、小指はピンッピンに伸ばして、残りの指は握り込む、そのまま手の甲を正面に向けて突き出すべしっっっっ!!!)


目に星が浮かんで、チカチカキラキラ点滅しまくり。

頭と言わず、私の身体の周りにはハートの乱舞。


 ーーはぁあぁ〜〜〜っ♡ メロメロ~~~ンッ♡♡♡ーー


メロメロパ~ンチをしこたま食らわされて、脳内はグロッキー状態。


顔面も耳も、首でさえも、まっかっかっか。

赤くないところを探すのが難しいほど、全身余すところなくキレーーに茹で上がってしまった。


「ライリエル嬢、その…尋常ではない赤さだが、意識はあるかな?」


意識の確認のためか、私の目の前で手を軽く振る。

3歳児相手には硬過ぎる語りかけに、可笑しさがこみ上げてくる。


 ーー見た目は百戦錬磨、恋の酸いも甘いも噛み分けた玄人然としているのに、子供への接し方に戸惑っているなんて…、凄いっ、可愛さしか無いっっっ!! ギャップ萌え萌え~~~っ!!!ーー


「ふふへっ、ふはっ、あはははっ。」


突然笑いだした私に、困惑して瞠目している。

翳した手は力が抜け、指が緩く丸まっている。

その気の抜けた仕種が余計にこの笑いを煽ってきた。

もうなんか、とにかく可笑しい。


「ふふふっ…あははっ、ははっ……っ。 ご、めんな、しゃいっ…、ふふへっ、…わ、わりゃって、…ごめんなしゃい、…セウヴィウシュ、キョー?」


 ーー『う』が増え過ぎだろっ!?ーー


名前が変容しすぎて誰を呼んでいるのか自分でもわからなくなる。

だからって、名字なんて口にした日には、この程度で済む気がしない。


もう悟りの境地に至ってしまいそう。

笑いが治まったのは良いが、先程見事に砕け散った硝子の心(グラスハート)の破片を更に容赦なく、更に粉々に、元の砂礫(されき)に戻さんとするように砕かれ尽くす。


この滑舌が私の心にとっては何よりの凶器になると、このときに理解する。


「気にしておりませんよ、小さなレディ。 良ければ、セヴィと、私の名前はレディには呼びづらいでしょうから。」


クスッと、小さく落とすように笑う。


 ーーハイタカ顔面偏差値の威力、ここに極まれり!!! もう降参です、白旗振り回しちゃってるから、できることなら、止めはイケボで囁かれたいっ!!ーー


でもその前に、これだけはしっかり言っておかないと!


「それは、ダメでしゅ!!」


 ーー美貌にイチコロになっても、越えてはならない一線は死守せねば!ーー


親切心から愛称を呼ぶ許可を下さった、眼前の騎士を真っ直ぐ見つめ返し(眼っ福♡)、キッパリとお断りする。


「ダメ、ですか…? それはどうしてか理由を伺っても?」


「アイショーは、トクベツで、ダイジなモノだかぁでしゅ! かんたんにダレにでも、よばせたらダメな、とっておき、でしゅから!! よべましぇん、ゴメンナサイ!!!」


 ーーいくら本人から許可がおりたからって、悪役令嬢なんかがおいそれと呼んで良いものではないのだ! いつかゲーム開始時期以降にうっかり呼んで、嫌悪の籠もった表情で見られた日には、枕を何個、涙で濡らせば良いのか……。ーー


そんな未来、想像したくない。

今日の特別な思い出が、胸に痛くなってしまう。

だから、愛称を呼んでも良いと言ってくれた、この言葉だけ大事に覚えておこう。


 ーーステキなスチルも大量にゲットできたし♡ 予想外の大漁ゲットぶりに、大満足♡♡ お腹も心も、萌キュントキメキで一杯だわ♡♡♡ーー


にっこりと笑って、折角の申し出を無下に断る無礼を詫びる。

言葉の内容を理解するのにつれて、驚き顔から、微笑に変わり、そして破顔。


「……っふ、ははは、ふふっ、失礼、……ははっ。 申し訳ない、ライリエル嬢。 貴女を、笑ったのではないと、どうか理解して欲しい。」


そこで言葉を区切って、笑いを治めるため口元に当てていた拳を解いて、その手を自身の胸にあてる。

宣誓するかのように、畏まって言葉を続ける。


「貴女は私が想像する以上に、立派なお考えを持った淑女(レディ)だった。 自分が恥ずかしくなったのです。 私の小さな物差しで、貴女を推し測り型に嵌めて見てしまったことが。 心より申し訳なく思います。 こんな愚かな私を、お許しくださいますか?」


口元に優しい微笑みを湛え、真摯な目で折り目正しく、この言葉に偽りは無いと証明するかのように言葉を紡ぐ。

胸元にあてていた手を、言葉の終わりとともに差し出される。


私の謝罪を、謝罪で返された。

これも、騎士様の優しい心遣いだろうか。


 ーーシンプルに、格好良すぎなのですが…?ーー


頬に再び熱が集まるが、先程の全身に広がるようなものではなかった。


 ーートキメキ摂取量は限界値に迫ってきているが、なんとか持ちこたえねば…!!ーー


差し出された手に、私の小さな手を重ねる。


「勿論、許します。 ですが貴方様は愚かなどではなく、騎士の鑑と呼べる立派な騎士様ですわ。」


心に思った言葉が支えることなくそんまま口から滑り出た。

滑らか過ぎる、自然で流暢な言葉で。


「「 え? 」」


私の間抜けな声と、眼前の騎士様の拍子抜けしても麗しい美声が重なる。


そこに差し込む殺伐とした殺気を夥しく迸らせた1つの影。


「「 んん?? 」」


ここでも2人の声が重なる。

同時に、影の差した方向を振り向きながら。



 そこには、肩で激しく呼吸しながら、大魔王に変貌したお父様が仁王立ちしていた。

いつの間にかお父様は再びゼクウ老師を煽り上げて第2ラウンドを開始していたようだ。

見た感じ再度のストリートファイトは今の今まで、続行していたようだ。


「セヴィ…? 何を、して、いるのかなぁ~? 君という、人物を、信用していたんだが、過信しすぎた、かなぁ~~?」


言葉を紡ぐ間に息継ぎの間隔が多く入る。

それでも語ることをやめない親バカ大魔王様は、どうやらこの騎士様が幼女を誘惑していると盛大な勘違いをした模様。


 ーー親バカが、過ぎませんかね??ーー


こんなちんちくりん幼女に、何も思うはずがない。

冷静に考えれば直ぐにわかろうものなのに。

愛娘可愛いフィルターがかかり過ぎていて始末におえない。


 ーーこれ以上、面倒くさいことを宣う前に、歯止めをかけないと!ーー


「お父しゃま、メッ!!!」


 ーーそうそう、コレコレ~~! こうでなくては幼女でない!!ーー


突然改善された滑舌は再び劣化、でもこうでなくては調子が狂う。


短く簡潔な制止の一言は、娘ラブ♡はお父様には歯止めにとどまらず、止めに近い致死未遂な一言だったよう。

グッサリ心臓に串刺さった言葉に、荒かった呼吸が更に荒くなっている。


 ーーストリートファイトは今回も無事に終了したみたいで、本当に良かったぁ~~!! お父様は五体満足で、元気に喘いでいるし、一安心ね♡ーー


私も今日一日で逞しくなりました!

家族の一挙手一投足に、そうそう振り回されないゾ☆

あれくらいのダメージ、お父様には平常値だもの。


ふふ~~んっ、と鼻歌まで歌ってしまいながら、そう言えば、手を重ねたままだったわ、と自分の手の所在を再認識した。


じっと手を見つめてしまった。

その視線に気付き、騎士様もこちらに向き直る。


パチッと、視線があった。

そして、どちらからともなく、ふっ…と口元を緩める。

しばらく微笑み合って、口を開いたのは騎士様の方が先だった。


「お許しくださり、感謝致します。 私のことは呼びやすい名で、好きに呼んで下されば結構です。 どのような呼び名でも、必ず返答致します事をここにお約束します。」


やはり幼女に対しては硬すぎる口調で、しかしこの騎士様らしすぎる、真面目くさった優しいさ溢れる口調。


「ありがとう存じます、閣下。」


 ーーんん~~~? あんれれれれ、レレレのお○さん??

もう、どうなってるの、私の滑舌???ーー


見てくださいな、目の前のお優しい騎士様も、コロコロ変わる滑舌状況に、困惑を通り越して、苦笑いしておりますわよ?!

言及しないのも、騎士様の優しさだろうか?

いっそ問いただして下されよ、答えは私が聞きたいくらいだけど…。



 「これはこれはぁ、何とも奇っ怪な。 ほぉっほぉ、珍しき事もあるもんじゃなぁ~~。」


突然降って湧いたように側近くに立つ小柄な人影。

私の次に小柄な人物、ゼクウ老師様がこちらを興味深そうに観察している。

主に私を、頭の天辺から足のつま先まで、しげしげと眺め透かしてくる。


 ーーすごく、居心地が、悪いと言うか、居た堪れないと言うか……。ーー


汗がタラリと一筋、頬を伝う。


「あっ、この糞じじ……っじゃない、閣下! 私の娘を不躾に眺めないで頂きたい!! 目減りしますから、色々とぉ!!!」


その言葉に言葉を返すのでなく、杖の先が音を置き去りにして突き出される。

お父様の眉間に正確に狙いを定めて、一直線。


「うぉっっっとぉっ! あっぶなぁ~~いぃっ!! 師匠、無言で急所に容赦なく打ち込むのはお止め下さい、避けるの大変なんですからぁ、面倒くさいですしぃ~~??!」


口をへの字に曲げて、文句をぶつくさ喚き立てる。


「ならば黙って喰らえば良かろうが、この青二才が! それと、何度も云うておるが、いちいち五月蠅く喚くでない!! 杖を繰り出す手元が狂いそうじゃ、手加減を忘れてのぅ??!」


「あっははははっはぁ! 師匠ってばぁ~、またご冗談でしょぉお~~?? 手元が狂ったってぇ、今まで一度もまともに手加減してくれてないじゃないですかぁあ~~??! 底が知れるなぁ、手加減なしの威力の底が♡」


お父様は何故先程からこんなに好戦的なのか。

師匠であり上役である人物に向かって、許容されないくらいに挑発しまくっている。


 ーーなんでも良いけど、他所でやってくれますぅう??! 巻き込まないでって、再三訴えてるのに、心の中で!!ーー


流れ弾をうっかり被弾する前に、その芽を摘みに掛かる。


「お父しゃま、メッ!! ワルイコ、キァイ!!!」


クリティカルヒットを華麗に決め打ちする。

言葉の刃がお父様を滅多斬りにして、既に虫の息だ。


「お父しゃまが、ゴメンナサイ。」


打ち拉がれるお父様は放置で良し。

何よりも先決なのは、老師様にペコリと頭を下げ、お父様の無礼を謝罪することだ。


「ほぉ~~っほぉ~っほぉ、こりゃご丁寧に、ありがとうのぅ。 この阿呆の娘御にしておくには勿体ない、しっかりした良い娘御じゃのう! お嬢さん、名前は何と言ったかな?」


「ライリエルと申します、ゼクウ老師、様…?」


 ーーまた、言葉が自然に流暢に……、なんかもう、気持ち悪い。 なにコレ、何の病気なの、私は一体全体、どうなってしまったの~~???ーー


頭の中で大パニックに陥りながら、何とかこの葛藤を声に出さないようにギュッと口を引き結ぶ。


「ほぉ~っほぉ、これまた丁寧に痛み入る。 儂の名をもうご存知じゃったか。 先に名乗らず、失礼千万じゃったなぁ! わびと言っては何じゃが、その口調の変化の原因を、教えて進ぜようかのぅ~?」


「!? 是非、お願いいたします!!」


 ーーやっぱり、何かしらの奇病に冒されているのかしら? もしそうだったなら、恐ろしいけれど、このまま知らないでいる方がもっと怖い。ーー


「お嬢さんは、今日…先程か? 急拵(きゅうごしらえ)えで魔法でも使ったのかのぅ? 体内のマナが酷く乱れておる。 そのせいか、言葉に影響が出ておるようじゃなぁ。 乱れたマナが時折精神に感応して言葉を精神に近づけておるようじゃなぁ。」


「マナの乱れ…、ですか……。 精神に、感応…。 どうしたら安定するのでしょう?」


「ふぅ~~む、そうさなぁ…。 落ち着くことじゃ。 心の底から、波だった気を鎮めること。 対処としてはそれくらいかのぅ。」


「心を、落ち着ける。」


 ーーだからといって落ち着けと言って、落ち着けるわけもなく。ーー


でも確かに、今日は心が波立つ事のオンパレードだった。


転生の事実への気付きに始まり、階段からの転落(未遂)、仔犬に擬態した狂犬からの威圧感(プレッシャー)放出による呼吸停止(完全に停止する前に回復)、隷属魔導具による少女への殺人未遂現場に遭遇、その犯人への断罪(未遂)。


羅列しただけでも、どっと疲れがぶり返してきた。

他にも細々、精神的な衝撃も何個かあったが、心が落ち着く暇が皆無だった。


 ーーリラックスするには、どうすれば……?ーー


そこまで考えて思い出す。

前世で自分がいつもどうやって自分の心を慰めていたかを。


 ーーあぁ…そうだ、あの一歌。 前世の私が、一等好きだった歌とその歌詞。ーー


[心は未だ暗く閉ざされた闇の中。

 月光は差さない。

 ぽっかり空いた穴からは、満点の星空が覗くだけ。

 その儚い輝きが、心を慰める。

 瞬く輝きが、孤独な心に寄り添ってくれる。

 その存在が在るだけで、真の闇は、私を囚えられない。

 私の手の中には何も無い。

 輝き照らしてくれる、光を与えてくれる存在は。

 手が届かなくても、良い。

 遠く眺めるだけでも、大丈夫。

 夜の#宙__そら__#見上げればいつだって、そこに在る。

 一等輝く、私の#光輝__シリウス__#。]


この歌を聴くといつも、不思議と心が落ち着いた。

だから前世ではリピート再生で聴き込んで、メロディも歌詞も丸暗記済みだ。


頭の中で曲の旋律が流れる。

そのメロディに合わせて歌詞が頭を巡る。

波立った心が凪いでいく。

歌詞の後半部分から徐々に、思い描く。

夜空に瞬く降ってきそうな満点の星々、その中に一等光り輝くシリウスを。


直後、頭の中で結んだ像が最後に溢れ出したマナを消費して現実世界へ投影された。

魔導具で煌々と照らされた天井を一瞬で夜空に塗り替え、星のような輝きが、幻影で造り出された夜空から瞬きながら降ってくる。


幻想的で美しい、架空の風景。

これが私が想像した、この曲の心象風景(イメージ)だった。

儚くて、物悲しい、でもこの心をいつも、不思議と癒やしてくれる。



 会場に居合わせた人々から声が上がる。

最初は突然暗闇になったことへの驚きで、次第に、幻想的な雰囲気に呑まれた感嘆によって。


演出だと思ったのだろう、人々の間から拍手が1つ2つ、段々と増えていき、伝播した結果、遂には拍手喝采となった。


人生で初、こんなに讃えられたことなど、当たり前だが今までに一度だってない。


 ーーお父様か、ゼクウ老師が行ったと、思っているのかも。 それでも全然、良いや。ーー


心がポカポカする程、気恥ずかしくもあり、誇らしくもあった。


この幻影は長くは続かず、一瞬の夢幻のように儚く消えていった。

しんみりした雰囲気だったためか、招待客たちは1人、また1人と、そろそろと会場を後にしだした。


 ーーお開きの合図、ではなかったのだけど…。ーー


偶然とは言え、何だか申し訳なくなる。

神妙な面持ちで、出入り口から姿を消す招待客たちを見遣っていると、すぐ近くから声がかかる。


「ライリエル嬢のせいではありませんよ。 もう大分遅い時間ですし、帰るにも頃合いでしたから。 彼らにとっても丁度口実ができて都合が良かったのでしょう、お気に病む必要はありませんよ。」


気にしていたことをさりげない優しさで完璧にフォーローされる。


 ーーやはり気遣い上手な騎士様はやる事なす事スマートだ!ーー


「えへへ、あぃがとう、ございましゅ。」


戻った滑舌に、今はちょっと後悔。

だって、お名前を呼びそびれてしまった。

今の状態では、大事故再来になってしまう。

私のだらしないフニャついた笑いにも、優しく笑い返してくれる。


 ーーコレだけで、今日の全てが報われるわぁ~~♡ ありがとう、イケメン♡♡ ありがとう、美幼女転生♡♡♡ーー


ハイスペックイケメン騎士様とこんなに打ち解けられるなんて、棚ぼたラッキーだったわ、本当。

岩かと勘違いしてしまったが、ぶち当たられたことに感謝しかない。

不幸中の幸いとはまさにこのことだ!


 ーーそういえば…今更ながらに、妻子は何処に?ーー


麗しの奥方も、恐ろしい狂犬さんも、見当たらない。

付近にも、会場を俯瞰しても、どこにも。

キョロキョロしだした私に、気遣い上手な騎士様は考えを見透かして声をかけてくれる。


「もしや妻と息子をお探しですか? そうであれば誠に残念なことですが、2人は先にご用意頂いた客室にて休んでおります。 妻が疲れてしまい、レスターはその付添いで。 話し相手が私1人となってしまい、申し訳ありません。」


少し茶目っ気を見せて(おど)けてみせられた。

セルヴィウス卿のお茶目な仕種や表情に、バリスタを打ち込まれたかのような衝撃が小さな心臓を襲撃した。


 ーーや…やヴァイ……、イケメンのお茶目が、私への祟り目だわ……!ーー


気を抜くと一瞬で召されてしまいそうなのだものっ!!

破壊力と殺傷能力ありすぎなのよ、イケメンの気安い表情ってば!!!


「そんにゃこと、ないでしゅ…、コーエーでしゅ! あぃがとぅ!!」


幼女の喋りにも、真摯に耳を傾けて厭な顔ひとつせずに笑い返してくれる。

この短いやり取りだけでも、最初から高い好感度は天井知らずにぶち上がった結果、今現在トップを独走中だ。


そしてまだ近くに佇むご老人にも向き直りお礼を言う。


「あぃがとうございました、ゼクウりょ…ろーし、しゃま!」


 ーー『ら行』むっず!!ーー


誤魔化せる範囲にも限界がある。


 ーーでもここは間違えられない、だって職業変わっちゃいますからね!!ーー


「ほぉ~~っほぉ~っほぉ、なぁに、たいしたことはしちょらん。 全て娘さんの頑張りじゃてぇ。 しぃっかし、見事じゃったなぁ~~、先程の幻影はぁ。 星を降らせるとは、なかなかに想像力豊かじゃ! その年齢にそぐわずなぁ~。」


「ゔぅぇえっっと、そぉ~~~ですか、ねぇ~?」


「ほぉ~っほぉ! そう焦らずとも良い。 稀に見る美しさじゃった。 良いものを見せてくれた礼には及ばんがぁ、ほぉっほぉ、ほぉ~~れ、コレでええじゃろうか、のぉ?」


短い顎髭を手で撫でつけながら、先程の光景を思い起こし、穏やかに笑む。

それから思いついたように、私に向けて反対の手に持った杖の先を伸ばしてきた。

若干身構えてしまったが、恐れた豪速の突きはお見舞いされなかった。

軽くコツンと小突かれ、パチッと極々微小な電流が流れたような感覚があり、直ぐにわからなくなる。


まじまじと自分の身体を見つめる。

なにか変化があったようには見えず、思えず。

目をパチパチと瞬かせて老師を見返す。


「ほぉ~~っほぉ~っほぉ。 身体は変化しておらんよ。 何か云うてみなされ。 この爺を信じて、ほれ。」


「何か、ですか…? …っ!!? 喋れる?! ほわっ、えっ、凄い!! コレ、どれくらい効果が続くのでしょう…??」


「ほぉ~っほぉ、えぇ質問じゃ、実に現実が見えておる! お前さんが望むだけ、好きなようにしゃべれるでなぁ、安心せぇ。」


 ーーえ、最高かっ?!? 神様、仏様、ゼクウ様!!! 偶然の副産物、偶々(たまたま)投影された幻影魔法の見返りが、半端なく嬉しい!!!ーー


「ありがとう存じますっ! ゼクウ老師様!! とっても素敵な誕生日プレゼントですわ!!!」


満面のにっこり笑顔で感謝の気持ちをありのまま伝える。

浮き立った気持ちのまま、アルヴェインお兄様に駆け寄っていく。


 ーー今の喜び溢れる心情を優しく穏やかに聞いてくれるのは天使なアルヴェインお兄様しか居ないっ!!ーー


老師様と騎士様という異色な組み合わせの2人を残して駆け去っていく少女。

この時確かに、この少女は誰が見ても幸せ溢れる天真爛漫な笑顔をその(かんばせ)に浮かべていた。

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