お城に招かれた!?
食事処を出るとすでに日が沈み始めていて、道行く人たちも心なしか足早に過ぎて行く。それにつられて俺も早足で歩き出した。
目指すは王都の中心部。王都最大の教会だ。
クラスメイトの様子を見に行くにしてもどうやって城に入れてもらえばいいかわからないし、今日はもう時間も遅い。
そんなこんなで、とりあえず教会で一泊させてもらおうかと思ったんだけど……。
「ようこそ、サリスタ様の神使様」
教会に到着すると扉の左右に立っていた人たちが待ち侘びていたように近づいてきた。
名乗るまでもなく認識されるこの感じ、本当に不思議でならないんだけど地味に楽でいいな、なんて思いながら「こんばんは」と挨拶する。
「一晩お世話になりたいのですが、大丈夫でしょうか?」
さっそく本題に入ってみると、門番と思しき人たちは互いに顔を見合わせた。そして。
「こちらとしては問題ないのですが……実は神使様がいらしたら王城に案内するよう申しつかっておりまして」
「……ん?」
思いがけない言葉にうっかり素が出た。
「えぇと、王城、ですか?」
なぜ?
「はい。検問官からサリスタ様の神使様がいらしたという連絡を受け、城から使者が参りまして。国王陛下直々に神使様を城にお招きしたいと」
なんだってー!?
危うく声を上げそうになったけど辛うじて堪える。しかし何がどうしてそうなった。
「キミは自分が誰の眷属なのか、ちゃんと考えた方がいいと思うよ……」
ひとり混乱していると、俺の心情を察したらしい白夜から突っ込まれる。
俺が誰の眷属かって? そりゃあサリスタ様の眷属に決まってる。でもそれが一体何だって──
「……ああ、なるほど」
そこまで思考してようやく、なぜ自分が王城に招かれることになったのかを察する。
王様は今、塞ぎ込むクラスメイトたちを元気付けようと手を尽くしてるという話だった。しかしうまくいっていない。
その理由はきっと、クラスメイトたちが再起するきっかけを掴めずにいるからだろう。王様もそう考えているはずだ。
だからこそ、挫折と再起を司る神サリスタ様の眷属である俺の王都への来訪を知り、早急に城に招く手配をした。
あの王様のことだし、落ち込むクラスメイトたちを見ていられなかったんだろうなぁ。そんなことを考えながら、門番さんたちに了承の旨を伝える。
しかし……だ。そもそも俺、招かれた先で何すりゃいいの? 布教? 布教すればいいの??
軽く混乱しながら用意された馬車で王城に向かう。あまりにも不安で白夜に話しかけたくなったけど、馬車には付添人の司祭様が同乗して謁見の作法について説明してくれているので話しかけるわけにもいかず。
そうこうしているうちに王城に到着した。
この城にいた期間は一ヶ月ほど。とは言えこの世界で最も見慣れている景色に僅かな懐かしさを覚えながら、案内人に従って奥へ奥へと進んでいく。
やがて大きく立派な扉の前で案内人が立ち止まった。
ここも知っている、謁見の間だ。この扉の向こうに王様がいるはず。そう思ったら何だか緊張してきた。
「サリスタ様の神使様がご到着されました」
案内人が扉の向こうに声をかけると、見上げるほど大きな扉がゆっくりと開かれる。付添人の司祭様はここまでのようで、俺ひとりで進むよう促された。
視界にはこちらに向けられている目、目、目。部屋の左右には見覚えのある重鎮勢、正面には少し頬がこけたように見える王様が玉座に座っていて、俺が謁見の間の半ばまで進むとすっと立ち上がった。
「よくぞいらした、サリスタ様の神使殿」
懐かしさを覚える声。ああ、王様の声だなぁとしみじみ思う。おかげで緊張が取れた。この人の人柄を知っているが故の安心感が半端ない。
「本日はお招きいただきありがとうございます」
スワイズ様から教えてもらった、サリスタ様の信者が取る礼の姿勢を思い出す。
両手の指をあわせて円を作って、軽く腰を落としながら浅めに頭を下げる。下げすぎるとサリスタ様の神威に傷がつきかねないからちょっとでいいんだったか。
どうやら合っていたようで、室内にいたサリスタ様を信仰する重鎮勢が同じ動作を取った。残る王様以外の面々は各々が信仰する神に応じた礼を返してくる。
「突然の招きに戸惑っておられるだろう。しかしどうしても、神使様にお願いしたいことがある」
「……それは、救世主様方のことでしょうか」
背筋を伸ばし、王様と正面から向き合う。
すると王様は僅かに目を見開き、「その通りだ」と頷いた。
「どうか彼らを立ち直らせてもらえないだろうか。彼らは仲間を失い、強い衝撃を受けている。中には食事もろくに取れなくなった者もいる。私は彼らに、生きる気力を取り戻してもらいたいのだ」
「なるほど……救世主様のことはサリスタ様も気にかけておられます。微力ながら、尽力させていただきます」
実際俺のせいでいつまでも落ち込まれたり、万が一命を落とされたりしたらたまらない。いっそ生きてますよーって言えればいいんだけど……何というか、死んで盛大にショックを与えておきながらひょっこり顔を出す気まずさがどうにもこうにも……。
まぁこんなんでどうやって立ち直らせるんだって話だけど、ひとつだけ心当たりがある。
というかもうそれ頼みなんで、どうか効果がありますように……!
「そうか、引き受けてくれるか! しかし今日はもう遅い。今宵はゆっくり休み、明日からよろしくたのむ」
「ご配慮頂き、感謝いたします」
丁寧に礼をして謁見の間を出る。
急に王城に招かれて混乱したものの、冷静になってみれば伝もなく王城に入れた上に、直接クラスメイトの様子を知る機会を得た形だ。実にありがたい。
付添人として同行してくれた司祭様にお礼を言って別れ、案内された部屋に入るなりばたりとベッドに倒れ込む。
久々の地上だと言うのに今日はいろいろありすぎた。そのせいか押し寄せてきた疲労感と睡魔に抗うことができず、俺の意識は急速に落ちていった。




