身バレは全力で回避します
翌日。
目覚めればまだ日が昇る前で、けれどすっきりした目覚めだったのでそのまま起き上がる。神界で訓練を受けていた時は目覚めてすぐにストレッチをしていたので、それに倣って軽く体を動かしながらふと思い立って白夜に問いかけてみた。
「なぁ、白夜。神の奇跡について訊きたいんだけど、再起の奇跡は挫折している状態の人間になら使えるんだよな?」
「そうだね」
実にあっさりと望む答えが返ってきてほっと胸を撫で下ろす。
そんな俺に白夜は呆れたような声を上げた。
「どういうつもりで訊いてきたのかはわかるけど、そもそも彼らはキミが死んだから落ち込んでるんでしょ? ならキミが生き返ったことを教えてあげればいいんじゃないの?」
ズバリと痛いところを突いてくる。
正体を隠そうとしている時点で無言の訴えのようなものを感じてたけど、ついに切り込んできたか……。
「身バレ、したくないんだよなぁ」
「何で? 理由は? どうせ大した理由じゃないんでしょ?」
ぐいぐい突っ込んでくるなぁ。
でもな。
「俺にとっては大した理由なんだよ。俺が死んだせいでみんな落ち込んでるのに、突然顔を出して神様の力で生き返りましたーなんて言うのもな。それに、俺はもう元の世界に帰れないんだし、このままフェードアウトするのがいい気がするんだよなぁ」
「……ああ、なるほどね」
白夜は「それは確かにそうかも」と納得の声をあげて黙り込む。どうやらこれ以上突っ込まれることはなさそうだ。
ともあれ俺の予想通り、今回頼りにすべきは俺にも使えるという神の奇跡になりそうだ。再起の奇跡さえ効力を発揮してくれれば塞ぎ込んでいるクラスメイトたちも持ち直せるはず。
なのでサリスタ様、どうか俺に力を貸してください……!
その後、身支度を整えて一息ついているとメイドさんが現れて「陛下から会食のお誘いがあります」と告げられた。
せっかくの機会だし王様からみんなの状況をもっと詳しく聞いてみよう、ということで快諾する。
みんなと言えば、直接会うのに素の声のままだとバレるかな? 気持ちちょっと低めにして、口調も敬語にしとけば印象が変わってバレにくいのでは。
いっそのことがっつりキャラを作って演じ切れば誤魔化せそうな気もする。よし、それで行こう。
動きもゆったりめにして、話すテンポもゆっくりにして……。
そんな風にあれこれ考えながらメイドさんの案内で部屋を移動する。そして「こちらです」と示された部屋に入り──
「ひゅっ」
喉から変な音が出た。
「桜庭花子と申します。本日は私たちのために力を貸してくださると聞いて、お礼を申し上げたく……」
「い、いやいや、どうかお気になさらず。サリスタ様の御心に添ったまでのこと」
まさか会食の場に委員長が、さらに言うなら瀬良くんまでもがいるとは思わなかった。
しかし動揺していても仕方がない。落ち着くんだ、俺。せっかくの機会だ、この状況をプラスに考えて、王様より的確にクラスメイトの状況を把握してるであろう人物──つまり委員長と瀬良くんから直接あれこれ聞いてしまおう!
「えーと……陛下、彼らからお話を聞いてもよろしいでしょうか?」
「構わぬ、むしろそのつもりでこの場を設けたのだ。ハナコとシュンペイなら他の救世主たちのことも正確に把握しているからな」
さすが王様。こちらが細かい情報を欲しがると見越していたのか。
しかし、まずったな。とんだ失態を犯してることに今さら気が付いてしまった。
「失礼いたしました、陛下。名乗るのが遅れましたが、私の名はクライルと申します」
「ほう、そなたはクライル殿と申されるか。希少なサリスタ様の神使殿だったゆえ、こちらも名を伺うのを失念していた」
内心戦々恐々としながらこれ以上手遅れになる前にと名乗ってみれば、王様は笑顔で許してくれた。
その笑顔も温かで、俺の未熟さを見抜いた上で見逃してくれたのだと分かって自然と頭が下がる。
「寛大なお言葉、痛み入ります。それでは改めまして……ええと、サクラバ殿? ハナコ殿? どのようにお呼びすればよろしいでしょうか」
気を取り直して、初めて会う相手というスタンスで委員長に話しかけてみる。とは言え、ここまでの反応を見る限り俺の正体に気が付いている様子はないんだけども。
「ハナコで構いません。サクラバはファミリーネームなので」
「ではハナコ殿。そしてそちらがシュンペイ殿ですね。おふたりにお聞きしたいのは、本日会う予定の救世主様方のことです。どのような状況か教えていただけないでしょうか」
「はい。ではまず僕から──」
先に語りだしたのは瀬良くんだった。
瀬良くんは男子のまとめ役になっているらしく、男子の状況を教えてくれた。
曰く、男子の半数は塞ぎ込んで訓練にも参加できない状況にあり、残り半数は危機感を覚えて逆に訓練に励んでいるとのこと。
記憶にある男子たちの顔を思い浮かべ、誰がどちら側に傾いたかをざっくりイメージしてみる。我が友・大島洋介は恐らく後者だろう。
その後も瀬良くんは男子生徒の名前が書かれたリストを出して、どの名前の人物が今どういう状況かを事細かに教えてくれた。
確かに詳細は知りたかったけど、予想以上に情報が細かくて全部覚えるのは無理! とりあえず塞ぎ込んでる奴らの名前にチェックが付いてるからそこだけ覚えておこう。
「次は私から」
続いて委員長が切り出した。
瀬良くんが男子担当なら女子担当は委員長らしい。
曰く、女子は三分の二が訓練放棄。内半分は部屋に引きこもり、残り半分は時空神の力に頼らず元の世界に帰る方法がないか、この国の文官や魔法使いたちと一緒に調べているそうだ。
訓練に参加している女子は男子と同じく危機感を覚えて己を鍛えているらしい。
女子はなー……あんまり関わりがなかったから誰がどういう子っていうのを把握しきれていないというか。目立つ子はわかるんだけど、半数くらいは誰がどのタイプになったか想像することもできない。
最後に委員長は瀬良くんと同じく女子の名前が書かれたリストを出して、どの名前の人物がどういう状況かを教えてくれた。もう頭がパンパンです。
とは言え知りたかったことは大体把握できたし、今度はこちらの番だな。俺に何ができるかを伝えてみよう。
「おふたりはサリスタ様が司るものが何であるか、ご存知でしょうか?」
「はい。滅びと再生、挫折と再起、停滞と循環を司っていらっしゃるんですよね」
すらすらっと答えてくれたのは委員長。百点満点の回答だ。
俺はゆっくりと頷きながら続ける。
「私にはサリスタ様より授けられた再起の加護があります。加護を得た者はその奇跡を他人に施すことができる。しかし、それには条件があるのです」
「条件……ですか?」
首を傾げる瀬良くんに俺は再びゆっくりと頷き、答えを口にした。
「再起に必要な条件は挫折。つまり私が奇跡の力で立ち直らせることができるのは、現状を打破できないと諦めている人だけです。すでに再起し、行動を起こしている方々の力になることは難しいかと思います。ただ……」
そう、ただ。俺には地獄の訓練を乗り超えた経験がある。
「私、少々武芸の心得がありまして。もしよろしければ、訓練の様子を拝見させていただいても構いませんか?」
これでクラスメイトが命の危機にさらされる可能性を減らせるなら、武芸の神ストレイル様直伝・熱血脳筋スパルタ特訓(真っ当な人間用にバージョンダウン)を伝授するのも吝かではない。




