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女神様の眷属  作者: みぬま
エインルッツ王国 商業都市マルトレン編
46/113

使者との対面

 翌日。

 いつ王様の使者が来るかわからないので、時間を潰すべく改めて街を散策することにした。と言ってももう絶対にメインストリートには行かないけどな!


 同行者はヴェントさん。これは領主様からの要望で、使者が到着した際の連絡役らしい。

 聞けばやはりこの世界には伝達の魔法が存在するそうで、ヴェントさんはその伝達魔法の使い手なのだとか。


「クライル殿、本日はどちらに向かわれますか?」

「そうですね……本当は昨日、マルトレンでどんなものが売られているのか見て回るつもりだったのですが……」

「ああ、昨日は迷子の保護をしてくださっていたのですよね。では本日改めて散策されますか?」

「いえ、あの人混みの中に行くのはちょっと」


 おっと、つい本音を零してしまった。しかしヴェントさんは苦笑を浮かべて「わかります」と同意してくれた。


「では表通り以外の店を見て回るのはどうでしょう? そちらでしたら人通りもまばらですし、露店の多い表通りとは趣の違う店がたくさんありますよ」

「いいですね、案内してもらえますか?」

「ええ、こちらです」


 そうしてヴェントさんが案内してくれたのは表通りから一本外れた道にある店だった。たった一本道をずらしただけで人口密度がまるで違う。


「こちらは雑貨店ですが、魔法道具なども取り扱っています」

「魔法道具……ってことは、魔力が必要なんですよね?」

「そうですね。あっ、もしかしてクライル殿は……」


 ヴェントさん、察しがいいな。どうやら魔力の器を持たない人間がいることを知っていたようだ。

 俺は頷いて肯定する。


「左様でしたか……では雑貨だけでも覗いてみませんか? 旅人向けの道具もありますし、掘り出し物が見つかるかもしれませんよ」


 そこまで勧めるのならばと店に入ってみる。そしてヴェントさんの勧めに乗ってよかったと痛感した。


「わぁぁ、何ですかこれ! えっ、うそ、こっちのもめっちゃ便利!」


 掘り出しものなんてもんじゃない。折りたたみ式の調理用ナイフとか、発火石を装填すると任意の大きさの火種が起こせる道具とか、野営をするなら必須であろう道具の進化版が山ほどある。

 あれもこれもと手にとってしまうのは、何かと嵩張る調理道具を嫌って野外では携帯食料ばかり食べていたからだ。でも小型化されてたり複数の機能を持っていたりすれば嵩張り方が違う。これで野外でも温かい料理が食べられる!



 そんなこんなで店の隅々まで見ているうちに結構な時間が経過していたらしい。ヴェントさんが昼食の時刻ですよ、と声をかけてくれなければ夕方まで店に張り付いていたかもしれない。


 何とか物欲を抑え込み、必要最低限のものを購入して店を出る。そしてヴェントさんお勧めの飲食店へと向かった。

 こういうのも現地の人が一緒だとうろうろしなくて済むから助かるなぁ。


「こちらは領主様も利用するお店なのですが、私のような庶民でも気負わずに入れるのでお勧めです」


 案内された店は確かにやや高級感はあるものの、庶民でも奮発すれば入店できるくらいの値段設定だった。ドレスコードとかもなさそうだし……とは言っても気分の問題なのだろう。店内にいる客はみんなおめかししている感がある。

 ちなみに俺はいつもの巡礼者服だ。これが一番見栄えがいいし、何故か綻びもしなければ汚れもつきにくい。おかげで予備として購入した服はこの服が着れない状況でもなければ出番がない。


 ともあれ、店に入って食事を始める。ヴェントさんも普通に同席してくれてほっとした。領主様の歓待っぷりから俺に対する扱いがこう、貴族向けというかそんな感じだったから同席してもらえないかと思ったけど、そこまで堅苦しいものでもなかったらしい。これは素直に嬉しい。あまり恭しくされても困るだけだし。


 そうして食事を終え、次の店に……と移動を始めた時だった。ヴェントさんが「失礼します」と断ってから道の端に寄って耳に手を当てる。そしてひとつ頷き「わかりました」と言ったので、恐らく例の伝達の魔法を使っているのだろうと予測する。

 もう領主邸に戻ることになるのかとちょっと残念に思っていると、ヴェントさんはちらっと近くの店の看板を確認して「十の三十二です」と告げる。おや? と思っているうちにやり取りを終えたのだろう、ヴェントさんがこちらに戻ってきた。


「使者の方が到着されたのですが、使者の方もマルトレンに興味があるらしくこちらに向かってくるそうです」

「そうですか」


 ということは使者の人もマルトレンに来るのは初めてなんかな? 使者というからには国王陛下の信頼が厚いのだろうし、ということは王様に近い場所で働いてるんだろうし、そういう立場の人がこの国の経済の要衝であろうこの街に来たことがないというのも何とも不思議な感じがするんだけど……。

 まぁそんなこともあるのかな、と適当に納得しておく。


 待っている間は裏道にもちらほらと出店している露店を覗いて時間を潰すことにした。不意に仮面を取り扱う露店を見つけて何となく立ち止まる。

 ずらりと並べられた仮面を眺めながら、そう言えば白夜はずっと仮面に変化(へんげ)してくれてるけど疲れないのかなと疑問に思う。でもヴェントさんや露店主がいる前では聞きづらいしなぁ。


「仮面に興味がおありで?」

「えーと、何となく」

「今使っておられる仮面も素晴らしいものだと思いますが」


 俺もそう思う。でもさ、白夜はどう思ってるんだろう。

 今まで気にかけていなかったのに、一度気になってしまうとどうにも落ち着かない。


 露店の仮面に手を伸ばそうかどうしようか迷っていると、瑠璃がわずかに揺れた。まるで「気にしてないってさ」と言っているような、そんな感覚が伝わってくる。

 いつもは白夜が瑠璃の言葉を通訳してるのに、今回は瑠璃が通訳してくれた。そんな気がしてつい笑みが浮かんでしまう。そのタイミングで。


「あっ! いた!」


 何やら聞いたことのある声が、しかしこの場で聞こえるはずのない声が耳に届いて振り返る。すると見覚えのある人物が駆け寄ってきた。


「いやいやいや」


 思わず声に出して呟いてしまう。

 いやだって、まさかこんなところに……ん? あれ? もしかして、国王の使者って──


「久しぶりだな! アキ──じゃない、クライルさん!」


 駆け寄ってきた洋介に、何か恨みでもあるのかと問いただしたくなるような強さでバシンと肩を叩かれた。コノヤロウ……。


「お久しぶりですね、ヨウスケ殿!」


 立ち上がり、仕返しとばかりに洋介の肩を叩き返す。一応手加減したけど、洋介は「いてぇ!」と叫んで蹲った。


「ちょっ、大島くんどうしたの!?」


 やり返せて満足していると、またもや聞き覚えのある声が聞こえてきた。そちらを見れば、委員長が慌てて走ってきて蹲る洋介に寄り添う。


 んん? あれれ?

 もしかして使者ってひとりじゃなかったんか?


「こ、こんにちは? ハナコ殿」


 とりあえず挨拶しとこうかな! と思って声をかけてみると委員長が顔を上げ、目を見開いた。その口が「あ」の形に変わっていく。そして、


「クライルさん! お久しぶりです!」


 勢いよく立ち上がった委員長はその勢いのまま綺麗にお辞儀をしてみせた。その速度たるや、俺が気圧されるほどだ。


「お久しぶりです……いやしかしまさか、使者殿が御二方とは思いもよらず、びっくりしました」


 素直な感想を零すと痛がっていた洋介がようやく立ち上がった。そして何故か胸を張る。


「驚いたか? もっと驚け、俺も委員長もここまで走って来たんだぜ!」

「へぇ、それはそれは。しっかり鍛錬を続けていらっしゃるのですね」


 それを自慢したかったのか。でもまぁこの短期間でこの成果なら及第点だな。

 使者が来ると聞いたのが昨日であることを考えると、洋介たちが王都を出発したのは恐らく今日。現在の時刻は昼過ぎ。仮に朝出発してここまで走ってきたのなら、ふたりが息切れしていない点も含めて成果は上々だ。


「お話し中失礼します。募る話もあるでしょうし、近くの飲食店に入りませんか?」


 露店前で話し始めた俺たちにそう提案したのはヴェントさん。さすが有能従者(俺の中で確定)。

 洋介と委員長についてきた護衛兵も含め、俺たちはヴェントさんの案内で昼食を摂った店とは別の店で腰を落ち着けることになった。

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