30-Ⅳ 福山の告白【隠し文字の答え】
登場人物紹介
伊藤麻紀……主人公。大学1年生。法学部
伊藤由美……麻紀の母親。UGC職員
伊藤史子……麻紀の叔母。麻紀の父親の妹
伊藤教授……麻紀の祖父。装置の開発者。黒田総裁と峰准教授と級友
黒田総裁……元総理大臣。UGC総裁
峰准教授……H大学の准教授。児島の父。黒田総裁と伊藤教授の級友
海老原教授……H大学教授で峰の上司
児島…………装置盗難の容疑者で伊藤教授のアシスタント
福山…………由美の同僚
西村院長……西村病院の院長。装置の共同研究者。独特の個性を持つムードメーカー
洗脳計画書
1M村を洗脳、私の独裁コミュニティ(王国)を築けるか検証する
2洗脳者は私に忠実でなければならない
3アイテムはインフラ整備に従事、村を先進小都市に発展させる
4農業事業者アイテムに土地を耕させ、自給自足を可能にする
5アイテムの財産は全て私が管理する
6投資家アイテムに資金を運用させ利益を得る
7村周辺の土地所有者をアイテムにし、外部の者の侵入を防ぐ
8外部から次のような専門技術者を拉致、洗脳、アイテムにする
ターゲット
・独身、且つ又身寄りがない者、あるいは家族と疎遠の者
・インフラ整備に関して技術のある者
・プラント企業社員や化学機械の専門知識がある技術者
・農業従事者
・税務署職員や司法書士、行政書士、弁護士等
・土木関連、建設業者、大工など職人経験がある者
・元自衛隊員、元警察官または警備に精通した者
・コンピューター関連技術者
・飲食店経営経験者、あるいは料理人
・投資家他、金融
・ガス、水道、電気事業者、医療関係者・・・等あらゆる技術者
以上私の王国を築けるか、アイテムが私に一生を捧げるか検証する
児嶋祐樹 M村にて 二月二十日
0・0・二・八・十二・0・0・0・(九・二十三)・0・六・
十・十六・0・14・二十・十四・3・17・5・三・九・九
「タイトルである1行目は0、隠し文字は無い。
2行目も0、隠し文字は無い。
3行目は二文字目「洗」は「あら」と読み、頭をとって「ア」。
4行目は八文字目「ン」だ。
5行目は十二文字目で「土」で「ど」と読める。
6~8行目は隠し文字無し。
9行目は(九・二十三)だから九文字目と二十三文字目で「う」と「ア」だ」
西村院長は、携帯画面に映し出された洗脳計画書を指さしながら、説明した。
「こうやって読んでいくと「洗ン土うアつし専政がはン人他スけて」「安藤厚司先生が犯人助けて」となるね」
僕達はあっけにとられて院長の解説を聞いていた。
彼はかなり頭が切れる男らしい。
印象とのギャップに僕は驚いた。
「児島君は、安藤に気付かれないよう、この計画書を書いて、警察に届くよう仕向けたのね。真犯人の名前を伝えるために」
院長の謎解きに由美は感心したように言った。
しかし、まだ謎は残る。
計画書にある、未来の日付と、漢数字に含まれるアラビア数字だ。
「そういう訳だから、君、峰の診断書に嘘を書いた事は内緒にしておいてね」
「はあ」
何が「そういう訳だから」なのかよく分からないが、僕達はすっかり院長のペースに巻き込まれていた。
「西村、監視カメラについて話しを戻すが、どういう事なんだ?」
「それがさあ、福山君と峰の入院直後、監視カメラを調べたいからって警察が監視カメラの映像を全部押収していったんだよ。僕は学会で留守にしていたから理事長、僕の美人の奥さんの良子さんが対応したんだけど、カンカンだよ。ろくに調べもしないで児嶋君を犯人って決めつけて、警察の目は節穴かって。良子さんはムカついて録画は全部は渡さなかったんだって。病院内って言ったから建物内にある監視カメラしか渡さなかったの。実は外にもカメラがあるんだよね。さすがは良子さんだ」
「院長! 困ります!」
由美が叱るように言った。
西村院長は由美の言葉にとぼけたそぶりを見せた。
誰も彼には敵わない。
「認知症患者さんが外に出ちゃう事があるんだよね。だから木の上からも病院敷地内外を監視してるんだ。お見せするよ」
僕達は院長の豪華な部屋で、録画した映像を見せてもらった。
総裁が児嶋君を車に乗せて走り去るまでの一部始終と、海老原教授が車に乗り込み、総裁の車を追って走り去る場面。
そして3人の若者が、その後を慌てた様子で追いかける姿が記録されていた。
しかし、顔は不鮮明で分からなかった。
監視カメラを押収したのは警察ではない、僕はそう直感した。
総裁秘書かUGC職員か……。
黒田総理の行動についてどう思うか、と西村院長と峰准教授に訊ねた。
西村院長は黒田には立場があるから言えない事もあるのだろうと擁護し、峰准教授も、黒田は真面目で心から平和を願う男だからよっぽどの事情があるに違いない、と言った。
その日の夜、峰准教授が病室から電話をくれた。
峰准教授の声は暗かった。
伊藤教授が峰准教授の病室を訪れ、児嶋がまるで別人だったと話したという。
まるでロボットのように供述を繰り返す児嶋を、伊藤教授はアイテムだと確信したという。
安藤が装置を操っているのだろうか。
児嶋は操られて嘘の供述をしている、と伊藤教授が訴えるも証拠はなく、警察はとりあわなかった。
そこで、伊藤教授は被害届を取り下げ、告訴はせずに、児嶋の釈放を待つことにした。
伊藤教授は、児島が釈放されたら、治療をしようと考えたのだ。
その後も、安藤は捜査されず、僕は、総裁が動かない事を疑問に思った。
児嶋と海老原教授が事故死すると、警察は2人を犯人と判断し、捜査を終了した。
その数日後、僕は偶然UGCに忍び込む不審な女に遭遇した。
通路の突き当たりで、左右どちらに進むべきか、辺りを警戒しながら、きょろきょろしている彼女に、僕は見覚えがあった。
伊藤史子だった。
由美をつけてここまで来たに違いない。
すぐに彼女は職員に見つかり捕えられた。
職員に強烈な肘鉄を喰らわせ反撃し、逃げようとした彼女に、僕は乱暴にも足を引っ掛けて転倒させ、押さえつけた。
「史子さん! ここで何をしているんですか!」
「福山さん!」
史子さんはほっとした様子で、児嶋の事、手紙の事、安藤の事、黒田総理に疑念を抱いている事を話してくれた。
僕も安藤の件では黒田総裁の行動に疑問を抱いていると打ち明けた。
UGCに忍び込んだ事を、両親には内緒にして欲しいと言う史子さんと、僕は取引をした。
彼女を黒田総裁の部屋まで案内する代わりに、総裁から得た情報を僕にも報告して欲しいと、お互い情報を共有する事になった。
それから僕と史子さんは個人プレーで事件を捜査するようになった。
その後、事件は想像以上の展開を見せる一方で、装置は回収されることなく、アイテムの数は増えていった。
そして僕は重大なミスを犯してしまった。
孝之君を事件に巻き込み、彼の命と由美の幸せを奪ってしまった。
僕が彼の代わりに行くべきだったと、僕は由美に申し訳ない気持ちでいっぱいで、由美の顔をまともに見る事が出来なくなった。
その後、僕は由美と距離を置いた。




