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私はアイテム  作者: 月井じゅん
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30-Ⅲ 福山の告白【ムードメーカー登場】

登場人物紹介


伊藤麻紀……主人公。大学1年生。法学部

伊藤由美……麻紀の母親。UGC職員

伊藤史子……麻紀の叔母。麻紀の父親の妹

伊藤教授……麻紀の祖父。装置の開発者。黒田総裁と峰准教授と級友

黒田総裁……元総理大臣。UGC総裁

峰准教授……H大学の准教授。児島の父。黒田総裁と伊藤教授の級友

海老原教授……H大学教授で峰の上司

児島…………装置盗難の容疑者で伊藤教授のアシスタント

福山…………由美の同僚

 包帯を外した峰准教授が言った。


 「君達はなぜ真犯人を知っているのです? 児嶋祐樹と会ったのですか?」


 「峰准教授! 話せるんですか?」


 由美が驚いて言った。


 「この病院の理事長と院長は知り合いでしてね。院長はなんでも相談に乗ってくれるいいヤツなんです。それより、黒田総理が児嶋祐樹を連れて来たとは? 児嶋祐樹はその後どうなったのでしょう?」


 「児嶋君は今朝早く警察に出頭し、逮捕されました」


 峰准教授が眉間に深い(しわ)を寄せた。


 「逮捕された? 今朝? 彼は犯人ではない!」


 「彼は自分が犯人だと自供しています」


 「そんなばかな! そんなはずはない!」


峰准教授はベッドから背を起こし、興奮気味に言った。


 「なぜそんなはずはないと思われるのですか? 児嶋君が犯人ではないと思う理由は何ですか?」


 「君達こそ、真実をどのようにして知ったのですか? あなたのご質問通り、私は児嶋祐樹に会って、彼自身から事件の真相を聞いた」


 「ご質問に答える前にお聞きしたいのですが、児嶋君とあなたはどのようなご関係ですか」


 「裕樹は私の息子だ。裕樹にはまだ、私が父親だと名乗っていないが」


 「なんですって?」


 「事情があって一緒には暮らせなかった。罪滅ぼしにと、私が伊藤を紹介したんだ。こうなったのは私せいだ」


 峰准教授は頭を抱えて唸った。


 「そういう事でしたか」


 「なぜ、峰准教授は面会謝絶にしてるんです?」


 由美がメモ帳とペンをサイドテーブルに戻しながら尋ねた。


 「警察は信用できない。それに、安藤が私を装置盗難の共犯に仕立て上げようとしている、そう裕樹に警告された。だから、しばらくここで様子を見て対策を練ろうと思った。安藤は姑息な男だ。君たちは装置がどんなものかも知っているのか」


 「はい。やはり装置と安藤をご存じでしたか」


 「ああ。木曜の夕方、そろそろ帰ろうとしていた時に、裕樹が飛び込むように大学の私の部屋にやって来た。そして全てを話してくれた。話している途中で海老原教授が現れ、裕樹を無理矢理連れ出そうとしたんだ。私が裕樹を助けようとすると教授が殴りかかってきた。私は裕樹を逃がそうと必死で抵抗した。そこに偶然通りかかった学生3人が助けに入ってくれたおかげで、裕樹は警察に行けた、行ったものだと思っていた」


 「その後、児嶋君は姿を消しました。そして今朝早く警察に出頭し、自分が装置を盗んだと供述しています。海老原教授も児嶋祐樹が共犯だと自供しています」


 「そんなばかな! 犯人は安藤だ! 裕樹は犯人ではない!」


 取り乱す峰准教授に僕は改めて質問した。


 「峰准教授、児嶋君があなたに話したのは、安藤についてだけですか?」


 「その前に、君はまだ私の質問に答えていない。君は裕樹に会ったのか? なぜ安藤が真犯人だと?」


 「児嶋君はあなたと会う前にこの病院に来ていました。おそらく伊藤教授か院長に真相を話そうとしたのでしょう。しかし2人は不在だった。ところが偶然、黒田総理に出会い、児嶋君は総理に真相を打ち明けました。児嶋君はあなたに会ってから警察に出頭したいと言い、総理が児嶋君を車でH大学までお送りしました」


 「そうだったのか。話の途中で海老原教授が入ってきたから、きっと裕樹はその事を私に話せなかったんだ」


 僕は総裁が「誰にも言うな」と児島に口止めしていた事を話さなかった。


 「峰准教授、児嶋君から何か他に聞いていませんか?」


 由美が訊ねた。


 「安藤が装置で人々を洗脳し、コントロールしようとしている、という話を聞いた。裕樹は安藤に騙され、装置を奪われた。そして安藤に監禁され、脅され、命令通り海老原教授と学生たちをアイテムにしてしまった。海老原教授は安藤の言いなりだ」


 「海老原教授がアイテム!?」


 僕達は驚いた。


 「峰准教授はアイテムもご存知でしたのね」


 「ああ。海老原教授に襲われた時、話は真実だと確信した。海老原教授は私の知っている海老原教授とはまるで別人だった」


 「本当ですか! やはりあの3人も操られている可能性が高い、危険だ! 助けに入ったという学生について何か覚えてますか」


 「見覚えのない学生だったと思う」


 「彼らはアイテムかもしれません」


 「彼らが? しかし彼らは私を助け、裕樹を逃がしてくれた。彼らが安藤にコントロールされているアイテムだとしたら、つじつまが合わないぞ」


 すると由美の携帯が鳴った。

 UGC職員からの報告だった。


 「伊藤教授が今警察署にいるそうよ。児嶋君の面通しと、改めて事情聴取されているらしいわ。児嶋君に衣類などの生活必需品等の差し入れも申し出てくれたようです。ひとつ気になる事が」


 「なんだ、由美」


 「ちょっとここでは。あとで話すわ」


 「裕樹に関わる事か? だったら教えてくれ! 頼みます!」


 峰准教授が食らいつき、由美は気まずそうに言った。


 「実は……職員の報告によると、伊藤教授が児嶋君を見て「確かに児嶋祐樹だが、いつもの彼ではない、まるで別人だ」と言ったそうです」


 「まさか!」


 僕と峰准教授は同時に声を上げた。


 「今朝出頭したばかりですし、動揺していると思うので、なんとも。疲れもあるでしょうし。暫く様子をみましょう」


 由美が峰准教授に気を遣ってそう言うと、峰准教授は動揺を抑え込もうと、自分に言い聞かせるように呟いた。


 「そ、そうだな。装置を扱える人間は伊藤と裕樹以外いないはずだ。伊藤がついているし大丈夫だ。それに黒田が真犯人を知っているなら、きっと裕樹の無実もすぐに証明されるだろう」


 「黒田? 伊藤?」


 「黒田と私と伊藤は同級なんだ。ここの院長も」


 「そうでしたか。でしたらなぜ黒田総理は児嶋……息子さんに会った事を、あなたに報告しないのでしょう?」


 「忙しいんだろう。それにいま私は面会謝絶だ。きっと黒田は今ごろ安藤を調べているに違いない。証拠がなければ何も言えないのだろう」


 由美が何か思い立ったように言った。


 「峰准教授、学生3人の顔、見れば分かりますか?」


 「顔を見れば思い出すかもしれないが」


 「病院内の監視カメラに映ってないかしら。それでアイテム3人の身元が分かるかもしれないわ」


 「そうだな、3人のアイテムの顔も、黒田総理が児嶋君と一緒にいるところも確認できるかもしれない。俺を襲った海老原教授も映っているかもしれないな」


 「それはどうかなあ」


 「誰だ!」


 とつぜん背後のクローゼットから声がし、僕と由美が身構えると、洋服掛け用のクローゼットから西村病院の西村院長が出てきた。


 「びっくりした? 僕だよ」


 「西村! 何してるんだ」


 峰准教授は驚き、声を上げた。


 「ダメだよぉ、福山君、プロが僕の気配に気が付かないなんて。びっくりした? ここ、この棚の裏、可動式なの! ここから外に逃げる事ができるんだよ。僕が考えたスペシャル病室。どう? すごい? 妹の旦那が建設会社のお偉いさんでね。こっそり作ってもらったんだ」


 「そんなもの仕込んでたのか! ずっとそこにいたのか?」


 「すごいだろう? この部屋がどんなものか峰で試してみようと思ってさ。そしたら面会謝絶なのに入っていく2人を見かけたから来てみたんだ」


 「監視カメラで私達を見てたのか?」


 「だって、患者さんが外に出たり危ない目にあったりする事だってあるんだよ? 警備員室でコーヒー飲むのが唯一の僕の楽しみ」


 病院長の西村進だ。

 西村院長は独特の個性を持つ、愉快な人物でムードメーカーだ。

 彼の祖父は世界で名の知れた大企業の社長で、西村病院はその企業立病院、大病院だ。


 「福山君、大変だったね。もう怪我はいいのかい? 峰の事なんだけど、誰にも会いたくないっていうから包帯でぐるぐる巻きにしてやったんだ。頭を切ってはいたけどね。この事は内緒で頼むよ」


 様子を察するに、彼は全て知っているようだ。

 児嶋が来た事、児嶋と黒田総裁が会っていた事も、おそらく知っているのだろう。

 見かけによらず口は固い様だ。


 「で? 峰はなんでこんな事してるんだ?」


 口が堅いだけじゃない、詮索したり、口出しもしないようだ。

 事情も知らずに峰准教授をこの部屋に招き入れたとは。


 「裕樹に言われたんだ。海老原教授と安藤の嘘の証言で、私も共犯に仕立て上げられるかもしれない、身の潔白を証明する証拠を用意しておくようにと。私は安藤がどんな男かよく知っている。だから考える時間が欲しかったんだ」


 すると西村院長が何か思い出して言った。


 「あんどう?あんどう……。どこかで。ああ、あれか!」


 「なんです? 院長。まさか安藤に何か心辺りでも?」


 僕がそう言うと、西村院長は組んだ腕を解き、人差し指を上に向けた。


 「ほら、あの計画書だよ。なぜか未来の日付が記されていた、児嶋君の洗脳計画書。警察が装置について訪ねてきた時、見せてもらったんだ。あれには隠し文字が仕込んであったよ。ちらとしか見なかったけど「あんどうあつし」とあったね」


 「なんでそれを早く言わないんですか!!」


 由美が目を丸くして言った。


 「言わなかったっけ? でも、間違ってるかもしれないし」


 「そんな一瞬で隠し文字に気付いたんですか!? いったいどこに隠し文字が?」


 由美に迫られ、西村院長は少し後ろにのけ反りながら、まあまあ、と由美に向けて両掌を広げた。

 本当に意外性のある男だ。

 隠し文字に気付いていたとは。


 「簡単だよ。最後の2行の漢数字だ」


 由美は携帯に保存してある、洗脳計画書を僕達に見せた。


 「最後にある漢数字には隠し文字が何文字目にあるか表しているんだ。子どもの遊びだ。僕も小学生の時、こうやって授業中に友達と教科書で隠し文字のやり取りをして遊びの計画を立てていたもんだよ」


 院長は、どれどれ、と由美の携帯を見ながら説明し始めた。

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