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私はアイテム  作者: 月井じゅん
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30-Ⅱ 福山の告白【峰准教授】


登場人物紹介


伊藤麻紀……主人公。大学1年生。法学部

伊藤由美……麻紀の母親。UGC職員

伊藤史子……麻紀の叔母。麻紀の父親の妹

伊藤教授……麻紀の祖父。装置の開発者。黒田総裁と峰准教授と級友

黒田総裁……元総理大臣。UGC総裁

峰准教授……H大学の准教授。児島の父。黒田総裁と伊藤教授の級友

海老原教授……H大学教授で峰の上司

児島…………装置盗難の容疑者で伊藤教授のアシスタント

福山…………由美の同僚

 由美も黒田総裁の行動を不思議に思ったようだ。


 「総裁は児嶋をかばってた。だから捕まえるような事はせず、自ら出頭させたかったんじゃないかしら」


 「そうかもしれないな。で、真犯人の安藤はどうしているんだ?」


 「知らないわよ、そもそも安藤が犯人だなんて、今初めて知ったんだから。それが本当なら海老原教授と児嶋は、なぜ自分がやったと自供したのかしら。そう言えば、装置がまだ見つからないの」


 「装置は安藤が持っているのかもしれない。なぜ総裁は安藤の捜査を命じないんだ。もしかしたら児嶋が会いに行った峰とかいう大学の先生が何か知っているかもしれない。H大学へ行ってみるか」


 「そのH大学の峰准教授、今この病院に入院中よ」


 「馬鹿な、ミネ違いだろ?」


 「あなたが病院で処置を受けた直後、峰准教授が救急車でこの病院に運ばれてるの。彼はH大学構内で暴行を受けて大怪我を負ったの。重症で話しは聞けないみたい。私を警察と勘違いした看護師が「面会謝絶でお話は聞けませんよ」って言ってたわ」


 「峰准教授を襲った相手は誰なんだ?」


 「装置盗難を自供した海老原教授よ」


 「なんだって? いったい何がどうなっているんだ?」


 「それが不思議なの。傷害で逮捕された海老原教授は暴行については何も語らず、装置盗難についてだけ供述しているの。自分が児嶋君をそそのかして装置を盗ませたって。そう言えば……峰准教授も救急車で運ばれる前に誰かに適切な処置を受けたらしく、大事には至らなかったそうよ。救急と警察に通報したのは匿名の若者だって」


 「まさか、またあいつら3人か?」


 「救急が駆けつけた時、海老原教授は2人の若者に取り押さえられていたらしいわ。その後、彼らは姿を消した」


 「峰准教授の怪我の具合はそんなに悪いのか?」


 「ええ、頭も顔も包帯グルグルですって。あなたと峰准教授を介抱したのが同じ若者なら、彼らは何者かしら。児嶋君を追っていたみたいだし……まさか大学生アイテムの3人!?」


「俺も一瞬そう疑った」


「もし拉致された大学生なら、助けを求めればよかったのに。なぜ姿を消したのかしら」


 「アイテムだからじゃないのか。アイテムならば誰かの指示に従って動いている。コントロールされているんだろう。しかし彼らが洗脳された「操り人形」にしてはものすごくいい子達だった」


 「そのいい子達に殴られたわけ?」


 「いや、俺を殴ったのは別の男だ。背後から突然襲われたんだ。倒れる時にちらっと顔を見たが白髪頭の知らない顔だ」


 「白髪頭? あなたと峰准教授を介抱したのが同じ人物なら、襲った人物も同じだったりして! この写真を見て」


 由美は僕に携帯の画像を見せた。


 「そう! こいつだ! 誰なんだ?」


 「海老原教授よ! いったいどうなってるの。海老原教授とアイテムかもしれない3人は児嶋君を追っていた。そして海老原教授はあなたと峰准教授を襲った。その後3人は児嶋を連れ去り、消えた?」


 「案外いまごろ児嶋が安藤について供述しているかもしれないな。総裁は児嶋を自首させる為に誰にも真相を話さなかった、それなら総裁の行動が理解できる」


 「きっとそうよ! 後で警察に行って児嶋がどんな様子か探ってみるわ。だけど児嶋はなぜ峰准教授に会いに行ったのかしら。なぜ海老原教授は峰准教授を襲ったのかしら」


 「それは本人に聞くしかないな」



  僕が入院している病室と同じ階に、峰准教授の病室があった。

 「面会謝絶」となっていたが、僕達は構わず病室に入った。

 峰准教授は(いぶか)しげな目で我々を見た。


 僕は児嶋裕樹が関わる事件の捜査をしている者だと名乗った。

 目と鼻と口以外は、包帯でぐるぐる巻きにされた状態でベッドに横たわっていた峰准教授は、起き上がる事もできず、目だけをこちらに向けた。

 話しをするには、少し怪我がひどいようにも思えたが、僕は話し始めた。

 事件に関して3つの質問にだけ答えてほしいと、YESなら親指を上げるよう伝えると、さっそく質問を開始した。


 「1つ目の質問です。あなたは児嶋裕樹を知っていますね」


 彼は相変わらず僕達を怪しむように目を向け、何も答えなかった。


 「2つ目の質問です。木曜日、児嶋君が黒田総理の車であなたを訪ねて来ませんでしたか?」


 この質問に、彼は驚いたように目を大き見開いた。

 そしてサイドテーブルに置いてあるペンとメモ帳を指さした。

 由美は峰准教授の手にペンを持たせ、書きやすいようにメモ帳をペン先に差し出した。


 『なぜ彼が私に会いに来たと?』


 峰准教授は由美が差し出したメモ帳に、少し乱れた文字を書いた。


 「児嶋君があなたに会いに行くと言っていたからです」


 『君たちは何者だ』


 「公安調査庁です。極秘にある盗難事件について調査しています」


 由美が公安調査庁のにせの身分証を彼に見せた。


 「あなたは装置の存在と、装置を盗んだ()()()をご存じですね? それが3つ目の質問です。あなたは児嶋祐樹から真相を聞いたのでは?」


 峰准教授の手が素早く動いた。


 『君たちは真犯人を知っているのか?』


 僕は少し間を置き、峰准教授の書いた質問の隣に大きく


 『A.A』


 と書いた。


 すると、峰准教授はペンを置き、包帯を外した。


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