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私はアイテム  作者: 月井じゅん
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2.侵入者

 スカイのコンサートから1週間後、テレビのワイドショーはスカイの話題ばかり扱っていた。

 あの日、私がスカイの車に同乗していたと友達に言っても、誰も信じないだろう。

 あんな事があったのに母はいつも通りの母だった。


 この日は、隣の家に住む祖父母のダイニングで、少し早めの昼食をとっていた。

 時々こうして皆で食事をするのが習慣だ。

 祖父母のダイニングには大きな窓があって明るく、窓の外には、小さいが祖父の手入れが行き届いた綺麗な庭を見渡せる。

 芝生の上には私が子供の頃に乗っていたブランコがまだ置いてある。

 5月になると庭一面に花が咲き、その景色を眺めながら食事をするのが楽しみだった。

 お昼のニュースをみながら家族団らんの時間を過ごし、祖父母は相変わらずの過保護ぶりで、私のH大学合格を褒めちぎった。

 すると、つけっぱなしのテレビから、紛争地域だったある国が、日本人ボランティアによって変貌をとげたとニュースが伝えられた。

 ワイドショー等でも、たっぷりとスカイの話題に時間を割いた後の短い時間枠ではあるが、この人道支援のニュースについては必ず触れている。

 スカイの事故死に続いて、ここ最近、誰もが知っている話題だ。

 世界中から多くの支援や協力したいという積極的な申し出も相次いで彼らの活動は更に活発になり、荒れ果てていた土地が緑を取戻し、綺麗な水と豊かな作物が子供達の胃を満たすまでになったいう。

 学校というものを知らない、銃を持っていた子ども達が教育を受けられるようになったという話には、家族全員が胸を打たれ、子ども達の笑顔と日本人ボランティアのインタビューを観ながら


 「こんな国もあるんだね」

 「こんな日本人がいるんだね」


と関心しながら家族でニュースに見入っていた。

 その時だった。

 誰もいないはずの2階から物音がした。

 私は小さい頃から誰よりも耳がよく、不思議と色々な音が聞き取れた。

 耳を澄ますと男性の話し声となぜかベートーベンの第九が聞こえる。


 「誰かが2階にいる! 泥棒!?」


 母と祖父が目を合わせ、何だかいつもと違う空気が漂った。

 すると階段から誰かが勢いよく駆け下りて来た。

 母は素早く立ち上がり、私の前に立ちはだかると、祖父母も自然と私の席の両側に立った。

 リビングのドアが開き、1人の外国人が銃口を私達に向けた。


 「きゃあ! 誰!?」


 私は思わず立ち上がり悲鳴を上げた。

 何が起きているのか分からず、バクバクする心臓に手を当て、母の背中から金髪の男を見てみた。

 カジュアルジャケットにジーンズ姿で、外ですれ違えばただの外国語講師にしか見えなそうな男性が銃を構えて立っている。

 すると男が英語で手を上げろと言い、私達は頭の後ろで両手を組んだ。

 足は震え、頭の中は真っ白になった。

 先日のコンサートで暴れていた外国人とは全く違うタイプだが、またしても外国人だ。

 偶然だろうか。

 すると今度は2階でドタンバタンと音がし、外国人は怪訝そうに上を見上げた。

 その瞬間、母が小声で言った。


 「合図をしたら皆庭を見て。まるで庭に誰かがいるように」


 母の言葉を不思議に思いつつ、私は黙ったままうなずいた。

 母は頭の後ろに組んだ両手を背中に入れて何やらもぞもぞと動かしている。

 再び2階でドタンバタンと音がしたと思うと静まり返った。

 外国人はこちらに銃を向けたままイライラしているのが分かった。

 彼は2階にいる誰かを待っている様子だ。

 母が突然


 「あっ」


と声を上げ庭を見た。

 同時に母は私達に顎で合図を送り、私は誰もいない庭にわざとらしく視線を向けた。

 すると外国人は誰かが来たと勘違いし、焦った様子で窓に近づいた。

 その瞬間、母は銃を構え、外国人の足に銃を放った。

 そして彼に近づくとロングスカートをまくりあげ、大きく足を振り上げて外国人を蹴り倒した。

 呻く外国人の手から母が素早く銃を奪い取ると、開けっ放しのリビングのドアの向こうでドスンと鈍い大きな音がし、見ると別の外国人男性が廊下に倒れていた。

 2階から突き落とされたらしく男は呻いている。

 私達が驚く暇もなく、黒い短髪のすらっとした日本人男性が階段を駆け下りて来て、リビングに入るなり母に声をかけた。


 「由美! 大丈夫か?」

 「大丈夫、みんな無事よ」

 「アイテムは確保した。ここはもう危険だ。消そう」

 「そんな……」

 「時が来たんだ。準備は出来ているだろう?」

 「……分かったわ。みんな、すぐにここを出ましょう、ここは焼き払う! 何も言わずに私について来て!」

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