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第57話:迎撃準備(超巨大コンクリートミキサー)

ブオォォォォォォォォォンッ!!!


アビス最下層の空を、地上の日本政府が放った『最強の機動兵器(パワードスーツ部隊)』の推進バーナーが赤々と照らしていた。完全武装の鋼鉄の騎士たちが、上空でやかましいホバリング音を立てて並んでいる。


「……おいおい、どこの業者のドローンだ? エンジン音がうるさすぎるぞ。これじゃあせっかくの温泉リゾートでゆっくり休めないじゃないか」

ケントは空を見上げ、首に巻いたタオルで汗を拭いながら深いため息をついた。


「いや親方! どう見てもドローンじゃなくて、中に人が乗ってる国家の完全武装兵器ですって! 明らかにこっちの命を狙ってますよ!」

ヘルメット姿の東雲しののめかすみが悲鳴を上げるが、ケントの心にはさざ波一つ立たない。


「エリート君、現場の騒音トラブルなんて日常茶飯事だ。理不尽なクレーム電話に対応しながら、徹夜で図面を修正するブラック企業の苦しみに比べれば、ただうるさいだけの羽虫ロボットなんて可愛いもんだろ。無視して次の工程に行くぞ」


圧倒的な社畜メンタルで国家の最終兵器を「ただの騒音を出す羽虫」として処理したケントは、温泉の隣に広がる広大な空き地を指差した。


「極上の温泉の次は、極上の『遊園地』を作る! だが、ジェットコースターや観覧車みたいな大型遊具を支えるには、生半可な地盤じゃ絶対に崩れる。まずは最高強度の基礎(土台)を打つための、大量のコンクリートが必要だ!」


ケントは周囲を見渡し、すり鉢状になっている巨大なくぼみを発見した。

そこへ風属性と土属性の巨大な魔石を放り込むと、愛用の魔導インパクトハンマーを力強く振り下ろす。


ガァァァァンッ!!


【超速クラフト】の光の粒子が舞い上がり、すり鉢状の地形が一瞬にして、滑らかな金属の壁面と巨大なブレード(羽根)を持つ「超巨大な円錐形の施設」へと変貌を遂げた。


「いいか筋肉ども。コンクリートってのは、砂や石の『骨材』とセメント、そして水を完璧な割合で混ぜないと、強度がスカスカになってすぐヒビが入る。手作業で混ぜるなんざ論外だ」


ケントは地面の土に、棒でミキサーの断面図を描く。


「この巨大なすり鉢の底に『風の魔石』を仕込んで、超高速の竜巻を起こす! 竜巻の勢いで材料がグルグルかき回されて、絶妙なナナメの角度で設置したブレード(羽根)にぶつかって落ちる。これなら、材料を放り込むだけで勝手に完璧に混ざり合うんだ。現場の知恵ってやつさ!」


「竜巻の中に材料を放り込むだけ!? なんでそんな大雑把なパズルで、最高強度のコンクリートがムラなくできるのよ!」

霞が驚愕に目を見開く。

「しかも、特Sランク魔獣の巨大な骨を放り込んでも、竜巻の回転とブレードの衝撃で勝手に粉砕されて『砂利』にされる構造じゃない! これじゃあコンクリートミキサーじゃなくて、巨大な『特Sランク処刑機』よッ!」


「細かいことは気にするな。よし、テスト稼働だ!」


ゴルルルルルルルルルッ!!!


ケントがメインレバーを引くと、すり鉢状の巨大施設が轟音を立てて高速回転を始めた。内部の金属ブレードが空気を切り裂き、巻き起こる凄まじい竜巻が周囲の土砂や魔獣の骨を次々と吸い込んでは、容赦なく粉々に砕き混ぜ合わせていく。

竜巻式・超巨大コンクリートミキサー(魔物粉砕機能付き)の完成である。


『うおおおお! なんだあの巨大なすり鉢!』

『親方、ついにミキサー車(据え置き型)までD.I.Yしたww』

『魔物の骨をそのまま砂利にするエコシステム』

『ってか、上空でホバリングしてる機動兵器が完全に無視されてて草』

『軍隊「あの……俺たちテロリスト討伐に来たんですけど……」』


特等席のビーズクッションに埋もれながら、ルミナのドローンが高速回転する巨大ミキサーを映し出す。


「ふんっ! 人間風情がまた騒がしい機械を作りおって……! 吾輩の温泉での安らぎを邪魔したら許さ――ふにゃぁぁっ! ルミナ、このクッション気持ち良すぎるのじゃぁ……」

「ダメですよコア公ちゃん、配信中に寝落ちしちゃ……ああっ、私も、もう動けません〜」


温泉リゾートの安全圏では、ダンジョンの絶対的管理者たる精霊の少女と銀髪の美少女が、すっかり骨抜きになってとろけていた。


***


一方、その頃。

ケントの真上に陣取る、日本政府のパワードスーツ部隊の隊長は、眼下で高速回転を始めた「超巨大なすり鉢」を見て恐怖に顔を歪ませていた。


(な、なんだあの巨大な回転施設は……ッ! 凄まじい魔力の竜巻が発生しているぞ!)

彼らの目には、それが遊園地の基礎を作るためのコンクリートミキサーだなどとは夢にも思えない。


「……隊長! ターゲットのテロリストが、謎の『超大型対空粉砕兵器』を起動しました! あれだけの質量と回転力、ひとたび上空に向けて発射されれば、我々の装甲など一溜まりもありません!!」

「チィッ! やはり先遣隊を全滅させたテロリスト、ただ温泉を作っているだけと見せかけて、恐ろしい防空網を敷いていたか……!」


パワードスーツの照準システムが、唸りを上げる巨大ミキサーをロックオンする。

隊長は背中の巨大な推進バーナーを最大出力に設定し、部隊全員に悲壮な決意と共に通信を飛ばした。


「あの対空兵器が完全に上空へ放たれる前に、部隊全機で直接内部へ突入し、中心部モーターから破壊する! ターゲット確認! これより強襲ダイブする!!」


「「「ラジャーッ!!」」」


その光景を地上から見上げたケントは、ヘルメットの鍔を押し上げてニヤリと笑った。


「おっ。空飛ぶロボット(羽虫)どもが、自分からミキサーの中に飛び込んでくれるみたいだぞ。鉄くずの不純物が混ざるのは少し気に入らないが……まぁ、基礎の骨組み(鉄筋)代わりにはなるか。ありがたくリサイクルさせてもらおう」


「いや待って親方!? あれ国家の軍隊! 軍隊がミキサーの刃に向かって集団ダイブしようとしてるのよぉぉぉっ!!」


ただ遊園地の土台を作りたかっただけの平和な現場監督と、巨大ミキサーを最終兵器と勘違いして自ら『粉砕機の刃』のど真ん中へ突っ込もうとする国家の最強部隊。

究極のすれ違いが生み出す、悲劇的で喜劇的な大激突の幕が、今まさに切って落とされようとしていた。

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