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第56話:神業のアーチ構造と世界の発狂

「よし、照明の設置は完了だ! 次は露天風呂の頭上に、巨大な『屋根ドーム』をかけるぞ!」


ケントの号令に、頭にタオルを巻いた特務部隊の男たちが「オゥッ!」と力強く応える。

彼らの視線の先には、先日の大氾濫スタンピードで討伐された特Sランク魔獣の、巨大で屈強な骨や甲殻が山のように積まれていた。


「いいか筋肉たち。特Sランクの魔獣の骨はめちゃくちゃ硬いが、そのまま平らな屋根にすると重さで真ん中からボキッと折れちまう。だから、骨をナナメに削って『ドーム型』に組み合わせるんだ」


ケントは足元の土に、指で半円を描いた。


「骨と骨が押し合う力を利用して、パズルのようにカチッと噛み合わせる。釘や接着剤なんか使わなくても、絶対に崩れない『最強のドーム屋根』ができる。現場の知恵ってやつさ!」


「ちょっと待って! 特Sランクの重すぎる骨を、魔法も接着剤も使わずに空中でピタッと自立させる気!?」

東雲霞が、信じられないものを見る目でケントを見つめる。

「いくらパズルみたいに組むって言っても、スーパーコンピューターで何万回も計算してミリ単位で骨を削り出さないと、一瞬で崩落してペチャンコになるわよッ!」


「勘なんかに頼らない。一級建築士の頭の中には、すでにミリ単位の『完璧な計算式こたえ』が出てるんだ」


ケントの視界に、対象の構造を解析する青い立体図が展開される。

彼は静かに『魔導グラインダー』を構え、巨大な竜の骨をチュイィィィンッ! と削り出した。頼るのは勘ではない。チートスキルによって脳内に弾き出された『完璧な切断角度』に寸分の狂いもなく従い、巨大な骨のブロックを完璧な角度で加工していく。


「よし、組み上げろ!」


特務部隊が【身体強化】を全開にして、削り出された巨大な骨を次々と半円状に積み上げていく。

そして最後に、ケント自身がドームの頂点テッペンへと跳躍した。


「これが『要石キーストーン』だ。こいつをハメ込めば、重力が全ての骨をガッチリとロックする!」


ドゴォォォンッ!!

ケントが頂点に最後の骨のブロックを叩き込んだ瞬間。

魔法も釘も使っていない巨大な骨のドームが、ピタリと空中で静止し、完璧な自立を果たした。


「ほ、本当に浮いてる……! まるで手品のトリックみたい……っ!」

霞がへたり込み、特務部隊の男たちが「親方スゲェェェッ!」と歓声を上げる。


『みんなー! ケントさんがまたとんでもないモニュメントを建てちゃいました!』


特等席のビーズクッションから、ルミナのドローンが巨大なドーム構造を映し出す。

その信じられない光景に、ついにルミナの配信の同時接続者数が200万人を突破した。


『うおおおお! なんだあの巨大な屋根!?』

『接着剤ゼロ!? おっさんのフリーハンドの削り出しだけで、特Sランクの骨が空中に浮いてるゥ!?』

『D.I.Y(大理石・遺跡・やり遂げる)』


さらにコメント欄には、世界各国の『本職の建築家たち』がこぞって発狂し始めていた。


『Oh my God! あの骨のドーム、重さが完全に消えてるみたいだぞ!?』

『あり得ない! スパコンで半年かかる計算を、あのおっさんはグラインダーの削り出しだけでやりやがったのか!?』

『もう神業とかいうレベルじゃねえ! 日本の建築基準法はどうなってんだ!?』


海外の有識者たちが揃って絶叫する中、ルミナも「なんだかよくわかりませんが、海外の偉い人たちがすごくビックリしてます!」と無邪気に笑っている。

読者の承認欲求を代行するかのように、世界中がケントの神業に酔いしれていた。


「……ふぅ、いい仕事をしたわい」

コア公が、完成したばかりの露天風呂の岩肌に腰掛け、満足げに短い足をパタパタと揺らしている。


「よし、これで温泉リゾートの第一期工事は完了だな!」

ケントがヘルメットを押し上げ、汗を拭う。

美しいチタンの照明に照らされた極上の露天風呂。その横にはキンキンに冷えた水風呂と、熱の巡りを完璧に整えたログハウス風サウナ。それらを巨大で神秘的な骨のドームが優しく包み込んでいる。


もはやアビス最下層とは思えない、究極のホワイト・リゾート空間がそこに完成していた。


誰もがその壮大な全貌に息を呑み、平和な達成感に包まれていた、その時――。


ブオォォォォォォォォォンッ!!!


突如、最下層の広大な天井(空)を切り裂くように、無数の推進バーナーの光が輝いた。

先遣隊の凍結を受け、ついに日本政府が投入した『最強の機動兵器・パワードスーツ部隊(本隊)』が、凄まじい殺気を放ちながら上空へと到達したのだ。


「こちらアルファ中隊! 目標の最下層へ到達した! テロリストの拠点をこれより殲滅……殲滅……えっ?」

上空から降下してきたパワードスーツ部隊の隊長は、眼下に広がる光景を見て、スピーカー越しの声をマヌケに裏返した。


そこにあったのは、地獄の魔境などではない。

豪華絢爛な露天風呂とサウナ。そして、行方不明になっていたはずの国家の最高戦力(特務部隊)のエリートたちが、なぜか腰にタオル一枚を巻いて、「いい湯だなアハハン」と足湯に浸かっている姿だったのだ。


「な、なんだアレは……!? 超高級リゾートスパ!? なんで特務部隊の連中がサウナで整ってやがるんだ!!?」

大パニックに陥り、空中でホバリングしたまま固まる国家の最終兵器たち。


一方のケントは、頭上の騒音を見上げて般若のような顔をしていた。


「……ん? なんだあのやかましい空飛ぶ鉄クズは。せっかくの露天風呂に『覗きドローン』とはいい度胸だ」


ケントはアイテムボックスから、物騒な形をした自作のツールを取り出し、ガシャコンッと構えた。


「筋肉たち、湯船から上がるんだ。温泉の静けさを乱す『害虫』は、さっさと駆除おそうじしないとな」


平和すぎる極上の温泉リゾートと、パニックに陥る国家の最終兵器。

絶対に交わってはいけない二つの存在が、一級建築士の「害虫駆除」という名の理不尽な暴力によって、今まさに正面衝突の時を迎えようとしていた。

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