第29話 砕け散る大砲と、次なる外構工事
ズバァァァァァァァァンッ!!!!!
最下層の暗い空気を切り裂いて、強烈な破裂音が響き渡った。
庭の芝生(ダンジョンに自生する光苔を品種改良したもの)に設置された、ケント特製『超高圧スプリンクラー』。そこから放たれた極細の純水は、ミスリル製ポンプの異常な圧力によって、鋼鉄をも容易く切断する『ウォーターカッター』と化していた。
それが、庭の景観を良くするための「散水」として、弧を描きながらログハウスの周囲にばら撒かれた結果――。
「ひぃぃぃっ!?」
「に、逃げろ! 砲身が切れて、魔力が暴走するぞッ!!」
フェンスの外でログハウスに狙いを定めていた三台の『魔導攻城砲』は、ウォーターカッターの水刃がかすった瞬間、斜めにスパンッ! と綺麗な断面を見せて両断された。
行き場を失った極大の炎熱魔力が砲身の内部で暴発し、大砲を操作していた魔術師たちが爆風でまとめて吹き飛ばされる。
「ば、馬鹿な……ッ! 城壁を一撃で粉砕する我がクランの切り札が、たかが『水撒き』のついでに破壊されただと!?」
クランマスターのガルドは、真っ二つにされた攻城砲の残骸を前に、信じられないものを見るように目を見開いた。
接近すれば、アビス・トレントの生垣に串刺しにされ、ハイスライムの堀に飲み込まれる。
遠距離から砲撃しようとすれば、スプリンクラーの水圧で大砲ごと斬り捨てられる。
正面からの突破は、物理的にも魔法的にも『完全に不可能』であるという事実が、ガルドの脳髄に冷たい絶望となって突き刺さった。
「……ええいっ、怯むな!! 罠があるのは地上だけだ!!」
だが、ここで引き返せばクランは終わりだ。ガルドは血走った眼で残存部隊に怒号を飛ばした。
「飛行部隊! 飼い慣らした『ワイバーン(飛竜)』に乗って、上空からあのサンルームのガラスをかち割り、直接中に突入しろ! 土魔法部隊はここから穴を掘り、あの忌々しいスライムの堀の下を潜り抜けて、ログハウスの床下へ出ろ!! 空と地下からの同時攻撃だ!!」
「「「おおおおおッ!!」」」
正面突破を諦めた『黒い毒蛇』本隊は、別働隊を編成し、なりふり構わぬ三次元からの波状攻撃へと作戦を切り替えた。
***
「おっ。なんだ、今の派手な音は」
ログハウスのサンルームの中。
外のすさまじい爆発音を聞いて、ケントは呑気にコーヒーカップを置いた。
「すごい音でしたね……。なんか、大砲みたいな筒が爆発してませんでしたか?」
「大砲? ああ、もしかして『花火』か? 最近の害獣は、威嚇のために大きな音を鳴らしたりするからな。まぁ、水撒き(スプリンクラー)のついでに火も消えたみたいだし、火事の心配はなくてよかったよ」
ドローンカメラの向こう側で、数百万人のリスナーが盛大にズッコケる気配がした。
『花火www 攻城砲が花火扱いwww』
『おっさんの目には、数百人の重武装集団が「ロケット花火でイタズラしにきた近所の悪ガキ」くらいにしか見えてないの草』
『たしかに、スプリンクラーの水で一瞬で鎮火されてたけどさぁ!』
「でも、ルミナちゃん。あいつら、今度は空を飛んだり、地面に穴を掘ったりし始めたぞ」
「えっ!? ほ、本当だ……! 空に大きな鳥みたいなのが……それに、庭の外で地面を掘り起こしてます!」
ルミナが窓の外を指差して悲鳴を上げる。
ケントは「やれやれ」と肩をすくめ、再び作業着のポケットから金槌とツールベルトを取り出した。
「せっかく庭を綺麗にしたのに、上からフンを落とされたり、モグラに庭を荒らされたりしちゃ敵わないからな。……よし、このまま一気に『外構工事』の続きをやってしまおう」
ケントはアイテムボックスから、細かく砕いた『光の魔石』と、大量の『砂利』を取り出した。
「まずは空からの害虫対策に、『鳥よけ用の防虫ネット』を張る。と言っても、ただの網じゃ景観が悪いからな。光の魔石を使った『レーザー式のセンサー防空網』にするぞ。鳥が一定の高度に侵入したら、自動で光の束が照射されて、羽をチリチリに焼く安全設計だ」
『安全設計……?(ワイバーンの羽を焼き切りながら)』
『Sランクの魔物でも即死レベルのレーザー防空網だろそれ!!』
『もうやってることが現代の軍事要塞なんだよなぁ』
「それから地下のモグラ対策だな。穴を掘られて地盤が沈下したら、せっかくのログハウスが傾いちゃうからね。家の周囲の土壌に『地盤改良コンクリート』を流し込んで、絶対に掘り進められない強度にしておこう」
ケントが取り出した砂利は、ただの砂利ではない。以前倒した『玄武岩ガメ(Aランク)』の甲羅を細かく砕いた超硬質の骨材だ。これをハイスライムの粘液と混ぜ合わせることで、瞬時に固まり、かつ物理攻撃を完全に弾き返す『絶対防御の地盤コンクリート』が完成する。
「よし、資材の準備はバッチリだ。ルミナちゃんはそこでピザでも食べててくれ。ちょっと庭いじりをしてくるよ」
ケントは鼻歌交じりに、サンルームのドアを開けて庭へと出ていく。
空からは、凶悪な牙を剥き出しにしたワイバーン部隊が急降下してくる。
地下からは、土魔法に長けた暗殺部隊がログハウスの直下を目指して掘り進んでくる。
彼らはまだ知らない。
自分たちの決死の奇襲作戦が、一級建築士によるただの「鳥よけ」と「地盤固め」の作業によって、無慈悲に、そしてあまりにも滑稽に粉砕される運命にあることを。
次回(第30話)は、本日【21:10】に更新予定です!
空と、地下から刺客が同時に襲来! しかし、おっさんが仕掛けた『鳥よけレーザー』と『モグラ対策』の前に、精鋭たちがまさかの姿に……!?
おっさんのDIYによる、圧倒的ざまぁをお楽しみに!
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