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ノルム農場のハルは、今日も芋を掘っている  作者: 春野ノルム


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4/4

突っ走る拳と、残された記録

「こっちだって!」


女武闘家は、迷うという発想すらないまま魔境を駆けていく。

岩を蹴り、段差を飛び越え、拳一つで道を切り開く。


「ちょ、ちょっと待って! 完全に道、外れてるから!」

ヒーラーが必死に叫ぶ。


「地図……もう意味ない……」

魔法使いは半ば諦めた声で呟いた。


「大丈夫大丈夫! 敵いないし!」

振り返って笑う武闘家は、まるで散歩でもしているようだった。


二人は顔を見合わせ、同時にため息をつく。

止められない。

この勢いだけで、ここまで来てしまった。


少し進んだ先で、魔法使いが急に足を止めた。


「……看板、ある」


三人の視線の先。

岩陰に、場違いな木の看板が立っている。


――ノルム農場。


「は?」

「農場?」


「なにそれ! 畑!?」

女武闘家が声を上げて笑った。

「こんなとこで? 逆にすごくない?」


半信半疑のまま足を踏み入れると、そこには整えられた畝と土の匂いがあった。

若い男が芋を洗っていて、足元には小さな犬が一匹。


「……ほんとに農場だ」

魔法使いが呟く。


「休憩してく?」

男――ハルは、当たり前のように言った。


出されたのは芋のスープと焼いたパン。

女武闘家は疑いもなく、勢いよく食べる。


「うまっ!」

「……体、軽くなる気がする」

「……魔力、回復してる……?」


短い休憩のあと、女武闘家はすぐ立ち上がった。


「よし! 行こ!」


「え、もう!?」

「休憩、短すぎ……」


二人の声を背に、彼女はまた走り出していく。


畑の端で、ハルとマメがその背中を見送った。

マメは尻尾を振り、ハルは小さく手を振る。


「気をつけて」


三人は、再び魔境の奥へ消えていった。


数日後。

王国・中央記録局。


二枚の報告書が、同じ机に並べられていた。


魔王討伐候補部隊・第一


進捗

・対象ダンジョン:魔境第七ダンジョン

・踏破階層:第四層まで到達

・戦闘不能者:なし

・撤退判断:計画通り


発見

・第三層付近に瘴気の薄い区域を確認

・短時間の休憩が可能な環境あり


課題

・特になし


その他特記事項

・疲労回復速度が想定より速い(原因不明)


魔王討伐候補部隊・第八


進捗

・対象ダンジョン:魔境第七ダンジョン

・踏破階層:第五層途中まで到達

・戦闘不能者:なし

・撤退判断:部隊判断(予定外)


発見

・魔境内に農場あり

・休憩および食事が可能


課題

・前衛(武闘家)の単独行動が頻発

・隊列維持が困難


その他特記事項

・回復魔法の効率が高い状態を維持

・魔力回復量に誤差あり

・同行者報告

 「犬が可愛かった」

 「芋が非常に美味」


「……第八の進捗、異常だな」


重鎮の一人が、低く言った。


「年齢構成と経験値が合わない」

「第一と、発見項目が一致している」


机の上で、二つの報告書が重なる。



休憩地点。

回復速度。

農場…?


「再調査を検討しろ」

「……ただの農場、ではないかもしれん」


その頃。


魔境の片隅、ノルム農場では、

ハルが畑を耕し、マメがその後をついて回っていた。


世界が騒ぎ始めていることを、

二人は、まだ知らない。

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