始まりの日<皇太子視点>
皇太子視点です
いつからだろう。
期待されるあまり、人の目が怖くなった。
失敗して失望させたらどうしようと、体がかたまり、動けなくなった。
緊張して、怖くて、頭が真っ白になって……。
大丈夫ですよ殿下ならば。
なんどそう言われようとも、人が怖い。怖くて何も言えない。
僕は聞いてしまったんだ。
殿下はいつもびくびくしていらっしゃるけれど、あれで人の上に立つことができるのだろうかという声を。
期待に背いてしまっている自分。
ああ、やっぱり駄目だと、僕を見るたびにがっかさせてしまうんじゃないかと思うとさらに怖くなった。
ある日、息ができないくらい人がいる場所にいるのが辛くなり、王都からほど近い人の少ない場所へと静養に行くことになった。
そこは、人の数よりも家畜の数の方が多いというような田舎の町だった。
「いいこと?私がしなさいと言ったらしなさい。酒粕を食べさせるのよ!お酒を絞った粕を集めて運ぶの!」
たくさんの大人に向かって、てきぱきと指示をする子供の姿が目に入った。
かっこいい……。
紫がかったプラチナブロンドの髪をなびかせて、大人たちに命じるその姿はとても美しく、そしてかっこよかった。
「水分をしっかり絞ったものを用意するのよ。ワインかエールか、私には詳しいことは分からないので色々と取り寄せなさい。そして実際に食べさせてみるの。ああ、もちろん、もともと酒粕を何に使っていたのかも確認するのよ?とても大切な物に使っていたのであればそれを取り上げるわけにはいかないわ。肥料だとか貧しい人の食事だとか。もしそうならば別のものを手配しなければならないのだから」
喚き散らして自分の思い通りにしようという子供の我儘とは違った。
僕よりも小さい女の子は、大人に対して子供ながらにしっかりと考えを伝えていたのだ。
失敗を恐れて何も言えずにびくびくしている自分が恥ずかしくなった。
「だから、この私が言っているのです。結果が出なくても責めたりはしません。だけど、結果が出ないかもしれないからと何も行わなければこのままでしょう?いいから、すぐに始めなさい!」
失敗を恐れて何もしない自分を責められているのかと思った。
プラチナブロンドの美しい子供に、僕の目はしばらく釘付けになった。
それから少しずつ、このままではいけないと。彼女の姿を思い出しながら過ごしていると、ある日とても美味しいお肉が食卓に並んだ。
毒見を終えて冷めた肉はいつも硬くてかみ切るのが大変だったのに、その日のお肉はいつものように冷めていたのに柔らかくてとても美味しかった。その肉が、あの時の少女が関わったものだと知ったときには、僕は彼女と会って話がしたいと思った。
それから、僕も9歳になり子供舞踏会へと足を運ばなければならなくなった。
怖いよ、人が怖い。
少しずつ仮面をかぶり人と会うことに慣れて来てはいたけれども、多くの人間が集まる場に出ることは恐怖でしかなかった。
そんなときに、お母様が僕に教えてくれた。
「大丈夫よ。人だと思うから怖いの。みんなカボチャやジャガイモだと思えば」
「お母様、カボチャもジャガイモも動いたり話かけたりはしません」
お母様が、確かにそうねと首をかしげてから、口を開いた。
「じゃぁ、そうね。豚だと思えばいいのよ。緊張して人の顔が見られないなら、相手は豚だと思えば」
「豚、ですか?」
子供舞踏会に出席して、僕以外も皆同じなのだと理解できた。僕以上に緊張している子供もたくさんいた。
それに、失敗を恐れるどころかマナーをそもそも知っているのか怪しい子供も多く、今まで僕は何をそんなに怖がっていたのかと。心が軽くなり、緊張して人の顔が見られないと言うこともなくなっていった。
しかし、翌年事件が起こった。
間違いなく、あの時の少女が子供舞踏会に参加していたのだ。
紫がかったプラチナブロンドの髪を間違えるわけはない。
あの時よりもふっくらしてはいたけれど、それは僕も同じだ。
彼女はあの時と変わらず、強い意志を持ち、真っすぐと人を見ている。
かっこいい。
バクバクと心臓が波打ちだした。
久しぶりに緊張して手に汗をかき始めた。
あの美味しい肉を作り出すかっこいい少女。話しかけたいけれど、昔の僕のように話しかけることが怖くて足がすくむ。
「緊張して人の顔が見られないなら、相手は豚だと思えばいいのよ」
というお母様の言葉を思い出した。
「おい、豚」
――、そうして、彼ら彼女らの話は始まった。
最終話!
ここまでご覧いただきありがとうございました。
さて。
順調に、イーグルはお姉様溺愛ヤンデレへと成長し
皇太子はちょっとおバカだけど頑張ってフローレンに尽くすわんこになりますわよ。
フローレンさん……幽閉生活できるかしらねぇ?
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長編連載版始めました。




