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良いカモでしたね…

思いつきで連載始めてみました。長期連載にはならない予定です。

前半はまったりだけど後半はちょっとシリアス?かもしれませんが宜しくお願いします

「私の恋人を助けてはくれないだろうか?」


至極真面目な顔でそう言う男は、公爵家の三男のゼィファリック=イアソニフ、23才だ。箱入りのお坊ちゃま、清廉潔白…折り目正しいお坊ちゃま、それが今は男爵家のナナファンテ=スオードと付き合っている…とゼィファリック本人から今、聞いた。


そしてこちらの返事も聞かずにゼィファリックは真顔で更に言い放った。


そのナナファンテが他のご令嬢方に苛められている。可哀相だと思わないか?ナナファンテはとても健気に耐えている。


そこでタイレケン大尉に頼みたい。ナナファンテの盾になってくれないか?大尉なら他のご令嬢方も文句を言わない。そして大尉なら例えご令嬢に囲まれたとしても大丈夫だろう?何せ大尉は強いからな。それに大尉なら今までも沢山の方と付き合って来たのだから、恋愛関係の揉め事は手慣れたものだろう?


ゼィファリックは正気か?


けっ…!これだからお坊ちゃまはっ……あらいけないっオホホ。


スラスラとそう言い放った箱入りお坊ちゃまを心の中で散々に貶してから、大きな溜め息をついた。


ナナファンテ=スオード男爵令嬢ねぇ…あーんな根性悪くて同性受けの悪い女、嫌われて当たり前じゃない?こんな氷の鉄仮面と言われるくらいの私にすら嫌味を言ってきたのよ?ある意味、一番強いんじゃない?


そういえば、友人のシアデリーナが怒っていたわね〜確か、妹のシアリンテが着ていたドレスを馬鹿にしてきたとか…あれはシア姉妹の祖母の形見のドレスを手直しした、総レース縫いの逸品だ。私は上品で大好きなドレスだ。


それに私が強いのは事実だ。何せ公爵令嬢で軍人だ、事務方ではない。実働部隊でしかも優秀な軍人で構成される、特殊部隊『フェンガ』の一員だ。それはゼィファリック=イアソニフは当然知っているだろう。彼も同じくフェンガの副隊長だからだ。


ただ彼とは仕事くらいでしか口を聞いたことがない。個人的に話すのはほぼこれが初めてだ。それ故に普段の私がどういう性格なのかは彼は知らないだろうし、そして今まで私などに興味が無かったはずだ。


「イアソニフ副隊長、一つご質問が?」


「申してみよ」


はあぁ…溜め息が漏れる。


「ナナファンテ=スオード男爵令嬢が令嬢方に苛められているというのは、誰から聞かれたのでしょうか?」


ゼィファリックは眉を上げた。


「無論、ナナ本人とそれにホイッツミー子爵子息とポリグロシー伯爵子息からだ」


はあぁ…本人と男共からですってぇ?おまけにホイッツミー子爵子息とホリグロシー伯爵子息ってナナファンテ=スオード男爵令嬢の男友達、柔らかく表現したけど、つまりはそう噂されている面子だ。


しかも、その男共…嫌な予感がするけれど聞いてみましょうか…


「すみません、それともう一つ宜しいでしょうか?」


ゼィファリックが頷いたので一言一言、区切りながら聞いてみた。


「私が今までも沢山の方と付き合ってきたのだから、手慣れたものだろう…と誰が仰ったのですか?」


ゼィファリックは怪訝な顔をした。


「ホイッツミー子爵子息とポリグロシー伯爵子息だが?彼らとも付き合っていたのだろう?」


流石にそれに関しては、もの申してやろうと手を挙げた。


「お待ち下さい、副隊長。私はその者達とは一度も男女交際をしたことが御座いません」


「だが…彼らは共にタイレケン大尉に浮気をされて捨てられたと…」


このお坊ちゃまは人を疑うことを知らない。真っ直ぐに与えられた情報にしか目を向けない。戦闘に関しては多角的な視点を持っているのに、恋愛やその方面の事には本当に極端に鈍感みたいね。


「よくお調べ下さい。それでも…と仰るならあなたの恋人の盾の役、お受け致します。その代わり私は普段通りに生活させて頂きますので、そちらはお好きに」


「なっ!?」


私は絶句するゼィファリック=イアソニフをそのまま放置して、軍の詰所に戻った。


来月の大規模討伐に関する隊員名簿一覧を、提出書類入れに入れてから後ろを振り向くとシアデリーナ=マインデ侯爵令嬢がニヤニヤしながら詰所の入口に立っていた。


「ガヴェナラ=タイレケン大尉、見ましたよ~」


「おや、どうされましたか?シアデリーナ=マインデ少尉?」


シアデリーナはササッと詰所の中に滑り込んでくると、私に顔を近付けてきた。


「第3応接室っ!ゼィファリック=イアソニフ中将閣下と何を話してたの?貴女が同じ部隊だっていうのも羨ましいのにぃ~どう教えてよ?」


これは話の内容を言っていいものか…他言無用とは言われていないし…でもねぇ。


「注意されただけよ」


「えぇ?別室に呼び出して注意?はぁ~やっぱり高潔で実直って噂、本当なんだ」


「うん、そうだね。真っ直ぐだねぇ」


真っ直ぐ過ぎて周りが見えてないけど…但し恋愛に限り。


その2日後


軍の総合統括本部で第二王子殿下と他の将軍達と、翌月の国王陛下在位20年の祝賀祭の警備確認の打ち合わせをしていると、ゼィファリック=イアソニフ中将閣下が敬礼と共に会議室に入室して私の前で立ち止まった、嫌な予感がする。


「ガヴェナラ=タイレケン大尉、話がある。後で第3応接室に来てくれ」


こ、こらーーっ!殿下とおじ様共の前で呼び出すなっ!しかも言い逃げでササッといなくなるなぁ!残された私のことも考えろっ!言葉使いが悪くなってしまったわ。


「ほ~っ」


「何でしょうか殿下?」


「先日、ちょっと小耳に挟んだのだが……ゼィファとガヴェナラが密会していたと…」


「み、密会っ!?第3応接室で少し注意を受けていただけですよ。何故またそんな如何わしい…」


「ほ~っ、如何わしい…ね」


リレリアード第二王子殿下を睨んでやった。子供の時から知っている悪戯王子だ、散々睨んでやった。


「そんな顔で睨むなっ!体がおかしくなる」


そうか、おかしくなるんなら寝込むまでおかしくなって下さい。


リレリアード殿下の熱い視線を背中に受けながら会議室を後にした。詰所に戻るとゼィファリックが居たので、声をかけてふたりで第3応接室に入る。チラリと後ろを向けば、リレリアード殿下と殿下の侍従のコヨッテさんと事務官数名の姿が見えた。お前らっ!おっと不敬でしたね。


応接室に入るなりゼィファリック=イアソニフ副隊長は膝を突かれた。


「副隊長!?」


「先日は大変失礼をした。淑女にあらぬ疑いをかけ、あまつさえ嘘を鵜呑みにして誹謗中傷を浴びせてしまった。軍人に有るまじき行いであった。陳謝する」


ああ……あれね?ホイッツミー子爵子息とポリグロシー伯爵子息の嘘ね。確かにあれを真っ直ぐ信じちゃうのはいけないわ。でもこうしてすぐ謝罪をされるのは…この方、素直なのよね。本当に迷惑なくらい素直なんだけど。


「副隊長、お立ちになられて下さい。私は嘘だと存じていましたし、調べればすぐ分かって頂けると確信しておりましたから。どうぞ、お気遣いなく」


ゼィファリックは顔を引きつらせたまま、立ち上がるとソファに腰かけた。


「そうなのだ、あの後すぐにホイッツミー子爵子息とポリグロシー伯爵子息に問い質したのだ。ガヴェナラ=タイレケン大尉は君達と付き合ったことは一度もないと言っていた。今すぐ真実をガヴェナラ=タイレケン大尉立ち合いの元、話してくれと言ったんだ」


わおっ…私との直接対面を要求しましたか……で?


「私がそう言うと子息達は顔色を変えて、そう言ってしまえば盾の役を引き受けてくれるんじゃないかと…簡単に考えたと言った」


はぁぁ…またいやらしい言い逃れをしてきたわね。


「余りにも卑劣な言い回しだったので、共にガヴェナラ=タイレケン大尉に謝罪に行こうと誘ったのだが、逃げられた」


「はあ…逃げましたか」


まあいいんじゃない?あんな馬鹿共と同じ空間で同じ空気吸うのも嫌だし、正直関わりたくないからね。


「誠に申し訳ない」


「いいえ、お気になさらずに」


「しかし、ナナファンテの苛めはどうすればいいのだろうか?やっぱりタイレケン大尉が間に入ってみてはくれないか?」


何故私が間に入らなきゃならんのよ!……ん?いや待てよ?


「あの…副隊長はナナファンテ様を苛めているとされるご令嬢に、直接お話はされてみたのですか?」


するとゼィファリックは憮然とした顔をした。


「ああ、ナナファンテに誰に苛められているのだと…何度も聞いてみたが、私が間に入ると余計に令嬢から苛められるから…としか答えてくれない」


そりゃそうでしょうね…誰に苛められているのだ!→○○家の○○様です。


なんて言おうものなら、このゼィファリックが乗り込んで行って親御さんにまで説教しそうだもの。恐らく…苛められたなんて嘘をついてしまった手前、個人名を名指しするのだけは何としても避けたいのだろう。悲劇の令嬢役でゼィファリックの気を引きたいのであれば、藪蛇になる恐れあり…だものね。


「あ…今更ですが、ナナファンテ様の盾役に私を指名したのはあの子息達なのですか?」


この私の質問にゼィファリックが首を捻った。


「ナナファンテから頼まれた、ガヴェナラ=タイレケン大尉なら公爵家のご令嬢だし顔も広い…だから彼女に頼んでみてくれないか…との事だった」


曖昧な推薦理由だな…私はナナファンテ様とは直接的な会話は、その嫌味を言ってきた時が初めてだったぐらいだし、見染められる(表現がおかしいか)ほど盾役が適任だとは思えない。


一度ナナファンテ様と会ってみるか…


「取り敢えず、事の経緯もお聞きしたいですし…場合によっては私がナナファンテ様と他のご令嬢の橋渡しも出来ますので」


ていうかさ~いい年して…仮にも貴族位のご令嬢が、苛められた!助けて!間に入って苛められないように言って!…とか周りに言うのって如何なものなの?貴族令嬢ならそこは上手くかわしてこの社交の波を泳いでいかないと~周りと上手くやるのも、貴族の嗜みですわよ?


「本当か?助かるよ、タイレケン大尉。令嬢同士の事に門外漢の私が口出し出来ずに手をこまねいていたのだ」


それにしても本当に生真面目ね…しかし恋愛や友情?つまりは私的な行動範囲でそんなに素直でガチガチなモノの考え方していたら、いつか詐欺とか悪徳宗教に引っ掛かって、身ぐるみ剥がされそうで心配になるわ。


そもそもだけど、ナナファンテ=スオード男爵令嬢とお付き合いしているってだけでも、騙されている感が漂っているもの。副隊長本人には言えないけど…


でも本当に大丈夫かな~高いドレスとか高い宝石とか高い鞄とか変な絵画とか、買わされていない?ちょっといやらしいけど、副隊長の身辺調査をしておこうかしら?


その5日後


ゼィファリックの身辺調査をしてみて良かったと、心底思いながらゼィファリックの身辺調査報告書を読んでいた。


「やっぱり高いドレスや高い宝石を買わされているじゃない!恐れていた事態がここにっ!」


これ…どうしたものかしらねぇ~誰かに相談すべき?やっぱり直属上司のリレリアード殿下にお伝えするべき?ナナファンテ(もう呼び捨てだ)と副隊長を一緒に呼び出した時に直接聞いてみる?


ああ…でもそれをすると、まるで私が苛めているみたいよね?難しいぃ……


悩んだ末に親友のシアデリーナ=マインデ侯爵令嬢とイメリア=アイソトーワ伯爵令嬢にゼィファリック=イアソニフの身辺調査報告書を見せた。


「このドレスの金額っ!宝石も高っ!」


「『シュシュアメント洋装店』ここは王家御用達よね?」


報告書を見て叫んだ、シアデリーナとイメリアの顔を交互に見る。


「私はここのドレスをデビュタントの時に作ってもらったのだけど…」


私が溜め息まじりにそう告げるとシアデリーナが声を上げた。


「あ、私もよ。でもねその一着きりよ?だってお高い上にそういう記念に一生に一度の…って感じのドレスよね?」


シアデリーナがそう言うとイメリアも頷いた。


「私なんて、お父様にお願いしたら『お前にはまだ早い!嫁入りに持たせてやるまで我慢しなさい』って言われたわ。それくらい格式のあるドレス工房よ?」


「それを先月一気に2着購入ね……イアソニフ家だからなんとか代金は支払えるとは思うけど…これはねぇ」


私もそう言葉を返しながらゾッとしていた。これ公爵家のツケ払いに出来たのかしら?はっきり言ってゼィファリックの給金じゃ半年以上飲まず食わずじゃないとドレス代払えないんじゃない?


「ガヴェナラはどう思う?…このドレスと宝石、あのご令嬢にプレゼントしたのよね?」


「多分ね、それしか考えられないし…」


シアデリーナが大きな溜め息をついた。


「私だったらこの洋装店のドレスは特別な時に着るものだから…ってやんわり断ると思うわ。社交界に籍を置いている令嬢なら、シュシュアメント洋装店のドレスが如何に素晴らしいものか…ご存じのはずだもの」


シアデリーナの言い分が尤もだ。だが恐らく…


「中将閣下は、女性のドレスがいくらかかるか知らないのかも…」


「有り得るわね、お噂じゃ真面目で清廉な方なのでしょう?社交の場にも頻繁には出られないみたいだし、何が流行とか宝石やドレスのことなんて知らなさそう…」


とイメリアも溜め息をついてそう判断している。


「やっぱりアレね、何も知らない中将閣下に『シュシュアメントのドレスが欲しい』と言っちゃったね。あの方」


「でしょうね、ハアァ…」


3人で大きな溜め息をついた。


気が重い……実はゼィファリックとナナファンテと明日会うんだ…と告げるとシアデリーナもイメリアもいきり立った。


「ガヴェナラに何の用よ!?」


「まさかゼィファリック様と婚姻したいから公爵家に養女に入れろ!とかの打診じゃあないわよねぇ!?」


うえっ!?まさか…と思ったけどイメリアの指摘があながち的外れでもないような気もする。どうにも今回の盾の件が私を引きずり出す為の布石なような気がするのだ。


私と直接話す為に…まさかね?ハハハ…



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[良い点] ヒロインよりヒーローが可愛い所(笑 結婚後に会えない心配してる所も可愛い。っていうか、家族向け滞在部屋とか郡の敷地内に作らせたりしそうです(*≧艸≦)妄想捗ります。 [気になる点] 変態の…
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