胡散臭いと思ってました…
ゼィファリック閣下はへっぽこです。重要な事なのでもう一度言うとかなりのへっぽこです
翌日
またも第3応接室で待ち合わせだ。しかし嫌だな~隣の第2応接室からシアデリーナとイメリア、リレリアード第二王子殿下、おまけに何でここに居るんだ?の、リプスリード王太子殿下まで扉を薄く開けて廊下に居る私を見ている。
王子2人共何やってるんだっ!?二人とも子供の時からの友人なので遠慮もせずに激しく睨んでやった。
取り敢えず、第3応接室に入った。ソファに座り暫く待っていると…
「失礼致します」
扉を開けて、ナナファンテ様が入って来た。あら?ひとりだね、後からゼィファリックは来るのかな?
「ナナファンテ=スオードで御座います」
「ガヴェナラ=タイレケンで御座います。どうぞお掛けになって」
ナナファンテ様は柔らかそうなハニーブロンドの髪、可愛らしい唇の大きな瞳、見た目は愛くるしいご令嬢だ。
しかしナナファンテ様はソファに腰かけるや否や
「ゼィファリック様が来る前にお話が御座いますの」
と切り出した。果てしなく嫌な予感がする…
「アンディアナ=ギュリテウス公爵夫人の夜会と茶会に参加してみたいのです、紹介状を書いて頂けないでしょうか?」
といきなり切り出した。
なんだってぇ!?
「ギュリテウス公爵夫人…」
ナナファンテ様は扇子を広げると、小さく笑った。
「ガヴェナラ様ならギュリテウス公爵夫人と面識も御座いましょう?お願い致しますわ」
この子…分かってて言っているのかしら?
アンディアナ=ギュリテウス公爵夫人とは、そこの第2応接室に潜んでいる、王子殿下達の実姉だ。降嫁して今は公爵夫人だ。
事実上貴族位の女性の中で頂点に立たれていて、ご本人はとてもお洒落で流行は夫人から始まるとまで言われるほどの貴婦人。お話し上手で機転が利き、彼女の夜会や茶会はとても人気で並大抵の貴族では招待状すら届かない。
アンディアナ=ギュリテウス公爵夫人は上位貴族と下位貴族の立ち位置をとても理解されていて、夜会や茶会に招待する方々はしっかりとした家柄、そして本人が功績を残している等、細かな基準があって、そこに下位や上位の差はなく、気まぐれに招待しているように見えて、夫人の審美眼で選び抜かれた人達が参加されている…と噂されている。
そこに私が紹介状を書いて、よく知りもしない男爵令嬢を参加させるなんて…
私はちょっと…いや、かなり頭に来た。同じ貴族位を持つ令嬢なら淑女教育の中で教わっているはずだ。
「もし私が、アンディアナ=ギュリテウス公爵夫人にあなたの紹介状を書いてお渡ししたら…」
ナナファンテ様はパアッと顔を明るくした。
「私は今後一切、夜会にも茶会にも呼ばれない令嬢になってしまうということを分かっていてお話されていますの?」
その時、ゼィファリック=イアソニフ中将閣下が部屋に入って来られて、ギョッとしていた。
「ナナファンテ?何故こんなに早く来ているんだ?約束の時間は後半刻後だろう?」
ナナファンテ様は顔を引きつらせながら私を見ている。はは~ん、成程ね。
私には待ち合わせを1時刻早く来るようにして、この話をゼィファリックが来る前に終わらせようとしていたのね?姑息な…
私は話の続きをゼィファリックの前でしてあげた。ナナファンテは目線で話さないで!と訴えているけれど…
「基本、アンディアナ=ギュリテウス公爵夫人の夜会や茶会は夫人自らが選ばれた方々が招待されていると聞きます。そこには下位も上位も無いとは聞きますが、ただ知り合いだから…で夫人から招待される訳ではないと聞きます。もし私がそんなことを気にも留めずナナファンテ様の紹介状を夫人に書いてしまったら…私は浅はかな令嬢だと噂され、社交界から締め出されてしまいます」
ゼィファリックはすぐに話の内容を理解したのだろう、信じられないと言うような顔でナナファンテ様の顔を見ている。
「ナナファンテ…そんなの当たり前だろう?上位貴族の夜会や茶会に下位貴族の者が参加出来ないのなんて…」
そう…線引き、建前は分けないとしていても伯爵位以上が主催する大規模な夜会や茶会には実質、下位貴族は参加出来ない。アンディアナ=ギュリテウス公爵夫人はそこには非常に厳しいと思う。
貴族の身分の壁…その領域に踏み込んではいけない。例えゼィファリックが紹介状を書いても一緒だ。私とゼィファリックは同じ爵位、公爵家だもの。実はゼィファリックと私はとおーい親戚なんだけどね。
ナナファンテ様は顔を真っ赤にして、私を睨んでいる。何故、私?
「紹介してくれてもいいじゃないっ!あのドレスを着て私も洗練されたお美しい王子殿下と仲良くなりたいのだもの!」
ちょっと待って?王子殿下と仲良くって言った?あのドレスってシュシュアメント洋装店の?王子って今、隣の部屋で恐らく聞き耳立ててるけど?話がしたいのなら呼んできましょうか?
「あ、だったら王宮主催の夜会が年2回開催されますよね?それに参加すれば殿下達とも…」
「あんな大規模な夜会では私が目立たないじゃない!それじゃあ何の為に夜会に参加するのか分からないわ!」
え?目立つ為に夜会に参加するの?まさかまさか夜会参加の最終目標は殿下に会う事?
「ナナファンテ…」
しまったーーー!そこに居たんだったっゼィファリック!?
「殿下にお会いしてどうするつもりなのだ…?」
ああ、果てしなく嫌な予感…!ナナファンテ様は目を泳がせたが、勢いよく立ち上がると
「もうあなた達には頼まないわっ!……っち!」
そう言ってゼィファリックを押し退けるようにして、廊下に飛び出して行った。
ひいぃぃ!し、舌打ち?今、舌打ちした!?
魔獣にだって押し負けたりなどはしないはずの、ゼィファリックはナナファンテ様に押されて、よろめいていた。
ナナファンテ様の遠ざかる靴音が聞こえる。
気まずい……
そこへ、廊下からリレリアード殿下とリプスリード王太子殿下が顔を出した。
「ゼィファリック、すまん…話は全部聞いていた」
ゼィファリックはふらつき、とうとう床に膝を突いた。
リレリアード殿下が床に倒れ込みそうなゼィファリックを支えている。王子殿下に支えられる公爵子息…リプスリード王太子殿下は私の方へ近づいて来ると
「ガヴェナラが調べたシュシュアメントの件は私が注文を差し止めた。ガヴェナラの言う通り、何も知らないゼィファリックが支払いを持たされた…と見ている。シュシュアメント洋装店にも申し付けている。ナナファンテ=スオード嬢が店に来店してドレスの催促をしても追い返せとな…」
と言った。
殿下は結構な強硬手段に出ましたね。
「ありがとうございます、殿下」
「しかしあの言い方はなんだっ!紹介状があれば私達と会えるだと?馬鹿にしているのか?」
リプスリード殿下は廊下の方を睨んでいる。
「殿下…ナナファンテ様に狙われてますね」
「変な言いかたをするなよ。それにあの子女じゃ私達の一時的な遊び相手としても無理だ。短気だし短慮だ」
なるほど、妾妃も駄目だということか…男爵家という身分でも今の段階で正妃も不可能なのにね。
「ゼィファリック…元気だせよ。あの女はお前にドレス買わせる為に近付いてきたんだって」
ちょっとぉぉ?!リレリアード殿下ぁなんて言い方するのよ!
案の定…生真面目で素直なゼィファリックは真っ青になると、涙目になってきた。
「ちょっとっ殿下!うちの副隊長苛めないで下さい!」
私がゼィファリックの前に立ってリレリアード殿下に文句を言うと、リプスリード殿下までもが
「どう考えてもゼィファリックは金蔓扱いだったと思うけど…」
と、言い出した。言い方っ!言い方に気を付けて!
ゼィファリックは…王子殿下二人に支えられて廊下の向こうに消えていった。
「戦闘能力は高いのに、駄目女を見極める目は低いわね…」
シアデリーナがゼィファリックをばっさり切り捨ててきた。
「魔獣に対する防御能力は王国一かもしれないけれど、女性に対する防御能力は三才児以下ね…」
イメリア…!悔しいけど、それ正解です!
そして女性に対して見極め能力ゼロ、防御力最弱と言われていたゼィファリックだったのだが…とんでもない方面から私に精神的攻撃を仕掛けてきたのだった。
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軍の第一部隊の詰所にタイレケンの家の侍従が訪ねて来た。
「至急ご実家にお戻りになられるように…とのことです」
いやいや待て待て?今、大型のシーレカンドラゴンを討伐して帰って来たばかりなんだけど?討伐報告を書かないといけないんだけど?
「明日じゃダメなの?」
「急いで…とのことです」
特殊部隊の『フェガロ』の隊長、強面のリガラ=トーレスを見た。
「あ?まあ…報告書は明日でもいい…」
「ありがとうございます」
きっと面倒くさい…と隊長は思っているから、私を追っ払ったんだろう。大きな図体の面倒臭がりな御仁なのだ。
私は渋々、家の侍従と共に実家のタイレケン公爵家に戻った。玄関先にはすでに両親が待ち構えていた。訝しく思いながら近づく私に向かってお父様は、妙にご機嫌な表情で手を差しだした。何事?
「イアソニフ公爵家から正式に打診を受けたよ~」
「もうっどうしてもっと早く教えないの!」
お母様が私に抱き付いて来る?イアソニフ家?本当に何事なの?
「あなたがゼィファリック=イアソニフ様とお付き合いしているなんてぇ!」
母ーーー!?なんだそれーーー!?
お父様も私に近付いて来て留めを打ち込んできた。
「軍の応接室で隠れて会ってたんだろう?そんな事をしなくても堂々としていればいいのに…」
父ーーーーー!?応接室のことを何故知っている!?
「イアソニフ家は王家に連なる家柄だし、我がタイレケンとも遠縁だが縁続き…いやぁ申し分ないな。一時期は第二王子のリレリアード殿下との婚姻も…と思っていたが、いやぁよかった!」
リレリアード殿下はヤメロ父っ!あんな悪戯大好き、夜遊び大好きな王子の尻ぬぐいなんて…それを考えればくそ真面目で、女性に対する防御能力が三才児以下のゼィファリックの方が遥かにマシなのか?でもあのガチガチのクソ真面目のゼィファリックだよ?
「でも…お母様…」
母はキリッとした表情をして吐き捨てるように言葉を放った。
「このままじゃあなたは一生婚姻出来ないじゃない…ふぅ」
母ーーー!?そんなはっきり言わなくてもぉ…
「こんな良縁もう二度と無いわ、ここでゼィファリック様を絶対逃がしちゃ駄目よ!」
母ーーー!?ゼィファリックが獲物のようになってるよ、嫁に行くのは母なのか?
「これはイアソニフ家との政治的駆け引きの政略婚でもあることを理解しておきなさい」
父ーーー!?嘘つけっ!そんなことしなくてもイアソニフ公とめっちゃ仲良いじゃない!そんな煽りいれて婚姻纏めようって魂胆が見え見えなのよ!
「はぁ………」
翌日…
軍の詰所に出勤すると、ゼィファリック=イアソニフ副隊長がすでに出勤していた。
「タイレケン大尉、話がある。第3応接室に…」
だからっ!そんな所に呼び出すから密会していると誤解されるんだってば!
まあ…話す内容は私と同じことだろうし、今更だね。
ゼィファリックと一緒に第3応接室に入って、ゼィファリックと向きあうと妙な緊張感に包まれる。
「タイレケン大尉はご実家から婚姻の話を聞いただろうか…」
「はい」
「父上から言われた。政治的駆け引きの政略婚でもあることだし、私はイアソニフ家に従うつもりだ」
それを真に受けるなーー!おじさん達の体の良い言い訳だからっ!っていうか、イアソニフ公までうちの父と同じことを言ってるの?……あ、もしかしておじさん同士で口裏合わせしてるのか?
「あのですね、イアソニフ副隊長は…」
こちらを見る、疑いを知らないような純朴な瞳…!
そうだ…そもそもの話を聞いていなかったわね、この際だから聞いちゃおうかな。
「イアソニフ副隊長は……ナナファンテ=スオード男爵令嬢とどのように出会われたのですか?」
ゼィファリックは顔色を変えた。魔獣と対峙している時には無表情のくせに、こんな時だけ傷付きました!みたいな表情になるのはズルいんじゃない?
ゼィファリックは目を散々彷徨わせた後に口を開いた。
「最初、休日に…本屋にいる所に声をかけられた」
フム…出会いは普通だね?
「どんな本が好きかを尋ねられた…少し話した後、お茶を飲まないかと誘われた」
フムフム…そこもまあ、ナナファンテ様が積極的に来ているけど、まあ普通だね?
「お茶を飲んだ後、その日は別れた。次の休みはいつなのかと聞かれたので教えるとまた会いたいと言われたので…次も会うことにした。その次の休みの日は雑貨店に行った。ナナファンテ…嬢が選んだ髪留めをどっちを買うか迷っていたので、両方買えばいいと言うと手持ちが無いというので、私が両方買ってあげた」
おや?
「返り際、また遊びに行こうと誘われた。ナナファンテ嬢に、私はもっと自由に楽しむべきだと言われた…その言葉が嬉しくて、…次の休日もナナファンテ嬢と出かけた。その日は靴と鞄を買いに行きたいと…言われた」
おや?雲行きが怪しくなってきたぞ…
「靴は色々履いていたが、値段が高過ぎて手が出ないと言っていた…ので買ってあげた。鞄は…その日は買わないと言い出した。お金を貯めてから買いたいと言うので…次の休みの時に買ってあげようと思った」
はああぁ……なるほどね、初めは雑貨から始めて…ゼィファリックがまんまと買ってくれることに気が付くと、徐々に高価な物に変えて行ったということかな?
あの子本当に貴族令嬢なの?




