キスもして一緒に寝ちゃいました
急に地面が振動し、人の唸り声がして目が覚める。
どうやらあのまますっかり寝てしまっていたらしい。
すでに日は暮れて夜になっていた。
声は男の子からで、ちょっと苦しそうに唸っている。
もしかして私が重い?
竜だからなのか真っ暗でも十分見える。
動かずにじっと男の子を見てると瞼が震え、ゆっくりと隠れていた瞳が現れた。
その瞳の色は上がアメジストのような紫で、下がピンクトルマリンのようなピンクのグラデーションのパーティカラードサファイアのようにとても美しい。
目は開いたもののまだ焦点が合わず、視線が緩慢に動く。
ゆっくりと辺りを巡った視線が私に止まった。
次の瞬間、ビクッと男の子の体が震え、瞳は大きく見開かれて私を見ている。
「キュイ?」
私が話しているのは竜語らしく、人間には「キュ」「キュイ」「キュウウン」とか聞こえるらしい。
それでも一応男の子に大丈夫?と呼びかけてみる。
「ドラゴンの子供……?」
男の子の発した声は優しそうで好感の持てる声をしていた。
見た目よし!
声よし!
あとは性格だけだね。
私はゆっくり男の子の上からどくと、すぐ横に後ろ足を前に投げ出すように座る。
足がハムみたいにパンパンな上にちょっと短いからそういうふうにしか座れないんだよね。
男の子は私に警戒しつつ上半身を起こした。
「うわっ! 服がボロボロに裂けてすごいことになってる。……あれ? 傷がない?」
立ち上がり体のあっちこっちを触って自分の体を確認している。
傷はたぶん治っちゃったと思う。
「キュイ!」
私は二本足で立ち上がり、男の子に向かってバンザイするみたいに手を上げる。
「え? 抱っこ?」
こくこく首を立てに振ると、男の子はそっと抱き上げてくれた。
「人間の言葉がわかるみたいにタイミングいいなぁ」
抱っこされつつ男の子から匂う香りを鼻をスピスピさせながら吸い込む。
あがらい難い匂いにクラクラしてボロボロの服をギュッと握る。
本当に匂いがやばい。
男の子は落ちていた剣を拾って周りをキョロキョロしたが、やがて諦めてそのままベルトに剣を挿すと歩き出した。
きっと剣の鞘を探したのだろう。
辺りにはそれらしいものはなかった。
「川の音がする。下流に向かって歩けば戻れるか?」
男の子は歩きながら落ちている小枝や枯れた葉を集め、川の近くで木をこすり出した。
きっと火を起こすつりなのだろう。
私は横でその様子を大人しく見る。
そう言えば、お母さんドラゴンと子供ドラゴンはどうしたのだろう。
勝手に離れちゃったけど、探してに来なかった。
近くに竜の気配もない。
暮らしていた穴は崖が高すぎて親に運んでもらえないと出られなかったが戻るだけなら問題ないだろう。
当然戻る方向はわかっているし戻ろうと思えばいつでも戻れるはずだ。
でも今は男の子が心配で離れたくない。
何に?それとも誰に?男の子はあんなに傷つけられ、血まみれだったのかが気になる。
安全だと思えるまでもう少し男の子に着いて行こう。
男の子はなんとか火を起こすことに成功し、安心したように笑って顔を袖で拭う。
そして私を見たとたん、フリーズした。
え?
何急に?
何かおかしいところがあるのかと自分の姿を見るがドラゴンだって以外変なところはない。
「……グランドドラゴンの光属性持ち?」
「キュイ?」
光属性?
ああ、火を起こして明るくなったから私の鱗の色に気づいたのね。
私の鱗は白乳色。
だから光属性なんだ。
男の子は少し疲れたようにため息をつくと、焚き火の前に座った。
私はとてとてと歩いて行き、男の子の膝の上に向き合うように座る。
「僕の怪我がないことに納得できたよ。でも、君はどう見ても野生のグランドドラゴンだよね? 随分人懐っこいなぁ」
「キュイ!」
ウンウンと頷くと、男の子が小さく笑う。
少し疲労の浮かぶ笑顔だったけど、笑える余裕があって良かった。
「君は名前ある?」
男の子に聞かれ、またウンウンと頷く。
「あるんだ……。君は女の子?」
またウンウン頷いた。
「すごいなぁ。完全に人間の言葉を理解しているみたいに頷くね」
「キュイ!!(そりゃね。中身は人間ですから!)」
「……グランドドラゴンの知能はかなり高いって聞いたことあるけど、もしかして本当に理解してるのかな?」
「キュイ!」
男の子の会話に頷いたり、首を振ったりしながら意思疎通を繰り返しているうちにすっかり夜が明けて日が昇りだす。
辺りが明るくなると男の子は焚き火の始末をして立ち上がる。
もう出発するのだろう。
人間の住む町かどこか、男の子の帰る場所に……。
私は男の子に向かってバンザイをすると、そんな私を見て男の子は少し困った顔をして抱っこする。
「僕は山を降りるんだけど、君も着いてくるの?」
「キュイイ!」
「……君を連れ帰ったら大騒ぎになりそうだなぁ」
川の下流に向かって男の子が歩き出す。
辺りはどこを見ても木と草しかない完全に森。
人工的なモノや人の手が加えられたものは一切ない。
とにかくこの世界がどうなっているのか知るには人のいる場所にいくしかないだろう。
やばくなったら逃げればいい。
飛べもしない、魔法も使えないのに私はそんな事も忘れてそう思っていた。
順調に川沿いに歩いて下っていく。
道はそれほど険しくもなく、私を抱っこしたまま男の子はひたすら歩いた。
外の世界を知らない私は匂いを嗅ぎ、辺りを見回しながら気配を拾う。
途中甘い匂いのする木が近くにあることに気づいた。
匂い的にすごく近い。
「キュイ!キュイ!」
短い指を木の方に向けて体を揺すり男の子の気を引く。
「え? 何? あっち?」
そんな私の様子に戸惑いつつも、男の子は私の指差す方に行ってくれてすぐに甘い香りのする木の実の前に着いた。
木は大人の標準男性の背ほどの高さで、木には小さくて赤い実がたわわに実っている。
「グレイティスの実!」
木苺に似ているその実はやっぱり食べられる木の実だったらしく、男の子はすぐに1つもいで口に入れた。
目が覚めてから水しか口にしていないのだ。
これだけたくさんあれば少しはお腹の足しになるだろう。
男の子はいくつか食べると、私の目の前に木の実を1つ差し出した。
「あ~んは?」
あ、あーん?
23歳の彼氏いない歴更新中だった私が、年下のかわいい男の子からあーんされてる!
まあ、向こうからしたら、あーんしているのは子供のドラゴンなんだけどね。
冷静に考えるとちょっと切ないので考えないことにする。
気持ちを切り替えて、ちょっと恥ずかしいなぁと思いつつも口を開けてあーんしてもらう。
口の中に入れられた木の実は想像通り、甘酸っぱくて瑞々しく美味しい。
しばらく2人で木の実を食べることに熱中する。
お腹いっぱいは無理だろうけど少しは落ち着いたのか、男の子の表情が少し落ち着いていた。
また川沿いに戻り下流へ進む。
ドラゴンの気配は強く、動物も魔獣もドラゴンには近寄らない。
だからドラゴンは常に気配を消す魔法を使うらしいんだけど、私には使えないので気配はだだ漏れで何かいても近づいて来ないんだろう。
声は聞こえるものの鳥一羽見ることはなかった。
まあ、安全に進めるからいいんだろうけどね。
どれくらい歩いただろうか、人の気配に気づく。
たぶん、数十人はいると思う。
「ギュルル……」
威嚇音を出し男の子に警戒を促す。
男の子はすぐに気づいて私を肩の上に乗せ剣をかまえて大きな木幹に隠れ、私は邪魔にならないように木に移り上に登った。
しばらく待っているとガサガサと草をかき分ける音がして鎧の来た大柄の男の姿が現れた。
男の子はその人間を知っていたのか、隠れた場所から出る。
「グエン隊長!」
先頭の大柄の熊みたいなガタイで髭で覆われた目力のある男はグエンと言うのか、男の子を認めるとすぐに近寄り片肘をついて頭を下げた。
他の人間も同じように控える。
「殿下、ご無事で良かった! 御身を守りきれず申し訳ありません!」
殿下!
御身!!
え?
なんだろう。
男の子は王族か何かなの?
「すまない……。他の者は俺を逃がすのに精一杯で」
「殿下が無事でいらっしゃるのであれば他の者も本望でございます。気にされませんよう」
男の子の声に苦しそうな呼吸が入る。
他人が気にするなと言ってもどうすることも出来ない。
本人が消化しなければならないことなのだ。
「お召し物が……。魔道士を連れて参りました。お怪我は?」
「ない。どこにも怪我はしてないから治療魔法は必要ない」
グエンって男は男の子の体に視線を走らせ、本当に怪我がないかどうか確認している。
「お召し物をそんなにボロボロにされていると言うのに、お怪我もないとはさすが剣王に近いと謳われるエディオン殿下でいらっしゃる」
感銘している男に男の子は少し困った顔を見せた。
「いや、すごい怪我をして倒れていたはずなんだけど、怪我が治っていたんだ」
「治っていた?」
「運良く白竜に出会い、怪我を治していただけたようだ」
「なんと!」
白竜とはきっと私のことなんだろう。
男の子は周りをキョロキョロと見回す。
「どこ?」
探して呼ばれているのは私なのだと気づく。
男の子の前にいるのは12人ほど、男の子を敬っていることから味方なのだろう。
安全に保護されたのだろうからもう私の付き添いはもういらないはずだ。
「殿下、どうされましたか?」
「白竜の子を探してるんだ」
「……白竜の子ですか?」
男の子が探しているうちにその視線が私と合う。
「そんなところにいたんだ。おいで」
優しく微笑まれ手が伸ばされる。
私は言われた通り、木の上から降りて男の子の手の中に戻る。
「で、殿下! そ、それは!!」
「怪我を治してくれた白竜の子だよ」
「なんという僥倖!」
あとから聞いたけど、白竜は希少らしい。
以前その姿が認められたのは200年以上も前のことらしく、姿を見かけるだけでも運がいいくらいなのに、そんな白竜が人間に懐いている。
さらにエディオンの国、アイビンエネスは初代王が竜と契約し竜守護のある国であり、この世界で唯一竜騎士団を持っている国でもあった。
竜とは関わりの深い国で、竜は縁起物として大切にされている。
そんな国柄である、希少な白竜など崇める象徴だった。
「殿下、いくらお子でも重いでしょうから、白竜のお子はこちらでお預かりいたします」
後ろの方からローブを着たひょろっとした男が前に進み出た。
言葉は丁寧だったけど、見た瞬間ムカムカと気持ち悪くなる。
そして男から匂いがした。
ねっとりとして不快感しかない匂い。
腐ったドブのような匂いが男からする。
「グルァアアアア!!(触んな)」
「ヒッ!」
私に手を伸ばそうとしてくる男に向かって牙をむき出しにし威嚇音を出せば、男は怯えたように慌てて手を引っ込めた。
「ローガン、いいよ。この子は俺がこのまま抱っこするから。どうやら俺の抱っこがお気に入りみたいだから邪魔するなって怒ってるみたいだしね」
男の子……エディオンの胸に顔を埋め、腐った臭いから逃げ甘い匂いを鼻孔から吸い込んだ。
なんであの男はあんなに臭いんだろう。
エディオンはこんなに甘い匂いなのに……。
そのまましばらく下ると平地に出た。
大きな木がなく、緩やかな段差はあるものの視界を塞ぐようなもののない場所。
貧相ではあるもののぽつんとあった木にたくさんの鞍のついた馬が繋がれている。
でも馬が多すぎて馬の数と人の数が合っていない。
案の定皆が騎乗しても半分以上の馬が残った。
「殿下、残りの馬はこのまま放牧して行きましょう。後で人をやって探し出し家族に返してやらねばなりませんから」
「……ああ」
暗い顔したエディオンが頷く。
多分、余った馬分の人が戻って来なかったのだ。
辛そうなエディオンの頬を慰める気持ちを込めてエディオンを優しく舐める。
私に舐められてくすぐったそうに肩をすくめた。
そして気持ちは伝わったといわんばかりに背中をさすられた時、エディオンの匂いが強くなる。
エディオンの甘い匂いは私をクラクラさせ、脳が痺れるような味がした。
果物の甘い香りとはぜんぜん違う。
どうしてエディオンはこんな匂いがするのだろうか……。
馬に揺られ、半日ほど進むとすごく高くて大きな壁の囲い塀が見えてきた。
馬の首にしがみついていた私の背中をエディオンが優しく撫でていたせいで、何度か睡魔に襲われ馬から落ちそうになったり色々あったが何とか町に着いたらしい。
門から中に入りしばらく町並みを進むとまた先に囲い塀があった。
さっき通った塀よりは高くないけれど門は水堀りの向こうにあり、跳ね橋を通らなければ門をくぐれないようになっている。
侵入を防ぐ為の水堀りなのだとすればこの向こうには城があるのだろうか?
跳ね橋を渡り、門をくぐるとさっきの町より豪華な建物が並ぶ。
その向こうにひときわ大きな建物があった。
エディオン達は底に向かって進む。
城……というより王宮?
外見は城と青のコントラストが美しく、マドリード王宮に似てるかもしれない。
重厚なドアの前の階段の下で馬から降りる。
私はエディオンに馬から降ろしてもらっていると、重厚なドアが開き、1人の女声が出てきて、その後を数人の男女が追いかけるようにそのドアから出てきた。
「エディオン!」
最初に出てきた年配の女性がスカートを掴み涙を浮かべてこちらに走ってくる。
着ている服はすごく豪華そうで、すごい美人だ。
私はこの女性が誰かすぐにわかった。
「母上……」
女性の両手がエディオンの顔を挟む。
よほど心配したのだろう、エディオンの顔を挟む手が小刻みに震えている。
エディオンに抱っこされている私に女性の大きな胸が押し付けられぎゅむっと潰された。
どうやらエディオンが女性に抱きしめられているので私が間に挟まれて押しつぶされているようだ。
ちょっと苦しいけど親子の抱擁の邪魔はできない。
黙って潰されておこう。
「……ああ、神よ!」
「は、母上。待ってください。白竜の子が潰れています!」
「え?」
女性はエディオンから離れて間に挟まれていた私を見た。
誰が見たって親子とわかる容姿。
エディオンの整った容姿は母親譲りなのね。
女性は涙を流し、ふるふると小刻みに揺れている。
心配と安堵の入り混じった複雑な顔。
何があったのかまではわからないけど、エディオンが死にそうだったことを知っているのだろう。
「この子が死にそうになっていた俺の治療をしてくれたようなのです。この子が助けてくれなければ死んでいたかもしれません」
その言葉に女性は両手で口元を押さえると、目の前で膝を折った。
「私はエディオンの母で弟王殿下の妻、テレージアでございます。息子を助けていただきお礼申し上げます」
王様の弟の妻!
つまりエディオンは王の弟の息子!
そりゃ皆が傅く訳だよね。
女性が落ち着き、エディオンと共に重厚なドアをくぐって中に入る。
中は白の大理石みたいな石で出来ていて、あちらこちらに施されている細工も美しく繊細。
声を出すのも躊躇うような静寂の似合う美しい内装に見とれてしまう。
えーと何か見たことある。
ナポリのブルボン家の王宮の内装に近い感じ!
白亜の大理石で出来た大階段が美しくて、透き通るような壁などで有名な美しい王宮。
なんとなく感じがそれに似ている。
階段を上がり、いくつか角を曲がる。
それを何度か繰り返す。
ヤバい、もうわかんなくなった。
ここでエディオンと離れたら絶対に迷子になる。
「お父様が心配してあなたの事をお待ちしてるわ。入浴して身をキレイにしたら顔だけ見せてさしあげて?」
「はい」
いくら私が舐めてキレイにしたといっても、汚れているには汚れている。
しかも服はグエン隊長のマントで隠しているとはいえ、ズタボロ状態。
とても人の前に出るような姿ではない。
「では殿下、私どもは下がらせていただきます。明日、報告に上がりますので今日はごゆっくりお休みください」
「ああ、ありがとう。明日は色々話さなければならないことがたくさんある。皆も今日はゆっくり休んでくれ」
その言葉に皆下がって行く。
命令しなれたエディオンの態度。
上品で育ちの良さそうな感じはしていたけど、まさか王族とはね。
可愛くて整った顔立ちをしてるし、なんとなく納得出来るものがある。
一人で廊下を進むエディオンに抱っこされたまま大人しくしていると、あるドアの前でエディオンは立ち止まった。
「キュイ?」
もしかしてエディオンの部屋なのだろうか?
するとどこからともなく女性2人が現れ、顔を伏せたまま両開きのドアを開けた。
中はぽつんと長椅子が置いてあるだけで他に何の家具もないような部屋で窓もなく、壁の一部全体がカーテンで覆われている部屋だった。
何か湿度が高い。
エディオンは私を長椅子に下ろすと、2人の女性がエディオンの服を脱がしていく。
私はすぐに何をしているのか気づいて、慌てて顔を横に向ける。
あっぶな!
エディオンの大事なところを見ちゃうところだった。
いくら年下の男の子でも、勝手に見たら可愛そうだものね。
ここ着替える部屋か何かなのだろうか?
疑問に思っている私をエディオンは裸のまま私を抱き上げれば、女性2人はカーテンを左右に開いた。
目の前には半月の形をした石造りのお風呂があった。
ゆらゆら揺れる水面は湯気をたて、すぐ横の窓にはステンドグラスに似た色の付いた半透明の石かな?が嵌っていて、それが複雑に絡まり美しい光となって水面に降り注いている。
浴室の部屋かぁ。
入浴してこいって言われてたもんね。
エディオンは自分より先に私を洗い出した。
それに女性2人が戸惑っている。
「あの……、殿下」
「白竜の子は尊い存在だ。でもこの子は私以外が触れることを許さない。なら私が洗うしかあるまい?」
「……」
エディオンが自分の事、私と言っている。
グエンの前では俺だったし、私と2人の時は僕だった。
人によって一人称を使い分けているんだろうか?
大変だなぁ。
のんきなことを考えていると、ちらちらと女性の視線が私に向けられる。
王子であるエディオンを洗うのが彼女達の仕事なのだろう。
それなのにそのエディオンは自分よりも先に私を自ら洗っている。
別にエディオン以外に触らせないわけじゃなくて、あのローガンって魔道士が臭かったから触られるのが嫌だっただけなんだけどね。
エディオンの誤解を解くには私から女性に触れればいいだけだ。
けど、私は何も言わずに大人しくした。
希少で尊い存在だと言うなら、自分の影響力をきちんと把握しなくてはならない。
なら、気軽に誰かと関わるのは避けた方が良いに決まってる。
私はエディオンの誤解を利用することに決めた。
いい香りのする液体で体をこすられると自分の体に付いていた汚れがキレイになった。
透明の液体は泡は出ないものの石鹸みたいなものなのかな?
エディオンは私をキレイに洗い終わると浴槽の浅いところに降ろす。
浴槽の中は段々になっており、ステンドグラスもどきに近くなるほど深くなる造りになっているようだった。
一番浅い縁に近いところでも、私の首から下はお湯につかる。
私は大人しくお湯に浸かったままエディオンの様子を見つめた。
私を洗い終わって女性2人がエディオンを液体をつけた布でこする。
女性二人はどちらも妙齢の女性ではなく中年の女性で、エディオンは目を閉じて洗われるままだけど、やっぱり人に洗われるのはちょっと恥ずかしいんじゃないんだろうか?
王族となればこういうのは当たり前で慣れているのかもしれないけど、ちょっと気の毒になってしまう。
だって全部洗われちゃうんでしょ?
さすがに人に大事なところを洗われるのは抵抗がある。
私は洗われて浴槽に入ってきたエディオンの膝の上に乗っかると、短い手を伸ばしておでこをナデナデしてあげた。
そんな私にエディオンは困ったように微笑む。
頑張れ、エディオン!
入浴を済ませ着替えたエディオンはまさに王子様だった。
衣装的にはアラブの衣装カンドゥーラのようなマキシ丈のワンピースのようなものなんだけど、袖がシースルーのような生地になっていて袖にはキラキラと光るビーズのようなものと銀の糸で複雑に刺繍がなされている。
そのカンドゥーラの上に青いシースルーの布が掛けられ黒い布の腰紐をベルト代わりにしているようだ。
青い布は繊細な幾何学模様が銀の刺繍で縫い込まれ、腰の布には宝石と金みたいな細工で編み上げるようなアクセサリーと言っていいのかな?そいう装飾品がついている。
エディオンの銀の髪はゆるく1本の三編みが後ろから横に回され垂れ下がっていた。
めっちゃ王子様感ある!
まだ幼さは残っているけど、将来楽しみだと思わせる何かがある。
うん。
きっとめちゃくちゃイケメンに育つね。
ちょっと今から楽しみ!
女性2人が開けてくれた部屋から出て、また廊下を進む。
エディオンからは花なのかな?いい香りがするんだけど、あの甘くて痺れるような香りを邪魔している。
ってか、なんか匂いが混じって逆に臭いかも!
私、こんなに匂いフェチみたいな人間じゃないはずなんだけど、エディオンの香りを嗅いでからうるさくなってしまったみたい。
花の香りが強いエディオンの首をぺろりと舐めてみた。
すると花のような香りが薄れ、あの甘くて痺れるような香りが強くなる。
私は他の場所も舐めてみた。
思った通り、舐めた場所の香りは甘くて痺れるような香りだけになり私はもっと花の香りを消そうとエディオンをペロペロ舐めているうち、無意識に服の中に潜り込んでまで舐めようとしたらしく、エディオンに怒られた。
「せっかく入浴したのに君に舐められたら意味がなくなるでしょ?」
「キュイィ! ギューギュー!!」
エディオンはあの甘くて痺れる香りの方がずっといい!
止められて文句を言っているのがわかったのか、困ったような顔になる。
「マーキングか何かなのかな? 僕に自分の匂いでもつけたいの?」
「キュイ!」
ちょっと違うけど言葉が通じないので、とりあえずウンウンと頷くとさらにエディオンの困り顔が深くなる。
けど、すぐに諦めたのか、私と向き合うとなんと口にキスした。
「これで満足して?」
ぎゃぁあああああ!!
キスされた!
ドラゴンだけど!
年下だけど!
王子様だし!
男の子からキスされたぁあああああ!!
くらくらする中、私の心の中は嵐の真っ最中だ。
しつこいようだけど、彼氏いない歴更新中だったんだよ!
キスだって誰ともしたことないよ!
触れるだけのキスだったけど、衝撃が半端ない!
そしてその衝撃から立ち直った時は、私はエディオンに抱っこされたままベッドで寝ていた。
……朝だ。
いつ寝た?