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最初の不穏な風

 昨日キスされた事もそうだけど、気づいたら次の日の朝になっていたことも衝撃だった。

 向こう側がうっすらと見える美しい布を幾重にも重ねた天蓋ベッドで私は寝ていたようだ。

 部屋を見渡すと、ドアの上に美しく繊細なドラゴンのレリーフがあることに気づく。

 ベッドの前の衝立もドラゴンの透かし彫りが施されている。

 この国の守護竜がモチーフなのだと思う。

 床は花をモチーフとした美しいラグが敷いてあり、置いてある小さな机などの調度品もシンプルだけど上品な品ばかりだ。

 基本白がメインで青がアクセントに使われている。

 王宮の外見に合わせているのだろう。

 どこもかしこも美しく繊細な彫刻をみることが出来て、ちょっとした美術館のようだ。


 後ろから自分の首に回されている腕が誰の腕か見なくてもわかる。

 私は少し甘く痺れるような匂いを大きく吸ってから、もぞもぞと動いて顔をエディオンに視線を向けた。

 もともと幼さの残った顔をしていたけれど、眠っているエディオンは長いまつげをふせていることにより、容姿の整い具合が際立っている。

 優しくて穏やかな性格のエディオン。

 どうしてか守ってあげたくなる。


 しばらくエディオンを見ていると、やっと目が開いて私と視線が合った。

 エディオンは私に満ち足りた優しく温かい笑みを浮かべた。


「おはよう」

「……キュ」


 挨拶に頷いて私も挨拶を返す。


「そう言えば、君の名前、どうしたら教えてもらえるんだろう? 君の名前を呼びたいし……、いつまでも君ってわけにもいかないよね」


 言葉が通じない文字も書けない以上エディオンに名前を教えることが出来ない。

 困った顔してるのだろう。

 私を見ているエディオンがくすくすと笑い出した。


「君とは言葉が通じないのに、何か会話できてるよね」

「キュイ!」


 ひとしきり笑ったあとエディオンは私の頭を撫でる。


「君の名前を知ることが出来ないから。僕が名前をつけてもいい?」

「キュ!」


 うんうんと首を縦に振るとエディオンが小さく唸った。


「女の子だから……。可愛いのがいいかな? それともキレイなのがいいかな?」


 ぶつぶつと呟きながら一生懸命考えている様子は可愛い。

 しばらく色んな名前?を言いながら、やっぱり良くないとか、もっといい名前はとかつぶやく。


「クレール……。アイビンエネスの国の古代語で『輝き』を指す言葉。クレールはどうかな?」


 多分私が光属性のドラゴンなのでそこから連想したのかもしれない。

 私はうんうん頷く。


『クレール』


 それがここでの私の名前。

 私の頷きにエディオンが嬉しそうに笑う。

 ほんとかわいい子だなぁ。

 こんなふうに屈託もなく笑われると少し愛しさが湧く。


 エディオンは上半身を起こしてベッドサイドにあったベルを鳴らした。

 するとドアの向こうに控えていたのかと言いたくなるぐらいの速さで昨日とは違う女性2人が部屋に入って来た。

 手には服を持っていて、私はベッドの上に座ってエディオンが着替えさせられるのを大人しく待つ。


 服に着替え終わると女性の1人がまたベルを鳴らす。

 次に何が起こるのかと見ていれば、またドアが開いて男の人が部屋に入ってくる。

 毛足の長いラグを床に敷き、その上に丸い木の板とふわふわのクッションを置いた。

 次に料理の乗ったキッチンワゴンを押した男性が入って板の上に料理が並べられていく。

 どうやら朝食の準備だったらしい。


 1人の男の人以外全員部屋から出ていくと、エディオンは私を抱っこしクッションの上に座った。


「こちらが白竜様のお食事でございます」


 男がエディオンの前に置いた皿の上には血がしたたる大きな肉の塊!


 だから生は食べられないって!

 肉は焼いて!

 私はイヤイヤと首を振ってエディオンの首にしがみつく。

 それにすぐに気づいてくれたらしい。


「肉は嫌いのようだ。果物は食べていたのでそちらを」

「はい。かしこまりました」


 肉が下げられかわりに色とりどりの果物の皿が置かれた。

 その皿から林檎っぽい緑の丸い果物をエディオンが渡してくれる。

 私は受け取った果物に齧りついてみると、果物は桃?を少し爽やかな感じにしたような味で美味しい。

 たまには焼いた肉を食べたいような気もするんだけどな。

 エディオンが肉をパンみたいなのに挟んで食べているのを見て、ちょっとうらやましくなる。


 私は少し考えて、エディオンが食べようと口元へ持っていこうとしている肉が挟まれたパンを持つ手を掴んで止めると、立ち上がってその肉入りパンを食べる。


 あ、何かラム肉みたいな感じですごく美味しい!


 もぐもぐと食べている私を見て、目を丸くしているエディオン。

 突然食事を横取りされたことにも驚いただろうけど、たぶん肉を食べた事に驚いているのだろう。


「あれ? 肉は食べられないんじゃないの?」

「キュイイン」


 予想通りの言葉に首を横に振れば、また血のしたたる肉の塊が乗った皿が差し出される。

 私はその皿から顔をそむけて首を振った。


「……もしかして生肉が嫌?」

「キュイ!!」


 やっとわかってもらえてうんうんと頷くと、エディオンはくすくすと笑って自分の皿から焼いてある肉を私の前に差し出す。

 やった!

 これで私も肉が食べられる!


 私はエディオンが掴んでいる肉に向かってあ~んをした。

 やっと焼いた肉のご相伴に預かることが出来たのだった……。







 私の一日の殆どをエディオンと一緒に過ごす。

 一緒に寝て、一緒に食事して、一緒に入浴をする。

 入浴をして花臭くなったエディオンを舐めて匂い消しをするのも日課だ。

 エディオンは騎士団に所属しているらしく、午前中は訓練場で剣の訓練。

 午後は王族としての執務をこなす。

 その間、私は訓練場や執務室に付いていったり、エディオンの部屋で昼寝したり本を読んだりする。


 ちなみに文字は読めない。

 字が読めるのかとエディオンに聞かれて首を横に振って呆れられている。

 だって読めもしない本を見ているのだから。

 でも優しいエディオンは私の為に子供用の絵本を持ってきてそれを読んでくれた。

 そんなことを何日もくりかえしているうち、いつくか読める単語も出来る。

 そうやって文字を少しづつ覚えた。


 私の存在は王宮内だけでなく、この国全体に広がりつつある。

 首には小さな鈴がたくさんついたチョーカー(首輪じゃないから!)がエディオンにつけられて、私が動くとシャリンシャリンと涼やかな音がする。

 そばにエディオンがいるせいなのかもしれないけど、私に害をなそうとする者はなく平和に過ごしていた。


 相変わらず私は飛べず、魔法も使えない。

 でも、エディオンが怪我した時、そこを舐めると怪我はまるで初めから無かったように消えた。


 エディオンはずっと一緒にいるうちに情が移ったのか、いつも可愛いと言いながら私を撫であっちこっちにキスをする。

 可愛らしく中性的な幼さの残るエディオンの容姿は、23歳の私からしたらかわいい弟みたいなもので離れがたく、私は両親と兄弟のいるあの山に帰ることが出来なくなっていた。


 平和で楽しい生活に忘れ始めていたけど、あの白い世界で男の子は言っていた。


『エルフィージュはもう病んでいる』


 私はこの時まだこの意味がわからなかった。

 何が病んでいるのかを……。







 アイビンエネスの国では子供は14歳で成人する。

 エディオンはもう少ししたら14歳になるとかで、王宮はエディオンの成人儀式の支度で大忙しだ。


 アイビンエネスの王には2人の息子がいて、長男をシーフクス。21歳。

 頭はいいがちょっと病弱らしい。

 次男はアークス。18歳。

 こちらは真逆で、風邪一つ引かない健康優良児だけど乱暴者で少し未熟なせいで、シーフクスの方が次期王にふさわしいと派閥が大きいが、やっぱり虚弱なのが問題になっているとかでもう何年も兄弟で次期王位継承問題で対立関係になっているらしい。

 そこで問題をややこしくしているのがエディオンの存在だった。

 弟王の息子は1人。

 エディオンのみ。

 エディオンは健康で頭が良く、思慮深い上に、誰に対しても公平に接するから国民から騎士団や女中など側使いから絶大な人気がある。

 そのせいで次期王に一番ふさわしい人物だと裏で囁かれていた。

 そんな状況で、竜の加護のある国と言われているアイビンエネスで希少な白竜の子供が、唯一側にいることを許した唯一の王子として、次期王位を巡って水面下で動いていたバランスが崩れた。


 今、エディオンは王の2人の息子よりふさわしいという動きが活発になり、エディオンを支持する派閥が急速に成長しはじめているとかで現在、宮中は殺伐とした状況になっている。

 穏やかで優しいエディオンはこの状況に胸をいためていた。


「僕自身は王位に興味はない。王位継承者第四位の王族の務めとして、竜騎士になりたいんだ」

「キュ?」

「王はシーフクスが相応しい。僕は王の補佐として動く方が性に合ってると思うんだ」


 そう言って切なそうに瞳を揺らした。

 私の世界でも兄弟で王位を争ったことは歴史に残っている。

 最悪なのは王位継承者が殺し合い継ぐ者がいなくなってしまうことだ。


「この世界には12の国があると古代記録にあるけど、今あるのは11の国なんだ。滅びた国は魔物以外が住むことができない焦土となってしまった。やはり理由は兄弟同士の王位争いが原因で世界樹が枯れたらしい。だからこそアイビンエネスでは今回の問題に頭を悩ませているんだ。だからこそ僕は継承権を放棄したいんだけど……。なかなか上手くいかないものだね」

「……」


 私が側にいるから、エディオンには竜騎士の素質があると認められているが、王は竜騎士にはなれない。

 だからこそ放棄してしまいたいのに王と臣下が認めないのだ。

 自分の2人の息子が争っているからこそ、エディオンを巻き込み三つ巴にしたいらしい。


 その上今のエディオンは希少な竜に愛される王子。

 そんな王子の王位継承放棄を誰が認めるだろうか?

 この国は守護竜・サンチェスが護っていると伝えられる国。

 守護竜・サンチェスは赤竜。

 炎の強さで侵略する者を退けてきた国。

 竜はこの国の象徴。

 竜に愛されている王子が次期王になるのは自然なことだったのだけれど、エディオンは王の子供ではない。

 そのせいで様々な思惑が入り交じり、少しはイトコとしての交流があった王の2人の息子から拒絶されるようになってしまった。


 今のエディオンの周りには美味い汁を少しでも吸おうという算段を持つ者、竜に愛されているエディオンに心酔する者、次期王にふさわしいと称賛されるエディオンに対し嫌悪を持つ者。

 もう王宮内はめちゃくちゃだ。

 そのせいで孤独を強く感じるようになったエディオンは当然私に依存するようになった。

 私を側から離さず常に側に置いた。

 孤独から解放してあげたいが、気づくのが遅れたせいで、もうエディオンじゃなくても触れることが可能だと知らしめることができなくなっていたのだ。

 ここまでこじれているのに、今更他の者でも私に触れられると知ったらエディオンの立場はどうなる?

 他の者が表立って動いているのに、なかったことには出来るはずもない。


 人の悪口を言って置きながら、状況が変わったのでなかったことにしてくださいなんて出来ないのと同じ。

 違う派閥同士のわだかまりはもう消えない。

 しかも言葉の話せない私に、どうすれば状況を説明出来るのだろうか。

 私に出来ることは孤独になりつつあるエディオンを側で支えることしか今は出来ない。 


 私がエディオンに付いてこの国に来てから月日は半年過ぎていた。

 この国は14歳になると成人したと認められる。

 その14歳をエディオンがもうすぐ迎えようとしていた。

 王宮はエディオンの成人儀式の準備で騒然としている。

 王の2人の息子の成人の日は、国全体の祭りだったが、エディオンは王弟の息子ということでお祝いは王宮内にとどまることになっているらしい。


 エディオンの成人まであと一週間。

 執務室に向かう廊下でエディオンより少し年上の男性とすれ違った。

 エディオンや近くにいた女中などは男性に向かって頭を垂れ、男性が通り過ぎるのを黙って待つ。

 私はこの男性が誰なのか知っている。

 エディオンのイトコで王の2番目の王子アークスだ。


 私はアークスを見る。

 顔はエディオンとイトコと言うだけあってやっぱり似ていた。

 少し精悍で眉が太く、彫りが深く生命力に溢れ、意志が強そうな瞳をしている。

 でも私には少し我儘そうに見えた。

 王子なのだから当然なのかもしれないけど、人に傅いてもらうのが当たり前。

 そんな歩き方だ。

 すれ違う為に少し脇に動いたエディオンをちらりと見る目は傲慢さを含んでいる。


 もして、問題はその時起きた。

 なんとすれ違う時、アークスはエディオンの前で足を止めたのだ。


「エディオン。それが白竜の子供か?」

「え? あ、はい。そうです」


 それ?

 一度会った王ですら私には丁寧な敬語で話していた。

 竜はこの国の守護。

 敬うのが当たり前だと言っていた。

 それなのに王子は随分と上から目線で話してくる。

 ちょっとむっとしているとアークスはさらにとんでもないことを言い出したのだ。


「その白竜の子供を俺に渡せ」

「アークス様……?」


 戸惑うエディオンに、アークスは自分は竜に触れられると確信しているかのような笑みを浮かべこちらに手を出した。

 私を渡せと言われたエディオンが抱っこで支える為に私の足を掴んでいたのだけど、その力が少し強まる。

 エディオンは私を差し出すかどうか葛藤しているのだろう。

 私を掴む手が震えている。


「どうした? 俺は渡せと言っているんだぞ。聞こえないのか?」

「ア、アークス様。陛下に白竜の御子のご気分を害するようなことがないように、全ては御子から動かれるまでこちらから動いてはならぬと言われたはずです」

「わかっておる!!」


 後ろに控えていた男がアークスを止めようとしたが大きな声ではねのけられてしまった。

 何人か護衛の騎士もいたが、もう誰もアークスを止めようとはしない。


「エディオン早くしろ!」


 アークス王子は未熟って聞いたけど、つまり浅はかってことなの?

 ここは中庭に沿っている廊下で人が多すぎる。

 アークスの連れている護衛騎士6人と、女中3人、他にも何人かいてみんなこちらを見ているのだ。

 絶対にここで起きたことは外に漏れるはず。


 この王子はこんなに人のいる前で自分が私に拒絶された時、自分の資質を疑われることにもなる事に気づかないのだろうか?

 竜を敬う国で竜に拒絶される。

 そのことが何故わからない。


 アークスに急かされてエディオンは私を差し出そうとする。

 ここで渡しても渡さなくてもどのみち問題になるだろう。

 こんな愚かな王子が王になればこの国の国民は苦労する。

 そしてエディオンも……。


 私がアークスを受け入れれば、私はエディオンから引き離される。

 瞬時に色々考え、私は腹を決めた。

 なら私が引導を渡す。


「グルルルル! グガァア!!」


 牙は見せ、空振りしたようにアークスの手に向かって短い手を振り下ろす。

 アークスはそんな私の様子に信じられないとばかりにショックを受けた。


 くだらない王位継承問題にも、アークスの矜持の為に利用される気もない。

 エディオンを山で拾ったのは私。

 助けてたのも私。

 エディオンは私のものだ。

 だからエディオンにだけは触れることを許す。

 それだけのこと。

 

「な、何故俺を拒絶する!」



 ショックから立ち直ったアークスが顔を真っ赤にして吠える。

 人前で恥をかかされたことがないのかもしれない。

 けれど、王にも触れさせない白竜の子供に、何故自分が触れられると思ったのか理解に苦しむ。


「アークス様。これ以上は……」

「うるさい!!」


 自分のお供に止められ、子供のように癇癪を爆発させる王子に周りの人の目が冷たくなる。

 アークスはそんなことにも気づかず、エディオンを憎々しげに睨んで鼻息荒くその場を立ち去った。

 そんなアークスをエディオンは悲しそうに見送る。


「昔は本当の兄弟のように仲が良かったのに……」


 私には聞こえたエディオンの小さなつぶやき。

 エディオンを慰めるように頬を舐める。


 これでアークスの立場は微妙になり、シーフクスの立場が強まったはず。

 そして、エディオンの立場も……。

 望まぬ王位継承問題に私のせいで絡め取られていくエディオンに胸が締め付けられる。


 私がここまで付いてこなければ良かった。

 もしくはアイビンエネスが竜を敬う国でなければ違った結果だったかもしれない。

 表情を暗くするエディオンが継承権放棄出来るように何とかしなければ……。








 エディオンの成人の日は明け方に叩き起こされて始まった。


 身を清める為の入浴をしに部屋から出ていったエディオンを待っている間。

 ちょっと散歩してみた。

 廊下に敷かれた絨毯はすべて赤に変えられ、あふれんばかりに飾られた花。

 この国は守護赤竜・サンチェスから赤が幸運の色とされ、祝い事は赤が使われるのだ。


 入浴から戻ってきたエディオンは成人用の服なのか、深い赤色の生地に綿密な銀の刺繍が施されている。

 髪の色も銀だから深い赤が美しく映えた。

 今日はいつも1つに編んでいた髪はサイドだけを編み込み、私と同じ鈴がいくつもついている髪飾りがつけられ、動く度にしゃらんしゃらんと音が鳴る。

 腕、耳、首、足などにごちゃごちゃと宝石のついたアクセサリーで飾られてちょっと重そうだ。

 しかも薄く化粧され、目尻には赤のハイライトが入るだけで、いつもの幼さは消えとても美しく見とれてしまった。

 凡庸な容姿の私はエディオンの美しい姿に少し嫉妬してしまう。

 別に容姿が凡庸だったせいで彼氏が出来なかったわけじゃないんだろうけど、容姿が整っているのが有利な点なのは明白だ。

 まず、あのブラックな会社を変えないと出会う時間すらない。

 まあ、今は彼氏欲しいわけじゃないから別にいいけど……。


 エディオンの支度が終わったタイミングで来訪者が部屋に訪れた。

 来客は王位第一継承権を持つ王の第一子、シーフクス。

 エディオン付きの従者達の表情が固くなる。

 微妙な関係だったのに、先日のアークスとの一件があってから、周りは三人の接触に気を使っているのだから仕方ない。


「エディオン、成人おめでとう。これで君は大人の仲間入りだ。これからもアイビンエネスの繁栄の為にさらなる力を尽くして欲しい」

「ありがとうございます。精一杯この国の為に身を尽くすつもりです」


 シーフクスの祝の言葉にエディオンが頭を下げて答える。

 私は兄弟でここまで雰囲気が違うのかと驚いた気持ちでシーフクスを見ていた。


 シーフクスは雰囲気からして優秀なのだとわかるし、一見穏やかそうに見えて油断のならない鋭さが目に見える。

 ただすごく痩せているのだ。

 折れそうなほど細い体と青白いと言ってもいいほどの肌の白さ。

 病弱と聞いていたが、確かにこれじゃ病人だ。

 どんなに優秀でも国を任すには不安が残る。

 アークスを支持する派閥が強気になるのも納得出来た。


「成人のお祝いを直接渡したくてな。忙しいのにすまない」

「いいえ、お心使いありがとうございます」

「実は先日アークスとの一件を聞いた。弟がすまない。兄として詫びよう。……私がこんな虚弱な体でなければ弟を抑える事が出来たのに迷惑をかけてしまったな」

「とんでもございません!」


 同じ王族でも王の息子であるシーフクスの方が立場はずっと上なのに、あっさりと詫びるシーフクスにエディオンの方が慌てる。

 

 ラグの上でお茶を飲みゆったりした雰囲気の中、シーフクスから成人祝いとして筆記道具を受け取った。

 インクにつけて文字を書くつけペンなんだろうけど、持ち手には細かい彫りがほどこされ、エディオンの瞳に合わせたのだろう。

 ペン先がピンクで上に向かって紫のグラデーションになっているガラスのような透明のもので出来ているペンだった。


「ありがとうございます。ぜひ、明日からの執務で使わせていただきたいと思います」

「今周りが色々と騒がしいが、私はエディオンと敵対するつもりはない。正直、アークスがあのように愚かでなければ私はこの通り虚弱だし、王位を譲ってもよかったのだが、あれを王にしたらこの国はきっと荒れる。それだけは避けたいのだ」

「シーフクス様……」

「あれが王位に就かないのなら私はそなたでも良いとすら思っているが、そなたは竜騎士になりたいのだろう?」

「……はい」

「だから私が継ぐしかないと思っている」


 ソファーにゆったり座るシーフクスは疲れたように笑っている。


「だが、もし私に何か会った場合、叔父上でなくそなたが王位を継いで欲しい。あれにはどうしても王位を継がせたくないのだ。愚かな者達の言動に惑わされ国を荒らすのは目に見えている。この国の王は跡継ぎの指名ができないせいで無用な争いが起きてしまうのは避けられない。私が王になった暁には次の跡継ぎ指名の権限を得るつもりだがまず王の座に就かねばならぬ。本当にこの弱い体が恨めしいものだ……」

「シーフクス様」

 

 目を細めて笑うシーフクスにエディオンの心が傾くのを感じる。

 シーフクスはけして悪い人間ではない。

 嘘を言っているようにも思えなかったが彼は頭が切れる。

 信頼するに値するかどうかは別問題だろう。

 彼は何かを隠している。


 シーフクスは私とエディオンに挨拶を済ませ部屋を出ていった。


 何かがまだ起こる。

 そう思わせる風が吹いていた。






完全作者の萌をとことん詰め込んだ趣味丸出しのお話になっていきますが、真面目に執筆しております。

 小説の執筆にブランクがあり、ただでさえ下手だった文章がさらにひどくなってしまっているので、リハビリを兼ねて書いているため、いずれこっそり修正をいれるかもしれません。

 第一章は恋愛色が薄く世界をどうするかまでになってます。


 少ない時間を執筆に当てている為、予約機能を使用しています。

 ツイッターで予約を入れたら事前に告知いたします。


 誤字脱字報告してくださっている方、いつもありがとうございます!

 泣くほど嬉しいです。

 感想は私のテンションをあげます。

 つまり感想=餌です。

 同じ萌の方、他の萌野方、ぜひ教えて下さい!

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