-08- [第二章] 帝国 ルンヴィーク
ブックマークありがとうございます。
文章の改行、セリフがわかりにくい点等感想もお待ちしております。
帝国に着いてから3日目の朝、ユーはレンが作った朝食を食べて動きやすい格好に着替えていた。
午前は武術を教えてくれる人が来てくれるらしい、上手く付き合っていけるか心配だった。
朝食を終えて30分もしないうちに来客が来た。
「すまんがここにレン・スィールという男が居ると聞いたんじゃがあっとるかの?」
「お待ちしておりましたドルーパーさん、レン・スィールです」
「おお、あんたがレン・スィールか。
さて、御呼ばれしたのはいいんじゃが・・お主研究家じゃろ?儂に寄越された手紙によれば武術を教えて欲しいとのことじゃがなんで今更武術なんて学ぶんじゃ?」
「いえ武術を学ぶのは私ではなく、ここにいる彼女です。名前をユーと言います」
「ユーです、よろしく、お願い、します」
「儂は名はオグル・ドルーパーじゃ、オグルでええよ。」
「今ので分かるかもしれませんが彼女は話すことがあまり上手くありません、治療は行なっていますがすぐに結果が出ないようでして、その辺りはご了承下さい」
「この娘がか?・・・ふむ、事情はわかったがまず何をすりゃええんじゃ?」
「基本的な武術を1から教えてあげて欲しいのです、彼女はある理由で私が保護していますが、一人で生きていける力が欲しいと言われました。
ですのでこの帝国でも武術の達人でもあるオグルさん、貴方に武術指導を依頼したのです」
レンはオグルに武術指導をお願いすると共に指導内容についてはオグルに一任する方針を伝えた。
「なるほどのぉ・・それじゃまずは実力を知るのにも手合わせをしようかの?」
「あ、あの」
「ん?なんじゃ?」
「なんて、お呼び、すれば、いいで、すか?」
「ふむ・・・別にこだわりは無い、好きなように呼ぶとええ」
「分かりました、ご指導、よろしく、お願い、します、先生」
「先生か、なんかむず痒いが・・まあええじゃろ。ユー、得物を持って中庭に来るんじゃ」
ユーはロールグで買った槍を持って中庭へ向かった。
(見た目厳つそうだけど中身は凄い優しそうだ、これならギクシャクしなくてすむ・・かな?)
「お、来たか。
ふむ・・槍か、槍術でも習っておったのか?」
「いえ・・、なるべく、近づか、ないで、戦う、なら、槍が、いいかと、思ったので・・」
「成る程、そういうことか・・
どれ、本気でかかってくるんじゃ、君の実力が見たいのじゃ」
「は、はい!」
ユーは人に向けて槍を向けるのが怖かった、当たり所が悪かったら死んでしまうのではないかと心配していた。
しかしここでちゃんとしなければレンがせっかくくれたチャンスが失われてしまう、それだけは避けたいと覚悟を決め槍を突いた。
踏み込んで槍を突いた先には身体をズラすだけで避けているオグルの姿があった。
(ぅわ!?これが最小限の動きだけで避けるってやつなのかな・・?この人凄い・・!)
ユーはオグルの動きに感動しながら連続で槍を突くが全て避けるか盾で向きを逸らされオグルには一撃も当たらなかった。
突きだけで目が慣れていればこれは回避できないだろう、と槍を上に持ち上げしっかり踏み込んで振り下ろしたがそれすらオグルには避けられた。
しかしユーはその動きを囮に使い、振り下ろした状態で横方向へ槍を薙いだ。無理な体勢で振ったから威力はないものの当てることは出来るだろう、と思っていたが薙いだ先にオグルの足は無く、ユーの首元にはオグルの右手に握られている木剣の切先があった。
結局ユーは一撃も当てることが出来ず、オグルはユーの攻撃を全て防いで一回目の攻撃で剣を喉元へ突きつけた。完敗だった―――
「ま、参り、ました・・・」
「ふむ、動きは悪くなかったが君は槍が向いていないのかもしれん、動きを見たところ両手持ちの大剣か大型の片手剣の方が良いかもしれんな」
「剣ですか?」
「うむ、槍術の身体の使い方ではない感じがしてのぉ・・、次からは剣で稽古をしてみるか?」
「お、お願い、します!」
手合わせが終わりユーはオグルの凄さを感じた。
失敗作と言えど混合獣の身体だ、常人よりは数段強い力で振ったのに一度も当たらない。見切りの良さと足運びだけで完封させられたのは尊敬に値するものだった。
今日は顔を見せる程度だったということで手合わせだけで稽古は終了した。その後レンはオグルの予定を聞いて1週間(6日)のうち5日の午前を稽古の時間にあてることになった。
ユーはガッツリ稽古できるなら積み重ねが大事な稽古がしたいと思いオグルに足運びや立ち方、基礎中の基礎から教えて欲しいことを伝えた。
オグルはユーの基本を忠実に覚える姿勢に好感を持ったようで「儂の稽古は甘くないぞ?」と微笑みながら言った。
稽古後に汗を流し昼食を取って午後から来る魔法使いの先生はどんな人だろうと想像しながら待っていると研究所の扉がノックされた。
――コンコンッ
「すみません、スィール様はいらっしゃいますでしょうか?」
「ああ、すみません。今開けますから少々お待ちください。
お待ちしておりました、私がレン・スィールです、どうぞ中にお入りください」
「お招き頂きありがとうございます。頂いたお手紙では魔法をご教授くださいとのことでしたがスィール様は魔法の研究もなさるのでしょうか?それでしたら私では役不足かと思われますが・・・」
「いえ、今回ご招待したのは彼女に魔法を教えていただきたいからです。実は彼女はかなりの逸材なのですが魔法の知識がまったく無いのです、そこで魔法を理論から理解しているヴァーナさんにお願いすることにしたのです」
「この子に、ですか?」
「あ、あの、ユーと、言います。よろしく、お願い、します」
「あらアナタ声が・・・
っと、ごめんなさいね?私はヴァーナ・ファルメルと申します、よろしくねユーちゃん」
「ヴァーナさんもお気づきかと思いますが彼女は流暢に会話がこなせない呪いが掛けられているようです。
懸念されるのは詠唱だと思われますが、週に2度ほど治療魔法士をお呼びして治療を行なっていますのでそれまでは詠唱魔法ではなく座学など理論のお話をされるとよろしいかと思います」
「呪いですって・・!?
いや、あまり詮索するのはいけませんね・・。分かりました、その呪いが解けるまでは詠唱を必要としない分野の指導をしましょうか。」
ユーは魔法適性を記した羊皮紙をヴァーナに手渡した。
ヴァーナは驚いた顔をしていたが目を通すと少し考えてから羊皮紙をユーへ返した。
「見させてもらったところ攻撃魔法が使えないようですし回復魔法をベースに補助と身を守る魔法を覚えることになりそうですね。
今日は魔法とは何かということを説明するだけで終わりそうですが、これを知らないと魔法は上手く活用できないからちゃんと理解するよう頑張りましょうね?
さて、ここで教えるのも何ですからユーちゃんのお部屋でもいきましょうか」
レンは研究に戻りユーは部屋で魔法の説明を受けた。
-魔法とは?-
この世界は大気中に"魔素"と呼ばれる魔力の元(魔力の出来損ないとも言う)で溢れている、濃さに違いはあるものの魔素が存在しない場所は無いと伝えられている。
魔力は魔素を呼吸などで体内に取り込むことにより魔力として還元し魔力を回復することが出来る。
魔力は様々なものに宿っており、純度が高いと魔道具などの材料になるものへと変質する。
魔力を魔法として発動させるには身体の外へ放出する必要があり、そのためには身体の中の魔力の流れを理解する必要がある。
技として発動するには"詠唱"が必要となる。無詠唱で魔法を発動させた場合十二分に効果を発揮出来ない他、補助魔法などは一瞬で切れたりする(使用する魔力量を増やせば伸びることは伸びるが非効率)
複雑な詠唱を必要とする大魔法に至っては無詠唱で発動することすら出来ないとされている。
"詠唱"は唱えればいいものではなく魔力を言葉に乗せ段階を踏んで魔法を発動させることを"詠唱"と言い、一言一句同じでなくても本質を理解すれば発動が可能。逆に言うと詠唱を真似てもその魔法についての理を理解できなければ魔法を発動することは出来ない。
一通り魔法の説明を受けて後、あとは魔力の流れを身体で理解して自分で理解するしかないので魔力の操作についての練習方法を教わった。
「今日はこの辺で終わりかな?魔法については説明したけど理解するには時間がかかるから練習は毎日続けるといいよ」
「ありがとう、ございます、頑張り、ます」
ヴァーナとの授業は夕食前に終了する話で纏まったので今日は理論説明と練習方法を学んで終わった。
ヴァーナの予定を聞いてスケジュールを組んでいった結果、夜が空いていたので夜はレンに植物についての知識を学ぶことにした。
光 火 風 闇 水 土
午前 武 武 武 武 武 休
午後 魔 魔 医 魔 魔 医
夜 植 植 植 植 植 休
武=武術指導/魔=魔法指導/医=呪いの治療/植=植物勉強/休=お休み
なんだか学校にいた時と変わらないんじゃないかな?と思いながらこれからの日常にワクワク出来るようになってきた。
夕食を食べたあとはレンに植物について教わった、分布図や種類を毎日暗記して冒険の糧に出来るように取り組んだ。
土の日の休みになったら帝国の街を回るのもいいかもしれない、と思いその日は眠りについた。
*****
オグル視点
昨日いきなりレン・スィールという奴から手紙が来た、内容は簡潔に言うと武術を教えてくれとのことだった。
儂は武術一筋で出世に興味が無かったからこの歳になっても前線で戦うことができた、しかしそれも歳には勝てんかった。
一対多数でも未だにそこらの若造には負ける気はせんが戦場で戦うには体力が持たなくなってきた、ここらが潮時かと思い傭兵を辞めたのが3ヶ月前、余生を静かに暮らしておったと言うのにいきなりの手紙じゃ。
無視する事も出来るだろうが、何分暇じゃから会うだけでも会ってみようと思った。それに手紙に書いてある金の件も気になるしの?
レンとやらが住んでいる場所に来たがこれは研究所か?研究所に住んでいる奴が武術を学びたいというのか?分からん・・・
悩んでても仕方ない、取り敢えず会ってみれば分かることじゃ
扉を開けて入ってみたら細身の好青年が迎えてくれたが、こりゃ雰囲気が完全に研究家じゃな、戦闘する奴に感じんわい、無駄足を運んだかのぉ・・
ん?話しによると武術を教えて欲しいのはこの青年ではなく隣に立ってるこの娘というではないか。
まずこの娘、肌が青い、エルフみたいに耳が尖ってツノまで生えとる・・なんの種族じゃ?見たことないぞ?
聞くとハーフエルフらしいが親の顔は覚えてないそうじゃ、あまり詮索するのはやめといたほうが良さそうじゃの
金が貰えるといっても素質の無い奴を教える程退屈なものは無い、手合わせして素質が無さそうじゃったらこの話は断ろう、どうせ儂には不利益にならんし他にも武術してる奴はおるしのぉ
手合わせをしようとした時に躊躇してるようじゃったからちょっと焚き付けてやったら想像以上じゃった・・・。
まず突きが集中しとらんと殆ど見えん、身体の動きがバラバラで素直な攻撃だから読めたがこの速度・・細身の身体からは想像出来んかった。
それにバラバラで雑な動きなのに連撃の数が半端じゃなかったわい、こんなもの避けるので精一杯じゃわ・・・、膂力にものをいわれてやっとるんじゃろうけど当たったらひとたまりもなかったじゃろうな・・
その後突きが当たらず焦ったのか槍を掲げて振り下ろしてきおった、かなり早いが避けに徹すれば大丈夫じゃと思ったらこの娘の視線が儂の足に集中しとったから警戒してて良かったわい、振り下ろしたあと槍を横に薙い払いよった、視線に気付けておらんかったら当たってるとこじゃったなぁ・・・
ともあれ、隙が出来たから首に木剣を当てて終わりにしたがこの娘素質の塊じゃったわ、どこまで強くなるか・・楽しみで仕方ないわい。
最初は無駄足かと思うたが老後の楽しみが出来た、しかも給料までくれるとはのぅ、レンとやらに感謝せんといかんな。武人としての儂の血が疼いてきよる、この娘を強くする・・―――それが儂の第二の人生かもしれんな?
*****
ヴァーナ視点
魔法の研究をしていたら研究家で名高いスィール様からお手紙が届いて中身を確認したら"魔法を教えて欲しい"って書いてあったわ。
確か種族研究の傍ら魔物研究もしていて前線で戦う者にとっては素晴らしい功績を残しているんだったわね、それに最近では植物研究をしてて情報を記した書物は薬を作る人たちに重宝されてるみたいね、ポーションの効能が上がったらしいし・・・
そんな人が私を呼んで魔法を教えて欲しいですって?次は魔法の研究でもするのかしら?
スィール様がいるのはこの研究所ね、午後に来て欲しいとのことだけどもういらっしゃるのかしらね・・・?
スィール様は居たけど魔法を教わるのはスィール様じゃなく隣にいる少女らしいのだけど・・肌が青い種族って聞いたことないわよ・・?耳を見る限りエルフの血はあるようね・・・、それよりも!この子凄く可愛い!愛らしい!このクリッとしたお目々m
――っと取り乱しそうになったわ、危ない危ない・・・。
話を聞くと魔法を学びたいけど何やら呪いがかかってるらしくて詠唱を紡げないらしいわ、こんな子に呪いをかける外道なんて滅びればいいのよ・・・!
っとと・・・呪いが解けるまでは魔力の使い方と魔法の理を理解させろ・・と、結構本格的に覚えるのね?私てっきり「魔法を使いたい!」って言ってるのかと思ったけどそうでもなさそうね、最近の魔法使いは魔法の上っ面しか見なくて面白みが無かったのよねぇ・・・、魔法の深淵を追求するものは減ったけどこうして理から理解したがる子もいるのだから私の魔法知識も捨てたものじゃないわね。
魔法を学ぶにはまず本人の資質を知ることから始まるわ、この子の魔法適性h――
・・・・ちょっとまって?何故相反する魔法が得意魔法になってるのかしら・・?こんなの今まで見たことないわよ・・・
んっ!?・・魔力の量もおかしくなあい?魔力貯蔵庫って呼ばれてた私でも鑑定では2分弱だったのにこの子倍はあるわよ・・!? さしずめ魔力の海ね・・・
ウフフフ、指導に力が入るわね、新たな世界を私に見せてくれるかも知れない子に出会えたのだから―――
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見た目
オグル:60歳くらいの筋肉隆々のおじいさん
ヴァーナ:20歳後半の出るとこは出てる美人
今回から主人公以外の視点も加えてみました、どうでしょうか?
「」でセリフにしたほうがいいのか、迷いましたがどうでしょうか