-09- [第二章] 帝国 ルンヴィーク
遅くなりました、今回は短めです。
年末年始の間に書けるだけ書けるようがんばります。
2人の先生と出会った後、武術と魔法の基礎を習い始めたが今までしたことない事の連続でユーは少し疲れていた。
それを見たレンは、土の日に帝国内を散歩したらどうだと勧めてくれた。ただし帝国内でも貴族区には近寄らないという条件付きで。
貴族の中には物珍しさで誘拐や売り飛ばしなどをする人種が少なからずいる、そして権力で事実をもみ消すのだから厄介である。
今居る研究所が居住区の一番離れにあり、居住区は帝国内でも南に位置する。
北には城と貴族区があり貴族区より南には大きな壁で仕切られている。
貴族区より南は庶民区と呼ばれ、庶民区は大きく4つの区画に分けられ真ん中には騎士団本部がある。
騎士団本部から北西には工業区、北東には商業区、南西と南東には居住区があり、レン達の住んでいる研究所は南東の居住区の中で最南端に位置していた。
何故最南端にあるのかというと研究中に騒がしくなるのを気嫌いしたからだった。
この1週間で武術面は、武器を片手剣または両手剣に絞り戦闘スタイルを決めた上で基礎を学んでいた。
型に始まり、筋肉の使い方、駆け引きなどを下地にみっちり教わっていた。オグルによるとユーの素質だと基礎を2ヶ月程度やれば身体に染み込んで次のステップに進めるとのことだった。
この2ヶ月がどれ程の素質かと言うと剣を極めたと言われる剣聖は2週間もかからなかったが、傭兵や騎士団の平均習得期間は4〜6ヶ月かかるので素質はあるが剣を極めるには時間がかかる、と言った程度だった。
魔法面は呪いが徐々に緩和されているものの、詠唱出来るまでには至っていないので専ら魔力の扱い方と魔法の基礎知識を教わっていた。
ヴァーナは自信が研究してる新魔法"混合魔法"を使えるかもしれないと推測し、新魔法の理も一緒に教えていた。
オグルとヴァーナが自分の持てる全てを注ぎ込んで育て上げようとしているお陰で、ユーは知らず知らずのうちにハイスペックな魔法剣士へと変貌を遂げていくのだが当の本人は比較対象が無いので知る由もなかった。
5日間みっちりと稽古を付けてもらった後の土の日、ユーは昼の呪い治療が終わってからレンからお小遣いの銀貨3枚と帝国内の地図を受け取った。
帝国内と言えど目立つユーである、心配したレンは何かあった時はスィールの名前を出しなさいと言った。
王都・帝国ではレン・スィールの名前はかなり知られており、ユーがスィールの名前を出すと研究関係の者と認知されやすくなる為である。
――いざ研究所の外へ!
研究所を出たユーはこの世界の食材に興味があったので北上して商業区を目指した。
商業区は宿屋、料理屋、食材屋などがひしめき合う区画であり、人の数も多い。ユーはあまりの人の多さに目を回しそうになったが当初の目的を達成すべく市場へと向かった。
ユーの目的は、知っている食材があるか、知っている調味料はあるか、知っている料理はあるかということだった。元々料理が好きなユーは土の日に料理を作って英気を養おうと考えたのだ。
(凄い人集り・・、端っこ歩いて邪魔にならないようにしないと・・)
端を歩いて邪魔にならないようにしているつもりのユーだが、赤髪に青肌の種族など今まで帝国には居なかった為道行く人が物珍しそうにユーに視線を送っていた。当の本人は空気になっているつもりだったが注目の的になっていた、本人は気づいてなかったが・・・。
数分歩くと野菜や果物が並ぶ店にたどり着いた、そこには見たことのない野菜や果物ばかりで日本で食べていた野菜が見当たらなさそうだった。
(わー、こりゃ凄いな。色も形も見たことない野菜ばっかりだ・・。
ん?これ・・生姜の香りがする!大きさも色も違うのに匂いは生姜だ・・!あ、こっちは赤色だけどネギの匂いがする・・、こうみると異世界って現実を叩きつけられてる気がするなぁ。他にも形は違うけど日本の野菜があるからいろいろと料理はできそうかな?)
野菜を持ち上げて匂いを嗅いでは元に戻し嗅いでは戻しを繰り返していた。店の主人はその様を訝しげに見ていた。店前で何度も商品を触られると流石にほかのお客が入りづらくなる、ましてやユーの容姿である。
流石に耐えかねた店長がユーに忠告をした。
「お嬢ちゃん、商品買わないのなら帰ってくれないか。商売の邪魔だよ」
「あ、すいません、見たこと、のない、野菜ばかり、だったので、つい・・」
「分かればいいんだ、買うならいいが買わないならダメだ。二度目はないぞ」
店主の機嫌を損ねたらしい、機嫌をよくしてもらうには買うしかないようだ。
とりあえず今回は確認の為だけに来たので次回購入する旨を伝えてその店を去った。
その後、他の店の商品も見ては次の店へ、商品を見ては次の店へとフラフラと店から店へ渡り歩いていた。先ほどの事もたるので商品には触れない様にしておいた。
数十分経った時、ユーの鼻に嗅ぎなれた匂いが飛び込んできた。
(これは!? 醤油が焦げる時の匂い!)
バッと顔を上げ匂いの元を探すべくキョロキョロと辺りを見渡した。
様々な匂いの中から醤油の焦げる匂いを探し当て匂いの発生源の屋台へと足を運んだ。人間離れの嗅覚と分析能力だがそれが身体からもたらされた能力だとユーは気づかなかった。
ユーは屋台のメニューであろう野菜炒めらしきものを頼んでから調理工程をずっと見ていた。
(何かの油を引いて、火が通りにくそうな野菜から炒めて・・あ、この黒い液体か!醤油の匂いがするのは・・
さて・・味は・・?)
ユーは調理された野菜炒めを恐る恐る一口頬張った。
「美味しい・・(日本の醤油とほとんど同じだ、違うとしたら光が透けないくらい黒くてちょっと塩分少ないくらいかな?)」
「あら、嬉しいねぇ。そんなに美味しそうに食べてもらえるとこっちも調理した甲斐があったってもんさぁ」
「あの、ひとつ、いいですか?」
「ん?なんだい?」
「この、黒い液体は、作ったもの、ですか?普通に、売っているもの、ですか?」
「ああ、これかい。これはね、豆醤と言ってね、豆から作られる調味料なのさ。食材屋にあると思うよ。本当は魚醤を使いたいんだけど、あれは海辺の町でしか作れないらしいから似たようなもので代用しているのさ。」
「ほんと、ですか、ありがとう、ございます!これは、お礼です」
(豆醤って言ってたけど、つまりは醤油だよね?この世界で醤油なんてないと思ってたのに早速見つかるなんて・・!
これで"アレ"が作れるかな?)
ユーは料理代に情報量として少しお金を上乗せして支払いを済ませ、件の食材屋目指して移動した。
しかし食材屋を探すのに手間取り食材屋を見つけた頃には日も落ちていた。ユーは食材屋で豆醤の存在を確認し、店主に来週買いに来るから置いていて欲しいと伝えたところ笑顔で了承してくれた。
この反応から見るとあまり売れてないのようだった、屋台のおばちゃんも代用品と言っていたから基本は魚醤を買っていくのだろう。しかし売れないからといっておいておかないと魚醤が売れきってしまった場合の対処が出来ないじゃ店としてはダメなのだろうとユーは推測した、しかしユーの場合は魚醤より豆醤が欲しいので安価で好都合だった。
この日はそのまま研究所に帰宅し、次の土の日が来るのを楽しみにして眠りについた。
次の週の光~水の日の5日間はスケジュール通りにこなしていった。変わったことといえば、呪いがもうすぐ解けそうな兆しが見えてきたこと。身体が慣れてきて武術の稽古の難しさがあがったこと。魔力の扱い方を網羅しつつあること。
土の日の休みがあるお陰で他の日の稽古の効率が上がり、結果としてプラスに働いているようで、これにはレンも予想外だった。
ユーの待ちわびた土の日になった。レンに自分の住んでいた世界の料理を作る旨を伝えて朝一から市場へと向かった。
まず向かったのは前回訪れた野菜が売っている店、店主に今回は買いに来たことを伝えて生姜(らしきもの)と長ネギ(らしきもの)を購入して次の店へ足を運んだ。
次は食材屋に向かって予約していた豆醤を受け取りに向かった、1リットル程の容量の瓶もおまけで付けてくれた。
最後に肉が売っている店に入り、豚肉のバラの部位らしきブロック肉を買って研究所へと戻った。
研究所へ戻るとちょうど昼食の時間で昼食を済ませ、午後の治療をしてもらった。
治療後、買い込んだ食材を持って厨房に入った。今回ユーが作ろうとしているのは"豚の角煮"だった、臭み消しの野菜と醤油と砂糖と水、そして豚バラ肉ブロックがあるだけで出来るユーの大好物、この世界には無いであろう料理を日頃お世話になっているレンとディムに振舞おうと思っているのだ。
2人共エールを好んで飲むのはこの2週間程で把握しているので、酒のツマミにも最適だろうという判断をしたのだった。
(久々に料理する気がするけど、お肉料理は大好きだったからね。美味しいって言ってもらえるようなの作らなきゃね!)
ブロック肉は表面に焼き目が付く程度に焼いて、生姜と長ネギをいれたお湯で煮て、余分な脂を出しつつ臭みを消す。
火が通ったら豚肉を取り出しある程度の大きさになるように包丁で切っていく。
ゆで汁を使う方法もあるらしいがユーはゆで汁を使わず、砂糖・豆醤・水を入れ、そこに切った豚肉を投入して蓋をして煮込んでいく|(鍋蓋はなかったので大きめの木板で鍋口を覆うことで事なきを得た)
ある程度煮立ったら蓋を外し、落し蓋をして水分を飛ばして煮詰めていく。
煮汁が濃くなってきたところで火を止めて角煮の完成!
味見する為に一切れ取り出しフーフーと冷ましながら菜箸で口へ運んでいく(箸文化は無いのか、箸を見かけなかったのでいい感じの木の枝をナイフで削り菜箸もどきとして使っている)
プルップルになった豚肉が濃い豆醤のタレに絡まってご飯が欲しくなる一品になっていた、生憎帝国に来てから市場を回っても米らしきものは見当たらなかったのでこの地域には無いのだろうとユーは判断した。
夕食の時間になり、角煮以外にもスープとサラダとパン、それと角煮が口に合わない可能性も考慮して塩漬けした肉も用意した。
レンはユーが初めて異世界の料理を作ってくれるとあってワクワクしている、ディムはユーが料理を作ると聞いてどんな料理が出るのか少し緊張していた。
3人がテーブルについたところで2人にエールを注いであげてから角煮をテーブルに出した。
2人とも黒い液体に包まれた肉に少し驚き、甘辛い匂いで食欲をそそられた。
2人には料理名とこの料理はエールに合うらしいと説明してから食事を開始した。
2人とも角煮から手を伸ばし、肉の柔らかさに驚きまし肉を口に運んでからエールを流し込み、その味に酔いしれた。
その2人の顔を見てユーは2人の口に合ったことを確信し、ちゃんと喜んでもらえてよかったと安堵した。
結局のその日はどうやって作ったのか、別の料理はあるのかと聞かれ、来週はまた違う料理を作ろうと決めた。
この日から土の日はユーが晩御飯を作る様になりこの世界と異世界の料理が混在する日になった。
レンとディムは土の日の晩御飯が楽しみになり、この日を境に土の日に近づくにつれ作業効率が上がるようになったという。
*****
レンの視点
稽古を始めてからユーが少し疲れてるように見えてきた、慣れないことばかりだろうから息抜きもいるんじゃないのかな?
息抜きに帝国内を歩き回るのを提案したけどユーの容姿だと貴族が黙ってないからなるべく貴族区には近づかないように言わないとね。
お小遣いを渡して商業区へ遊びに行ったユーを見送って研究を再開しよう、なにせユーの身体には謎がいっぱいだから調べても調べても新しいことが出てきて楽しいからね。
笑顔いっぱいでユーが帰ってきたのを確認して、自分の提案が正しかったことが証明されたね。それにユーが自分の世界の料理を来週振舞ってくれるらしい、市場に行って気が楽になったのか、住んでた世界のことまで思えるようになってきたんだね、これはいい傾向かな?
次の土の日、市場から帰ってきて早々に厨房にユーが篭ったけどそんなに時間のかかる料理なのかと心配して顔を出しに行ったら「煮込むのに時間が掛かるんです」との事だった。
遂に夕食の時間になり、ユーが作った料理がテーブルに出された。
甘辛い香りがする肉・・・としか言えない料理で少し期待外れな感じだった。ユーはこの料理にはエールが合うと言ってエールを注いでくれたがこの手の料理にエールが合うとは思わなかった。
何せ肉を煮込むと硬くなるし臭みが出てしまう、それを誤魔化すためにソースは必然と強いものになり肉と喧嘩してしまう・・・というのがこの手の料理によくある事だった。
でもせっかくユーが作ってくれた料理だ、有り難く頂くとするかな?
この肉、硬くないぞ?それどころかぷるぷるしている・・取り敢えず味を確かめないと――
・・・美味い!確かに味は濃い、けど肉に臭みは無くて硬いどころかとろけるくらい柔らかい!? 肉自体の脂の甘みとタレの塩っぱさがすごい合う・・!
ユーの言う通りエールにも合う、これはエールと肉を食べるのが止まらなくなりそうだ・・、ディムを見るとディムも満足そうに食べているね、これは私達2人の好物になるかもしれないね・・
2人が食べ終えて満足している顔を見てユーもホッとしているようだった、これだけ美味しいものを作れるのに私達の口に合うか心配だったようだ。
ユーは嬉しかったのか来週も違う料理を作ってくれると言ってくれた、これはまた来週が楽しみだ、とディムと顔を見合わせながら思った。
ここでいう豆醤は、実際の豆醤とは少し異なります。
豆醤=醤油 の位置付けで使ってます。




