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百年遅れの英雄譚  作者: すっとこどっこい
第五章 青年時代
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トリとの絆

 シフたちがフランに戻ってきたのは夕方だったが、早速カルネを連れて六歌仙の本部に足を運んだ。

 ケラシーヤは連れて帰ったら後は関係が無いから、とカルネが団長室に入るのを見届けて、外に向かう。シフも異論はないので帰ろうとして、伝え忘れていたことだけ口にする。


「カルネさん、トリが心配してたよ。それとティナが怒ってた。ミーアさんに迷惑かけたからって」

「あー。そうだね。また謝っておくよ」


 ひらひらと手を振りながら部屋に入ったカルネを見届けて、シフはトリの職場に顔を出す。そしてトリの終わるのを待って、三人で家に帰った。


「ティナ姉ちゃんがご飯を作ってるけど、二人も増えたら足りないと思うぜ」

「ああ、だろうね。何か買い足すか」

「いや、帰ってからすぐに出来るの作るよ。炒め物なら早いし、せっかく兄貴が帰ってきたんだから、俺も作っておかないとな」


 結婚をしてから、兄貴はやめてシフと呼ぶよう言ったが、トリは嫌がってそのまま兄貴と呼び続けている。シフが理由を聞いても言わなかったが、ほとぼりが冷めた頃にケラシーヤ経由で聞いてみたところ「兄貴を兄貴と呼ぶのが自分だけだから」らしい。

 ケラシーヤやティナと違って六歌仙に所属しておらず、シフの横に立って戦えないのは、普段はおくびにも出さないが内心で気にしているとのことだ。

 シフにとっては、そんなものは単なる一面なのだが、トリとその話をしたわけでもないので持ち出しにくい。


「そう? じゃあお願いするよ。ティナとトリの料理も十日ぶりだな」

「良いもん食べてなかったのか?」

「適当に獣か何かを狩ったり、食べられそうな実を食べたりしてたな」

「初めて連れ歩かされた時と一緒か」

「そうだな。村に帰る時はご飯も色々と積んでいたけど、基本的に現地調達が多いな」


 トリは懐かしそうに目を細める。


「あれからたくさん、良いもん食べてるけど、一番のごちそうは、兄貴に担がれて町を出た後に食べた鳥の丸焼きだな。久々の食いもんだったってのもあるけど、あれは美味かった」

「へえ。どんなの?」


 ケラシーヤが興味を示すと、トリの目が輝く。


「鳥肉を焼いてさ、柑橘系の味付けしてるから、食いやすかったんだよ。三日ぶりくらいの飯だったから、余計美味かったのかもな」


 解る解ると言いつつ、ケラシーヤは大きく頷いた。


「なるほど、それでシフくんに胃袋を掴まれたと。それは惚れるわね」

「そりゃ何か違うんじゃねえか」

「あらそう? でも、鳥の香草焼きも美味しそうね。今日はそれを足してくれる?」


 晩ご飯の話で盛り上がりながら、家にたどり着く。ティナに出迎えられ、帰ってきたなら先に顔を出して欲しいと怒られた。


「ごめん。カルネさんも一緒だったし、早く連れていかないといけなかったし」

「それは解るけど。カルネさんは無事だったんだね」

「おう。元気に研究やってた。心配して損したくらいだ」


 食事を済ませて子どもたちを寝かしつけた後、夜が更けるまで話を続ける。


「ゴーレムかぁ。強そう?」


 トリはゴーレムに興味を示して、シフが説明する。


「動いたら見せてもらおう。その時は兄貴も一緒に見せてもらおうぜ」

「ああ、まあいいけど。お前、そういうの興味あったんだな」

「おう。最近は姉ちゃんたちに教えてもらって文字が読めるようになったしさ。色々と読んでるんだぜ」


 昔に書かれた英雄物や国をかけたような恋愛ものだと、悪い魔法使いが操るゴーレムは定番のひとつだ。

 どんな話が面白かったか、という話でひとしきり盛り上がった頃、ティナが伝言を思い出した。


「ごめん、忘れてた。武器屋の親父さんが、シフが戻ってきたら寄ってくれって言ってたよ」

「ん? 解った。じゃあ明日行ってみるよ。誰か暇なら、一緒に行く?」


 ケラシーヤは家で子どもの世話をすると言う。トリが仕事は休みだというと、ケラシーヤは提案を持ちかけた。


「久々だし、三人でデートしてきたらいいわ」

「や、でもそれはケイさんに悪いし……」

「大丈夫。十日以上シフくん独占したし、今はエルと遊びたい気分なの」

「ケイ姉ちゃん見た目は華奢だけど体力あるよな……」


 久々の団欒にシフは笑みを浮かべつつ、四人でわいわいと盛り上がった。

 


 翌日、早い時間から準備をして、店が開く時間に間に合うよう家を出る。

 暑くなってきた時期のため、ティナもトリも軽装だ。大通りを歩いていると、ちらほらと振り返る若い男が多数。

 シフは二人を連れて道を変える。人通りが少ない道を選び、周りの目が二人に向いていないのを確認してため息をつく。


「二人とも、足を出しすぎじゃないかな。せめて、膝が隠れるくらいには……」

「暑い。無理」


 ティナは太ももの半ばまでの短いタイトスカートを履いていて、トリも長さはさほど変わらないパンツスタイルだ。

 特にティナは暑さが苦手なようで、しょっちゅう水風呂に入って涼を取っている。


「兄貴が一緒なんだから変なのに絡まれたりしないだろうし、何かあっても大丈夫だろ」

「いやでも。今はいいけど、変なのに目を付けられて、一人の時に何かあったら大変だぞ」

「言ってることが間違ってるとは言わねえけどさ。ティナ姉ちゃんはともかく、俺は大丈夫だろ」


 そんなことを言われても、シフとしては素直に頷けない。放っていてトリにもしものことがあってからでは遅いのだ。


「でもさぁ。痛い目を見てからじゃ遅いんだぜ」


 食い下がるシフに、トリはため息をつく。


「つまり、どうしろっていうんだよ」

「もうちょっと、慎ましい格好をしてくれ」

「兄貴、年寄り臭い。俺、そんなにか弱くないぜ」


 暑さに参った様子のティナだったが、しょうがないといった風にトリの援護をする。


「シフは、自分の知名度をもうちょっと意識した方がいいと思う。町の人はみんな、ケイさんは当然、私とトリもシフの嫁だって解ってるよ」


 だから手を出さないと続ける。シフやケラシーヤを敵に回して、勝てる見込みはないという。


「確かにまあ、裏に行かなきゃ治安いいよな。っと、着いたよ」

「ん。解ればよろしい。中、ちょっとは涼しいかな」

「ケイの魔法があるわけでもないし、涼しくは出来ないだろう」

「うー。そっか。家にいれば良かった」


 暑さに文句を言い続けるティナだったが、扉を開けると静かになる。

 先頭で入るシフに続き、ティナとトリも中に入った。


「お久しぶり。なんか、伝言もらったって聞いてさ」

「おう。いらっしゃい。わざわざ悪いな」


 少し待つよう言われて、シフたちは適当に武器を眺めながら雑談をする。

 すぐに親父が奥から戻ってきて、台の上に金属の塊を置いた。赤色で鈍く光っていて、シフは普通の金属にはない凄みを感じた。


「お前さん、顔は広いよな。こいつが何か、調べてくれねえか?」

「何これ」

「解らんから、調べて欲しいんだよ。知り合いが借金のかたに手に入れたらしいが、俺も初めて見るし、加工してみようにも溶けないしで、お手上げなんだよ」


 手渡されて見ながら話していたが、詳しく見たがるティナに渡す。


「ありがとう。んー。本物かどうかしっかり調べないと解らないけど、これオリハルコンだと思う」

「オリハルコン? そりゃまた、本物なら一財産どころじゃねえな」


 驚く親父を横目に、ティナとシフは話を続ける。


「私が見たのは加工済みのものだけどね。ブラックさん……ゼロさんのお母様が親から引き継いだのが、オリハルコン製の杖らしいの」

「へえ。そういや、ゼロさんの家族って会ったことないな」

「ちょっと遠くにすんでるから」

「へえ、でもそのうち子どもを見せに行くよな。その時に一緒に行こうかな」

「兄貴、姉ちゃん、話がずれてるぞ」


 ゼロの家族に気を引かれていたシフは、トリの言葉で我に返る。

 親父に相談をして、いったん持ち帰って調べることになった。


「じゃあ、何か解ったら知らせるよ」

「おう。本物が簡単に転がってるわけねえからな。期待しねえで待ってるよ」


 店を出た後、トリがぼそりとつぶやく。


「さっきの親父、期待しないって言ってるけどよ、それが貴重品って可能性は高いと思ってたんだろうな」

「そう? 利用している客で、一番可能性が高いのがシフだったんじゃない?」

「でもよ、よく解らない金属の塊でわざわざ呼ぶなんて変じゃねえか。もしかしたらって思っていないと」


 トリの言い分に、シフも頷く。

 鍛治も行う武器屋で、初めて見る金属の時点で価値が高いと判断するのはおかしな話ではない。


「これ落としても問題だし大きいし、いったん置きに帰るよ」


 二人の了承を得て家に帰る。

 到着して早々ケラシーヤを呼び、シフは鑑定を頼んだ。


「ティナちゃんの言う通りオリハルコンみたいだけど、魔力の通り方やら調べてみないと、純度は解らないわね。数日はかかるから、少し待ってちょうだい」

「ん、解った。昼からどうしようか、もう一回、出かけるか?」

「私は無理。暑い。家にいる」

「俺は、兄貴が行くなら行くぜ」


 午前中だけでぐったりしているティナが断り、トリは大丈夫だという。

 昼食を取った後、シフはトリと一緒に家を出た。

 歩きながら、二人は雑談に興じる。


「兄貴と二人で出かけるのは久々だな」

「ああ、そうかもな。トリ、何か欲しいものでもあるか?」

「いや、別に……」

「お前、物欲薄いよな。宝石なんかも欲しがらねえし」

「綺麗だとは思うけどさ。宝石って意味ねえじゃんか。食えねえし」

「でも、着飾るとか、色々あるだろ」

「うーん。兄貴から貰ったのは嬉しかったよ。でも自分の金で買って着飾るってのは解らねえな」


 食べ物に困らず生きているだけでもありがたいのに、シフと結婚までしたのだから、充分だという。

 そうは言っても何かあるだろうとシフも考えていたが、なかなか思い付かない。地球にいた頃と違い、娯楽の要素は少ない。シフもトリも賭博で楽しむ趣味はないし、子どもに手がかかる時期なので動物を飼うのも難しい。

 シフが唸っていると、トリが思いついたと手を打つ。


「あのさ。物じゃないんだけどいいか?」

「ん? なんだ、言ってみな」


 少し言いよどみ、周りの聞こえそうな範囲に人がいないのを確認して、恥ずかしそうに口を開いた。


「ケイ姉ちゃんもティナ姉ちゃんもさ、兄貴の子を産んでるじゃんか。だからさ、俺も、子どもが欲しいなって思ってさ」

「……トリ、お前な」


 トリの無防備な言葉に、シフはため息をつく。その様子に勘違いしたのか、トリが不安そうに慌てて付け足す。


「いや、別に兄貴が嫌ならいいんだぜ。ほら、種族がどうこうって難しい話もしてたしな」

「そうじゃなくて。お前、こんなところで男を興奮させんじゃねえよ」


 シフに言われて、トリは顔を赤くする。ぽんぽんと頭を撫でるように叩き、お互いに笑う。


「よし、帰るか。ああ、トリ。仕事に差し障りが出そうなら言えよ。今日はともかく、毎晩ってわけにもいかねえだろ」

「……俺はいいけど、それこそ独占したら姉ちゃん達に悪いよ」

「そっちは大丈夫。俺が上手いことするから」


 言いながら、シフはちらりとトリを見る。ここ数年はともかく幼い頃からの栄養失調が原因だろう、それなりにあるとはいえ小ぶりな胸元に、無駄な肉のないほっそりとした足。悪い笑顔が浮かんでいる気もするが、気のせいだろうと流す。

 幼いとは言わないものの、どこか背徳感を煽る身体付きで、ケラシーヤやティナにはない魅力がある。

 二人にどう説明したものか、などと考えながら家に帰った。



 少し経って秋も深くなってきた頃、トリの妊娠が判明した。

 みんなで喜び、お祝いの準備をしていると、ゼロからカルネが六歌仙を退団するとの連絡がもたらされた。


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