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百年遅れの英雄譚  作者: すっとこどっこい
第五章 青年時代
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カルネの拠点

 呼び出された二人は六歌仙の本部に行き、団長室に入った。出迎えたゼロを見て、ケラシーヤは意地の悪い笑みを口元に浮かべる。


「義兄さん、呼びましたか?」

「それはやめてください」


 ゼロはティナの姉であるミーアと結婚しているので、間接的にケラシーヤの義兄と言えなくもない。そのため、ケラシーヤは時々、からかうように義兄さんと呼んでいる。


「あらそう。ゼロ、何があったの?」

「ここ三ヶ月くらい、カルネが留守なんですよ。もし良ければ、様子を見に行ってもらえませんか?」


 シフたちは顔を見合わせると、首を傾げる。


「良いですけど、何故俺たちに?」

「……カルネの本拠地をご存じなのは、ケラシーヤ様だけですから」


 ケラシーヤはその言葉に驚いて、本当かと確認を取る。頷いているゼロを横目に、シフは何を驚いているのかと疑問を口にする。


「ケイ、何でそんなに驚いてるの?」

「ゼロが知らないっていうのは、意外だった」

「カルネさんは秘密主義ですからね」


 ケラシーヤは考える素振りでシフに向き直ると、困ったような顔のまま、顎に手を当てて首を傾げた。


「大きく騒ぐのはどうかと思うのよね。もし問題に巻き込まれていたらもう遅いだろうし、問題が起きてないなら寝食を忘れて研究に没頭してるのでしょう」

「三ヶ月も?」

「カルネ、研究者気質だから。ああいう人は、没頭すると凄いから」


 解るような解らないような説明に、シフは質問をやめて、どうするかと目線でケラシーヤに問いかける。


「あなたはどう思う?」

「そうだな、カルネさんが仕事を放ったまま引きこもるとは思えないんだよな。何か事件に巻き込まれている可能性もあるし、出来れば見に行きたいな」

「そう、良かった。私も気になるから、行きたかったと言えば行きたかったから」


 ケラシーヤは頷いて、同意してくる。

 その後、ゼロと詳細を打ち合わせて、シフとケラシーヤは家に戻る。

 夜、トリとティナに事情を説明して、十日から一ヶ月ほど留守にすると伝えた。


「何の問題もなければ往復で十日ほど。問題ないとは思えないんだけどね」

「一ヶ月程度ならともかく、顔も出さないのは心配よね。ケイさん、もしカルネさんが無事なら、姉さんの分も叱っておいて。留守の間、姉さんが事務処理を引き受けてたから」

「ん、よく叱っておくわ」

「……何もなければいいんだけどな」


 トリが心配そうにつぶやく。それほど接点がないと思っていたシフは不思議に思う。


「トリ、カルネさんと仲良かったっけ?」

「あの人、食堂の常連だから。結構話す機会も多いぜ」

「面倒がって、外食で済ませるものね。六歌仙のは美味しいし、気持ちは解るわ」


 自分も昔はそうだったとケラシーヤが頷いている。

 カルネもトリに気兼ねなく話しかけるらしい。歯に衣を着せない物言いが気に入っているのかもしれない。


「って、その話は置いて。どうする、さっそく明日から出かけるよな?」

「そうね。ティナちゃんとトリちゃんは、悪いけれど留守番お願いね」


 育児のため仕事を休んでいるティナも、六歌仙で働いているトリも頷きを返した。



 翌日、早い時間から家を出て、馬を借りて町を出た。

 しばらく舗装された道を進み、二日ほど経ったあたりで、森の中に入っていく。


「広い森だな」

「広いというか、深いというか。エルフの集落もあるし、結界が張られているところもあるから、狩人も奥深くには入らないのよ」


 下手に知らない地域に入ると私でも出られなくなる、と続けた。物騒な話を聞きながら、シフは周りに目を向ける。

 森に入ってすぐの場所は木の高さも大したことがなく、地面に草がたくさん生い茂っている。

 しかし数時間が経った頃には、木々が競うように高くなり伸びた枝と葉で太陽は覆われている。地面には落ち葉こそ多いものの、雑草などはあまり生えていない。陽光が無いため、生長の余地が少ないのだろう。

 木々のせいで昼間にも関わらずかなり暗いが、ケラシーヤは慣れた様子で先を進む。シフも暗くても支障がないので、何の問題もない。


「目印とか無いけど、迷ってないよな?」

「あら、失礼ね。私は方向音痴じゃないし、元々自分の家だった場所に向かうのに、迷うわけないじゃないの」


 町を歩くのと、日々変化がある森を歩くのでは全然違うが、ケラシーヤは問題ないようだ。シフは詫びを入れて、ケラシーヤの後を黙々と歩き続けた。



 夜になり、野営の準備をしながら、ケラシーヤは昔話を始めた。


「私にとってカルネはね、シフくんに対するトリちゃんみたいなものなのよ。小さい頃に拾っちゃって、面倒を見て」


 シフは驚いて目を丸くする。


「そうなんだ、初めて聞いた」

「うん。初めて言った。それでまあ、小さな村でね、予知したこともあって、気味悪がられていて。魔力が高かったのもあるし、独り立ち出来るまでは、って思ったのよ。実際十年も一緒にいたわけじゃないし、その後も付かず離れずの距離で、それなりにやってる感じね」

「それで前も、連携が取れていたんだね」


 シフは吸血鬼退治の、二人がかりで炎の魔法を使った時を思い出す。ケラシーヤの無茶に驚いた様子もなく続いていたのは、慣れていたからなのだろう。


「ええ。だからこそ、何をしているのか知らないけど、困っているなら助けたいし、もし何か良からぬことをやってるなら、殴ってでも止めなきゃいけないの」


 殺しても死ななそうな印象があるカルネだからか、シフはあまり深く心配していなかったが、ケラシーヤの様子を見て気を引き締める。

 その後は食事を済ませて、雑談をするうちに夜が更けていった。



 予定の日数が経過して、昼過ぎに人工物が目に入った。

 普通の家というにはかなり広そうで、白く角ばった造りをしていて窓もほとんどなく、いかにも研究所然としている。


「凄いね。どう見ても大学か何かの研究所だ」

「そうよ。いかにも魔女の家って感じにするか迷ったんだけど、そっちは趣味に合わないから」

「確かに、ケイはよく解らない鍋をかき混ぜるより、本棚の前で本を片手に立っている方が合ってそうだね」


 ケラシーヤは冷めた目をシフに向ける。


「それは、私の趣味じゃなくて、シフくんの趣味よね」

「あれ、そう? まあいいや、さっさと行こうぜ」


 ケラシーヤを前に、二人は結界を抜けて建物に近付き、チャイムを押す。


「うわ、チャイムがあるんだ。実はここ、オーバーテクノロジーが溢れてるんじゃ?」

「別にノッカーくらい、いくらでもあるでしょう? そう変わらないわよ」

「大分違うと思うぜ。これ、動力はどうなってんの?」

「押す人の魔力。結構便利よ」


 ケラシーヤがチャイムを押してからしばらく待つと、扉が開いた。

 出てきたのはカルネだったが、いつものような魔術師然とした装いではなく、裾の長い白衣のようなものを着ている。


「おや、ケラシーヤ様。シフ君も。どうされましたか?」

「お久しぶり。元気?」


 にこにこと笑いながら、朗らかな声でケラシーヤが言うと、カルネが普段と変わらず応じる。

 相対しているのがシフなら、気圧されて一歩くらいは下がったかもしれない。大したものだと思いつつ、やり取りを見守る。


「ええ、まあ」

「それは重畳」


 笑みを貼り付けたまま、それっきり黙り込む。しばらく沈黙が場を支配していたが、降参とばかりにカルネがため息をついた。


「やー、その。連絡を怠っていてすみません。往復の時間も惜しかったもので」

「伝書鳥を飛ばすなり、何なりできたでしょう」

「それはまあ、できましたけど、それどころじゃなかったというか。立ち話も悪いですし、どうぞ。シフ君も」


 中に入ると、暑くなり始めた季節なのに、ひんやりとしている。エアコンもどきまであるのかと感心しつつ、案内されるまま応接室に通された。

 カルネはすぐに、果実で味付けされた飲み物を持ってくる。


「あら、ありがと。これ、毒は入ってないよね?」

「ええ、まあ。効かなそうなのでね」

「効けば入れるのか」

「黙って帰ってくれるなら入れたけどねえ」


 肩を竦めるカルネに、ケラシーヤは飲み物に口を付けながら詰問する。


「隠したい研究なら、なお普段通りに行動するべきね。おかしな行動をしていると、訝しんでくれって言っているようなものだわ。カルネ、あなた何をやっているの?」

「変わりませんよ。転送やら召喚やら」

「そう。じゃあ、何を召喚したの?」


 それまで態度を変えずに応対していたが、ケラシーヤの言葉に目を泳がせる。


「えー。困ったな。えっと、責任を持って対応するので、見逃してもらえません?」

「もらえません。シフくんけしかけるわよ」

「俺は犬か」


 カルネがちらりとシフに目を向ける。これまでも値踏みするような目は向けられたが、それとは違う敵意のようなものを感じて、シフは思わず身構える。


「やだな、ケラシーヤ様一人でもどうしようもないのに、君を敵に回す気はないよ。まあ、来たのがケラシーヤ様で良かったというべきかもしれないけれどね」


 朗らかに笑って、カルネは立ち上がり、二人を先導して歩き出す。


「非常に単純で、目的は解るのですが、使い方が解らないのですよ」

「へえ、あなたが解らないって、この大陸のものじゃないのかしらね」


 思わず呟いたケラシーヤの言葉を拾って、カルネは肩をすくめるが、説明はせずに、しばらく黙って歩き続けた。


「ここです」


 研究室の扉を開けて、中に入る。二人も後に続くと、巨大だが不格好な、人型の人工物が目に入った。高さはシフの倍以上あり、金属で出来ている。肩が大きく膨らんでおり、何か内蔵されているように感じる。


「うお、凄え。格好良いな」

「これ、ゴーレム? にしては機械に見えるし……」


 シフは頷いて、ケラシーヤに同調する。


「こっち風じゃないというか、妙に地球の造りっぽいよな。というかロボット」

「うん、そんな感じがする。カルネ、召喚した時の経緯を、もう少し教えてくれる?」

「ええ。いつも通り、地中深くに眠っている物を対象にしていたのですけれどね。こんな新品状態のゴーレムを発掘したのは初めてですよ」

「他に、何か条件を付けたりしなかった?」

「いや、していないですけどね」


 疑わしげなケラシーヤだったが、いくら問いかけてもカルネは知らないと言い張っている。結局、数ヶ月も六歌仙に来ていなかった点を注意するにとどまった。


「じゃあフランに戻りましょう。もちろんカルネもね」

「ええ、解りました。でも準備があるので、一日だけ待ってもらえますかね」

「いいわよ、一日くらいは。三ヶ月に比べたら」


 シフはちくちくと棘を刺すケラシーヤの態度に苦笑を堪えつつ、ゴーレムの様子を窺う。その様子を見て、カルネが逃げ場を見つけたとばかりに説明をし始めた。

 動力が何か解らないため、稼働実験ができないそうだ。動力を魔力に切り替えるため試行錯誤しているのだという。そしてゴーレムの金属自体もカルネが知らない物質のため、手が出しづらいらしい。


「シフ君、こいつが何で動くのか、知っていたら教えて欲しいものだね」

「うーん。そうは言っても、どことなく懐かしい感じがするだけで、こいつ自身を知っているわけじゃないですから」


 地球風に見えるのは確かだが、作られたのはこの世界なのは間違いない。いつ頃か解らないが、誰か地球の記憶が残った者が作ったのだろう。


「これ、探知魔法か何かでこの場所を特定されたりって、あり得るでしょうか?」

「うん? 持ち主が、という意味かね?」

「持ち主もしくはその知り合いが、ですね」


 シフが懸念しているのは、ライデンだと言ってケラシーヤを騙そうとした人間やシフの前世である竜の子を殺した人間がいるという点だ。

 地球の前世を持つからといって、話が通じるとは限らないのだ。

 シフの質問にカルネがあり得そうだと答えるが、ケラシーヤが補足する。


「この家にある限り、魔法による探知はそれなりに防げるわ。それなり以上だと見つかるけど。具体的には、シフくんくらいの実力じゃ見つけられないけど、カルネやゼロだと見つけられそうね」


 魔法以外の手段だと、妨害できないし、と付け足したところを見ると、ケラシーヤもシフと同じ部分を問題視しているようだ。



 今は考えても憶測の域を越えないのでゴーレムについては保留にして、カルネの準備を手伝ってフランへの帰路についた。


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