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百年遅れの英雄譚  作者: すっとこどっこい
第二章 少年時代(魔竜討伐編)
29/49

討伐発表

 精霊魔法を覚えて数日が経過した頃、シフはケラシーヤから本部に来て欲しいと言われた。

 晩ご飯を口に運びながら、シフは小さく首を傾げる。


「そりゃいいけど、何かするの?」

「お披露目と発表の日が決まったの。明後日、集められるだけ集めて、号外も配る予定」

「それは思ったより早いな」

「週末でちょうどいいからね。号外を作るのは大変そうだったわ」


 顔合わせと、打ち合わせに参加して欲しいとのことだ。

 シフは了承して、格好をどうするかと悩む。


「普段着でいい?」

「ええ、明日は何でもいいわよ」


 それでも身綺麗な格好の方がいいだろうと、食事が済み次第、手持ちの服から新品のものを用意する。

 派手な格好を控えて灰色の上下に薄い茶色の上着と、地味な色合いを選択した。


「え、そんな格好? もうちょっと華やかな方がいいんじゃないかしら」

「何でもいいって言ったのに……」

「限度というものがあるわよ。これ、上着はいいから中に着るのを白にでもしたら、ちょっとは映えるかしら」


 手持ちから良さそうな組み合わせを考え出したケラシーヤに任せて、シフは別の準備を進めていった。



 そして迎えた翌日、シフはケラシーヤと一緒に本部へと向かう。

 ケラシーヤの部屋ではなく、会議室へ入る。中にはすでにゼロを含めた他に数名の男女が待っていた。

 二人分用意されていた席に、シフとケラシーヤが座る。


「お待たせ。知っている人もいるけど、こちらがシフくん。魔竜討伐の立役者で、私の結婚相手」


 魔竜討伐のところは誰も驚かなかったので、すでに説明されていたのだろう。しかし、ケラシーヤがシフを結婚相手だと言った時、何人かは目を見開いて驚きを隠せなかった。


「ちょっとケイ、凄く驚かれているんだけど、言ってないのかよ?」

「言ってなかったけど。何、私が結婚するの、そんなにおかしい?」


 後半は集まっている人たちに向けて言い放つが、驚いていた人はさっと目をそらす。

 そんな中、一人の男性が立ち上がる。


「ケラシーヤ様、ご冗談はその辺で。そちらの少年が魔竜討伐に役立ったのは別として、ケラシーヤ様がご結婚となれば国家の一大事です」


 ケラシーヤをたしなめた中年の男性はすらりとした細身の体型で、どう見ても荒事には向いていない。

 シフも立って、軽く頭を下げておく。


「はじめまして、シフと申します。明日はよろしくお願いします」

「こちらこそ。私は政治隊の責任者をやってます」


 シフの挨拶に、政治部長と名乗った男は丁寧に返礼をしてきた。

 シフは念のためとケラシーヤの言葉を補足する。


「あの、ケイ……ケラシーヤが言ったのは冗談ではないですから。今すぐではないですが、ケイと結婚するつもりです」

「ほう?」


 値踏みするような目で、政治部長はシフを眺める。


「シフと言ったね。きみはケラシーヤ様に何が出来るというのだね。戦うしか能のないような人物に、ケラシーヤ様を支えられるとは思えぬよ」


 面倒な相手だとシフは内心でうんざりするが、おくびにも出さず笑顔を向けた。横で心配そうな顔をしているケラシーヤにも、口を挟まないよう手で制する。


「色々と、支えられますよ。主に精神的にね。それに、戦うしか能がないなんて、決めつけられる謂われはないですし?」

「具体的には?」

「ケイの仕事を全部肩代わり出来るとは言わないですけど、仕事がやりやすいように手伝うくらいは出来ますよ。そもそもケイの仕事がどんなものか解っているわけじゃないのに、具体的な内容なんて言えないでしょう」


 シフの言葉に、政治部長が首を横に振る。


「そうか。まあ、今ここで言ってもどうにもならないし、私に何か言える権利があるわけでもないからね」


 シフと政治部長が言い合っていると、ゼロが口を挟む。


「お二人ともその辺で。明日の段取りを確認したいので、席についてください」


 それぞれ席に座り直して、ゼロの説明が始まった。話す順番が説明されて、時折修正が入る。

 シフの出番は前半にまとまっており、終わった後はそのままケラシーヤや王女など、壇上で演説する人たちの護衛を行う。

 シフも気になった点は質問をしていくうちに、時間が過ぎていった。


「じゃあ、明日はよろしく」


 ケラシーヤが締めて、解散となる。途中で昼は挟んだだけで通して打ち合わせを続けていたため、シフは大きく伸びをする。

 ケラシーヤも同じように伸びをしながら、大きく息をつく。


「ふう。シフくん、お疲れ様。この後、ちょっと寄りたいところがあるんだけどいいかな?」

「いいけど、どこに?」


 後のことをゼロに任せて、ケラシーヤとシフは連れだって町に出る。

 ケラシーヤの先導でやってきたのは、高級そうな服屋だった。夜遅くまで開いているため、重宝するという。


「シフくん、明日のために、服を買いましょう」

「いるかな?」

「今日はともかく、明日は大勢の前に立つからね。見栄えが良いほうがいいと思うわ」


 ケラシーヤに促されて中に入ると、店内には上品そうな服が並んでおり、店員もこざっぱりとした服に身を包んでいる。


「いらっしゃいませ」


 声をかけてきた女性に、ケラシーヤが要望を伝える。

 演説の場所に立っていても問題がない服と言うと、相手は明日の演説について知っていたようで、心得たとばかりに頷いた。


「護衛任務としてお立ちになるのでしたら、こちらの軍服を模したものが似合うかと存じますわ」

「えっとね。護衛もやるんだけどね、主役として立つ時間もあるから、もう少し華やかな物がいいわ」

「では、こちらなんかは……」

「ええ、それも悪くないわね……」


 シフは着せ替え人形にされながら、ケラシーヤの気が済むまで待つ。

 一時間ほど経って、ようやく決まって解放される。


「やっとか。時間かけすぎじゃねえか?」

「あらそう? でも、せっかくの晴れ舞台なんだから、良い格好してほしいじゃないの」

「俺は別にどうでもいいよ。ケイはどうすんの?」

「私はちゃんと用意してるわ。シフくんは急だったからね」


 ケラシーヤが金を出すというのを固辞して、シフは自らの財布からお金を支払う。

 思った以上に高く、シフの残金がほとんど尽きる。


「うわ、最近出てなかったけど、また何か依頼を受けないと」

「シフくんなら、何でも退治できるでしょう」

「前回のイビルアイみたいに、相性差が出すぎる相手は嫌だけどね。勝てないって程じゃないけど、時間がかかりすぎるんだよな」

「今なら武器を作れるし、もっと早く行けるでしょ」


 ケラシーヤの言葉に、シフは首を傾げる。


「でも、イビルアイには魔法を打ち消されるんじゃなかった?」

「あいつ、厳密には魔法での攻撃が無効なのよ。魔法で刃物を飛ばせば傷付けられるもの。だから、魔法で物理的な武器を作ると問題ないわ」


 なるほどと頷いてから、シフはため息を漏らす。


「俺、もうちょっとこっちの魔物について勉強しないとな」

「私と一緒の時は問題ないけど、弱点は即座に解る方が楽だものね」


 そんな話をしながら家に戻ると、すでにトリが晩ご飯の準備をしてくれていた。

 入ってきた二人に、前掛けを外しながらトリが話しかける。


「兄貴、遅かったな。ケラシーヤ姉ちゃんも明日大変だろ? 今日はさっさと食べて寝ちゃいなよ」

「ただいま。トリちゃんありがとう。手慣れたわねえ」

「まあ、半年近くやってるとな。さっさと食べようぜ」


 料理や取り皿を机に並べる手際を見ながら、感心したようにケラシーヤが礼を言う。

 照れたように笑いながら、トリは席に着く。


「トリ、明日なんだけどさ。お前はどうすんの?」

「ん? 俺は変わらず厨房だよ。人の出が多いからな、飯を作っておかないと」

「そっか。行くのは一緒に行けるんだな」

「俺、朝は早いから、兄貴も一緒だと着いてから随分待たなきゃいけないぜ」

「いいんだよ。お前一人で、朝早くから向かうのは危ないだろ」


 シフの言葉に、トリは少し憂鬱そうな顔になる。


「子ども扱いすんなよ」

「子どもだろうが大人だろうが、危ないものは危ないの。いいから、一緒に行くぞ」


 ぶすっとした顔のトリに、横に座ったケラシーヤが頬をつつく。


「トリちゃん、そんなに頬を膨らませないの。すでに各所に集まるように通達してるから、明日はちょっと危ないかもしれないのよ。私も早めに行く必要があるし、三人で仲良く行きましょ」

「姉ちゃんも一緒?」

「ええ。悪いけど一緒よ」

「別に悪かねえよ。姉ちゃんも一緒なら、まあいいけど」


 何か遠慮気味なトリの態度に気付いて、シフは疑問を口に出す。


「トリ、お前何か隠してる?」

「別に何も隠してねえよ」

「そうかなあ。なんか態度がおかしい気がするけど」


 首を傾げるシフを見て、ケラシーヤがトリの頭を撫でる。


「後で、ちょっと二人でお話しましょうか」

「んー、姉ちゃんと? まあいいけど……」


 あっさりと同意したトリに、シフは何か機嫌を損ねることでもしただろうかと不安になる。


「シフくん、女の子には秘密が多いのよ」

「そうなのかな。まあ、俺に言えない話もあるだろうからね。でも、もし何かあったら頼ってくれよ」

「おう、ありがとな、兄貴」


 シフはトリの保護者代わりをしているつもりだが、トリも一人の人間だ。無理強いして聞くつもりはないので、二人で話をした上で、何かあれば言ってくるだろうと考えて、シフは黙って食事を進めた。



 翌日、日の出とほぼ同じくらいの時間に、シフたちは家を出る。トリを六歌仙の本部まで送り届けて、シフとケラシーヤは政治を行っている建物へと向かった。


「俺、そっちに行くのは初めてだな」

「普通は用事ないからね。壇上で話す必要もないし、立ってるだけだから、安心してちょうだい」

「うん。ケイは大変そうだけど、頑張って」


 シフの言葉に笑顔を見せて、ケラシーヤは先導して建物へと入る。中には徹夜でもしていたのか、何人もの人が準備を進めている。

 口々に手を止めて丁寧な挨拶をしようとするが、ケラシーヤは手振りで止めて声を張る。


「みんな、おはよう。手は止めなくて良いから。続けてちょうだい」


 それぞれ返事をしながら仕事に戻る。シフはケラシーヤと一緒に、奥まった部屋に入った。

 昨日と同じく、政治部の責任者やゼロに加えて、六歌仙の現団長の姿もある。シフと簡単な挨拶だけをかわした後、全員がケラシーヤへと目を向ける。


「今日は、演説自体は私が行うけど、進行は団長に任せるわね。王女の護衛はゼロとシフくん、お願いね」


 それぞれ頷き、立つ場所や時間の調整を行う。

 途中で王女も顔を出して、全員が畏まりつつ打ち合わせを続ける。

 慌ただしく時間が経過して、予定の時刻が近付いてきた。

 ケラシーヤは普段と違い、豪奢な服装を身に着けており歩きにくそうだ。裾が地面をこすらないよう数人が囲んでおり、移動の際に少し持ち上げている。


「さあ、シフくんのお披露目、行きましょうか」

「俺より王女だろ」

「あら。私にとってはシフくんのお披露目の方が大事だわ」


 どこまで本気か解らないが、シフはケラシーヤの言葉を聞き流して、緊張しながら広場へと向かった。



 ケラシーヤとシフが広場の壇上に立つ。後ろから団長も上がり、ケラシーヤが魔法を唱えた。


「今日はお忙しい中、お集まりいただき感謝いたしますわ。私の声が、届いているでしょうか?」


 広場には一万人以上の群衆が集まっており、普通なら声が端まで届かないだろう。しかし、ケラシーヤが風の精霊を利用して、集まった人々全員へと声を届けている。

 広場の端に立っていた六歌仙の団員から大丈夫だと合図が帰ってきて、ケラシーヤは説明を始めた。


「本日は、いくつかの喜ばしいお話をいたしますわ。ご存じとは思いますが、私は傭兵団『六歌仙』の総責任者、ケラシーヤです」


 ケラシーヤの名乗りに、わあっと拍手や歓声が舞う。歓声の中に「ケラシーヤちゃん、結婚してくれー」という野次が聞こえてきて、シフは思わず目を向ける。残念ながら紛れてしまって解らないが、声が聞こえた方に注意をしながら、目線は全体へと戻した。


「大きく分けて二つほどあるのですが、まずは軽い方から。王都を襲い、国を荒らした魔竜ゲオルギオス。その後も長らく好き勝手をさせていましたが、つい先日、討伐に成功いたしました」


 一瞬、沈黙が流れて、すぐにわっと盛り上がる。数分が経って、ようやく落ち着いてくる。その時を逃さず、ケラシーヤは話を続ける。


「後衛から使う私の魔法だけでは、魔竜に手が出せませんでした。魔竜と対峙できるだけの武力が、軍隊ではなく個として戦える人材が足りていなかったのです。今回の討伐にあたって、去年の年末に六歌仙に加入した、こちらにいるシフが前線を担ってくれました」


 ざわざわとしている中、ケラシーヤは話を進める。シフが担った役割やケラシーヤの魔法について語ると、男女問わず英雄譚に耳を傾ける。さらに、今後も六歌仙として被害の大きい魔物は退治していくことなどを約束する。


「さて。魔竜討伐のお話はこの辺で。もう一つ、極めて重要な、これまで秘めていたことがあります」


 言って、ケラシーヤは後ろに向かって合図を送る。


「王家の血が途切れて、厳密には遠縁の血だけになって、周りはメイアーヌ王国は滅びたと思っているところもあったでしょう。また、領土拡大を狙う愚か者や、国家乗っ取りを狙う輩もいました。皮肉にも魔竜が暴れていた事実が、そういった狼藉者の手から国を守っていましたが、私たち六歌仙が王政に関わっていた人々の信頼を得られたのは、彼女を救い出し、保護していたからです」


 ケラシーヤは壇上に現れた王女の手を取り、前へと案内する。

 シフとケラシーヤが並んでいたが一歩横へ避けて、二人の間に王女が立った。


「この方は今は亡き前国王の血を引く、唯一の生き残り。セラフィーナ王女であらせられます」


 ケラシーヤの説明で、歓声が怒号のように鳴り響く。人の数が凄いので、事故が怖いとシフが身構えた瞬間、鐘の音が鳴り響いた。

 静まる民衆に、ケラシーヤの声が届く。


「失礼。騒ぎすぎると危険と思いましたので、今はお静かに願いますわ。では、王女殿下から一言賜ります」


 手振りで王女へと主導権を渡す。王女は頷き、語り出した。ケラシーヤの魔法は王女にも効果があるようで、広場全体へと穏やかで品のある声が行き渡る。


「ケラシーヤ様に助けていただき、生きながらえてきました。ですが魔竜が生きている限り、目の前には絶望しかありませんでした」


 王女は言葉を区切り、周りを見渡す。そしてケラシーヤとシフにも目を向けて、笑顔で続けた。


「先ほどの話にもあった通り、魔竜が死んで、ようやく国としての復興が始まります。王都は半壊したまま、将来有望な若者も多数犠牲になりました。それでも、皆様の生活のためにも、国家として動いていく必要があります。迷惑をかけることも多いでしょうが、全員の力を合わせて、強固な国を作る手助けをお願いいたします」


 王女の言葉に、歓声が上がる。その後はケラシーヤと団長が、王都の復興支援について説明を行い、人員の募集を呼びかけた。

 そして歓声の響く中、ケラシーヤが締めの言葉を伝えて、発表が終了した。



 シフはケラシーヤと一緒に六歌仙の本部へと戻った。王女は政治部の人々と一緒に、政治部の建物へと戻っている。

 昼を回った時間になっており、シフはケラシーヤと一緒に食堂へと足を運んだ。

 食堂には大勢の傭兵が入っていて、空いている席はほとんどない。諦めるべきかとシフが思っていると、トリが笑顔で近付いてきて、丁寧に会釈をする。


「お疲れ様でした。ケラシーヤ様、シフ兄さん、こちらの席へどうぞ」


 人がたくさんいるためか、敬語で話しかけてくる。びっくりして言葉が出ないシフを横目に、ケラシーヤはトリに案内されて歩き出す。

 慌てて追いかけて、席に座る。


「少々お待ちくださいませ」


 トリが離れた後、シフは自分たち、もっと言えばケラシーヤに注目している周りを意識しながら小さく呟く。


「びっくりした。トリ、外ではあんなにしっかり話すんだ」

「裏ではいつも通りだけどね。お客様扱いする場合、しっかりしたものよ」


 ケラシーヤは、トリが畏まった態度で接する機会が以前にもあったのだろう。シフは働いている様子を見る時もずっと裏方の時だったから、可愛らしい侍女のような格好も初めて見たし、丁寧な対応も初めて見たのだ。


「今日、王女様を見た時より驚いた」

「あらそう? 可愛かったでしょ?」

「うん。可愛かった。出来の良い人形みたい」

「帰ってから、それ言ってあげなさい。きっと喜ぶわ」

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