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百年遅れの英雄譚  作者: すっとこどっこい
第三章 少年時代(吸血鬼討伐編)
30/49

吸血鬼討伐への第一歩

 王女の生存と魔竜の討伐発表により、フラン中で復興祭が開催された。

 発表の場でそれなりに顔を覚えられたようで、シフが歩いているとよく声をかけられるようになった。

 シフとケラシーヤが一緒に歩いていると注目を浴びるため、軽い変装をしてごまかしている。

 今、シフは一人でケラシーヤの家を出て、歩いて六歌仙の本部へ向かっている。帽子を深くかぶり、顔は隠している。

 昼前で人通りは多く、大通りの一角で大道芸人が大がかりな手品を披露していたり、曲芸団の一座が魔竜との戦いを再現する演劇を行っていたり。シフも用事がなければ最初から最後まで見たいのだが、今はケラシーヤとゼロに呼ばれていて遅れるわけにはいかない。

 時間があれば、トリか誰かを誘って見に来ようと決めて、シフは大通りを足早に通り抜けた。



 シフが本部に入ると、一階の受付にティナとミーアが座っている。見た目が映えるせいか、普段はいないという希少性のためか、ミーアの前には他の受付より多くの人が集っている。

 シフは、ミーアと違い人が並んでいないティナに声をかける。


「ティナ、おはよう」

「おはよ」


 ティナはあまり表情を出していなかったが、シフに話しかけられて笑顔を見せる。


「ミーアさんの方、凄いね」

「うん。姉さんの方が処理が速いし、何より美人だから」


 まったく気にした様子もなく、ティナが断言する。シフは気を遣うべきか迷って、一言だけ伝える。


「ティナも、可愛いと思うよ」

「そう? ありがとう」


 ティナは照れたように笑って話題を変える。


「シフは、今日は何か依頼を受けに来たの?」

「依頼じゃないけど用事があって、ケイとゼロさんに呼ばれたんだ」

「そう。私も依頼を受けて、外に出たいなあ」

「そういや、何で内勤やってるの?」

「色々とあるのよ。話すと長くなるから、また今度機会があれば説明するわ」


 無駄話を続けていると後ろに人が来たので、シフはティナに挨拶を残してケラシーヤの部屋に向かった。

 途中で何度かお誘いの声をかけられつつ、階段を上がってケラシーヤの部屋に到着する。部屋の扉を叩いて、中からの返事を待つ。


「シフくん? どうぞ、入って」


 部屋の中にはケラシーヤとゼロの他に、ゲルハルトとカルネの姿もあった。全員が机の上に置かれた地図を見ていたが、部屋に入ったシフに目線が集まる。

 ゲルハルトとは試験前に会ったきりだから、およそ半年ぶりだ。カルネは魔竜討伐後に何度か顔を合わせている。


「おう、久しぶりだな。お前、強かったんだな。良かったら今度手合わせしてくれよ」

「もちろん弱くはないですが、まだ知らないことだらけですよ。色々と学んでいる途中です」


 ゲルハルトに対して、シフは小さく肩をすくめる。

 シフの言葉に、カルネがすぐに反応を示す。


「色々と学びたいなら、私が教えてあげるよ。ちょうど、吸血鬼退治で組む必要があるし」

「……それは状況次第で、機会があればお願いします。ケイ、どういう感じ?」


 ゲルハルトとカルネへの挨拶を済ませて、シフはケラシーヤに質問をする。


「ゼロに色々と調べさせたでしょう? ちょっと予想以上に目撃事例が出てきたの。だから発表を早めて、吸血鬼退治に取りかかれるようにしたの」

「予想以上って?」


 シフが質問すると地図を見るように言われる。

 地図にはフランを含む国内の主要都市と森や山が記載されており、いくつか丸印が描かれている。


「丸印の場所が、吸血鬼や似た魔物の目撃事例よ」

「へえ。結構多いね。七つもあるのか」

「ええ。シフくんは吸血鬼について知ってる?」

「血を吸う。血を吸われた人間は眷属になる。というくらいしか知らない。こっちのも、銀に弱かったりするのかな?」


 シフの言葉に、ゲルハルトが首を傾げる。ケラシーヤは首を横に振る。


「そういった特徴はないわね。と言っても、私もカルネから教えてもらったんだけどね。今まで吸血鬼とは戦ったことなかったから」


 カルネはケラシーヤから許可を取って、口を開く。


「川も渡るし、杭を打たれても死なないよ」

「そこまで聞いてません」

「おやおや、手厳しいね」


 カルネは何かを見透かしたような顔でシフを見る。まただ、とシフは内心で警戒をする。

 話題を変えようと、シフは質問をする。


「ところで、吸血鬼はいいんだけど、似た魔物ってどういうことなんだ?」

「生けとし生ける者は皆、イビルに堕ちる可能性があるのは知ってるね? 動物が堕ちた時はともかく、人間が堕ちたら、どうなると思う?」


 シフの質問に、ケラシーヤではなくカルネが答える。ケラシーヤが任せているところを見ると、カルネの方が詳しいのだろう。


「どうなるって、イビルになるだけでしょう?」

「そうだけど、答えになってないよ。外見的特徴に注目してほしいな。見た目は人間そのもので、目が赤い。つまり、吸血鬼と同じ見た目だよ」

「なるほど。集めた情報だと本物かどうか解らなかったというわけですね」

「うん、そういうこと。さっき皆で話していたけど、手分けして討伐しながら情報収集するのが一番だよ」


 吸血鬼を放っておくと村や町が丸々落とされるから、早めの対処が必要だという。

 ケラシーヤは、部屋にカルネとゲルハルトがいる理由を説明してくる。


「人手が足りないから、何人かに声をかけたの。六歌仙の中で知識量で言えばカルネに敵う者はいないし、情報収集だとゲルハルトが得意だし。それに実際の吸血鬼退治を行うにしても、二人なら実力も心配ないから」


 他にも何人か声をかけようとしたが、実力者は出払っているとのことだ。


「人員も少ないし、分けるとしても二組が限界ね。シフくんとゲルハルトが前衛、カルネと私が後衛。ゼロは、留守番をお願いね」


 ケラシーヤが悩んでいると、ゼロが反対してきた。


「イビルや下位の吸血鬼はともかく、上位の吸血鬼を相手にするなら、私も今回は動きますよ。王女絡みの方は政治部に任せます」


 そういえば、シフはゼロが何をできるのか聞いた覚えがない。


「ゼロさんは、魔法を使うの?」

「ええ、攻撃魔法と補助魔法を少し。あと、主として使うのは回復や浄化の魔法ですね」

「ゼロは三代続いて神官の家系ね。初代はシフくんも知っての通り純粋な神官だったけど、二代目から母親の影響もあって、雑食気味ね」

「ケイ、それは失礼な物言いだと思うよ」

「あら、でも本人が言ってたのに」


 二代目、つまり今いるゼロの母親がブラックを名乗り、攻防ともに一流で万能型の魔法使いだったらしい。


「母の話はともかく。吸血鬼やイビルには、浄化も効くので、足手まといにはならないですよ」

「そうね、じゃあお願い。私とゼロは分けた方がいいわね。シフくんとゲルハルトも分けるとして……」


 ケラシーヤが考えていると、ゲルハルトが手を上げる。


「話に上がったうち、一番危険そうなのがこれです」


 ゲルハルトは、大きめの町に付けられた丸印を指差す。

 同じ方向に丸印が三つあるので、同一方向で四つもある状態だ。


「逆側の三つは、聞いている限り大した被害もないし、情報もしっかりと出ているので、数が増えない小物で間違いないでしょう。小物は俺が何人か連れて行きますので、ケラシーヤ様と副団長たちは、そっちにお願いできますか?」


 ゲルハルトの言に、残りの四人が顔を見合わす。

 シフは吸血鬼の強さなどは解らないので、ケラシーヤたちの判断に任せる。


「正直なところ、私かゼロがそちらに回る方がいいでしょうね。もしそちらに強い魔物がいた時にも対処できるようにしておかないと」


 ゼロも頷き、誰が行くか相談を始める。

 少しケラシーヤとゼロが話をした結果、ゲルハルトに同行するのがゼロで、他にゲルハルトが普段一緒に行動している仲間に手伝ってもらうそうだ。シフとケラシーヤ、カルネが厄介な方に向かう。


「ケラシーヤ様。もし吸血鬼が眷属を増やしていたら、いくらシフ君が強くても一枚では前衛が足りません。誰かそれなりに使える人がもう一人か二人は欲しいですね」

「そうね、多方向から来られたら厄介かもね。ゼロ、ティナちゃんって、手は空いてたかしら?」

「今は内勤をやってますから、手はいくらでも空けられます。彼女を連れて行くのですか?」

「実力は足りているでしょう?」


 ケラシーヤの提案に、ゼロは少し渋い顔をしている。言いにくそうにしていたが、ケラシーヤが促すと話し始めた。


「私もティナも別々とはいえ動くとなれば、ミーアも行きたがるでしょうね」

「ミーアさんって、ティナと違って聞き分け良かった気がしたけど」


 思わずと言った風情でシフが口を挟むと、ケラシーヤもゼロも苦笑いをする。


「本人たちがどう言っているかは別として、頑固で言い出したら聞かないところは似てるわよ」

「へえ。そうなんだ」


 シフが感心していると、カルネが提案を出す。


「ほうほう。じゃあティナは私たちと一緒に、ミーアはゼロさんと一緒にいけば良いんじゃないかな?」

「んー。そうね、それが良いでしょうね」


 その後はすぐにティナとミーアを呼び、早々に出発するために準備へと取りかかった。



 二手に別れて、打ち合わせを行う。

 シフとしてはケラシーヤと離れたら問題だったが、ケラシーヤが一緒ならば問題はない。カルネのすべて解っているかのような顔だけは苦手だが、今のところ実害も何もないので何も言えない。


「シフ君、両手に花どころか、女の集団に男が一人だね。大変だと思うけどよろしく」

「ケイともティナとも、一緒に動いたことあるので問題ありません。カルネさんとは初めてなので、足を引っ張らないようがんばります」

「そかそか。そうだ、実力を見ておきたいから、ちょっとティナとシフ君で模擬戦でもしてもらえるかな?」


 聞くと、ティナとカルネも一緒に討伐を受けたりしていないようで、カルネはティナの実力が解っていないそうだ。


「私はいいですよ。シフと手合わせするのは良い訓練になるでしょうし」

「俺も大丈夫です。武器はどうしますか?」


 自前の武器に布を巻いて使うことに決まる。とはいえ、ティナの爪は布が巻けないので、代わりに剣を持っている。シフは硬い剣と土の精霊で作成した刀を手に持つ。


「シフ、そんなのできたんだ」

「イビルアイに攻撃が効かなかったから覚えた。これでああいうのが相手でも勝てるようになったと思うよ」


 感心したようなティナに自慢げに見せびらかしていると、ケラシーヤから注意が飛ぶ。


「さっさとしましょう。忙しいんだから」

「うん、ごめん。いつでもいいよ」


 ケラシーヤとカルネが見守る中、開始の合図が出て対戦が始まる。

 はじめは様子見でシフが前に出て、ティナの間合い外から突き出す。ティナが横に避けるのを見て、軸足を地面に置いたのと合わせて足元に横薙ぎの一撃を加える。ゲーム時代でよく使っていた『グラウンドセイバー』を利用した連携だ。

 ティナは地面に足を付けたと同時に、もう一段階横に動く。まるで体重がないかのような動きで、シフの横まで来ると、剣を突き出してきた。シフは空いていた剣で払い、再び足元に攻撃をする。

 ティナは問題なく離れて避けるが、ティナの意識が足元に向いた時を見計らって、目線も向けずにシフが気合の声を出して、間合いの外から剣を振る。


「えっ?」


 動揺した様子のティナに、射程外から剣撃がぶつかり、飛ばされる。


「そこまで」


ケラシーヤが試合を終わらせ、ティナの様子を伺う。


「ティナちゃん、大丈夫?」

「あ、はい。ぶつかったところが痺れているけど、怪我はないです」

「そう、良かった。シフくん、今の『かまいたち』?」

「うん。試してたらできたからさ、戦術の幅が広がるかと思って練習したんだ」


 サムライの特技、『かまいたち』は剣撃を飛ばす技で、今は手加減しているが本気で飛ばすと充分に殺傷能力が高い技だ。


「魔竜との戦いでも、結構役に立ったんだぜ。ケイは見てない時だったけどさ」

「そう、結構再現してるのね」

「んー。まだ六割ってところかな。最上位のは、まだ全然駄目だし」


 会話の内容が解らない様子だったが、ティナは起き上がると、感心したような目を向ける。


「今の、どうやるの? 私でもできるかな?」

「どうだろ。攻撃する時に魔力を込めるから、魔力がないとできないよ」


 そうかとがっかりするティナに、カルネが横から口を挟む。


「お疲れ様。いやいや、面白い勝負を見せてもらった。実力もよく解った。シフ君は強さもいいけど、多芸なのが素晴らしいね。ティナの身のこなしも充分に一線級だし、慣れない武器の割に使いこなしてたし。『かまいたち』だっけ、多分ティナにも使えるよ。爪で出せたら効果は大きいだろうね」


 道中、暇な時に練習すると決めて、模擬戦の疲れを残さないように今日は休んで、明日の朝に出発と決まった。



 シフは毎度急な出発で怒るだろうと思いながら、トリへ報告するため、厨房へと重い足を向けた。

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