44話 説得
「何言ってんだよ!ヒロ!」
「無理にきまってるじゃないか!」
「何でザイードに味方するんだよ!」
当然、3人から反発を受けるが、ここは想定内。
「だから、違いますよ。ザイードの為じゃなくて、僕らの為でもあるんです」
ここで間髪を入れずに3人に向かって指を突きつける。
「はい、先輩方に質問です。先輩方は狩人を目指していますよね。じゃあ、狩人に必要なものって分かりますか?」
突然の質問に呆気に取られる3人。
そこで、ニヤッと笑って先輩方を挑発してみる。
「当然、分かりますよね。セ・ン・パ・イ」
「当ったり前だろ」
「もちろん、わかってるさ」
「簡単だね。そんな問題」
と言いながら、3人は頭を回してしばらく考え込む。
そして、出てきた答えは……………
「勇気だ!」
「えー、腕っぷしだろ」
「……あきらめない強い心」
最後の人、なんかあったんですか?
まあ、間違えてもいないけど、ここでの答えはそうじゃない。
「先輩方! それらも大切ですけど、僕らに必要なものは、ズバリ『機械種についての知識』です!」
3人の顔は???一色だが、ここで捲し立てていく。
「狩人の獲物は当然機械種です。それも僕らが今相手にしているような超軽量級とは違って、軽量級以上の機械種が相手となるでしょう。先輩方は虫とかの超軽量級への知識は豊富ですが、狩人をやろうとすれば、軽量級以上への知識が絶対必要です!」
ここで、やや大げさに振りかぶってバッっとザイードへと手を向ける。
「さあ、ここにあるのは僕らが必要とする軽量級の機械種です。いずれ僕らが相手にしないといけない相手。こんなチャンスは滅多にありません。しかも機械種に詳しいザイード氏の説明付きですよ。なんとまあお買い得!」
ずいっと3人に顔を寄せて、クロージングを行う。
「今ならさらにシリアルブロックを1本つけちゃいますよ。どうです。今だけ。貴方だけ特別ご奉仕価格です」
グラッと心が揺らいでいるのが手に取るようにわかりやすい3人。
うーんと頭を悩ましている。
どうやら、決断するまでには至らない様子。
まだ足りないのか。
意外に粘るな。
方向性を変えるか。
「先輩、話は変わりますが、どんな機械種のマスターになりたいですか? 機械種を従属させれば狩人の仕事も楽になるでしょう? いや、狩人をやる為には絶対必要でしょう」
詳しくは知らないけどね。
これは話が分かりやすいのか、すぐに答えが返ってくる。
「え、機械種をか。うーん。そうだなー」
「俺、ボスみたいな人型のがいい!」
「えー。俺はウルフがいいな。前に狩人が狩ったのを見たことがあるんだ」
「ああ、それだったら俺は飛べる奴がいい、たしかクロウだったかな」
「飛べる奴は脆いって聞くぞ。すぐ壊れるんじゃないか?」
「カッコいいだろ。飛べる奴」
「ウルフだよ。あれに乗って走れたら最高だろ」
「確かにボスみたいなのも憧れるよな」
おおおお、未だに誰がデップ、ジップ、ナップなのか分からないから、順番ぐちゃぐちゃで話されたら、誰が何を言ってるのか分かりずらい。
そうだ、ザイードにも聞いてみよう。
「ザイードはどんな機械種のマスターになりたい?」
「……えっと、そうですね……」
突然話を振られたので、ちょっと考え込むザイードだったが
「僕ならレジェンドタイプのジークフリードとか、ヘラクレスですね。まあ、手に入れるのはほとんど不可能ですけど」
なにそれ?
ジークフリード? それは、ゲルマン神話に登場した竜殺しの名前。
ヘラクレス? それは、ギリシャ神話で一番有名な英雄の名前。
まさか、英雄の名前を持つ機械種がいるってこと?
絶対に強いに決まっているじゃん!
思いもよらない機械種の名前に、
俺がしばし陶然としている中、
ザイードはその2機の仕様を機嫌良さそうに語りだす。
「中量級のジークフリードは、攻守完璧で一体あれば街一つを落とすと言いますし、重量級のヘラクレスは、それこそ軍隊でも蹴散らすそうですから、味方になればこれ以上頼もしい機械種は無いでしょう」
スゲエ!
俺も欲しい!
「あの、ヒロさん。一応、夢のたぐいの話ですよ。ほとんど伝説の機械種ですからね。過去、所有した狩人がいたという話があるだけです」
俺の物欲しそうな顔を見抜かれて、ザイードが付け加えてくる。
「そんな機械種がこの街に居たら、あの『森の守護者』も倒せるんでしょうけど」
ザイードの口から独り言として、また新しい情報が飛び出してくる。
さっきのレジェンドタイプといい、森の守護者といい、もっと詳しく聞きたいが、今は3人の説得だ。後に回そう。
しかし、やはりザイードに協力しようとしたのは正解だな。
ここは機械種に詳しい情報源として好感度を稼いでおこう。
未だ、どの機械種がいいかを話し合っている3人に向き直り、最後の説得にかかる。
「先輩方。どうです? 機械種のマスターになりたいでしょう。その為には、機械種がどうやって従属されるのかを実際に見てみる必要があると思いませんか?」
機械種の頭を抱えるザイードの背中に手をやって、3人の前に出す。
「見てください。ここには機械種の頭があります。そして、整備室には胴体が。完成品はかなりの大きさになるでしょう。そして、それが人間の言葉に従うんですよ。機械種が……」
3人の目を見渡して、少し間を空ける。
3人はザイードの抱える機械種を見つめている。
「どうです? 見てみたいでしょう。男のロマンですよ」
「分かった。協力する!」
「別にザイードの為じゃないぞ」
「そうそう、俺等の為だからな」
ミッションコンプリート!これでザイード回もクリア。
いや、まだ、続きがあるけどね。
「ありがとうございます。先輩。さあ、ザイードもお礼を」
「え、僕? え、その……」
ザイードはさっき3人と揉めていたこともあり、
素直にお礼が言いにくい様子。
けれど、それは俺が許さない。
これは情報源とは、好感度とかは関係ない。
3人に背を向け、ザイードに向き直る。
そして、ザイードを壁に押し付けるように詰め寄り、顔を近づける。
「ザイード。デップ達は君の為ではないと言っているが、機械種から晶冠を狩るという危険を君の為に背負うのは間違いないんだ。それに対して、お礼の一言も言えないようなら君はここまでだな。精々、1人でガラクタでも弄っているがいいさ!」
言っている意味が分かるか。
君は岐路に立っているんだぞ。
たまたま俺がいて、デップ達の争いに介入して仲裁。
たまたま俺がザイードの機械首に興味を抱いて、デップ達を説得。
これは、本来、ザイード自身がやらなければならないこと。
デップ達も言っていたが、機械弄りしていただけでは永遠に機械種は完成しない。
材料が足りなければ、誰かに集めてもらわねばならないからだ。
ならば、誰かに頼ることができるよう、人間関係を良好に維持しなくてはならない。
自分に協力してくれる仲間に対し、お礼の一つも言えないようでは、
彼の将来は真っ暗であろう。
もし、俺がチームトルネラに入っていなければ、
デップ達ともっと揉めていただろうな………
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
【未来視発動】
(条件 :ヒロがチームトルネラに入らない)
(場所 :行き止まりの街 チームトルネラの拠点内)
(時間軸:現在から1ヶ月後)
ザイードが部屋の片隅に蹲り、
歯を食いしばりながら涙を流している姿。
頬には殴られたような跡。
その手には破壊された機械種の部品。
目は泣き腫らしながらも、その奥には憎悪の炎が燃え滾り、
泣き声をかみ殺しながらも、怨み言を延々と呟き続ける。
「畜生、畜生、畜生………、アイツ等、よくも、よくも、僕の………」
暗い部屋でただ一人。
ザイードは誰にも頼れず、
心の中で暗い炎を燃やし続けていた。
場面が変わる。
そこはチームトルネラの拠点ビルの4階。
ボスがいる資料室内。
頑丈そうな台の上に横たわるボスの機体を弄るザイードの姿。
ボスの機体の点検はザイードの仕事。
すでに製造から数百年が経過したボスの機体はあちこちが痛んでおり、
定期的に部品を交換しないと満足に動けなくなるような状態。
ザイードは慣れた手つきでボスの機体をチェックし、交換が必要な部分を取り換えていくのだが………
「……………ごめん、ボス」
ザイードから謝罪の言葉が漏れた。
罪悪感に満ちた苦々しい声。
今、彼の胸の内を占めるのは、
チームトルネラと敵対する者達からの勧誘。
その条件として課せられたのが………
「こうするしかないんだ。僕が生きて行くには……」
作業中にも言い訳染みた独り言をブツブツと呟くザイード。
しかし、その声はボスに届くことはない。
点検中はスリープしているのだから当たり前。
ザイードの顔は今にも泣きだしそうで、
しかし、その手は止まらず、ボスの機体の中枢へと伸ばされる。
ザイードが今、手にしているのは機械種の動力部と晶脳の接続部分。
ここの接続を外されると、機械種は稼働できなくなり………
バチンッ
部屋に金属部分が外れるような音が響いた。
そして、その数時間後、
チームトルネラの拠点は敵対するスラムチームに襲撃され……陥落。
その防衛戦では、なぜかチームトルネラの最大戦力であるボスが出てこなかった。
また、襲撃の30分前に拠点から1人の子供が逃げ出していた……
【未来視終了】
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
あれ?
なんだ?
急に、頭の中に映像が流れてきた。
まるで白昼夢を見ていたかのように。
でも、あんまり中身を覚えていなくて、
微かに残る余韻は、決して後味が良いモノではなく、
なぜか、現実ではないと分かって、ホッとしている自分がいる。
あんなことにならなくて良かったと。
その『あんなこと』とは何なのか、は分からないが。
でも、一つだけ覚えていることがある。
それはザイードが独りぼっちで泣いている姿。
そんな境遇に彼を陥らせるわけにはいかない。
だから、俺が、今、すべきことは……
「ザイード、ほら!」
彼の背中を押してあげる。
そして、俺は後ろから見守る。
俺ができるのはここまで。
俺から強く言われ、背中を押され、表情を硬くしていたザイードだったが、
それでも意味を理解してくれたのか、そのまま3人に近づき、
「ありがとう。お願いします!」
深々と頭を下げた。
短い言葉だったが、しっかりと大きな声で。
その言葉を聞いて3人はニヤリとして、
「「「オッケー! 俺達に任せとけ!」」」
綺麗に3人がハモって答え、
親指を立てた拳を突き出し、
3人揃ってサムズアップのポーズ。
いつもバラバラに発言していた癖に、
妙に決まったポージングを披露。
そんな彼らの姿に、ザイードは柔らかな笑みを浮かべ、
もう一度、深くお辞儀で応えた。
これで3人とザイードの仲も修復。
もうあんな未来が訪れることはあるまい………
青春の1ページっぽい光景を後ろで眺めながら、
満足そうにウンウンと頷く俺。
いい仕事したなあ。
イベントなら満点クリアじゃね。
ボーナスでもほしいくらいだ。
さて、次は仕事の割り振りか。
「必要なのは、挟み虫か鎧虫の晶冠が複数、これは具体的にいくつ?」
「挟み虫だけなら4つ要ります。鎧虫なら2つでいいですが。混ざっても大丈夫です。挟み虫2つと、鎧虫1つみたいに」
俺の質問に淀みなく答えるザイード。
目標が決まればあとは進むだけだ。
「では先輩方には挟み虫か鎧虫をお願いします」
「おい、ヒロ。それはいいけど」
「ラビットより上の晶冠はどうするんだ。ハイエナのはもう無いんだろう」
「ラビットでいいならジュードが捕まえてくれるかもしれないのに」
3人の意見は当然だが、その課題はすでにクリアしているのだ。言えないけど。
「まあ、それは俺に任せてください。何とかしてみます。それより、こっちから頼んでおいて何なんですが、先輩方こそ大丈夫ですか?前見たいに大怪我しないでくださいよ」
「だ、大丈夫に決まってるだろ!」
「次は絶対怪我しないさ」
「でも2匹目の奇襲は勘弁な」
本当に大丈夫かな?
ここは3人の経験を信じるしかないが。
ここで、ザイードがおずおずと最後の課題について聞いてくる。
「ヒロさん、蒼石はどうしましょうか。こればっかりは僕らではどうしようもないかもしれません。買えるだけのマテリアルがあれば、サラヤさんを通じてバーナー商会から買えるかもしれませんが、いくらくらいになるのか……」
「ああ、それは大丈夫」
それはもう覚悟を決めた。
このイベントに巻き込まれた時、これを俺が持っていたのは偶然なんかじゃない。
これは既定路線なのだ。きっと。多分。
だからこれを出すのを後悔なんてしない。
勿体ないとは……ちょっと思うけど。
どのみち貰い物だ。初代トルネラからの貰い物をチームの為に使うんだから、これでいいはずなんだ。
今、俺が持ったままでも、当分使いようがないであろう。
なら、ここで使い方を教えてもらうのもありだと思う。
胸ポケットから蒼石を取り出して、皆に見せる。
「「「「え!」」」」
4人の声が面白いように合わさった。
しばらく誰も何も言わずに俺の手のひらにある蒼石を見つめ続ける。
そして、一番最初に俺に質問してきたのはやはりザイードだった。
「……ヒ、ヒロさん、これ、多分、5級以上はありますよ。マテリアルにしたら、2、3万M。機械種に使うならトロールやグリフォンだって1発でブルーオーダーできるクラスですよ」
マジですか?
2、3万Mって、チームの年間稼ぎの3分の1くらいだぞ。
これは、ちょっとどころじゃない勿体なさか。
2、3万Mって日本円にしたらいくらくらいなんだろう。
なんとなく肌感では……1M100円くらいのイメージか?
げ! 200~300万円かよ。
お年玉にしても多すぎるだろう。
これだけあったら宝貝の素材が買えたらもしれない、クソッ!
という内心は見せずに、ここまで来たら気にしない素振りで突っ張るしかない。
「何言っているんだ。機械種タートルがチームの防衛に入ったら、もっと安全になるだろう。その為なら安いものさ」
「ヒロさん……ありがとうございます」
感極まった目で俺を見つめるザイード。
ピロリロリンってザイードの好感度が上がった音が聞こえたような気がする。
まあ、いいか。貴重な情報源だ。今更引っ込みつかないし。
あと、さっき、また新しい機械種の名前が出てきたな。
グリフォンにトロールか。ファンタジー世界なら常連だけど、この世紀末世界ではどうなんだ。
どうも機械種の名前にファンタジーが混ざるなあ。
名前だけで、姿形は別物なのだろうか、それともファンタジー世界の姿そのものなのだろうか。
俺が機械種について考えを巡らせていると、デップ達3人は俺とザイードのやり取りに感銘を受けたらしく、勝手に盛り上がってくれて、やる気を見せている。
「ヒロがここまで男気を見せたんだ。俺達もやるぞ!」
「絶対狩ってきてやる」
「でも、また刺されるのは勘弁な」
最後の人、よっぽどトラウマなんですね。
聞きたいことは、また後で聞けばいいか。
さて、これから皆でミッション達成に向けてがんばりましょう。
「そういや、ヒロ、シリアルブロック1本おまけでついてくるんだろ?」
「あ、当然俺達に1本ずつだよな」
「ビーンズじゃなくてシリアルだよ。間違えないでくれよ」
ビーンズブロックなら食べてないのが何本かあるんですけど……そうですか。駄目ですか。
また、サラヤにお願いしに行かなきゃならないのか。
何で俺はいつも調子に乗って要らないことを言っちゃうんだろう。




