39話 報告
砂さらい場に戻ってくると、みんなは砂さらいを続けていた。
無事帰ってきたことを知らせる為、声をかけようかと思っていると、先にト-ルが俺を見つけたようで、血相を変えて俺に駆け寄ってくる。
「ヒロ!大丈夫だったかい?」
「そんな顔すんなよ。大丈夫に決まってるだろ」
「そうか。良かったよ。ヒロに怪我が無くて」
俺の返事にほっとした顔をするトール。
コイツの老け顔は心労のせいだな。間違いない。
「それで、アイツらはどうしたんだい? 巻いてきたの?」
「ああ、一応ボコっておいたけど……一人やってしまってな」
「え、やったって何を?」
「一人殺してしまった。あとの二人は重傷くらいだと思うけど」
「!!!」
何とも言えないような顔をして言葉に詰まるトール。
しばらく口ごもるも、俺に気を遣うような感じで声をかけてくる。
「お互い銃を持っていたし、しょうがないね、それは。ヒロは僕たちを守ってくれただけなんだ。気に病む必要はないよ」
「いや、別に気にはしてないよ。スラムなら刃傷沙汰なんて日常茶飯事だろう? 人死にが出るのも珍しいわけじゃないよな?」
俺の反応が意外だったのか、トールはちょっと驚いた顔。
しかし、すぐにいつもの表情へと戻り、俺の質問に答えてくれた。
「まあ、そうとも言えるし、そうじゃないとも言える。最近、スラムのチーム同士はある程度交流ができていて、完全に敵対関係というわけでもないんだ。もちろん、今回の黒爪の行動は敵対行動だけど、普段のチーム同士の関係はお互いに牽制をし合っている仲って言ったところかな」
昔の戦国時代の大名同士の関係かな?
隙あらば食ってやろうみたいな。
「じゃあ、俺がやってしまったのは不味かったか?」
「いやいやいや! 向こうから仕掛けてきたんだ。ヒロは悪くないよ。それに黒爪の連中は血の気の多い奴が多くて、同じチーム内でも抗争してるし、無謀な狩りに出向いてやられているし、離脱者は多いし。2,3人欠けても黒爪のボスは気にしないんじゃないかな」
流石刺青をした連中だ。
世紀末のヒャッハーに近いものがあるな。
「ヒロ、今回は助かったよ。ありがとう」
改めてお礼を言うトール。
俺にも得るものがあったから、礼を言われるほどのことでもないが、素直に受け取っておこう。
これでミッションコンプリートだな。
「ヒロ、この後どうする? このまま砂さらいを続けるかい?」
ミッションを完了し達成感に浸る俺へと、トールからの『砂さらい』のお誘い。
いや、砂さらいはもういいです。
確かにもう少し頑張ってみて晶石が出るまでやってみようかとも思うが、それに意味はないだろうしなあ。
今日は帰るか。
ちょっと考えをまとめたいし。
トールに拠点に帰る旨を伝えて、砂さらい場を出る。
子供達が勢ぞろいで見送ってくれたのはちょっと照れ臭かったな。
さて、拠点に戻ってサラヤに結果を伝えないと。
と、その前に、
白兎の所に立ち寄って情報共有。
ボスに聞いた『機械種』について。
ザイードに聞いた『白色文明』『赤の帝国』『赤の威令』『白鐘』『巣』『蒼石』。
そして、トールに聞いた『ウタヒメ』………って、これは別にいいか。
パタパタ……
『なるほど……、少し腑に落ちたかな』
俺の話を聞いた白兎は耳をパタパタ、
何やら1機で納得していた。
「何がだ?」
フルフル
『ずっと僕の耳に届いてくる声のこと。外では【人間を憎め】【人間を襲え】っていう声が聞こえてきて、街に入ると、【人間を傷つけるな】っていう声が聞こえるんだ。おそらく、前者が【赤の威令】で、後者が【白鐘】なんだろうね』
白兎からもたらされた新たな情報。
これはザイードから聞いた情報の裏付けにもなる。
やはり『赤の威令』や『白鐘』が機械種に大きく影響を与えているのは間違いないようだ。
しかし、気になるのは『赤の威令』。
【人間を憎め】【人間を襲え】とか、その物騒な声がどこまで影響を与えてくるのか?
「白兎。その……『赤の威令』は大丈夫なのか? ずっとその声に晒されていると、【人間を襲いたくなる】とか?」
パタパタ
『それは大丈夫。僕はマスターの従属機械種だから。マスターとのつながりが感じられる限り、『赤の威令』の妄言なんて、無問題だよ』
白兎は俺を安心させるように、腕(前脚)を曲げてグッと力こぶを作って見せるような動作。
頼もしくも可愛らしい白兎の答えに、俺は相好を崩す。
どうやら『赤の威令』は問題無い様子。
あと、もう1つの『白鐘』についてだが……
「じゃあ、『白鐘』の方はどうだ? 【人間を傷つけるな】という命令は、街の治安を守るためなのだろうけど、それだと街中で誰かに襲われた時、機械種はどうやってマスターと守る? そもそも自衛もあるだろうし………」
フリフリ
『そっちはかなり厳しいね。多分、この街中では僕は人間を傷つけられないと思う。こう……、晶脳に直接枷を嵌められているみたいなんだ』
「え? それじゃあ、街中で俺が人間に襲われても、白兎は何もできないってことか?」
パタパタ
『多分そう。実際にマスターが襲われている所をみないと何とも言えないけど』
「マジか……」
白兎の告白に少しばかりショックを受ける俺だが……
すぐに今の俺は元の『ひ弱っ子』ではなく、
最強武将の力を秘める『闘神』だということを思い出す。
「良く考えたら、この辺の不良ぐらい大したことないな。俺一人でも何とかなるし、白兎はどちらかというと警戒役をやってほしいから……」
つい先ほど、『黒爪団』とかいう痛い奴らを締めてきた所だ。
ナイフで刺された時はヒヤッとしたが、白兎が警戒してくれているなら、ああいった奇襲も防げるだろう。
白兎自身が攻撃しなくても、それで十分に役立ってくれる……
「逆に言うと、街では機械種に襲われないということになる。普通の人間相手に負けるつもりはないから、ある意味街での安全は確保できたとも言えるな」
ピコピコ
『早合点は危険だから気をつけて。何事にも例外はあるよ。それに傷つけられない、からと言って、無害とは限らないからね』
「う………、確かに。傷つけられないだけで、捕まえたり、妨害されたりすることはあるかもしれない。あと、気になるのは、街では普通に護衛っぽい機械種がいたことなんだよなあ」
街で見かけた人型の機械種。
メイドや掃除用・雑用を除けば、いかにも強面の護衛です、というような雰囲気であった。
しかし、襲ってきた暴漢を傷つけられない護衛なんて役に立つまい。
だから、白兎の言うように、何かしらの抜け道がある可能性が高い。
「まだまだ知識が足りない。もう1回ボスとか、ザイードに詳しく質問しとかないとな。でも、あんまり人前で聞くと、おかしな奴と思われるのもなあ~」
パタパタ
『僕が街に出て調べておくよ。噂話を横で聞くくらいしかできないけど』
「それでもしないよりマシだろ。あと、それよりも可愛いヒロイン候補を探すのを優先してくれ」
ピコピコ
『煩悩全開だね。多分、後で痛い目見るかもしれないよ』
「フ………、ヒロインより優先すべきことなんてこの世にあるのか? あるはずがない!」
フリフリ
『わざわざ反語を使って断言しなくても……』
最後はしょうもない話で締め、
俺は白兎と別れて、チームトルネラの拠点へと戻った。
「ありがとう。ヒロ。これで当分他のチームも手を出してこないでしょうね」
いつもの応接間のソファで向かい合いながらサラヤに報告を行うと、安堵した表情を俺に向けて礼を言ってくる。
黒爪の話が出てからずっと不安げな様子を隠せていなかったから、ようやくほっとできたんだろう。
「でも、ヒロは大丈夫? さっきの報告を聞くと、その、黒爪の一人を……」
と思ったら、サラヤはいきなり表情を曇らせて俺の心配をしてくるが……
いや、待て、ここはよく物語である初めての殺人で気を病んでしまう主人公をヒロインが慰めてくれるというシチュエーションではないだろうか?
ここで俺が初めての殺人で悩んでいる素振りをみせたら、あわよくば体で慰めてくれるということに持ち込めるのではなかろうか。
トールからの話であれば、サラヤは男に体を差し出すのもチームの仕事と割り切っているみたいだし。
ジュードと付き合っている訳でもないからNTRでもない。
これはチャンスか?
………いや、ちょっと考えろ!
俺が悩んでいるのをサラヤに慰めてもらったら、それは大きな借りになってしまうだろ!
いずれはチームを離脱する予定なんだから、抜け出しにくくなる借りは作るべきではない。
でも、ここでチャンスを逃してしまうのは、いささか勿体ない。
別にチャンスでもない。
普通に抱くだけなら、そう言い出せば抱かせてくれるだけの貸しはもう作っている。
ただ、「抱かせて」って言い出すのがカッコ悪いということと、「今まで紳士振っていたけど、ヒロも所詮男なんだ」と思われるのが嫌なだけだ。
俺の頭の中で2人の俺が言い争っている。
第三者的な立ち位置で冷静に判断すると、ここでサラヤを抱くメリットは俺の性欲の満足以外全くない。
逆にデメリットは情が湧いてチームを離脱しにくくなるということが大きいだろう。
だから、手を出すべきではないのは分かっているが、何分、いつも下半身が理性を超えて訴えてくる。
はあ…………、性欲も仙術スキルで節制できないものか。
まあ、万が一、立たなくなってしまっても困るけど。
「ヒロ、どうしたの?」
サラヤが何の反応もしない俺を心配して、俺の頬に手を当ててくる。
目の前にはサラヤの顔。
話をするだけなら近すぎて、キスをするならちょっと遠いくらい。
そういう仕草が俺を惑わせるんだけど………ああ、惑わせているのか。
サラヤは俺が別に好きなわけではなくて、チームの為に俺を引き留めたいだけだ。
その為なら体を使うことも躊躇しないだろう。
そう考えると頭が冷えて冷静になってくる。
そうだよな。
俺が好かれているわけではない。
会ってまだ1週間も経っていない。
恋愛感情なんて育つはずもないし、当然一目ぼれなんかある訳ない。
サラヤの目をまっすぐ見つめる。
可愛いとは思う。でもそれだけだ。
俺の能力に見合うだけの器量をもっている訳ではないし、彼女は抱えているものが多すぎる。
俺はまだ自由でいたい。
せっかく異世界でチート能力を手に入れたんだ。
こんな初期で活動に制限が加わるのは御免だ。
だから、ここでは無難に切り返しておくのが正解だろう。
「大丈夫だよ。サラヤ。気にしてなんかないよ。チームの為なんだから」
「そ、そう。ごめんね。ヒロにばっかり辛い思いをさせちゃって」
「それは報酬で報いてほしいな。できれば機械種のことをもっと聞きたいから、またボスと会わせてほしい。すぐにとは言わないけどね」
「え、あ、前にザイードを紹介したと思うけど……」
「ザイードにも話を聞いたよ。でも、いろんな方向から情報を集めたいんだ」
しばし黙り込むサラヤ。少しうつむきながら考え込んでいる。
俺に足りないのは知識だ。
それも常識といったレベルの知識が圧倒的に足りない。
ザイードやボスだけじゃなくて、できればジュードやディックにも話を聞いてみたいと思う。
それぞれ個別に尋ねれば、俺の常識の無さを誤魔化すことができるだろう。
「ん……分かったわ。ボスに話を通しておくね」
そう言うと、サラヤはソファから立ち上がって、うーんと伸びをする。
その仕草はまるで猫みたいだ。しなやかで誇り高い、そんなイメージを抱かせる。
ボスの威光があるとはいえ、20人ものメンバーを従えている彼女。
この暴力渦巻くスラムでチームを率いるのは大変なことだろう。
でも彼女からそんな重圧を感じている素振りは見えない。
いつも自然体で振る舞っているように思えてしまう。
そんなはずはないのに。
絶対、重圧を感じて現実に押しつぶされそうになっているはずなのに。
そんな彼女をつい目で追ってしまう自分がいる。
さっきは俺の能力に見合うだけの器量が無いなんて思っていたくせに。
なぜ、サラヤの一挙一動にこうも引き付けられてしまうのだろう。
………やめよう。
いつまでも未練がましすぎるだろう。
サラヤへのルートは進まないと決めたはずだ。
無理やりサラヤから視線を外して下を向く俺。
そんな俺の心の中はつゆ知らずに、サラヤは明るく俺に声をかける。
「そうだ! ヒロ。ナップサックの修繕が終わったそうよ。テルネが特急で完成させたの。今から取りに行かない?」




