14話 召喚
『サラヤにとっての将来性のある男の子ってジュードのこと?』
とは、流石に聞くことはできなかった。
それを除いても今回は突っ込んだことを聞きすぎたように思う。
知りたいことはまだまだあるが、向こうも忙しい中、時間を割いてくれているわけだし、今回はこの辺りで質問を切り上げる。
一日のノルマは達成したが、更なる成果を求めて狩りにいくことをサラヤに話すと、昼ご飯のビーンズブロックと、虫を捌くための長さ15cm程のナイフを渡された。
「朝渡そうと思ったらもう出かけていたから。戻ってきてくれてちょうど良かったわ」
ビーンズブロックはまだ食べたことがなかったな。さてどんな味だろう。
「夜になる前に戻ってきてね。あまり遅くなると危なくなるから気を付けて」
「了解!」
サラヤに見送られて、チームトルネラのアジトを出る。
向かうはさっきまでとは違う狩場。
もちろん、先に白兎を迎えにつもり。
白兎がいる廃墟へと足を進めながらビーンズブロックを齧る。
う、青臭い生の豆の味だ。
ゆで損ねた枝豆っぽい。
食べている感触はピーナッツバーのようだが、好んで食べたい味ではない。
しかし、一度口をつけた以上、最後まで食べることにする。
「ふう。この世界に美味しいものは期待できないような気がするなあ」
食べなくても良い体だが、前の世界の俺は美味しいものを食べるのが好きだった。
この異世界の食生活に俺は耐えられるのだろうか?
「白兎、来たぞ」
フルフル
『はーい! 待ってたよー!』
いつもの建物と建物の隙間に入り、白兎と合流。
しかし、外はまだ明るいため、このまま出ると傷だらけの白兎が悪目立ちしてしまう。
なので、もう少し日が暮れてくるのを待つことにする。
だが、何もしないでただ待つだけなのは勿体ない。
「と言うわけで、「闘神」スキルと「仙術」スキルの効果の検証を進めたいと思う」
パタパタ
『わーい! 僕もお手伝いするよ!』
俺が一方的に宣言すると、
白兎も大喜びで賛成。
「まずは体の頑丈さからかな……、爆風では傷一つつかず……、でも、虫の残骸では血が出たし……」
衝撃耐性は強いけど、尖ったモノや鋭い刃物には弱い……
いや、生身の人間はだいたいそうなのだけど。
筋肉や脂肪で衝撃は緩和できても、刃物はそう簡単に防げない。
ということは、単純に耐久力が上がっているとみるべきか。
でも、どのくらいの衝撃まで耐えられるのだろうか?
いつまでも『虫取り』なんてしていられない。
次の狩りの目標である機械種ラビット相手だと、どうなるのか?
白兎のあの威力の蹴りを見ると、常人なら一撃をもらったらお陀仏だろう。
だけど、『闘神』スキルを持つ俺の耐久力なら………
「白兎……、軽く俺を蹴ってみてくれないか? もちろん手加減して」
ピコピコッ!
『無理! マスターを傷つけてしまうようなこと、できるわけないよ!』
「そうか……、無理か」
白兎で試してみようと思ったが、全力で拒否られた。
無理強いは可哀そうだから諦めるしかない。
まあ、白兎に頼んでおきながら、ホッとしている自分がいるのも事実。
間違いなく強くなっているとはいえ、一撃で木材を破壊する蹴りなんて受けたくはない。
手加減してくれたとしても、当たり所が悪くて骨折でもしたら目も当てられない。
最強武将の戦闘力を持つと言っても、所詮は人間。
戦闘機械や銃に勝てないのは道理。
『闘神』スキルを得ていても、無敵には程遠いのだ。
やはり、今だ効果のはっきりしない「仙術」スキルに望みを託すしかないか。
「闘神」スキルは身体能力を向上させてくれてはいるが、いかんせん、銃や機械種相手には力不足。
「仙術」スキルに爆発的な力がなければ、俺の将来はサラヤが言ったようなバーナー商会での護衛や用心棒が精々だろう。
しかし、これも俺が殴り合いや喧嘩ができればの話だ。
今まで生きてきた中で、ガチの殴り合いなんてやったことが無い。相手が刃物や銃を出すかもしれないのに、喧嘩なんてできるのだろうか。
最悪、荷役夫や鉱夫くらいに落ち着いてしまう可能性がある。
商売関係?
一応前職は会社員だが、この世界の常識も分からないのに商売なんてできるわけがない。
しっかり学ばせてくれれば覚えることもできるかもしれないが、そんな元の世界の 教育制度みたいなものなんかないだろうし。
求められるのは即戦力のみか。嫌な言葉だ。
ややブルーになってしまったが、こんなところで元の世界でのように全てを諦めてしまう訳にはいかない。
なんとしても「仙術」スキルを開眼せねば。
まずは「仙術」スキルの発動方法を検証していこう。
今まで行ったやり方を記録して、虱潰しに試していくしかないだろう。
『そうだ! メモをとっていかねば!』 と思い立ってパーカーの胸ポケットに指を突っ込み、中からペンを取り出す。
いつもの癖でペンを一回転させたところで、ふと、手が止まった。
「あ、ペンがあっても手帳がない……………、え、ペン? 持ってたっけ?」
右手にあるペンを見る。
いつも愛用していたボールペンだ。
胸ポケットにペンがあったけど気づいていなかった…………
フリフリ
『そのボールペン。マスターの胸ポケットには無かったよ。僕にはいきなり現れたように見えた』
「そうか……、そうだよなあ」
白兎の言葉を受け、確信。
持ち物検査は異世界に来たばかりの時にやったし、
パーカーは何度も脱いだり、洗ったりしている。
ペンが入っていたら気づかない訳がない。
白兎の言う通り、突然現れたとしか思えない。
ひょっとして、これは…………
「シャーペンがほしい」
と言って、胸ポケットを探るとシャーペンが出てくた。
これは以前保険申し込みした際に貰ったノベルティのシャーペンだ。
「蛍光ペン」黄色の蛍光ペンが出てきた。
「三色ボールペン」出てきた。これも景品でもらったやつだ。
「マジックペン」黒色のマジックが出てきた。
「ボールペン」違う銘柄のボールペンが出てきた。これも良く使ってたやつだ。
「万年筆」これは出てこなかった。
手には筆記用具が6本並んでいる。
「え、筆記用具を召喚する能力ってことですか?」
思わず敬語になる。なぜ筆記用具なんだ? 意味が分からない!
あまりのショックに思考が止まってしまい、我に返ったのはしばらく経ってからのことだった。
………いや、この能力で商売をする。
無限に湧き出すボールペンやシャープペンシル。
原価がかからない、利益率の高い商品となるだろう。この世界を筆記用具で支配するのだ!
「さあ、ボールペンよ!もっと出て来い!」
胸ポケットに手を入れる。
ポケットの中で指を動かすが、先ほどのように物に当たる感触がない。
思わず胸ポケットの中をのぞき込むが空っぽのままだった。
「出てこねえ!!!」
ガクッと崩れ落ち、orzの体勢となってしまう。
頭をよぎった筆記用具無双は一瞬で崩れ去った。
タイトルまで思いついたのに!
パタパタ?
『何をやっているの、マスター?』
「いや、この世界の俺への優しさ不足を改めて認識したのでな」
フルフル
『マスターには僕がついているよ』
「………ああ、そうだな。お前は頼りになる相棒だよ」
世間はいつも俺に冷たいが、白兎だけが俺に優しくしてくれる。
それだけでもう一度立ち上がろうという気になる。
いつまでも落ち込んでいる訳にはいかない。能力の検証を続けねば。
さて、ボールペンが出てこなくなった原因は何だ? MPか?
………いや、別に何か消費した感じはない。
それとも回数限定の能力だったのか。「異世界で6回だけ筆記用具を償還できる能力」………
クソだな。そんな能力だったら神様でも殴ってやる!
回数限定でも1日の召喚できる個数に限界があるという可能性もある。
それであれば、1日経てばもう一度召喚できるようになるだろう。
1日ではなく、1週間や1ヶ月、1年間といった可能性もあるが………
しかし、本当にこれ以上召喚できないのだろうか?
「蛍光ペン」
今度はピンクの蛍光ペンが出てきた。
うーん。
条件が分からない。
何か共通点はないか?
というか、召喚できるのは筆記用具だけなのであろうか?
頭の中で、筆記用具のペン以外に召喚できそうなものに検討をつける。
「消しゴム」出た。
「定規」出た。
「分度器」これは出なかった。しかし分度器とは懐かしい。なぜ思いついた?
「電卓」出た。胸ポケットに入るサイズのやつ。
………ん、電卓が出るならひょっとして………
現代人が最も必要とするツール、いけるか?
「スマホ」……出た!
これは俺が使ってたアイフ○ンだ。カバーまで同じだ。
すぐに親指認証をして、立ち上げる。
これで現代生活の3割くらいが取り戻せそうだ!
と思ったが、電波がつながらず、当然ながらネットも見れない。
再びorzへ。喜びから絶望へ真っ逆さま。
さっきから上げては落とされていないか、俺……
再度白兎に慰められる。
もう一度立ち上がるまで5分少々。
いや、スマホが出たなら、他にも出せるものがあるはずだ。
もっと試そう。
文明の利器が出るのであれば、武器はどうだろうか?
「拳銃」出ない。いきなり欲張り過ぎたか。
「ナイフ」出た。しかし、食事用ナイフだ。
「フォーク」出た。つい食事用ナイフつながりで呼んでしまった。
「手榴弾」出ない。ギリギリポケットから出てきそうな大きさだと思ったのに。
「お箸」出た。割りばしだけと。
「手裏剣」出ない。出たらカッコよかったのに。
「スプーン」出た。やはり日用品が出やすいようだ。
日用品に絞ってみるか。
「髭剃り」シェーバーが出た。でも電源が無いから充電できない。
「ドライヤー」これはポケットには大きすぎたのか出てこない。
「歯ブラシ・歯磨き粉」どっちも出てきた。いつも使っているやつだ。
歯磨き粉も出てくるならひょっとして……
「バファ○ン」優しさでできてるやつ。出てきた。
「絆創膏」出てきた。
「オロナ○ンC」疲れた時に良く飲むんだ。出てきた。しかも冷えてる。旨い!
飲み物がでてきたということは……
「牛乳」ポケットからは出てこない。牛乳は1L紙パックをいつも常備しているくらい好きなんだが。
「缶コーヒー」出てこない。仕事に行く途中でよく買って会社で飲んでたけどなあ。
「ヤク○ト」出てきた。乳製品は好きなんだ。一瞬で飲んだ。
これは期待できるかも。
「おにぎり」出た。しかもツナマヨ。俺の大好物。すぐにかぶりつく。
「チョコレート」出た。板チョコだ。久しぶりの甘みを堪能。
「飴」出た。ミルキーなやつ。俺の大好物。ちょっと糖分取り過ぎなので、横に置く。
「カロリー○イト」出た!フルーツ味!フルーツ1番、チョコが2番。異論は認める。
「人参」出た! 白兎に『食べる?』と聞いたら、『僕、ロボットだから食べられない』と返ってきた。
だいたい法則が分かってきたな。
おそらく俺がよく知ってるものは出てくる可能性が高い。
あと、ポケットから取り出せる大きさのもの限定といったところか。
ジーパンのポケットも大きさはそれほど変わらない。
あまり大きいものは召喚できないであろう。
そして、この能力に見当もついた。これは異世界に来る前の部屋で最後に書き込んだ欲しい能力「異世界に行っても今の生活環境(衣・食・住と娯楽を含む)を維持したい」で間違いないだろう。
もし、今着ている服のポケットからしか召喚できないということであれば、この服を破損しないように気をつけなくてはならない。
パーカーを脱いで状態を確認してみる。
おかしい。傷一つない。
あれだけ石が当たったり、森を突き抜けたり、虫に集られたりしたのに綻び一つない。
パーカーだけでなく、Tシャツも、ジーパンも、スニーカーにも傷どころか汚れ一つ見当たらない。
試しで、スニーカーを脱いで地面に擦りつけてみる。
普通なら土で汚れるし、傷もつくはずだが、土汚れは叩けばすぐに落ち、傷は全くついていなかった。
俺に怪我がなかった理由は、この服が守ってくれたからか。
今度はTシャツの端をナイフで突いてみる。普通に穴が開いた。
あれー? これはどういうことか。
布だから衝撃には強いが、刃物には弱いのかもしれない。
うーん。
これも判断は保留にしよう。過信は禁物だな。
とりあえずはちょっと頑丈な服ということにしておこう。
さて、随分時間がたってしまった。
目の前には召喚した物品が転がっており、
白兎が珍しそうに前脚でツンツン突っついている。
食べ物・飲み物はほとんど消費してしまったが、日用品の扱いについてどうしようかと悩む。
しかし、その悩みは一瞬で無くなった。
胸ポケットに入れ直したところ、収納することができたからだ。
これは所謂アイテムボックスだ!異次元収納だ!
異世界界隈をブイブイ言わせているチート能力の一角を手にすることができて、テンションが一気にMAXとなる。
ただし、気を付けなくてはならないのは、収納した物品の詳細が分からないこと。
何を収納したか覚えておく必要がある。
また、大きさはポケットに入る大きさに限ってしまう。
精々手のひらに乗る程度の大きさが限界であろう。
「闘神」スキルと「仙術」スキルを確認するためだったが、結局分かったのは召喚能力と収納能力だった。
しかし、これらの能力を使いこなせば、いきなり俺TUEEEEとはいかないものの、ある程度この世界での生活レベルを向上させることができるだろう。
異世界に来てようやく自分の将来に明るい展望が見えてきた。




