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白兎と始めるアポカリプス世界冒険譚(闘神と仙術スキルを携えて)  作者: クラント


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12話 虫取り

 

 朝、日が昇る前に起こされてしまった。

 まあ、夜寝るのが早かったからこんなもんか。



 寝床の男子はぞろぞろとトイレに向かう。

 そこで初めて俺はこの世界に来てから、全く尿意・便意を感じていないことに気が付く。



 え、マジ! 俺が食ったり飲んだりしたのはどこに行くの?



 たしかにこの世界に来てから3日目、ほとんど飲み食いしていない。

 だから今まで入るものを入れてないから出るものも無いだろうで済ましていたが、ここまで尿意が無いのは異常だ。

 少なくとも昨日は水を飲んだし、そろそろ小便で出てきてもおかしくないはずだ。



 おいおいおいっ!

 これは「仙術」スキルの効果なのか? 

 それとも実はいつの間にかアンデッドになっちゃたとかないよなあ。



 十数秒考え込んだが、結局、まあいいかで自分の中で結論を出す。



 まあ、別にデメリットがあるわけでも無し。

 気を付けないといけないのは、周囲にばれないようにすることだ。

 必要がなくてもトイレに行くように見せかけた方が良いかもしれない。



 トイレのことはとりあえず後回しにして、顔でも洗いに行くか。






 2階の洗面所で顔を洗っていると、サラヤと顔を合わせる。



 う………

 昨日はジュードとしっぽりとした夜を過ごしたのだろうか。

 そんなことを考えると思わず顔をそらしてしまう。



「おはよう。えーと……、ヒロ」


「………おはよう」



 つい、つっけんどんな挨拶をしてしまう。



 俺は小学生か!


 イカンな。

 この世界に来てからどうも精神年齢が下がった気がする。


 しかし、そんな俺の不愛想な態度にめげず、サラヤはまぶしい笑顔で俺に話しかけてくる。



「昨日はよく眠れた? あの後トールに任せちゃったけど、このチームについてはだいたい分かったかな?」


「まあ、一通りは」


「そう。じゃあ、ヒロには今日から仕事をお願いしたいの。チームに入ったばかりだけど、ごめんなさいね。正直あんまり余裕はないの。昨日ジュードがラビットを狩ってきてくれたから大分マシになったけど。これから物入りな季節にもなるし」



 季節? 

 四季があるのか?

 今の季節は何なんだろう?

 それほど暑くもなく、寒くもない。

 ちょうど春か秋くらいかな?



「別に構わないよ。ただ、何をすれば良いのか詳しく教えてほしい」


「ありがとう。ヒロには『虫取り』をお願いしたいの。今、『狩り』してくれていた人が怪我しちゃって、どうしても人数が足らないのよ」



 やっぱり『虫取り』か。

 さて、どの程度の危険が待ち受けているのか。

 それによって、俺が本当に頼りにされているのか、捨て駒にしようと思われているのかが分かるな。



 少し黙りこんだ俺に、サラヤは慌てたように言葉を続ける。



「だ、大丈夫。『虫取り』のベテランを指導役につけるから。ほら、ヒロをここに連れてきてくれた3人よ。デップ、ジップ、ナップっていうの。」



 これもトールの言った通り変わらないか………



「昨日、お願いしといたから、この後、あの3人に声をかけてみて。一から指導をしてくれるから」

 


 あの3人とはちょっと微妙なんだよなあ。



「そんなに心配しなくても大丈夫よ。最初は上手くいかないものだから。今回は3人の狩るところを見学してくれるだけでいいから」

 


 といって、洗面所で顔を洗い出す。

 そして手で水をすくい、首元を洗う。



 あ、ちょっと首元から見えるのは…………



 これ以上ジッと見てるのは辞めよう。

 自分で気まずくなって、どうするんだ?


 サラヤが洗い終わらないうちに退散することにしよう。

 







 

 洗面所から一目散に退散した俺は、ガキ3人を見つけ、声をかけた。

 声をかけた瞬間、3人揃って嫌そうな顔を向けてくる。



 俺だって、サラヤに言われていなかったら、

 お前らなんかに声をかけていねえよ!



「くそ、なんでこんな奴に!」

「おい、さっさと出かけるぞ。早くしろよ!」

「足手まといになるようなら、虫の餌にしちまうからな!」



 追い立てられるように連れ出され、朝早いスラムから狩場へと向かう。


 3人はブロックを齧りながら進んで行く。

 俺が何のブロックを食べているのかなと覗き込むと、1人が食べかけのブロックを見せつけてくる。



「へん。お前、昼飯貰ってくるの忘れたのかよ。抜けてやがるなあ」

「馬鹿なやつ、朝出かける時に食堂で受け取るの知らないのかよ」

「ざんねーん。これは俺らのだからお前にはやらねえよ」



 いちいち3人連なるようにしゃべりやがってうっとおしい。


 別に腹が減っているわけじゃないから要らないやい。

 こいつら昼飯って言ってるのになんで今喰ってるんだよ!



 ようやく狩場の廃墟に到着すると、3人はあちこち周囲を動きまわり、何かを探し始める。


 昨日、虫を探した時はさっぱり見つからなかった。

 やはり虫を探すにも何かコツのようなものが必要なのだろうか。


 3人の動きを観察していると一人が声をあげる。



「おい、見つけたぞ!こっちだ!」



 俺と残り2人が声をあげたガキに近寄る。

 


「これこれ。やっぱりここにいたか」

「そうだよなあ。ここにいるよなあ」



 コイツラ一人がしゃべったら絶対に言葉を続けないといけない制約でもかかっているか!



 瓦礫の隙間にいるのは、暗褐色で15cmくらいのクワガタのような機械種だ。ただし、ハサミが3対頭部に備わっている。



 ん………、

 こいつ、トールが危険だと言ってた『挟み虫』ってやつじゃないだろうな。

 


 3人を見るとにやにやした顔であれを捕まえてみろと言い出す。



 ふん。

 見学だけだって聞いてたのに。

 サラヤの見る目はこんなもんか。

 それともサラヤの前ではいい子ちゃんぶっているのか。

 それともそれを分かった上で任せたのか。



「おい、いつまでぼーっとしてるんだよ」

「俺ら暇じゃないんだぜ」

「そうそう貴重な時間ってやつをお前に使ってやってんだ」



 うーん………

 危険度が分からない。闘神スキルでどこまで通用するのか。



 見る限りでかいクワガタなんだが。

 しかし、トールが言うように指でも飛ばされたらみっともなく泣きわめく自信があるぞ。


 今からコイツラに頭を下げて許してもらうという選択肢もある……情けないが。

 その場合は、良くて一生コイツラの使いっぱしりとなるのが目に見えている。

 悪くて役立たずとして追い出されるか。



 リスクを計算しろ。勝率はどれくらいだ。

 


 岩を蹴り砕き、大木を拳で凹ませるだけの力はある。

 100km以上走っても全く疲れないだけの持久力も。

 反復横飛びすれば、分身に近い速度が出せる身体能力もある。


 また、今のところ、これといった負傷はゼロ。

 虫の大群に突っ込んだ時の爆発に巻き込まれても、

 特に怪我らしい怪我はしなかったから、ある程度身体は頑丈になっていると思う。

 

 それでも、虫の残骸を取り除く際、トゲで指が傷ついたのだから、噛まれると危ない。


 あの時、機械種の虫に集られても平気だったのは、トールが言っていた、虫は街中だと『人を傷つけるのを躊躇う』そうだから、それが原因の可能性が高い。

 


 今、ここは俺が虫達に襲われた場所からは離れているし、

 街の中とも街の外ともいいにくい中途半端な所でもある。

 果たして、虫が『人を傷つけるのを躊躇う』というエリアなのかどうかも不明。

 

 


 ちらっと3人を見る。



 多分、1人1人なら勝てる。

 あいつらスラム育ちのせいか、やせており、筋肉質にも見えない。

 ウエイトは俺の方が上だ。でもナイフはちょっと怖い。



 推定:挟み虫を見る。



 ハサミがあるのは前方だけ。

 後ろから捕まえればハサミは手に届かない。

 先ほどから全く動いていない。

 触覚らしきアンテナが揺れているだけだ。


 最悪、指が飛ぶだけだ。

 命の危険は少ないと思われる………尊厳は失われるだろうが。


 本当はこういった危ない相手との戦闘は白兎と一緒に挑みたい所。

 多少の傷なら自動で修復する白兎と違い、俺の指は一度飛んだら生えてこない。


 前衛を白兎に任せ、後衛で援護に徹するのが俺の中のベスト陣形。

 だが、この場に白兎はおらず、頼れるのは自分の肉体だけ。


 ここは俺がなけなしの勇気を見せないといけない場面。


 いずれこのような危険に挑まなくてはならないシーンが幾つもあるだろう。

 なら今ここで挑戦するしか選択肢はあるまい。




 覚悟を決め、挟み虫の後ろに回り込む。

 

 ふと、ネット小説の主人公たちを思い出す。

 彼らの初戦はどうだったか?

 初めて危険に立ち向かう相手はどのような強敵だったか?


 スライム、ゴブリンやオークといった初心者向けから、ドラゴン、魔神、魔物のスタンピード等の高難易度イベントとか、様々であっただろう。


 それに比べ、俺が初めて危機感をもって挑んだのは『虫』の大群。

 そして、次の相手はこれまた『虫』。

 しかも、体長15cm程度の『挟み虫』。


 なんで俺が挑もうとする敵の種類が『虫』ばっかりなんだよ!

 なんという落差だ。

 しかし、これが現実だ。

 俺がもう一度立ち向かわないといけない相手だ。



 中腰から拳を腰にひき、構える。

 挟み虫をにらみつけ、その挙動を逃さないよう集中する。


 周りの時間がゆっくり流れているような気がする。

 今なら銃弾でも手でつかめそうだ。あくまでそんな気がするだけだが。



 いや集中、集中。







 そこだ!


 ガシッ!!



「とったどー!」



 思わす捕まえた右手で獲物を高く掲げる。

 捕まえた挟み虫は足をワシワシと動かしている。



「「「おー」」」



 3人が初めて声をそろえる。



 ふふん。俺にかかればこんなもんよ。



「おい、さっさと仕留めろよ。危ないだろ!」

「いや、あいつ素手だぜ。ナイフ持ってないよ」

「ああ、びびって逃げるかと思ったてたから」



 え、とどめか?

 どうしようか。

 ………っていうか捕まえた後ってどうするんだ?



 捕まえた挟み虫の処理について悩んでいると、捕まえた右手が振動を感知する。

 



 ブーーン




 え、挟み虫のハサミが振動しながら後ろに伸びた!

 捕まえている右手の人差し指と中指がハサミに挟まれる。 




 ガチガチガチガチガチガチガチガチ。



「うわっ!」


 グシャ!




 しまった。思わず握りつぶしてしまった。

 手からバラバラと部品が零れ落ちる。



「ああ、もったいねええ!」

「おい、晶石は大丈夫か!」

「なんだ、随分簡単に壊れるんだなあ。挟み虫って」



 3人が慌てて挟み虫の残骸を集め始める。



 え、やっぱり壊しちゃだめだったのか。


 

「ああ、晶石が粉々だ」

「こいつ馬鹿力だなあ」

「でも挟み虫ならハサミの部分が売れるらしいぞ」



 うーん。なんとも締まらない初戦闘だったなあ。



 チラリとハサミに挟まれた指へ視線を落とすが、

 そこに傷らしい傷は見当たらなかった。



「ほっ……」



 軽く安堵の溜息をついて、苦笑いを浮かべる俺。


 どうやらこの辺りは大丈夫なエリアであった様子。


 とりあえす、今回も無事切り抜けることができたようだ。

 もう虫の相手は勘弁してほしい所なのだけど……


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