最終回 大勝利 地球は僕らの星 皆の星
「しっかしまぁ、こんな奥義を隠しもっていたとはよぉ。驚いたぜ」
ドクドクと黒いオイルが、機体内部から流れだしていく。
「奥義ってのはその為のものでしょ? 貴方みたいに、開示するものじゃないわ」
「ぬぅ。もう追いかけっ子はしないのか?」
「意地悪ね。なぜ貴方は、そんなに元気なの?」
「気合いだッ!」
ここに響樹を知るものがいれば、誰もがそう言うと思っていただろう。しかし違った。
「俺にはよ、リリス、沙耶、美亜、兄貴から渡された絆というバトンがある。じゃなきゃたった一人の戦いに疲れ果てて、とっくの昔に沈んでいる。それだけアンタはすげー強い」
響樹は太陽を指さす。
「だから瞳をあけて顔をあげる。俺は一人じゃぁないッ!」
「! ……光栄ね荒神王。ならわたくしも、負けてないわ」
スゥッとイザナミは一呼吸し息継ぎすると、再び口を開く。
「わたくしの肩には子供たちがいる。その子たちの居場所を創るために、この美しき星。宇宙にきらめく蒼いエメラルドを侵略する」
藪をつついて蛇を出してしまう。
先ほどまで感じていたイザナミの嘆きは嘘だった用に消え失せ、今前方にいるのは紛れもなく、呪いの女王。黄泉津大神イザナミであった。
「さて、どう戦うか」
あのイザナミの奥義は、鬼道結界術とは別なもの。【領域】とでも呼ぶとしようか。
響樹は無い知恵搾り、領域対策を考える。攻撃を仕掛けると空間をワープし、自分の体を傷つける。
「……ぬぅ。わからん」
悩んでる時間は無い。今もこうしてオイルが流れている。タイムリミットは近い。
「治癒なんてさせないわッ!」
四面体の檻に閉ざされた扉は開かない。アラガミオンの逃げ道は、完全に塞がれていた。
虎が背面から現れ首元を狙う。
「オラァッ!」
機体をひねり裏拳を放つ。
――ゴッ。
耳の中で、硬くこびりついた耳糞が剥がれた音が鳴る。
裏拳は虎に命中する直前、消滅し次元を越えて自らの頭部にぶち当たった。
「痛ぇぇなぁッッ!」
タケミカヅチを収納して正解だった。じゃなきゃ首と胴体が、バイバイしていたところだ。
軽い脳振盪で済んだ。グラつく頭部を支える。
「貴方のことだからタケミカヅチは、そのまま使うのかと思っていたわ」
「ふははははっ 俺だって学習するんだぜぇ」
「あらまぁ。でもそれを発表する機会は、二度と訪れ無いわ」
イザナミの合図で、虎が正面に出現。
傷ついてる胸部へ突っ込んでくる。
「ラァァァッ!」
ヒノカクズチを居合い一閃。虎とすれ違う。
炎の刃は途中から、次元の波に消えている。
響樹は確かな手応えを感じていた。
虎は無傷だ。ヒノカクズチの刃先は、アラガミオンを斬っている。
この手応えは、自らの機体から伝わってきていた。
「へへっ。なるほどな」
「な、何故平気なの坊や。貴方は今確かに、ヒノカクズチの攻撃が当たったのに」
「リリスと沙耶が、俺を傷つけるわけないだろう」
「うぐっ、確かに。では、その『なるほどな』とはなんなの? 怖いんだけど」
「おいおい。また素が出てきちゃったぜぇ。イザナミ」
「むむむ」
「むくれるな。こっちもトライアンドエラーってやつよ。失敗し痛い目みて、体で覚えてるんだ。俺にはそれが一番あってんだ」
「今までのバトルは、その為に?」
「おうよ。多分これでいけるぜぇ。失敗したらあの世行き、その時は世話になるぜ」
右掌を大きく広げた。
「無駄よ。自殺行為だわ。アマ・テラスが貴方を焼きつくす。そんな事で命を粗末にするぐらいなら、わたくしが最高の快楽の中で、貴方を殺してあげるのに!」
領域の外側で、イザナミが叫ぶ。
右掌の照準を虎に合わせた瞬間の、イザナミの狼狽ぶり。やはりそういう仕組みなのか。
響樹は戦いながら気づいたところを、咀嚼する。
虎を攻撃すれば四面体が機体へダメージを与えるのは、確定と思っていいだろう。だからこそイザナミは、命を粗末にするなと叫んでいるのだ。例え敵対していても。それ(自死)だけはダメだと、絶対に譲らない。
死の女神は善意から定命の者を魂の状態にして、争いのない平和な黄泉の国へ連れて行きたいと願っている。
響樹は思う。極端でやり方が強引過ぎると。
「脳筋のお主が言うな。それを」
リリスにツッコまれ苦笑い。
それでもわかる。脳筋な響樹でもわかる。
例えどんなにいい事でも、物事には順序ってものがあるのだ。
それに自死はダメで、イザナミ自身が殺すのはいいのか。そんな彼女のワガママが響樹は兎に角気に入らない。
――スッ。
今にも発射しそうな小型の太陽の狙いを変更する。照準は機体を取り囲む、四面体の領域。
これは一か八かの賭けだ。
虎では無く、四面体領域を攻撃し破壊する。
もし四面体が虎と同じ能力を持っていれば、アラガミオンは二度と日の光を見る事も無く消滅する。
「南無三ッ!」
覚悟は決まった。
「燃えろ俺の魂よッッ! 全てを焼きつくせッッ! 一撃必殺奥義、アマ・テラスッッ!」
魔術と機術で創りあげた小型太陽を、領域に撃ちこんだ。
例え神様でも彼らを生み出した惑星の力には、決して抗うことは出来ない。
領域は落ちた鏡のように粉々に砕け、破片は塵も残さず消滅する。同時に虎は蛇となり同じ道を進んだ。
「ご自慢の奥義を破壊した。残りはアンタだけだぜ。イザナミッ!」
「荒神王ッッ!」
イザナミのドレス型装甲の裾が、毒蛇に変わり飛びかかる。
「ウラァァッ!」
ヒノカクズチで、斬り落とし燃やす。
――ヒュウッ。
風が鳴り響く。イザナミが鱗で創った巨大な鷹の瞳が、不気味に輝く。上空から獲物に狙いを定めた。
返す刀でたたき落とすには、間に合わない。速度が早すぎる。
「兄貴頼むッ!」
響樹の合図で炎のマントが大きく口を開く。
「あぎぃぃるッ!」
炎から伸びる八つ首の龍の牙が、鷹を噛み千切り喰い殺す。
「オロチぃぃオロチぃぃッ!」
イザナミは今まで見せたことも無い、鬼の形相を浮かべ斧を振り上げた。
「ふははははっ! 休憩は終わりかイザナミよッ!」
――ガキィィンッ。
刀と斧がぶつかり合い、内臓まで届く重厚なサウンドが鳴る。
「ええっ。たっぷりいただいたわッ!」
イザナミの綺麗で長い足が、アラガミオンの回復してない胸部傷口へ伸びた。
「ちぃぃぃ!?」
後方へかわす。
ここまでかわせば当たらない。カウンターの一撃を喰らわせてやる。前方に重心をかけた瞬間、響樹は自分の甘さを痛感した。
イザナミの爪先が伸びる。先端尖る左踵のヒールは、胸部深くまで突き刺さる。
アラガミオンの体内隅々までアマ・テラスエネルギーが循環している。だからこそイザナミは外装までしか攻撃出来ないし、だからこそ四面体領域を奥義として放ったのではないか。
またやってしまった。そう思い込んでしまった。
響樹だけじゃなくイザナミも、命を賭けて戦っていたのだ。
穴に挿入したまま、左足を支点にして回転。右膝が頭部へ命中する。
「ぐわぁっ!」
跪くアラガミオンに、イザナミは斧を構え振り下ろす。
――ギィィン。
再び結界内で響く金属音。ヒノカクズチで防御することしか、響樹には出来ない。
ザワザワとイザナミの蛇髪が、機体に絡みつき噛みつく。
「ぬぅぅんッ!」
力任せに引きちぎろうとするが、ビクともしない。
「無駄よ。貴方ももう限界が近いわね。気合いや、筋力だけじゃ解決できないこともあるのよ」
「そうかよッ!」
炎のマントが刃の形になり、蛇髪を切断する。
アラガミオンから少しずつエネルギーが抜けていく。
胸部、心臓に当たる部分がイザナミの攻撃により、大きなダメージを受けていた。
奥義であるアマ・テラスやアラガミオンレーザー等、大型の必殺技はもう使えないほど枯渇している。
それでも響樹には、まだヒノカクズチがある。
「リリス、沙耶さん、美亜、兄貴。全ての力を俺に預けてくれ」
響樹にはわかっていた。これが最後のバトルになるという事を。
炎のマントは形が悪魔の翼となり刃が露出。神殺しヒノカクズチの火力は最大となった。
――ジャゴンッ。
アラガミオンの顔を覆うフェイスガードが外れ、綺麗な鼻筋と薄い唇が外気に触れた。
「ぎぃぃぃぃぃ」
錆びた鋸で鉄を切断したような金切り声をあげ、口角が耳にあたり部分まで裂けた。
口内から牙が覗き、長い舌が見える。
兜の一対四本の角から、吹き出した炎が全身を包み込む。
鉤爪の生えた両手が握るは、対神対魔の生物兵器ヒノカクズチ。
「超鬼神・荒神王の一撃を受けてみよッッ!」
黒い炎で燃えあがるヒノカクズチを、上段に構える。
「その一撃をかわし勝利者となるのは、わたくしよ荒神王!」
イザナミは残された全ての体力を使い、全身を蛇で創った刃を生やす。
鎧や盾にし防御にまわしたところで、ヒノカクズチの攻撃を無事回避できるとは限らない。
攻撃は最大の防御となる。ならば全身全霊で攻撃に命を賭ける。
「来なさいッ! 勇者ラーヴァンッ!」
「望むところだッ!」
互いの至近距離に入ると、二つの柱は殺し合う。
荒神王は上段から炎の刃を振り下ろす。
真横へ飛びかわす。イザナミの鱗全身は、蛇の刃となっている。
迂闊に近付けば、それだけでも斬られてしまう。
それは荒神王とて同じ。
全身が燃えている。一瞬でもそれに触れたら、イザナミは火傷するのだ。
「それがどうしたッ!」
二人は同時に叫ぶと、刀と斧が激突する。
切り刻んでくる無数の蛇を、炎の刃で切り刻む。
「ハァハァハァ」
イザナミの呼吸が激しい。
「どうしたもう限界か」
「そちらこそ火力が落ちてきてるじゃない。それじゃ女性の心を狙い打ちできない」
「言ってくれるぜ」
刃を傾け、斧の真下を滑らせる。
斬。手応えを感じた。
「うぐぐっ」
ついにヒノカクズチが、イザナミの脇腹を斬る。
塵になり灰になっていく。
「まだよ!」
蛇刀が灰化する脇腹の一部を大きく切除する。
その手術が終わるまで待っている荒神王ではない。
大きく刀をふりあげ、イザナミの頭上に刃を振り下ろした。
切除してる間に攻撃を仕掛けてくるのを予想したイザナミは斧の柄でガードする。
「オラァァァッ!」
荒神王の気合と共に柄を斬り、上半身を真っ二つに切断する。
「まだだぁぁ!」
緑の血反吐を荒神王の顔面に吹き出し、視界を曇らせる。
ヒノカクズチは確実にイザナミを切断した。あとは灰となり虚無へ帰る。
彼女は敗北したのだ。
それなのにまだ諦めてないのか。
一瞬生まれた荒神王の隙。
イザナミはヒノカクズチを握る右腕を、最後の気力で切断した。
「勝った! わたくしの勝ちよ荒神王ッ!」
「いいや。勝負は俺の勝ちだ」
荒神王は左手でフェイスガードについた血を拭き取る。
「フェイス……ガードいつの間に……いやそれよりもその左腕は……」
「戦いに夢中で忘れてたよな。そうだ。こっちは左腕に擬態したヒノカクズチだという事によ」
そう言って荒神王は残されたイザナミの体を左腕で掴んだ。
「わたくしの負けね。見事なり御門響樹」
*
「来たかイザナギよ」
そう言ってオロチは、合身を解除する。
アラガミオンはゴッド・スサノオンへ姿を戻した。
「何するのじゃ、オロチ」
「すまないなみんな。今世で目覚めてから、ボクはずっとこうしようと考えていたんだ」
「オロチ兄?」
「デュワッ!」
オロチはヨモツ獣化すると虚無が現れた方向へ飛ぶ。
まさか虚無と戦う気なのかと、誰もが思った。それだけの気迫をオロチから感じた。
虚無とすれ違いオロチは、イザナミを封じた炎の球体で止まった。
「大丈夫だイザナミ。ボクがずっと側にいる」
「兄貴、何言ってんだ」
「地球人とヨモツ族との邂逅は、まだ早すぎたんだ」
「ダメだ! 兄貴。止めるんだぁ……」
前世の兄とはいえ、弟の響樹にはオロチが何を考えているのか理解した。
「オロチ兄ぃぃ!」
それは美亜も同じであった。
「虚無よ。イザナギ大神よ。彼女は喰わせない。今回も僕と共に行く!」
それだけで虚無の龍は、理解したのだろう。次元の狭間に消えていく。
「行こうイザナミ」
「オロチ、ホント馬鹿な人」
「愛してるよ誰よりも。イザナミ」
美しい人の姿となったイザナミは、同じく人の姿になったオロチの手を取る。
「に、にいさぁぁん!」
「フッ。響樹、美亜を頼むぞ。来世でまた会おう。僕達は家族なんだから」
あれから一年間が過ぎた。
ヨモツ獣も現れず平和な時を、響樹達は過ごしている。
「馬鹿兄貴が」
砂浜で海を見ながら、響樹は呟いた。
オロチとイザナミは、海底奥深くで眠りについている。
「二人は幸せになったのかな。お兄ちゃん」
「知らねぇよ」
「幸せよ。どんな場所にいたって、愛する人が側にいるんですから」
沙耶は響樹と腕を組む。
「だよね。あたしもお兄ちゃんや、皆がいれば毎日楽しい」
美亜も負けじと、響樹の背中に飛び乗った。
「ヨモツとはわかりあえぬ。それは神話の頃から変わらぬわ。それでも奴らが、再び長い眠りから醒めたとき戦いではなく、会話からはじめるのも悪くない」
「あぁ。そうだな」
響樹はリリスと手をつなぎ、海原を見つめた。
終わり。




