8.それぞれの探し物
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「……ジーニィたちの世代は、まだまだやりたいことがいっぱいなんだね」
ユーリの言葉にクリオネが首を傾げた。
「ユーリだっていっぱいでしょ? 今だって開発中のものをたくさん抱えてるし」
「まぁ僕はね。でも、僕らや僕らの世代より上の人たちは、今の状況にまだ馴染んでないんだよ。時間を持て余してるんだ」
「どうして? おもしろいことがいっぱいなのに」
「ほんとリナキナの言う通りだよね。でも、君たちの生まれる前の世代では、『生きること』は『仕事をすること』と同じようなものだったんだ。仕事をするとお金がもらえる、それが社会とのつながりとなり、世界が循環していたんだよ」
「今のポイント制と同じじゃないの?」
「ポイント制は学生の間だけだよ。『地球人』としての知識を持つまでは、行動した見返りにポイントがもらえる。そのポイントで買い物なんかができるよね? 実は卒業すると、ポイントがなくても望みさえすれば、なんでも手に入れることができるんだよ」
「え? それなら、オレが欲しいゲームや服って、そのうちぜーんぶポイントなしで手に入れられるってこと?」
「そうだよ」
じゃあ今コツコツ貯めてるポイントって……と悩むクリオネ。
「余計にわからないよ。なんでも手に入るんだったら、どうして時間を持て余すの?」
まっすぐなリマキナの目を見て、ユーリは噛みしめるように言った。
「『なにをすればいいのか』が、わからないんだよ」
そっちの方がわからないよ、と南の双子は眉をひそめる。
「君たちは若いから、わからないほうがいい。僕はね、そんな人たちのためにもアースを早く完成させたいんだ。自分はなにがしたいのか、自分になにができるのかを発見するための手助けになるようにね。自分じゃ思いもつかなかったことでも、誰かと一緒ならできちゃったりするだろ? そのきっかけを作りたいんだ」
静かに語るユーリの顔は、まさに天才科学者ユークリッドその人だった。
見とれるクリオネを横目にリマキナが質問する。
「アースって、ユーリとマリアだけで開発してるの?」
「いいや、Y博士とアンジュがメイン。後は大勢のスタッフだよ」
「あれ? ジーニィは?」
「俺はそんな研究したくないからね、不参加さ!」
カップケーキを片手に胸を張るジーニィ。
「またまた~、ジーニィったらアンジュに勝てないから参加したくないだけでしょ?」
マリアに図星をつかれ口をへの字にするジーニィに、ユーリが助け船を出す。
「でもジーニィの意見はいつも参考になっているよ」
「いつ俺が意見を言ったよ?」
「いつでもさ。僕たちに話す君の意見は鋭いからね。とても参考になる」
「もうしゃべんないぞ」
「ムリムリ」
口を押さえるジーニィに全員が首を横に振った。ジーニィの口の早さには、知り合って間もないクリオネやリマキナでさえすっかり慣れるくらいだ。
「それにノースで作っているガラクタもね、毎回新技術使ってるだろ? 参考になるよ」
にっこり顔のユーリをジーニィは釈然としない顔で見上げる。
「~~ガラクタって言っといて、最後にもちあげるのがユーリだよな」
「それほどでも」
「ほめてないって」
ジーニィは拍子抜けして笑いだした。
「ほんとにユークリッド博士サマか、たまに疑うぜ」
「たまに~?」
まぜっかえすリマキナにみんなも笑った。
「そう言えばY博士ってジーニィの親なんでしょ? ユーリの親は研究に参加してないの? 大戦で亡くなったの?」
クリオネの質問に、ユーリの笑顔が一瞬固まった。
「……僕の両親は科学者じゃなくて普通の人なんだ。大戦を生き残ったけど、病気でね。今もまだ病院で闘病生活中」
「ごめんなさい。オレ」
にっこりと、いつものようにユーリは微笑んだ。
「かまわないよ。ただ、病院にマスコミが来られると迷惑だから内緒にしててね。あ、僕のことももちろん内緒にしてるよね?」
「もちろん!」
「良かった。僕個人も騒がれると行動しにくいし、病院にも迷惑だから、なるべく目立たないようにしてるんだ。自分の地味な顔がこんなに役立つとは思ってもみなかったよ」
おどけた言い方に場がなごむ。
「さーて、だいたい食べたし、そろそろ行こうぜ!」
口直しのカフェオレを飲みながらジーニィが呼びかけた。
「え、オレまだそんなに食べてないのに」
「ボクもパイが食べかけ」
あせる南の双子をジーニィはいじわるそうに見つめる。
「おいおい、めずらしくオレ様が行く気になってるのに、時間がもったいないぜ~?」
「少し待ってて。缶に詰めるから持っていくといいわ」
アンジュがてきぱきと大きな缶にお菓子を詰めていく様子を、ジーニィはつまらなそうにながめる。
(アニキ、アンジュって見かけによらずお姉さんって感じだよね~)
(うん。ジーニィよりソフトに強いことといい、びっくりだな)
「はい、どうぞ。楽しんできてね」
満面の笑顔でいっぱいになった缶を手渡され、リマキナはなぜか胸が熱くなった。
(なんでだろ?)
「ほら早くしろよ!」
「わかったってば」
「ごちそうさまでした」
慌ただしくジーニィ、クリオネ、リマキナが研究室を出ていくと、狭いはずの研究室が広く感じられた。
「若いっていいなぁ……って思っちゃうなんて、もうおじさんかな?」
しみじみと緑茶を飲みながらのユーリに、まあ、とアンジュは声を上げた。
「ユーリはまだ若いでしょ」
「そうよ。私より若いくせに」
二十歳のユーリを二十三歳のマリアがにらむ。
「あはは。そう言ってもらえると嬉しいけどね。昔想像してたこの歳の自分にまだまだ届かないんだ。ハタチってもっと何でもできる大人だと思ってたから」
あらまあ、とマリアがおどけたように聞く。
「これ以上なにを望んでいるの、ユークリッド博士?」
「なんだろうね? なにかが足りないけど、それがなにかわからないんだ」
目を伏せたユーリは所在なげで、外見通り普通の青年のようだ。
「ユーリ、今日は病院に行くんじゃなかったの?」
アンジュの声にユーリは我に返った。
「そうだった。ありがとうアンジュ。マリア、悪いけど僕も先に失礼するよ」
「お疲れさま」
「またねユーリ」
バイと手を振って出ていくユーリを見送ってからマリアは口を開いた。
「病院って……ユーリどこか悪かった?」
「御両親のお見舞いよ」
「ああ……。大変ね、もうずいぶんと長いんじゃない? 私がここに来た時にはもうすでに入院してたでしょ?」
「ええ。おそらく退院することはないんじゃないかしら」
「そっか。それでも親が生きているだけ幸せね。心配できるもの」
「……そうね」
羨ましげなマリアはアンジュの複雑な表情に気づかない。
「私たちだけになったことだし、片づけましょっか」
余ったお菓子をアンジュは缶に詰め、マリアは食器を集めて食洗機に入れていく。
その手を止めずにマリアがぽつりと言った。
「ファーからチサトの依頼を受けたとき、どうしようかと思ったわ」
静かにアンジュが答える。
「チサトが知り合いだったから?」
「そうね。私の影を追うチサトを見ていたら、私がずっとミスズを探しているのも、チサトと同じ? ミスズにとって迷惑? ってぐるぐる考えたわ。だからチサトには、早く自分自身を取り戻して欲しかったの。あなたを想っている人はすぐ近くにいる、あなたはあなたでいい、私にこだわらなくていいのよって。私がチサトに『好きよ』って言ったのだって、チサトを縛るためじゃなかったから」
「ミスズはまだみつからないの?」
「ええ。『ブラウン・マリア』として、現在、地球上にいる、10分の1の地球人はチェックしたけど……誰も本人じゃなかった。その知り合いにもいなかったわ」
「そう……」
「でもまだ10分の1だしね。まだわからない。最後の一人まで探さなくちゃ納得いかないわ!」
「マリアはミスズに会ってどうしたいの?」
ピタリとマリアの手が止まった。
「……わからない。最初はもう一度会いたいだけだった。いつもの笑顔を見たかった。でも今は……。どうして私を『外』に出したのか、聞きたいのかもしれない」
「『館』にはいなかったの?」
「外出できるようになってすぐに行ってみたわ。でも、無くなってた。あの大きな建物が跡形も無くって驚いた。……あそこでの時間は短かったのに、まるで永遠の夢のように私の記憶にあるの。今もたくさんの仲間が『館』にいて、出番を待っているような、そんな気すらするのよ」
(香が漂う広いホール。豪奢な衣装をまとい思いおもいに姉さんたちは座ってた……)
昔の情景を思い出すマリアを、アンジュが現実に引き戻す。
「……チサトが森で、ミライの後ろにいるあなたを目撃していたわ。一瞬だったけどね」
「あら、それはバグね。同時にダウンしてなかったのに、やっぱり電波だと干渉しちゃうのかしら……。プログラムを見直さなくちゃ」
「手伝うわ」
「助かる。じゃ、超特急で片づけなきゃね」




