表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/155

28-4

 翌日の昼間。ミン刑事と近所の喫茶店にて。


「ガキどもはウチの連中に引き渡したとのことだが、おまえ、ケガをしたらしいな」

「はい。一発、もらっちゃいました」


 わたしは苦笑いを浮かべてから、ボルサリーノを取った。頭には包帯が巻かれている。ミン刑事は忌々しげな顔をして、大きな舌打ちをした。


「やっぱ、最近のガキどもは、やっていいことと悪いことの分別もつかねーらしいな」

「そうみたいですね」

「そんなヤツらがいずれ大人になって、この街を少なからず支えていくんだと考えると、嘆かわしい思いに駆られちまう」

「それでも、いつか更生するはずです。あるいは今回の一件で、大人しくなるかもしれませんよ?」

「だと、いいんだが」

「期待しましょう」

「ホームレスの連中からすれば、おまえは女神様に見えることだろうな」

「実際、そんなふうなことを言われました」

「おまえは綺麗だ」

「外見が、ですか?」

「それは無論のこと、心もだ。しかし、おまえのその清廉潔白さが、いつか命取りになりやしないかと危惧している」

「ミン刑事の心配性にも困ったものです」

「のっぴきならないことがあったら、ちゃんと言えよ?」

「たかが一探偵に過ぎないのに、わたしは間違いなく警察と癒着していますね」

「俺はそれでいいと思っている」

「ありがとうございます」

「いつも言っていることだが、礼には及ばん」



 狭くて暗い路地。そんなところにあるダンボールハウスで形成された街を訪ねた。やっぱり両手には酒と弁当が入ったビニール袋。家がなく、常に空腹に苛まれ、事実、痩せ細った男性ばかりなのだけれど、彼らはがっついたりしない。「ありがたく頂戴するよ」と揃って言い、きちんと「いただきます」をしてから食べる。礼儀正しい。いつも思う。彼らはどれだけ困窮していようと、やはりニンゲンとしてのプライドを捨ててはいないのだと。


 男性の一人が言う。


「メイヤちゃん、大丈夫かい? 角材で殴られたんだ。平気なわけがないだろう?」

「頭にもらったら結構、出血するんです。でも、それだけです。元気一杯ですよ。傷はもうかゆいくらいです」

「それにしても、いつもすまないね。この弁当はわしらにとって、紛れもなくご馳走だ。でも、いいのかい? こんなことにお金を使って。探偵ってのは、それほどまでに儲かるのかい?」

「案件次第ですね。でも、比較的、報酬は得ていますよ」

「だけど、本当にもったいない話だ。わしらのために物を買ってくれるなんて」

「先代が言っていたんです」

「先代?」

「ええ。お金は困っているヒトのために使うものだと教えられました」

「先代ってことは、亡くなってしまったのかい?」

「いいえ。どこかで生きているはずです。だから、先代という言い方は、ちょっとおかしいかもしれませんね」


 わたしはいよいよ腰を地面に下ろして、酒宴に加わった。ニホン酒をちびちびとやる。彼らが昔就いていた仕事、奥様がいたこと、子がいたこと、そんな話題を聞かされた。「いい思い出だよ」と、とある男性は言った。


「こんなことを言ったら怒られてしまうかもしれませんけれど」


 そう言うと、わたしは男性らの注目を浴びた。


「前を向いて生きましょう。つらいことのほうが多いのが人生です。だけど、喜びもきっとあるはずなんです」


 男性らは笑みを浮かべ、彼らを代表するようにして、初老の男性が言った。


「メイヤちゃんが言うことだ。誰も怒ったりしないよ。むしろ、わしらはその言葉で勇気付けられ、救われる」

「なら、良かったです」


 わたしは満面の笑みをたたえたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ