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ブクマ、評価、ありがとうございます!

これで完結です



 自分の中にある知識を総動員した結果、するべきことが分かった。


 まず、お兄さまをセシルと呼ぶ。これは大丈夫だ。恥ずかしいと思わなければいける。


 気持ちのいいキスを長くしてもらう。息が苦しそうだから、お父さまとお母さまみたいに長いのは無理だろうけど、徐々に長くしてもらおう。息を長く止める練習をしていかないと。


 裸で抱き合って朝まで一緒に寝る。

 これはちょっと恥ずかしいから、初めは夜着をきたままからお願いしよう。


 もう一度繰り返した。多分、完璧。お母さまに相談してみよう。


「あらあら、なかなか初々しいわね?」


 お母さまは含み笑いをしてそう言った。ちょっと笑いが滲んでいて、気分が悪い。頬を膨らませてお母さまに文句を言う。


「ダメなの?」

「ダメじゃないわよ。あなたが女性としてセシルと接しようと努力しているんですもの。応援するわ」

「じゃあ、今夜、セシルに話してみる」

「今夜じゃなくて明日にしなさい」


 母の言葉に情けない顔になった。意気込んでいるときにしないと、気持ちがしぼんでしまいそうだ。


「明日の夜なら次の日休みだし。それにね、もっと奇麗に見えるような夜着を選ばないと」


 母の手がふわりと髪を撫でた。


「侍女長を呼んできて」


 室内にいる侍女に指示をすると、すぐさま侍女長がやってきた。


「リーシアにとびっきりの夜着を用意したいの」

「ようやくですね。では、薄い水色の柔らかい夜着はどうでしょうか?」

「水色ねぇ。それもいいけど、白も捨てがたいわ。あなた達、あるだけ布を用意して」


 控えている侍女たちに布を持ってくるように言うと、彼女たちはきらきらした目をして行動し始めた。躊躇いのない動きに驚いてしまう。


「お母さま?ドレスではなくて夜着ですよね?」

「そうよ。初めての夜は特別よ?」

「そうなんですか?」

「お母さまに任せなさい。リーシアがとびっきり可愛く、美しく見えるようにしてあげる」


 なんだかお母さまも侍女たちも楽しそうだ。口を挟んではいけないような気がして、彼女たちの動きを見守っていた。



******


 可愛い。


 自分でも思う。鏡の中には今夜のために仕立ててくれた白い夜着を着たわたしがいた。

 侍女たちが総動員して仕立てた夜着は普段来ているものとは全く違っていた。


 まず、丈が短い。

 いつもならくるぶしまである裾が今は腿の真ん中ぐらいだ。


 胸元にはドレスのような刺繍とリボンがある。

 前開きになっていて、腰のリボンを解けばすぐにでも脱げてしまいそうだ。少し寄せているのかいつもよりも胸が大きく見える。しかも侍女たちは抜かりなく下着もデザインを合わせていた。


「うふふ、いい出来じゃない」


 お母さまが満足そうだ。侍女長が髪を梳きながらお母さまに髪型はどうするかを尋ねた。


「柔らかいリボンで少し横に結んでおきましょうかね」


 そう言われて侍女長は器用にまとめていく。


「ほら、あとこの香水をつけて」


 新しいものなのか、箱に入っていた香水をお母さまが取り出した。しゅっと軽くうなじに吹きかけてくれる。


「いいわね。ちょっと甘い感じで」

「これならいくら我慢強いセシルさまでも手を出しますわ」

「そうなったらいいけど。あの子の我慢強さは半端じゃないから。それに、リーシアもどうなることやら」

「……あれほど刺激の強い本を読んでいるのにですか?」

「ほんわかと一緒に寝ればいいのね、なんて言うのよ。本当にぐっすり寝ていそうだわ」

「流石にそれは」

「あり得るわよ。なんといってもリーシアですからね。大体、この年まで性教育をしないなんておかしいのよ。赤ちゃんは神様が贈ってくれるなんて教えているのよ。父親ってあれが普通なのかしらね?」

「旦那様はお嬢様を溺愛していますから」

「セシルが可哀想だわ」


 鏡の中の自分に見入っていてお母さまたちの会話は聞いていなかった。


「リーシア」

「はい?」

「そろそろセシルが帰ってくるわ。セシルの部屋で待っていなさい」


 お母さまに言われて、気合を入れなおした。


 お兄さまをセシルと呼ぶ。

 気持ちのいいキスを長くしてもらう。

 裸で抱き合って朝まで一緒に寝る。ただし、今日は夜着にしてもらう。



 よし、大丈夫だ。



***


「リーシア」


 唖然とした顔をしているのは、仕事から帰ってきた後、お風呂に入って部屋着に着替えたお兄さま。

 ううん、セシル。


「おかえりなさい、セシル」


 恥ずかしいけど、大丈夫。お兄さまではなく、セシルと呼べた。


 次はキスだ。


 唖然として立ち尽くしているセシルに恐る恐る近づくと、腕を首に回した。ちょっと背が高いので引っ張るようになったが、ちゃんと届く。ちゅっと音を立てて、唇に自分のを合わせた。お母さまが少し舐めちゃいなさいとか言っていたから、セシルの少しかさついた唇をぺろって舐めてから離した。ちゃんとキスできた。

 満足そうに離すと、セシルが側にあった長椅子に崩れ落ちた。


「は、あああああ」


 大きく息を吐き、目を大きく見開いている。あまりの反応に驚いて固まってしまった。


 何か、間違えた?


「セシル?」

「誰の入れ知恵かは聞かないけど……これは辛い」

「え?」


 やっぱり間違えた?


 想像外の反応に、どうしていいかわからなくなった。後は一緒に寝るだけだったのだが。どうしよう。


「抱きしめてもいい?」


 混乱したわたしを見てセシルがいつもの調子を取り戻した。言葉なく頷くと、そっと長椅子に座らせるようにして抱きしめられた。

 緊張が解けて、ほっと息をつく。優しく髪が撫でられた。


「こんなことはしなくてもいいんだ。もっと普通に仲良くなろう?一緒に散歩したり、買い物に行ったり」

「間違えた?」

「いや、これはこれでいいんだけど。流石に結婚前はダメだろう」


 ゆったりと髪を撫でられ、そのうちに毛先を指に巻き付けて遊び始める。


「結婚前はダメなの?」

「多分」

「でもお母さまが応援するって言ってくれたわ」

「うーん。父上は?同じこと言っていた?」


 セシルが悩むように言うのと同時に、扉が乱暴に開いた。大きな音に驚いて、セシルに隠れるように抱き着く。


「それ以上はダメだ!!!!」

「お父さま?」


 肩で息をしてはいってきたのは、髪を振り乱し荒い息をしたお父さまだった。いつもなら余裕の感じがあるのに今日はそれがない。


「何て格好をリーシアにさせているんだ!!!」

「いや、僕に言われても……」

「というか、この状態はセシルが生殺しじゃないか」


 ぶつぶつと呟きながら、お父さまは手に持っていた大きなシーツでわたしを手早く包んだ。ぐるぐるにされて首から上しか出ていない。


「いいか、お母さまと侍女たち、それからお母さまの友達から借りた本は没収する。お前は全部セシルに任せておけばいい」

「え?」


 驚きに瞬いた。誰に相談しても、セシルに任せればいいという言葉はなかった。


「ほら、部屋に戻って着替えなさい。風邪をひく」

「でも」


 お父さまの言葉に、ちらりとセシルを見る。


「慣れるのはゆっくりでいいよ。結婚するまで時間はあるから」

「うん。セシルがそれでいいのなら」


 セシルに優しく頬を撫でられて、素直に頷いた。



******


 結局、私たちは結婚するまでにあれから3年の年月をかけた。


 セシルの言う様に兄妹としてではなく、ゆっくりと一緒に過ごしてお互いを思う気持ちを強めていった。

 同じものを見て、悲しい時には泣いて、嬉しい時には笑って。

 妹という立場とは違った婚約者という立場では、同じ出来事でも全然受け取り方が違っていた。少しづつセシルへの愛情を育てていけたと思う。


 そして、今日。


 空はすっきりと晴れ渡り、花も咲き乱れていて、とても奇麗だ。

 日の光が全てのものをキラキラと見せている。

 会場には沢山の人が来ているのか、控室のここにまで楽しそうなざわめきが聞こえてくる。


「ああ、奇麗だ」


 控室に迎えに来たセシルにそっと頬を撫でられて、くすぐったくて少し微笑んだ。こうして触れるのはだいぶ慣れた。セシルは何かあると、すぐに頬を撫でるのだ。


 キスも慣れてきた。まだまだお父さまとお母さまみたいな長いキスはできないけど、うっとりするようなキスになってきた。キスしている時に優しく撫でてくれる手も大好き。


 今日が終われば、一緒に朝まで過ごせる。


「セシルもかっこいい」

「リーシア」


 目の前に手が差し出された。白い手袋をした大きな手が向けられている。


「これからもずっと一緒に僕と歩んでくれますか?」


 少し真面目な顔をしてそんなことを聞いてくる。驚きと共に嬉しさがこみあげてきた。思わず涙が出そうだ。向けられた手に自分の手を預けた。


「至らないわたしですが、これからも一緒にいさせてください」


 涙が零れない様に、笑みを浮かべると、セシルも目を細め笑みを浮かべた。手を取って唇を落とす。


「愛しているよ」

「わたしも愛しています」

「……何か考えたらちゃんと話をするんだよ」

「そうね、そうするわ」


 くすくすと笑い合うと、もう一度ちゃんと手を握りしめると二人して会場へと歩き出した。



Fin.




初めてBLを知ったのが、中学生でしたね


11/9 すみません。名前間違えていました。修正済

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